はりぼて自家発電所
2024-12-27 03:47:10
108331文字
Public 因縁
 

天邪鬼のかくしごと 前編

魔法舎に北の魔法使い、オーエンの迎えが来た。記憶喪失、ショタ化など。







「もう少しだったのにな」

 オーエンに部屋から追い出されて、カインは悔しそうに呟いた。

……オーエンのこと、心配ですか?」
「そりゃあ、あんなの見ちまったらな」

 バツが悪そうにしながらも、カインは素直に因縁の相手を心配していることを認める。

「また傷の症状が出るのを待つしかないのか?」
「それを待つのは現実的ではないぞ」
「その時に我らがそばにおれるとも限らん」
「また誰もいない時に傷のオーエンが出たらと思うと……。もう、あんな悲痛な叫びは聞きたくありません。他にオーエンに心臓の在り処を聞く方法はないんですか?」
「そうじゃのう……。オーエンにあの環境は酷かもしれぬ」
「フィガロに記憶を読んでもらうのはどうじゃ」
「となると千年は遡ることになる。縁もゆかりも無い者が潜れば、どちらの命も危険じゃ」
「とはいえオーエンと親しい者などおらぬし……
「賢者ちゃんは人間だし……
「じゃあ……これが、役に立ったりはしないか?」

 双子の話に耳を傾けていたカインが、自分の左目を指さしながら尋ねた。たしかに、それはオーエンのものである。何物にも変え難い、強力な媒介になりえる。

「おお、そうじゃった。オーエンとカインは目玉を交換しておったな」
「それなら、なんとかなるやもしれぬ」

 双子は諸手を挙げて喜んだ。そうと決まれば、と早速準備に取り掛かる。嫌な顔をしそうな当事者への確認を最後にするあたり、計画的犯行であった。
 その手の魔法が得意なフィガロを再び呼んで、問題点の確認が始まる。置いていかれたり呼び出されたり、彼も大変である。

「オーエンへの説明はどうするんだ?」
「あやつも自分の心臓の在処は気になるじゃろう」
「それに、過去のことを知れるチャンスでもある」
「己のことは、誰より知りたい筈じゃ」
「カインならば、オーエンも多少は心を許すじゃろう。なにせ、自らの目を与えた相手じゃ。北の村の者たちに良いようにされるよりましだと思うが……

 そんなことよりも、と、双子は表情を真剣なものに変え、カインに緊張感を与えた。

「よいか。過去の記憶の中で何があっても、手出しをしてはならぬ。既に過去となった記憶を改ざんすれば、現実との歪みとなってオーエンの精神は破壊される」
「とは言っても、カインが何もせずにいることは難しいんじゃないですか? 性格的に……

 カインは頷いたけれど、賢者は心配になってそう尋ねていた。そうするべきと分かっていても、助けられるものを見逃すことは、カインの心を傷つけるのではないか。
 その疑問に、フィガロが頷く。

「たしかに。この魔法はオーエンの頭の中を直接触るようなもの。だから、カインが手を伸ばせば、容易に触れられてしまう。けど、その記憶を変えたところで、事実が変わるわけじゃない。それをねじ曲げるのは危険だ。目を背けたくなるような現実が、そこにあったとしてもね」
「ならば、カインが手も足も出ぬように姿形を変えておくか」
「そういえば、ねずみともぐらしかいない所、と言っておったな」
「健闘を祈るぞ」
「「《ノスコムニア》」」

 カインの返事も待たずに、双子が呪文を唱えてカインをねずみに変えてしまった。問答無用の所業である。そしてその彼を連れて、再びオーエンの部屋に向かう。

「は? まだ何か用なの?」
「そなたが心臓をどこに隠したか、記憶の中をカインに探しに行かせようと思うてな」

 ねずみの姿にさせられたカインが、首根っこを引っ掴まれてオーエンに押し付けられる。

「なに勝手に……っ」
「そうする他手立てはない。そなたもこのままでは不安じゃろう」
「カインならば、過去を見られても安心じゃ」

 無理に言いくるめようとする気配があるけれど、オーエンはそれより手の中に収まった小さなねずみが気になるようだった。カインは大人しく、オーエンの手に収まっている。動物と親しいというオーエンの、カインを扱う手は優しいものだった。

「まあ、……これなら?」

 小さなねずみとはいえ、中身はカインのままであるというのに、オーエンは双子の言った通り、見た目に騙されてか、いっそ心配になるほど簡単に納得してしまった。

「じゃあ、オーエンの気が変わる前にいくよ。《ポッシデオ》」
「は? ちょ、ま……っ!」

 フィガロが早急に呪文を唱えた。驚いて見開いたオーエンの、カインとお揃いの瞳がゆっくりと閉じられ、体が傾いていく。

「えっ、今のでカインはオーエンの記憶に入って行ったんですか?」
「そのはずだけど……
「オーエンちゃんが素直に言うこと聞いて良かったねぇ」
「言うこと聞いたというか、文句を言う間もなかったというか……
「安心せよ。オーエンが拒めばカインが魘されるじゃろうが、安らかに眠っておる」
「いや、ねずみの表情はよく分からないです……
「あ、ほら。オーエンちゃんも、健やかな表情してるし……

 微妙に焦りを見せながら、スノウは小さなねずみを抱いて眠るオーエンを示した。たしかに、彼の顔色は悪くない。いつも白いので、よく分からなかったけれど。
 でも、助けを拒否されたあの時を思えば、随分穏やかな寝顔であった。