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はりぼて自家発電所
2024-12-27 03:47:10
108331文字
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因縁
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天邪鬼のかくしごと 前編
魔法舎に北の魔法使い、オーエンの迎えが来た。記憶喪失、ショタ化など。
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オーエンは動物たちに道を教えて貰い、魔法舎を囲う森を抜けていた。
ごちゃごちゃした街並み、青い空、広い世界。あんなにも焦がれていた外の世界は、あまりにも大きくて、ちっぽけな自分など簡単に押し潰してしまいそうだ。
「あっ
……
」
人混みに慣れず、肩がぶつかると、オーエンは自分の体を支えきれずに尻餅をついた。
「あら、ごめんなさいね。大丈夫? 坊や」
中央に住むきさくな女性の、当たり前に差し出された手を振り払ってその場から逃げ出す。がむしゃらに走っていると、今度は壁にぶつかった。それは壁ではなく、厳つい顔の男だった。
「
……
っ!」
「おい、何ぶつかってきてんだ。
……
ん? おまえ
……
こりゃあ上玉だ」
ごつごつとした手でオーエンの顎を無遠慮に掴んだ男は、ははっと豪快に笑う。不愉快に思いながらも、悪意に晒されたオーエンは自分の中から得体のしれない何かが湧き出してくるのを感じた。この男は、オーエンが魔法使いと知れば恐れるだろうか、それとも価値を見出すのだろうか。
「
……
《クアーレ・モリト》」
不思議の力で捻り上げられた男の腕は、あっさりとオーエンから離れた。痛みで蹲る男を見下ろしながらしゃがみこんで、囁く。
「敵意を向けたら敵意を返される。当然じゃないか。ねぇ、このあとどうして欲しい? あなたは僕を、どうするつもりだった
……
?」
不思議なくらい、なにも怖くなかった。このままこの男をぐちゃぐちゃにして殺してしまおうと考えていた。
「あ、あ
……
、魔法使い
……
」
「そうだよ。あなたが大嫌いな、恐ろしい北の魔法使い。ただの石ころだと思って拾ったのが、呪いの石だった時の気分はどう?」
「わ、悪かった、助けてく
……
」
「助けなんて、あるわけないだろ」
冷たくて低い声が、薄い唇から漏れた。道端で突然起きた男と少年のやりとりに、周囲の人間からも恐怖が渦巻き、それがオーエンの糧となる。
この男を殺せば、もっともっと、強くなる。
本能が言った。
「《クアーレ
…
》」
「よせ、オーエン!!」
ぐるん、と左目が勝手に動き、飛んできたカインの姿を捉えた。途端に、隠れていた恐怖が湧き上がる。なにが起きたのか分からない。なにが怖いのか分からないのが、怖い。オーエンは思わずその場から逃げ出した。
「待て!! おい、あんた大丈夫か!?」
背後でカインが、男を心配する声が聞こえる。あんな男にすら、誰かが救おうとしてくれるのに、自分は?
誰も来ない。
どこにも行けない。
「僕が、悪い魔法使いだから
……
?」
だから、しょうがない。
胸が痛くて、爆発しそうだった。今更ながらに恐怖する。男を殺すことに躊躇いの無かった自分を。どうして、自分の躊躇いのなさに疑問を抱くのかも。
「は
……
、はぁ
……
っ!」
人気のない路地裏に入って、壁に手をついて、息を整える。こんなに走ったのは初めてだった。喉で血の味がする。立っていられなくて、地面に座りこんで、胸を抑える。
「ど、して
……
。悪い魔法使い、なの
……
」
その理由を考えようとすると、どろどろとした何かが自分を覆いつくそうとしてくる。もっと違うものになりたかった。例えば、と希望を見出そうとすれば、茨の棘が心臓に絡みつく。そんなものになれはしないと、本能が呟く。
怖い。
やっと出られたのに、やっと自由になれたのに、どうしてまだ、暗くてじめじめした場所にひとりぼっちなの。助けなんて来ない。誰も来るはずない。だってみんな、僕が居なくても大丈夫。むしろ居なくなって欲しいんだって。
いやだ、いやだ、消えたくない。
だって、何もしてないのに。
何も、出来てないのに。
なんの為に、ここにいるの。
「オーエン!!」
呑まれていく意識に冷水を浴びせるような鋭い声に、オーエンは引き戻された。ぼんやりと顔を上げると、焦った顔のカインが、息を切らせながら目の前に立っていた。カインはオーエンの顔を見て、驚いたように目を瞬かせると、柔らかく微笑んで、しゃがみこむオーエンと視線を合わせた。
「どうした。さっきの男に酷いことされたか?」
「
……
」
優しい声音に、一気に視界がぼやける。オーエンは泣いていた。きっともう、随分と前から。頬をびしゃびしゃに濡らしながら、カインを必死に睨みつける。
僕は弱くない。誰の助けもいらない。一人でも大丈夫。
なのに、どうしてこいつは、そんな憐れむような顔で僕を見ているの?
「もう大丈夫だ。帰ろう」
「
……
どこに」
「魔法舎だよ。賢者の魔法使いは、今みんなそこに住んでる」
「賢者の魔法使い
……
」
「ああ、おまえも、俺たちの仲間だ」
「嘘」
「嘘じゃない。これと同じ紋章が、おまえの舌にある」
「
……
」
オーエンは訝しげに右腕を出してくるカインを見た。自分の舌を出して見ると、確かにカインの腕にあるのと同じような黒い模様がチラと見えたが、到底信じられるものではない。
「
……
これが無かったら、僕に帰る場所はないの」
「
……
」
無くてもあった、と無責任なことはいくらでも言えただろうが、カインはそれを口にしなかった。きっとその通りだったから、オーエンは誰も信用できなくて、一人で泣くしかなかったのだ。
「ああ。だから良かった。これのおかげで、おまえに居場所を作ってやれる。おいで、一緒に帰ろう」
「一緒に?」
「そうだ。俺も賢者の魔法使いだから、同じところに帰るよ」
差し伸べられた手。その手を取りたい欲求に逆らわず、オーエンはおずおずと、その手に自分の手を乗せた。力強く引き上げられて。よろめいた体を抱きしめられる。鼻がつんとして、涙がまた溢れた。
カインは動きの鈍いオーエンの体を抱き上げて、そのまま魔法舎までゆっくり歩いて帰ってくれた。ゆらゆら揺れる、力強くて安心する腕の中で、疲れ果てていたオーエンは、深い眠りに落ちていくのだった。
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