はりぼて自家発電所
2024-12-27 03:47:10
108331文字
Public 因縁
 

天邪鬼のかくしごと 前編

魔法舎に北の魔法使い、オーエンの迎えが来た。記憶喪失、ショタ化など。







「本当に閉じ込めるんですか?」
「少しの間だけだよ。本当に心臓を握られている場合、オーエンが彼等を裏切ってもいないのに破壊されでもしたら流石に可哀想だ。なら捕虜という形を取っていた方が安心だろう? オーエンの力を必要としているみたいだし、簡単に見捨てたりはしないだろうけど」
「いつまで……
「そうだね、オーエンが今の状況に音をあげるまでかな」

 フィガロは、心配を隠せない賢者に困った表情を向けて笑った。
 仲間だと言っているのに、仲間だと言って貰えないなら、こうするしかない。しかし、賢者ではそれを実行には移せないから、フィガロがその役目を担ってくれた。そんな彼を、これ以上困らせるわけにもいかない。

……観念、してくれるでしょうか? してくれたとしても、裏切らせたことで彼を危険に晒すことになるんでしょうか……
「本当に、心臓を握られていたらね」

 その可能性は低いだろうけど、とフィガロは続けた。

「オーエンが幼い頃から魔力が強かったなら、双子や俺たちが見つけられていた筈だ。だけど、そうじゃなかった。つまり、オーエンは元々魔力が弱かったんじゃないかな。だから、強い魔法使いが生まれて恐ろしくなって閉じ込めた、って話がそもそも可笑しいんだ。北の国では、魔法使いに頼らなければ生きていけないしね」
「たしかに……
「それに、人間に閉じ込められたところで、魔法使いなら逃げ出すのは難しくない」
「じゃあ、オーエンを閉じ込めていたのも嘘?」
「それはどうだろう。オーエンには昔の記憶がない。他に魔法使いがいたのかもしれないし、いたとしてもやり方が妙だ」
「妙、ですか?」
「北の国だよ。自分より弱い魔法使いを脅して利用しようなんて、北の魔法使いは考えない。従わせるならもっとシンプルに、魔力の強さのみでいくよ」
「なるほど」
「オーエンが強い魔法使いになると見越して石にするつもりだったとしても、そばに置いておいた方が籠絡しやすい。閉じ込めたりなんかしたら、逆効果だよ」
「でも、側に置いて情が移ったり……
「しないよ。少なくとも、最初から情が移る可能性を考えない。北の魔法使いは他人に従わないし、弱ければ北の大地に殺されるだけだ」

 ただでさえオーエンのことは謎なのに、北のルールが更に分からず、理解には時間を要した。唯一わかることは、オーエンに心臓が無いことは誰もが知る事実で、心臓の隠し場所はオーエン本人すらも知らなかったということ。

「では、オーエンの記憶がないことを、彼等はどうして確信しているんでしょうか」

 その疑問にフィガロが答えてくれる前に、誰かが賢者の服の裾を引っ張った。
 振り向くと、足元に双子がまとわりついてくる。

「わっ、スノウ、ホワイト? どうしました?」
「大変じゃ賢者ちゃん! すぐに着いて来て!!」

 言うなり、フィガロを置きざりにして双子は賢者をその場から連れ去った。向かった場所は、魔法舎の五階。オーエンの部屋の前に、ブラッドリーとオズ、そして様子を見に来ていたのか、カインがいた。

「あの……? みなさんお揃いで、一体どうしたんですか?」

 その問いに答えたのは、扉の向こう側にいるオーエンの叫び声だった。

「あけて! あけて……!! ごめんなさい、ちゃんと良い子にするから、あけて! おねがい、あけて……
「おい、さっきからうるせぇぞ!!」
「ブラッドリー、穏便に……
「う、うぅ………

 どうやらオーエンに傷の症状が現れているようだった。オーエンの傷を知らないブラッドリーが、扉を叩き返して怒鳴っている。カインが説得を試みているが、オーエンは悲鳴を上げるし、ブラッドリーは聞く耳を持ってくれない。酷い状況である。賢者は慌ててブラッドリーの腕を掴んだ。

「ぶ、ブラッドリー! ここは私が引き受けますので……!」
「おまえらじゃ、この胸糞悪い演技に簡単に引っかかっちまうだろうが」
「え、演技……なんでしょうか」

 オーエンは傷を他の魔法使いに知られたくないと思っている。勘違いをしてくれているのなら下手に何か言わない方がいいのだろうが、扉の向こうから聞こえる、オーエンの幼い泣き声がいたたまれなかった。

「このまま開けても良かったが、オズとブラッドリーに知られるのはまずかろう」

 ホワイトが賢者にこっそり教えてくれる。これが開けてもらう為の演技なら、ブラッドリーを双子が説得する方が怪しまれるのだろう。だから賢者を呼んだのだ。賢者の言葉なら、ブラッドリーも疑うことなくこの場を任せてくれるはずだから。

……オズ、ブラッドリー、すみません。オーエンと話をさせてください。二人がいると話にくいかもしれないので、ここは外れて貰っていいですか?」

 賢者が提案すると、二人はぴたりと賢者を見つめる。

……
……ま、それもそうだな」

 ブラッドリーは意外にもあっさりと頷いて立ち去ってくれた。オズも何か言いたげだったけれど、双子が同席すると言えば大人しく引き下がった。彼等も北の国でなにかあったことは知っているので、なにか思うところがあったのかもしれない。

「俺も、いない方がいいか?」
「あ、傷のオーエンはカインに懐いているので……居てもらえると安心するかもしれません」

 こうして、この場には賢者と双子とカイン、そして扉越しのオーエンの五人になった。
 賢者は扉の向こうへそっと声をかける。

「オーエン。私です。分かりますか?」
……けんじゃ、さま?」
「はい。今、扉を開けます」
「っ、ほんとう?」
「スノウ、ホワイト、お願いします」
「「よかろう。《ノスコムニア》」」

 カチャリ、鍵が開く音がした。扉を開けると、オーエンは扉の前で座り込み、泣き腫らした目でこちらを見上げていた。

「け、けんじゃさま」

 嗚咽を零しながら、オーエンは賢者の足に抱きついた。えぐえぐと泣いて震えている背中を宥めながら双子とカインと共に部屋に入れさせてもらい、オーエンをベッドの上に座らせる。

「大丈夫か? オーエン」
「騎士様……

 カインが話しかけると、オーエンは泣き止んで、ようやく安心したのか、笑顔を見せてくれた。

「僕を、助けに来てくれたの?」
「えーと」
「まず、謝らせてください。ごめんなさい、オーエン。閉じ込めようとしてしまって……
……

 賢者が謝ると、オーエンは助けが来たわけじゃないことを理解したのか、カインの服の裾を握りしめながら、傷心した。おそらくなにも分からない彼へ、どう説明しようか迷っていると、オーエンは察したようにこちらの顔色を伺いながら、口を開く。

「ぼ、僕……、約束、覚えてるよ。忘れてない、ちゃんと守ってる……
……え?」
「だから、ここから出たいよ……

 賢者は双子とカインと目を合わせた。魔法使いが約束をする。それは軽々しく口にしていいものでは無い。けれど、傷のオーエンが、それをどれだけ分かっているのかも判断できない。

「約束って、なんの……
「ここから出ない約束……。でも、いい子でいたら、出してくれるんだよね? もうひとりぼっちはいや……っ!」

 この部屋から出るな、なんて約束は、賢者はもちろん、双子もカインもしていない。それなのにオーエンは、ここから出たいと、約束を守っていると、あまりにも切実に訴えてくる。
 約束をしたと言う以上は、慎重にことを運ばなければならない。誰といつしたのかもわからないのに、この場を収める為だけに、ここから出てもいいと言ってもいいものかどうか。そもそも、助けに来たと言ってここから連れ出していたら、それも約束を破ることになってしまわないだろうか。
 オーエンが石になってしまう危険がある以上、試すなんてこともできない。普段外で傷の症状が出ている時は問題なかったが、あれは約束の認識がなかったからだろうか。

「傷の状態が、過去の人格と記憶を保っておるのだとしたら、厄介な約束じゃのう……
「しかし、結局迎えも助けも来なかったのではないか? でなければずっと一人だったとは言わぬ筈じゃ」
「自ら外に出たとすれば約束を破ったことになり、魔力を失う。今頃ここにはおらぬじゃろう」
「オーエンにはその時の記憶がないからのう」
「今はあるぞ」

 むむ、と双子が囁きあいながら、悩ましいため息を吐く。その間に、カインはオーエンと目線を合わせた。

「オーエンは、今までの間、どうやって過ごしてきたんだ?」
「うんと……
「約束をしたときに、……心臓を持って行かれたり、しなかったか?」
……

 カインの問いに、そう、それ! と賢者と双子は期待に目を輝かせた。傷の状態の時なら、当時の記憶も持っているかもしれない。けれど、オーエンは答えることなく、凍りついたようにカインを見つめていた。

……怖いこと言わないでくれる」

 オーエンは、いつもの彼に戻っていた。