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「もう紡ぐべきでもない記憶でしかないの」
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H SPRING -9
ちょちょちょちょっと、寝てる間に家に見たこともない人が侵入してる。
オウイチロウさんが見張ってくれてたはずじゃないの!?
もしかして寝てた?やばいやばい110、110!
「あ、あー!ハヅキ!起きたのか!」
ぼさぼさの頭(角毛は綺麗なまま)のオウイチロウさんが踊り場で不審者と対峙する私のところへと駆け付け、不審者を取り押さえた。
「ちょ!先輩!なんで俺を動けないようにするんですか!」
「ごめんね~野良犬勝手に入ってきちゃったんだよね~すぐ追い出すからね~」
「??い、犬
……
。はあ
……
?」
「犬じゃねえよ!!俺はれっきとした人間だああ!」
よくわからないけど犬と呼ばれた人はオウイチロウさんに頑張って引きずり下ろされていく。
ぷるぷる怒りに震えながら滅茶苦茶抵抗しているが。気安そうな感じだけど知り合いなのかな?
「ほらわんちゃんドアを開けるからもう入ってきちゃダメだよ~」
「こんなんで出て行かねえぞテメエ」
玄関のドアを閉めようとするオウイチロウさんと馬鹿力なのか気合でドアを閉め切らないように止める不審者。
ここ私の家だからね?他人の家でなにしてるのこの人達?
「ドア壊さないでよね?」
「うん、わかってるよ~ね~?わんちゃ~ん」
「別になんもしねえから先輩が落ち着けよ!」
「君は部外者、俺は関係者。ね?」
「ね、じゃねえよ!!おとなしくしますから!叫んでごめんなさい!謝ります!お願いですから
……
っ!」
にこやかな笑顔で意地でも追い出そうとするオウイチロウさんに対して、不審者は懇願する手段に転じた。
それからもうちょっと抵抗してたけどオウイチロウさんが追い出すのを諦めた。
私にもいてもいいか確認してくれたけど、ドアを壊されるよりはマシかなと思って了承した。
「ええっと
……
。ハヅキ、具合はどうだ?寝たら良くなったか?」
「少しはね。はあ。まじで今日は最悪な初日だわ」
「今日が良くないなら明日はいいことあるって。よしよし」
「ぎゃ!?」
オウイチロウさんは突然私の頭を優しく撫で始める。
え?なに?これがイケメンにしか許されないというあの頭ポンポンってやつですか。
脳が興奮して蕩ける感覚。脳みそは実はチョコレートでできているのだ。だから温度があがるとどろどろになる。
「なななななな、はぎゃぎゃ。おがががが!?」
「こいつ壊れたぞ」
「ご、ごめんクセが出ちゃった」
「クセが頭撫でることって怖いっすよ」
正常に言葉を発せない私に慌てるオウイチロウさんと冷静にツッコむ不審者。
あ、そういえば不審者の人の名前を知らない。
「あああ、あのの、の。そーいえばおとなりのこのひとはどなたれすか」
「隣?これ?」
「これ呼ばわりするんじゃねえよ!俺はクニサダって名前がちゃんとあるんです~!ちなみに先輩とは同じ高校に通い、大学にも同じく通ってる仲です」
「こうはいのかたれしらか
……
ふひんしゃじゃなくてよかっは~」
「今の一瞬で歯全部溶けたか?」
オウイチロウさんと同じ学校に通っているのか。羨ましい。
つまり校内じゃいつも一緒ってことね?くー。私には渡されなかった権利だわ。
私もどうにかして年齢を誤魔化して大学生ってことになれないかしら。
「立ち話続けるより椅子に座ろうよ、ハヅキだってまだ完全に元気じゃないんだろ?」
「あ、はい
……
」
「そういえば昼まだだよね?」
「お!それなら俺に任せてくださいっす!」
「
……
なんでお前が?」
「先輩の同伴者としてお邪魔させていただいてる訳なので少しはお役に立ちたいなと思って
……
」
「私はオウイチロウさんの料理が食べたいわ」
「でもこの人普段ろくな食事取ってないっすよ。カップ麺とか菓子パンとか、栄養もなにも考えてない手頃さばかりで」
「ほっといてくれ、やってないだけで料理はできる」
「いーからいーから二人は座っててください!」
私達を隅の4人掛けのダイニングテーブルへ誘導して自分はその近くにあるキッチンを独占する。
それにしても
……
あんな和服を着た人珍しくてついじっと見てしまう。
前まで住んでた別の町でも成人式とか特別で正装を求められるような日以外和服なんて滅多に見たことがない。
歴史から抜け出てきた、というには黒くてながーいマフラーとか腕とか包帯巻かれてたりとかしっかり茶髪なところとか引っかかる部分があるからどちらかといえばコスプレっぽい印象。
私はこそっとオウイチロウさんに聞く。
「ねえねえオウイチロウさんあの人の和服って趣味ですか?」
「え、知らない。どうでもいいから」
「厳しいわね」
私には基本努めて優しく話しかけてくれるのに何故かクニサダさんの話をふるとそれはそれは興味なんかないと死んだ目をしている。
さっきの問答と言いほんとは嫌いなのかなと勘ぐってしまう。
「うーん。二人とも今食べたいものとかありますか?」
一通り冷蔵庫を見たらしいクニサダさんが扉を閉めながらこちらに問いかけてくる。
「じゃあ私オムライスー!ライスはケチャップがいい!」
「俺はいらない」
「先輩もなんかリクエストしろ」
「じゃあこいつと同じで良い」
「めんどくさがるな!まあいいけどよ。んじゃ作るぜ」
玉ねぎやロースハム、私が指定したケチャップなど必要なものを揃えて楽しそうに調理し始める。
玉ねぎを切り始めるとあのつんとくるねぎ臭が漂ってくる。
すごいわ。玉ねぎ切っても全く涙も流さないなんて訓練されているんだわ。
「オウイチロウさんは何を作ってくれる予定だったんですか?」
「特に決めてなかったけど。でも簡単なもの位なら作れると思って
……
」
「じゃあ次は作ってくださいね!後輩の人の料理も楽しみだけど、オウイチロウさんのもどんなのか楽しみ!」
「そんなに?」
「私家族以外の誰かが作ってくれる料理って結構好きなのよ。定番なカレーやシチューだって家庭によって工夫が変わるでしょ?」
「まあ。店で出てくるものでも場所によって名前は同じな食べ物でも味は違うしそりゃな」
「そういうことそういうこと。だから、次はお願いしますね!」
というかやっぱり好きな人が料理上手だと私的高評価ポイントなのもある。
結婚したら私が主婦になるかもしれないしそうなったら私がいつも料理する側だけど
……
でも、たまには気を利かせてくれた旦那さんが家事に疲れた私の代わりに料理を作ってくれて、それが美味しいなんてシチュエーションにも会いたい。
しかもそれが美味しかったら一石二鳥というわけだ。
審査の為にもオウイチロウさんの料理は是が非でも食べなければならないのだ。
私は理想は高い方なので旦那にするならばより素敵であってほしい。
「でも料理が下手でも全然許すわ
……
!だって必ず最後は愛が勝つものね!」
「何を言ってるんだお前は」
「何って、あなたとの未来の話ですわ
……
旦那様
……
はぁと」
「いや俺はお前と結婚する気はないからな」
「じゃあ誰と結婚するんですか?」
「誰ともしないけど?」
「あ?なんだって?聞こえないわ。ハヅキちゃんとするのよね?」
「お前とは絶対に無理」
「はあああああああ!?なんでよーーーっ!!」
机を叩いて思わず大声と共に立ち上がる。
ちょっと机にひびが入ってしまったがそれより重大な問題が目の前にある。
「はっきりとダメな理由を教えてください」
「うーん。女の人が苦手だからっていうのとお前は絶対に対象外ってところかな」
「前の方は初耳ですけど、後ろは納得がいきません!っていうかさっきから私への対応少し雑になってきてませんか?」
「きのせいダヨ~」
「気の所為じゃないわよ!!気づいてるんですからね!ちゃん付けじゃなくて呼び捨てになってるの!」
「いやさ、ほら。高校生の女の子に「ちゃん」付けは失礼かなと改めたんだよ」
「絶対嘘の理由付けですよね?」
「さあ
……
どうかなあ」
オウイチロウさんは私以外の敢えてどこか別の、白い天井とかを見ながら明白に嘘をつく。
あまりのしっくりこなさにまた私の中の火山は震え始めていたところだった。
しかし、私の目の前へ突然美味しそうなとろとろ卵のケチャップオムライスが舞い降りた。
「おーし、できたぞ~!冷めないうちにどうぞ」
「わー!おいしそー!いただきまーす!」
「お前ほんとに料理までできるのか
……
」
「オムライス位誰でも作れるだろ!!ご飯炒めて、適当に溶いた卵焼いてのっけるだけだぞ!?」
「それがね、そんなことはないんだよ
……
」
「えー。こんなんも作れないってなるとそりゃただ料理の才能がないっすよ。やばいですって」
「それを聞いて落ち込む人もこの世にいるんだから人前では言うなよな」
「事実なのに
……
」
私があつあつのオムライスに夢中になってる間に二人はそんな会話をしていた。
黄金に輝きプリンのようにつやつやな卵にたまねぎとハム、そしてケチャップで炒められたシンプルなライス。
鶏肉ではなくハムになっているからかあの少し雑な塩分が混ざってくる。
大人よりはお子様向けって感じの味に仕上げられている。
できたてあつあつの内に食べ終えてしまおうと急ぎ足で食べてしまった所為かあっという間に美味しそうな塊は跡形もなく消えていた。
「ごちそうさま!」
「え、もう食べちゃったの?」
「これはこれでまた食べたいわ~
……
。やっぱり王道こそ最強なのよね~」
「お前口の周りメイク失敗したピエロみたいになってるぞ。ほら拭け」
クニサダさんが近くに置いてあったティッシュケースから一枚取って私へ渡してくれる。
オウイチロウさんはというと、喋ってるからなのかのんびりしてるからか半分も食べきってないようだ。
っていうかこの後輩さんさらっとオウイチロウさんの隣を確保している。
もしかして
……
さっきテーブルへ二人を座らせる時から計算してたのかもしれない。
全然気づかなかったし考えてなかった
……
。
「悔しい
……
っ!」
「なにがだ?」
「そういえばあんたいつまでいるのよ」
「先輩が帰るまでいるつもりだけど?」
「だけどじゃないのよ。オウイチロウさんの関係者と分かっても招かれざる客なことには変わりないのよ」
「招かれなくとも先輩のあるところ、俺という影ありなのだ」
「なのだじゃねえのよ」
「あ。そっか、お前も先輩と二人きりでいちゃつきたいピンク色系だったか」
「私の髪はピンク色だけども」
「ピンク色だけどもじゃねえよ」
料理はおいしかった。それは認めよう。
しかし!私は。私は!オウイチロウさんとの二人きりの時間を求めている!
第三者がいては二人の愛情のパラメーターの上昇を妨害されてしまいかねない。
残念ながら、影にはご退場願わなければなるまい。
「あんたはどうせ学校とかで先輩と一緒にいられるじゃない!ならプライベートの今くらい時間譲ってよ」
「いやいや、お前の理想で話を進めようとするな。先輩がお前と二人きりになりたいって言ったか?言ってないだろ。なら俺から譲るもんなんかねえよ」
「ぐぅ
……
っオウイチロウさーん!私と二人きりになりたいって言ってやってください!」
「この人にさっさと帰ってほしいのはそうだけど別にハヅキと二人きりになりたい訳ではないかなあ」
「うおおおおおお!わかった!意思なき者どもよ!さっさと去れ!ハヅキ帝国の敷居を跨いでいいのはハヅキ様を愛する権利を持ったものだけよ!!」
「わがままだなぁ
……
」
「まったくです」
「早く!出ていき!なさーいっっ!!」
男二人の腕を掴んで抵抗などさせぬとフルパワーで玄関まで勢いよく引っ張っていく。
その間二人が何かわーわー言ってた気がするがそんなことも聞こえぬ怒り心頭の私は、ドアをぶち破りてのひらサイズのテディベア2匹を同時に投げるように軽々と捨ててみせた。
勢いよく飛んで行った二人は庭の地面を少し削って門へと派手にぶつかった。
「ば
……
馬鹿力すぎだろあの女
…………
」
「
………………
(死体のようにそのまま倒れている図)」
「あ、え。やだ!どうしよう!ドア壊しちゃった!?お、お母さーん!!」
壊れたドアは翌日急いで直してもらいました。
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