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はりぼて自家発電所
2024-12-27 03:47:10
108331文字
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因縁
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天邪鬼のかくしごと 前編
魔法舎に北の魔法使い、オーエンの迎えが来た。記憶喪失、ショタ化など。
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問題なく動けるようになったら、こんどは魔法の訓練だ。とはいえ、まだ魔力の安定しないオーエンである。容赦のない北の魔法使いたちに混じるのも危険なので、ここ暫くはカインと剣の稽古をしたり、中央の国の訓練に参加することが多くなっていた。
最初はオズを警戒していたオーエンだったが、今は上手く他の魔法使いたちに混じって楽しそうにしているし、若い魔法使いも彼に物怖じすることなく接している。オーエンの魔力は以前より弱まっているものの、魔力の扱い方はやはり他の魔法使いに比べて軍を抜いていた。四苦八苦しているリケやミチルをからかって遊んではいるが、悪意というよりは悪戯好きな子供、といった感じで、危険はないと判断したのかオズも気にすることなくその様子を傍観している。
今も、怒るというか叱りつけてくるリケを躱して、慣れた手つきで箒に乗ってふわりと空に逃げたオーエンは、リケとミチルがもたつきながら追いかけてくる姿を眺めながらくすくすと無邪気に笑っている。
「ほらほら、そんなんじゃ僕に追いつけないよ」
「もうっ! そんなに意地悪ばっかりしていては、罰が当たってしまいますよっ」
「わわ、全然捕まえられない
……
」
くるん、と優雅に半回転してミチルの腕から逃れると、オーエンは膝裏だけで箒にぶら下がりながら、リケの顔に触れるほど距離を縮めた。
「うわぁ!」
いきなりアップになったオーエンの顔にびっくりしたリケの箒がガクンと一段階落ちて、フラフラと揺れる。逆さ吊りになったまま悪戯が成功したように笑うと、体勢を整え、オーエンは飽きたように一度大きな欠伸をした。
「楽しそうに遊んでるなぁ」
子供たちがじゃれているのを見守りながら、カインは空を仰ぎ見る。オーエンの飛行はしっかりしているが、リケとミチルは少し危なっかしい。まあオーエンが妨害しているせいもあるのだろうけれど。
そう思っていた矢先、オーエンにも異変が起きた。またひとつ欠伸をしたかと思うと、箒の高度が下がってきて、フラフラと箒が左右に振れる。降りてくるのかと思ったその次の瞬間、糸が切れたように、オーエンは落下した。
「え!?」
リケとミチルが悲鳴を上げるよりも早く、カインは地面を蹴っていた。重力に逆らわず落ちてくるオーエンの下に、体を滑り込ませて受け止める。
「っおい! オーエン!? 大丈夫か!?」
「カインさん、オーエンさんは
……
!」
「何もしてないのに、いきなり落ちたんです。やはり天罰が
……
」
焦る二人に縋りつかれながら、カインは困惑を浮かべてオーエンの顔を覗き込む。すやすやと息を立てる、その安らかな表情を。
「
……
あ、いや
……
寝てる
……
?」
「「え?」」
信じられない。とリケが目を見開いた。
「空の上に居るのに、いきなり寝るなんて有り得ませんよ」
「僕もちょっと、おかしいと思います。どこか悪いところがあるんじゃ
……
? フィガロ先生を呼んできます」
「「それには及ばぬ」」
いつのまに傍にいたのか、スノウとホワイトが腕の中で眠っているオーエンを覗き込んでいるのに気づいて、カインは「うわ」と声を上げた。しかしオーエンはすっかり夢の中で、目覚める気配はない。
「優しい子らよ。心配せずともよい」
「魔力が尽きて眠っておるだけじゃ」
「でも、そんな様子は無かったんですよ。普通に魔法も使っていて
……
」
「おそらく、オーエンが自身の魔力量を見誤ったのじゃろう」
そんなことがあるかと、純粋な疑問を浮かべるリケとミチルに、双子はにっこりと笑顔を向けた。
「その説明はオーエンが起きてからにしよう。カイン、オーエンを頼めるか?」
「あ、ああ、分かってる」
「誤魔化さないでください」
「本当に大丈夫なんですか?」
「「
……
《ノスコムニア》」」
「えっ!?」
優秀な生徒の質問攻撃から無理やり逃れるように双子が呪文を唱えると、リケとミチルはあっという間に眠りに落ちた。驚くカインを他所に、二人は大人の姿になると「よっこらせ」とぐったりした子供たちの体を抱え上げる。
「
……
えーっと」
「案ずるな、カインや」
「ちょっと説明がめんどくさいというか、子供たちに聞かせられる内容じゃないというか」
そんな雑な説明をしながら、とりあえず眠らせたリケとミチルを談話室に寝かせ、通りかかったフィガロに頼み、三人はカインの部屋に向かう。
オーエンをベッドに寝かせると、しんと空気が重くなった。カインはどう話を切り出せばいいか分からず、双子が話し出すのを待った。暫くすると部屋の外からパタパタと慌てたような足跡、それからカインの部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「カイン、フィガロに言われて来ました。スノウとホワイトも一緒だって
…
」
フィガロとすれ違った時に呼んでもらったのだろう。カインが扉を開けてやると、そこには賢者が不安そうな顔をして立っていた。賢者を部屋の中に招き入れ、ソファへ座ってもらうと、スノウとホワイトは頷いた。
「揃ったのう。では話すとしよう」
「賢者に決めてほしいことがあるのじゃ」
「ちょっと待ってくれ。なんでこんなことになったのかの説明を。いきなりで賢者様も混乱してる」
「こんなことって
……
なにがあったんですか?」
眠っているオーエンの顔色は悪くない。ほんとうに眠っているだけなのを確認しながら、賢者は慎重に尋ねた。
「オーエンの魔力が回復しておらんのじゃ」
「心の方は順調に回復しておる。じゃが、オーエン本来の魔力量には遠く及ばぬ」
「体の成長も止まったままじゃ。少しは大きくなったと思うておったが、これは食事をきちんと取るようになったので、本来の体格に戻っただけじゃな」
そのせいで箒から落ちたと告げると、賢者は口元を覆って驚きを顕にした。空を飛んでいる時に魔力が尽きて落ちるなど、危ないにも程がある。
「でも、いきなり落ちるなんてことはありえないだろう。魔力の低下は自覚出来るし、高度もそれに伴ってゆっくり下がっていく筈だ」
「その通り。じゃが今のオーエンは、心が回復しておるおかげで、調子が良いと勘違いしてしまったのじゃろう」
「どういうことだ?」
「忘れたか? オーエンは人の思念から力を得る。じゃが、魔法舎にこやつの好む悪意や恐怖はあったか? むしろ逆の感情しかなかったはずじゃ」
「オーエンの魔力を今以上に高める為には、人間の負の感情が必要なのじゃ。賢者よ、この意味がわかるか?」
オーエンは、自分の調子が良いと勘違いしていた。ここ最近の生活が充実していたからだろう。魔法舎を帰る場所と定め、魔法使いたちを信頼し、ともに成長することで同じ宿命を背負った仲間であることを意識するようになってもいた。カインをはじめ、自分たちのしたことは間違ってなどいなかったはずだ。ただ、
「オーエンの魔力を高めるために、私達が悪意を、彼に教えなければならない、ということですか」
その答えに、双子は神妙に頷いた。
「本来ならオーエンは一人で過ごし、独学で悪意から魔力を得る方法を身につけたじゃろうが、我等が介入したおかげで今のオーエンはその術を知らぬ。己の特異体質も、完全には理解しておらぬじゃろうな」
「我等がオーエンに悪意を教えるのは容易い。しかし、ある程度情緒が育っておる故に、どうなるのか想像もつかぬ。夢の森が出来た時のようなことは起きぬと思うが、前にも言ったように、負の思念を浴び続ければ、普通なら気が狂うものじゃ」
「今のまま、ではだめなんですか? 折角普通に過ごせているんです。悪意から魔力を得なくても、他の若い魔法使いたちと一緒に、訓練を重ねて貰って
……
」
賢者は言い募るけれど、双子は難しそうな顔を崩さなかった。彼等はオーエンを可愛がっていたのに。記憶を失う前も、オーエンが厄災の傷で幼い性格になってしまった時は何かと世話を焼いていた。意地悪ばかりするオーエンを叱ることだってあった。だから悪意を教えることだって反対してくれると思っていたのに。
「
……
我等は賢者の魔法使いじゃ。次の大いなる厄災に備えて、若い魔法使いを鍛え、力をつけ、驚異に打ち勝とうとしておる」
「
……
はい」
「オーエンはその力の源が何であれ、強い魔力の持ち主であることには変わりない。強い者は多い方がいい。逆に未熟な者が増えることは、それだけ危険を伴う。若い魔法使いだけではなく、オーエン自身もまた、次の厄災に耐えきれるか分からぬのじゃ」
「だ、だからって、そんなの認められません。賢者として許可したくありません。オーエンがそう望んでいるとも思えません
……
! だって
……
っ」
だって彼は、人の心に敏感で、些細な感情の綻びに気づけるほど繊細だ。それは、自分が傷ついてきたから。だから人の気持ちがわかるのだ。感受性が豊かで、綺麗なものに心だって動かせるようにもなった。
「悪意のある人が、どうして自分以外の誰かに怯えて、一人で死ぬことを選びますか
……
!?」
それは、他人の悪意が恐ろしいからに他ならない。
賢者の震える声が、静寂を呼ぶ。賢者の言っていることは正しく、その通りだ。だから双子も言い返せない。だけど双子の言っていることも正しい。強い魔法使いが減り、未熟な魔法使いが増えるということは、みなの負担が増えるということ。
「ん
……
」
沈黙を破ったのは、当事者でありながら深く眠っていたオーエンだった。上半身をゆっくりと起こして、目をこすりながら重たいまぶたを開く。
「賢者様
……
、怒ってるの
……
?」
「
……
っ、ごめんなさいオーエン、起こしてしまって
……
」
「んー
…
。うん
……
なんだか、眠くて
……
」
もしかして傷の症状が出ているのではないかと思うほど、オーエンは素直で無垢だった。うとうとと無防備な姿を晒すなど、本来ならありえない。
「仕方がない。失った魔力を睡眠だけで回復しようとしておるのじゃ」
「それが一番楽で早いしのう」
「ここが安心して眠れる場所とわかっている証拠だと思えば、喜ばしいことじゃ。安心するがよい」
ホワイトが優しげにオーエンの頭を撫でると、オーエンは再び船を漕ぎ始めた。カインが黙ってベッドに座り、揺れるオーエンの頭を引き寄せて、胸に寄りかからせた。そのまますうすうと寝息を立て始めたオーエンを、我が子のように見つめる双子。
その光景が、なんだか切なかった。
「
……
前回の厄災は例年より強力じゃった。今の不安定なオーエンを鍛えるよりも、元のオーエンの魔力を取り戻す方が安全じゃ」
「悪意を教えるのが難しければ、不確実じゃがもう一つ方法はある」
「
……
オーエンから魔力を奪った魔法使いをとっ捕まえるか?」
「いや、一度マナ石となって食われた魔力は取り戻すことはできんじゃろう」
「様々な条件をクリアせねば、普通はあのようなことにはならぬのじゃ。そなたがあの時、手を離しただけで失敗するような呪いじゃ。それこそ長年その時を待つ時間が無ければ難しいじゃろう」
「じゃあどうやって
……
?」
「魔力を殆ど奪われたにも関わらず、若返るだけで石にならなかったのは、オーエンの胸に心臓が無いせいじゃ。心臓があればこの事件すら起きんかったじゃろうが
……
」
「そうせねばオーエン自身、この世界には存在しておらんかった。つまり、全ての核は心臓じゃ」
幼い頃、極寒の北の大地でなんども死んでいたオーエンは、心臓を隠したという自覚すらなく、現実という名の悪夢を見続けて、そして壊れていった。
おそらくそれが、北の魔法使い、オーエン始まり。
「その心臓を、オーエンに戻すのじゃ。その昔、オーエンが耐えきれなかった悪意を溜め込んでおる筈じゃ。それなりの魔力は有しておるじゃろう」
「心臓が隠されておるのは、かつてオーエンが閉じ込められておった地下。そこしか有り得ぬ」
どうする、と双子の視線が賢者とカインに問いかける。自分たちが悪意を教えられないからといって、教えるのが嫌だからといって、それは責任の放棄にはならないのだろうか。ただ、面倒なことから目を逸らして、オーエン一人に悪意を背負わせることにはならないのだろうか。
「この状態もまずいとは思うが、そもそもオーエンは多分今も、あの場所に取り残されたままだ」
オーエンの記憶を見てきたカインがふいに呟く。
「どんな理由があっても、あんな仕打ちを受けていいわけがない。だけどこいつにとって、あれは事実だ。分からなくて、納得できなくて、苦しくて、
……
だから絶望したんだ」
その記憶を無くすほどに。無くして初めて自由を手にして、その代わり、世界を美しいと想う心を忘れた。ただ、恐らくそれらは消えたわけではない。ここから出るなという、理不尽な約束を守るために、今もそこにあるのではないか。無くした心臓と一緒に。
「俺の願望かもしれない。そうじゃなきゃ、こいつが少しだって救われないから、そう思いたいだけかもしれない。だけどもし、本当にオーエンの心が置き去りにされたままだとしたら、
……
迎えに行ってやりたい」
置いていかないで。
迎えに来て。
幼い悲鳴が、カインの耳にこびりついて、今も、離れない。彼が目の前にいても、その声がずっと頭の中で響いて、酷く不安になった。オーエンの無邪気な笑顔が、一瞬後にはひび割れて、失われる気がして。順調なはずなのに、どこか歪で。
眠るオーエンの頭を撫でる。
カインの左目を奪った魔法使いは居ないが、その目で離さないでと縋ってきたのは、幻ではなかった。壊れたはずの心は、あの時確かに、そこにあった。つぎはぎで、不安定で、それでも。
「だから行くんだ」
オーエンがどうしたいのか、どうしたかったのか、どうして欲しかったのか。答えがあるとしたら、きっとそこにしかない。
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