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「もう紡ぐべきでもない記憶でしかないの」

裏:0Undeath -2



ハヅキちゃんが外で待ってくれてるから早く迎えに行かなきゃと思ってたんだけど、なんだか先生と話してそのままどこかへ消えちゃったみたいだ。
探そうとしてたらクラスの子に無理やり一緒に帰ろうと途中まで連れられて散々だ。
上手く撒いたけど……

「ねー。こないだ助けてあげたんだからさー。昼飯位おごってくれてもいいじゃん」
…………

そして今は。
この間ハヅキちゃんを助けてくれた緑髪のお兄さんに恩返しを強要されている。
僕は無視してさっさと家へ帰りたいのだが相手がしぶとく足止めしようとしてくる。

「そんなに俺と関わりたくない?」

ええ。そりゃもう。
何でも知ってるなんて言ってくる変な人と関わりたくなどない。
見ず知らずの人間に自分をどこまで知られてるか想像するだけでぞっとする。

「君さあ。人のこと言えないでしょ~。愛しのハヅキちゃんの情報なら誰よりも深く知りたいタイプでしょ?」
…………あの、つきまとうのやめてください」
「あ、やっと喋った。図星だから?」

僕を見つめる元は綺麗な若草色だったであろう瞳はとてもよく濁っている。
笑顔だろうがなんだか貼り付けたようだと感じるのが不気味な人だ。

「何の用ですか、奢ってほしい訳じゃないんでしょう」
「ううん。お金ないからご飯は奢ってほしいんだけどまじで」
「嫌です」
「ぐすん……。人が優しくしてあげたのに仇で返すのねそうやって」
「あなたは性格悪いのが透けて見えるから嫌なだけです」
「やだなあ。心まで透明な人がここでまともに生きてける訳ないじゃん」
「あなたの話をしてるんですけど」
「俺だって元は透明な心の持ち主だったんだもん」
「はあ。そうですかー」

こいつとは喋るだけ無駄だ。

「ねえ君、今ハヅキちゃんがどうしてるか興味ない?」
「興味ありません」
「ほんとに?」
「大体なんでわかるんですか。ありえないでしょ」
「じゃあ賭けてみなよ?無理だと思うなら。ほんとにダメだったらその時は、ね?」
「負け試合を仕掛けようとしてるだろ」
「まあまあ。ほら俺についてきてみなよ」

お兄さんは分かれ道を僕が帰る方向ではない角を曲がって手招きしてくる。
僕は…………

ハヅキちゃんがいるという方へ進んだ。

お兄さんの後ろをついていくと、見慣れた場所へとどんどん近づいてくる。
ああ……この方向は……
すると突然、ガシャンと何かが落ちた音が聞こえた。

「ありゃ。」
「何ですか?」

お兄さんはまだ目的地までたどり着いてもいないのに音の正体が目の前で見えてるみたいに反応する。
おそらくほんとうにわかってるんだろうが。

「ハヅキちゃんって子はさ、なんでこういろんなものに絡みついちゃってるんだかね」
「だから何があったんですか?」
「気になるならここの隙間から見な」

目の前には公園がある。が、僕らは入口より反対の位置にいる。
高い格子で仕切られていて公園側には木々が並列しており、よく育った雑草が園内の緑をコーディネートしていた。
並んだ格子と木々の隙間越しに中の様子が少し覗けた。
中心で見慣れない子とハヅキちゃんが対峙しているようだ。

「ご、ごめん。違うの、怒ってたけどだからって壊したかった訳じゃ」

どんな所でも響くハヅキちゃんの太陽のように輝かしい声は今はひどく動揺していた。
もう一人が何かを大事そうに手にしているのを見るに、白色の何かを壊してしまったようだけどよくわからない。

「君はさ。嫌な記憶はそのまま封じておいてあげた方がいいと思う?」
「そりゃ……
「でも俺はそうは思わないんだよねー。だってあの子が「ああ」な所為でおかしい人がいるんだもん」
「でも……ハヅキちゃんのことはそっとしておいてあげてください」
……だって鬱陶しいんだよ。可哀想だから俺が守らなきゃいけないだって?どうせ長くは続かない。あの子は必ず近く破滅に陥る。保護者面した奴らが全員原因側だってんだから面白いよね~。贖罪だとかなんとかこれから綺麗になるつもりで言ってんだろうけど一回汚れたら後はみーんなどす黒くなるだけだよ」
「は……?あなたはハヅキちゃんが嫌いなんですか」
「別に。あの子のことは一方的に知ってるだけだから知り合いでもなんでもない。けど、イライラするなあってだけ」
「ああ、なるほど。僕に八つ当たりしにきたんですか?」
「お。それは正解かも」

公園の中ではハヅキちゃんが外へと走り去っていき、一人取り残されていた。
その人はずっと手の中のものを静かに見つめ続けている。
壊れたそれに、何を思うんだろう。
虚しさなのか悲しみなのか怒りなのかそれ以外なのか。
でも少しなんとなくだけど、困っているようにも見えた。

「ハヅキちゃんの行方、まだ追う?」
……そうします」
「あ。ところで忘れてないよね?賭けごと」
「僕別にベットしてないから無効です」
「ケチ~」

僕らが立ち去る寸前でもあの人はカケラを抱きしめていた。

ハヅキちゃんの家が遠くから見える位置へと移動する。
ここは僕がハヅキちゃん家を遠くから観察する時の定位置だ。
あの家から2軒先の距離、対岸に電柱がある。
そしてその電柱の横には人がちょうど挟まれる程度の塀と建物のちょっとした暗い隙間もある為、こっそり覗くにはちょうど良い。
人の気配がしたら隙間の方へ寄れば横切る程度には電柱が盾となってくれるし、暗いから人がいてもあんまり目立たないだろう。
問題があるとすれば隙間に隠れると、服が汚れるくらい。
後こんなスポットがあるってことは目線を変えれば危ないスポットな訳だ。

「あ、ほら見てハヅキちゃんの想い人がきておりますわ」
「はあ!?想い人ォ!?」
「声でかいって」
「あいつあいつあいつ……

お兄さんが言う通り見ると門の中に入っていくふらふらのハヅキちゃんとその後ろからあの角野郎が来ている。
門は開けっ放しだったからか角野郎はそのままハヅキちゃんに声をかけに行ったようだ。
僕は定位置から門前の付近まで足音を殺しつつも速足で近づき二人の様子を窺いにかかる。
顔色の悪いハヅキちゃんを心配そうに見つめ、やがて家の中へと誘導する角が見えた。

「あ、ああああいつあいつ!ハヅキちゃんを独り占めに!」
「おいおい。落ち着きなって」
「殺す……いずれ絶対に!やっぱり邪魔だから殺さないと……
「うん、君があの子のこと心配だからだけじゃなくてやっぱそういう不純で追いかけてるのはよくわかったよ。立派なストーカーだね」
「どうしてどうしていっつも僕はハヅキちゃんの隣にいられないんだ?必ず別人が、別の奴がハヅキちゃんの隣にいる!あの人も気に食わなかったけどあの角も気に食わないぃ……!!」
「やば。まじで嫉妬狂いのモンスターだわ、近づかなきゃよかった」
「ハヅキちゃんどうしたの!?お前なら知ってるんだろ!?」
「え、急に強気~。ごはん奢ってくれるなら教えてあげ……
「御託はいいから教えろ」

僕は懐から隠し持っていた250万ボルトのスタンガンを首先に突きつけた。
相手は突き出された瞬間だけは軽くのけぞって驚いたみたいだが、あまり動揺している様子ではない。
わかってたからかもしれない。

「だから~嫌な記憶を呼び起こされそうになったから逃げたんだってあのさっきの子から」
「さっきの奴も敵ってことか。なんでこう周りに邪魔、邪魔……ばっかり全員……
「気になってたんだけどさーそんなに狂うほどどうしてあの子のこと好きなの?」
「僕は狂ってなんかない!ハヅキちゃんのことが好きなだけ!」
「でも隣に立てないから嫉妬でおかしくなっちゃったと。それって相手にとって君に魅力がないってことじゃないの?」
「うるさい」
「別に君の恋路を諦めろとは言わないよ~。精々がんばってね~ってだけ」
「結局。どういう目的で僕に近づいたんだお前」
「まじで奢ってもらいたかっただけ。だって~一般的には君って優しい子でしょ?ワンチャンあると思ったの。んで後はきまぐれ」
…………お前が本当の本当に変人なことだけはわかった」
「だって~最近友達がね~ほかにご執心でさ~つついてもつまんないんだよ~」
「あっそう」
「は~あ。さあて。君には奢ってもらえないし、俺は飽きたから帰ろ~っと」

お兄さんはずっとわきに抱えている本を気分を変える為に持ち直し、僕に背を向けどこかへ去っていこうとする。
暇つぶしに連れまわされ愚痴を聞かされ挙句、最後は飽きたからなどとずいぶん身勝手な奴だった。
奢り以外の計画があったとしても僕にはよく理解できないけれど。

「もう見かけても絡んでこないでよね!」
「そりゃ無理だよ。だって、俺はこの町のみんなと繋がってるからな」
「また変なこと言って……
「じゃね~体お大事に~」

僕に背を向けた彼は歪み、笑っていたような気がする。


……そんなに守ってあげたいならずーっと相手の側にいて監視すればいいだけなのにね~」