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はりぼて自家発電所
2024-12-27 03:47:10
108331文字
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因縁
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天邪鬼のかくしごと 前編
魔法舎に北の魔法使い、オーエンの迎えが来た。記憶喪失、ショタ化など。
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オーエンの心臓を取り戻すにあたり、問題はいくつもあった。
まず、オーエンが閉じ込められていた地下がある村の正確な位置。オーエンの魔力が暴走してその一帯を滅ぼし、夢の森を作ったのだというなら、夢の森のどこかにはあるのだろう。
そして、付き添う人選。オーエンは勿論、カインだけでは当然心許なく、さらにオーエンの魔力を奪った魔法使いがまたどこに潜んでいるか分からない。
けれど、ともすれば自分の弱点を晒される危険もある。オーエンはオズを始めとした北の魔法使い達の同行を嫌がった。
「まだ奪われたオーエンの魔力が何に利用されたのかも分からぬ」
「あるいは、まだ準備の途中か
……
」
「件の魔法使いは、オーエンの過去を知る石を持っておった。つまり、我らも知らぬオーエンの心臓の隠し場所を知っておるのではないか?」
「そうだとしたら、あんなまわりくどいやり方で魔力は奪ったりせぬじゃろう」
「たしかに、そうか。あの石も本物という確証はない」
「しかし、我らが夢の森に心臓を探しにくると見越しておれば、罠を仕掛けるのも容易い」
双子が顔を付き合わせてうんうん唸っている間、渦中の人物である本人は一貫して不機嫌な顔をしていた。
「めんどくさい
……
」
ぐにゃりと談話室のソファに体を預けて、ふあ、と欠伸をすると、オーエンはうとうとと目を半分閉じる。
本人も心臓を取り戻したいと思ってはいるようだが、如何せん魔力が回復しきらない。心臓が戻れば解決するというのも確定したものではないし、本当に見つかるかも確実ではない。心臓を取り戻す、それだけのこと。自分のことなのに、一人で生きてきたはずなのに、オーエンはいくつもの得体の知れない何かに雁字搦めにされて、酷く憔悴している。
なんとかしてやりたい。カインはそう思った。
因縁の相手だ、という意識はもうほとんどない。子供の姿だからだろうか。守ってやらなければとすら思ってしまう。
奪われた左目。オーエン自身が繋いだ縁。親兄弟という逃れられない縁も、友人という気づいたら繋がっていた縁も、カインが得ようと思って得た物はない。
縁とは、繋げようとして繋がるものではないし、切ろうとして切れるものでもない。
だけど、この目は。この左目は、切ろうと思えば、切れてしまえる縁。
初めてとも言える怒りと悔しさの感情も、激しく苛烈だったにも関わらず、その感情が続かないカインにとっては刹那的だったかもしれない。
だから、この縁はどんなものよりもきっと儚い。
カインが理解を示さなければ、オーエンは一人で出口の見えない迷路を彷徨い続けて、誰にも見つけられないまま、そして出口などないと勘違いしたまま、悠久の時を過ごすのだろうか。
この広い世界に誰の姿も見えないだけで、こんなにも孤独を感じるのに。
「
……
オーエン」
これはもう、オーエンだけの問題じゃない。
この縁を手離せないのは、カインも同じだった。
手を伸ばして、掴んでもらえなければ、カインもこの世界に一人なのだ。触れれば見える。だけど、振り払われたらもう、手を伸ばすのも恐ろしい。一人ぼっちは、寂しい。
「なに」
「おまえがいてくれて、良かったよ」
カインが思うままに伝えると、オーエンは眠気を忘れたかのように、ガラス玉のような瞳を丸くする。
「急になんなの?」
「おまえがいたから、俺は一人の世界に取り残されずに済んだからさ」
「
……
? その厄介な傷のこと? 毎日飽きもせず誰彼構わず触れてるんだから、そんなの
……
」
「誰かと触れ合えることは、当たり前じゃない。おまえならわかるだろ」
ありがとう。
今なら、その言葉が伝わる気がした。
なにかして貰わなくたっていい。
そこにいてくれるだけでいい。
それは、存在の肯定だ。
「
……
っ!」
オーエンは、カインの言いたいことを理解したのか、ソファから立ち上がると怖がるように視線をさまよわせ、逃げ場を探りながら後退りする。
感情が、爆発する寸前。怒りのような、悲しみのような、嬉しさのような。その全てが混じりあって、訳が分からなくって。
苦しい。
そんな感情が、痛みとなってカインの左目を刺激した。
「や、
……
だ。やだ、やだやだやだ!」
「お、オーエン
……
、どうした
……
」
「いや!!」
オーエンはカインが伸ばした手を払い除けて、逃げ出した。
だとしても、オーエンの姿がカインから見えなくなることは決してない。
「えっ、おい、待て
……
っ!」
どうして拒絶されたか分からないが、カインは追いかけるしかない。喜んで笑ってくれるとは思ってなかった。皮肉が返ってくるだろうとは思っていたのに、まさかそんなに嫌がられるだなんて。
分からない。
カインの因縁の相手は、少しでも理解したと思った途端、霧のようにすり抜けていく。
「オーエン!」
普段であれば、追いかけても無駄だっただろうし、絶対に見つけられはしなかった。けど今なら、彼の姿を見失うことはない。
「おや
……
」
「なになに? 鬼ごっこ? それともかくれんぼ?」
もうすぐ追いつく、というところで、オーエンが誰かにぶつかった。柔らかい物腰の魔法使いは、動じることなく転びそうになったオーエンをふわりと受け止める。欠片もそうだと感じなかったけれど、それは多分、魔法だった。
オーエンは自分がぶつかって転びそうになったことも忘れ、ムルを威嚇しながらもシャイロックの長い足の後ろに隠れる。
「あれ、もしかしてカインに虐められた? それとも俺?」
「
……
」
「ムル。あなたが喋るとややこしいことになりますので、少し黙って」
「俺が入るまでもなくややこしいことになってる。いつもならオーエンがカインを虐める側でしょ? 左目を奪った時みたいに。あれ、でもそれならカインが追いかけるのは当然? オーエンが子供の姿だから虐められてるように見える?」
「オーエンの悪戯に怒っている風ではありませんが、いったいどうなさったんです?」
説明に困るカインと、毛を逆立てた猫のようなオーエンを楽しげに眺めながら、シャイロックは問いかける。
「えーっと、俺がありがとうって言ったら嫌だって逃げちまったんだ」
「なにそれ! 面白い!」
「興味深いですね。あなたがオーエンに感謝することは、今回が初めてではないでしょうに」
「で、カインはオーエンに何を助けてもらったの? 落し物を拾った? 慰めてもらった? あっ、分かった! オーエンが嫌がるってことは、オーエンは嫌がらせのつもりだったんだ!」
可哀想。
騎士様は僕の姿だけは、ちゃんと見えるんだね。
恐ろしい北の魔法使いだったオーエンの言葉を思い出して、カインはますます眉を下げる。
「当たらずも遠からずってとこかな。オーエンだけは、誰に触れなくても姿が見えるから」
左目に触れながら言うと、ムルが顔を顰めてわざとらしくドン引きした。
「うわぁ、気持ち悪!」
「き、気持ち悪い!?」
「こら、ムル」
「だってさ、目玉無理やり交換されてありがとうって、言えないよ。それにカインは他にも色んなものを奪われてる!」
「ムル。事実とはいえ、その時の記憶は今のオーエンにはありません」
「けど嫌悪感を覚えてるってことは、心は覚えてる。自分が犯した罪を認識してる。だから感謝を受け入れられない。どう?」
ぎゅう、とオーエンがシャイロックの腰にしがみつく力を強めた。覚えていなくても、心が拒絶している。それは、記憶がちゃんとどこかには残っているということ。閉じ込められていた記憶も心に刻まれて、消えることはなかったから、だから記憶を奪われそうな時でも、オーエンは手を離さないで欲しいと願った。
「オーエンはいつも、自分がやったことより、誰かの責任を負いたがるな」
カインがケルベロスに腹を食われた時もそうだ。実際、どちらもオーエンではあるけれど、傷の時の記憶はないのに、オーエンはカインの無事を祈って、遠ざかった。まるで、誤って小さな生き物を踏み潰さないよう、距離を取るみたいに。
自分の制御しきれないほどの力を、恐れるように。
「
……
例え前世が罪人だったとしても、身に覚えのない罪を背負う必要はないのですよ」
カインを困らせて俯いている幼子に視線を合わせるように屈むと、シャイロックは歌うように語りかける。
「罪の味は蠱惑的です。心を惑わせ、苦しめる。その苦しみを愛するも一興ですが、今のあなたにはまだ早いでしょう。カインを困らせたいのなら、私もご一緒させて貰いたいところですが
……
」
「意味わかんない」
「それは、申し訳ありません」
オーエンは共感する気も起きなかったのか、そう一刀両断すると、そっとシャイロックの足から離れた。ムルを警戒しながら、ととと、とカインの元に走り寄る。カインは怖がって甘えるように腰に抱きついてきたオーエンの体を受け止めて、ぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう二人とも。ひとまず和解できたみたいだ」
「「どういたしまして」」
体を離すと、カインとオーエンは並んで談話室に戻っていく。その様子はまるで、年の離れた兄弟のようだ。
「かわいらしい方」
「それってオーエン? それともカイン?」
「両方です」
穏やかに二人の背中を見送りながら、シャイロックは微笑んでいた。
「甘えているということや、甘えさせているということは、意識してするものではありません。心のままに従い、それを受け入れる。ただそれだけ。ただそれだけのことを難しいと感じて、怖がって、怖がらせないようにする姿は、なんともいじらしいものですよ」
「それじゃあ俺がシャイロックに甘えないように距離を取ったら、シャイロックは甘やかしてくれない?」
「あなたがそれを望むなら」
「にゃーん、じゃあ甘えよーっと」
「おやおや。甘やかしすぎたでしょうか」
「甘やかしたい訳じゃないんだ!」
「甘やかされたくない人を、甘やかすのは好きですよ」
「甘やかされたい人を邪険に扱うのは?」
「とても贅沢なことだと思います」
「だからシャイロックって好き!」
「私もです」
にっこりと頷くシャイロックの腰に残っていた幼い感触はすっかり消え失せていた。オーエンはシャイロックの影に隠れながらも、しがみつく手の力は緩いものだった。カインにしがみついた勢いと、比べ物にならないくらい。シャイロックなら、いくらでも甘やかしてやれるのに、オーエンが選んだのは下手で鈍いカインの方。
きっとその事実を胸の内にそっとしまい込むことが、一等贅沢なことなのだ。
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