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はりぼて自家発電所
2024-12-27 03:47:10
108331文字
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因縁
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天邪鬼のかくしごと 前編
魔法舎に北の魔法使い、オーエンの迎えが来た。記憶喪失、ショタ化など。
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突然の覚醒に、頭が混乱していた。酷く熱くて、寒くて、それでも生きていることを叫んでいるかのように体の奥から激しい動悸がする。胸に手を当てると、何も無かった。
何も無い、空洞。
オーエンは何かを探すように、自分の体にかかっていた毛布を撫でる。
ない、ない、どこにもない。
「どこ
……
。僕の
……
」
なんだっけ?
自分が、何を探しているのかも、もう分からない。
「ぁ、いや
……
」
恐ろしいまでの喪失感に、体が震えた。寒くて、冷たくて、それなのに、体の中が燃えている。頭がぼうっとして、どこにも戻れない。誰か、だれか。
だれか、たすけて。
「ん
……
? オーエン
……
、起きたのか
……
」
「ひ
……
」
現実に引き戻すように、大きな手のひらがオーエンの体を抱いて引き寄せた。
「怖い夢を見たのか?」
優しい声と、ぽんぽんと背中をあやす力強い手のひら。カインの腕の中は、どうしようもなく温かかった。じわり、と目に涙が滲む。
「騎士、様
……
」
夢に見た、絵本の騎士。いい子に待っていたら、いつか助けに来てくれると思っていた。
だけど、実際にオーエンに手を差し伸べたのは。
本当に、騎士様?
「ん
……
?」
「しにたく、ない
……
」
とくん、とくん、と規則正しく脈を打つカインの胸に擦り寄って、オーエンは震えながら呟いた。ぎゅうと、抱きしめてくれる力に、酷く安心する。安心するのに、動悸が止まらない。優しくされればされるほど、裏切られるのが怖い。見捨てられるのが怖い。
「死ぬって、どういうことだ? おまえは死んだりしてないだろ?」
「
……
だって、
……
眠る時の感覚って、死ぬ時と似てるんだよ」
小さな声は、沈黙に溶けた。
カインが面倒を見るようになってから、オーエンが無意味に死ぬことはなくなった。だけど、オーエンは毎晩、死ぬような感覚を味わい続けてきていた。こうやって目が覚めるのも、一度や二度ではない。だというのに、死と眠りが似ているとオーエンがカインに教えてくれたのは、今日が初めてだった。
死んだ方がましだと言っていたオーエンが、死にたくないと感じている。それを伝えてくれる。それはカインにとって嬉しいことだった。
「そっか。気持ちを、教えてくれてありがとうな」
「
…………
本当は、そんなこと思ってないくせに」
オーエンは吐き捨てる。
「この間、約束したから。言葉だけならなんとでも言えるんだよ。約束を破っているつもりが無ければ、魔力を失うことはない」
子供の姿をしているのに、記憶など無いはずなのに、オーエンは酷く難しいことを言う。まるで、カインの言葉が上辺だけであることを望むかのように。
「俺の言葉は、信じられないか?」
「
…………
」
「俺はおまえの言葉を受け止められていない?」
「
……
後悔すればいいんだ」
「
…………
俺が?」
カインがいくら理解を示そうとも、オーエンが理解して貰えていないと感じている。オーエンにそう疑われてしまうと、僅かに自信がなくなるのも確かだった。だって、オーエンは天邪鬼だから。それも、自分でも何が本当の気持ちなのか分からなくなってしまうほどの。
カインは、自身を疑ってしまいそうな気持ちを隠して尋ね返す。カインまでも混乱してしまったら、きっとどこまでも謎は深まっていくのだ。
オーエンは顔をシーツに顔を埋めるように頷いた。
「どうして、そう思ったんだ」
「ネロが、怒ってた」
「怒ってた
……
か?」
「言えばよかったのに」
「
……
」
難しく考えても、カインはオーエンの言いたいことを、たぶんあんまり理解できない。というか察することができない。だからこそ、言われたことをそのまま受け止めるしかできない。
「約束。僕が、僕の言葉を疑わないでって、言ったんだ」
カインが無理やり約束を取り付けたように疑われたりしたが、それは違った。だってカインは、本当は、そんな約束なんてなくとも、疑ったりしない。だけど、オーエンがそれだと不安だと言うから。
「
……
そうだったな。俺は、おまえが嘘をつかないのなら、約束しようって言った。それが?」
「
……
僕は、あの時、後悔したよ」
「
……
」
「騎士様は、しないの?」
きっと、オーエンこそが自分の言葉を疑っているのだ。だから、誰かに確かめて欲しいのではないだろうかと、カインは思った。魔法使いにとっての約束は、とても大切なものだ。破れば魔力を失う。だから、簡単にしてはいけない。カインも選択を間違ったかもしれないと一瞬思ってしまったけれど、
「後悔なんてしない。俺は人の気持ちを察するのが苦手だから、むしろ助かってる。そのままの言葉を疑わなくていいんだって。
……
オーエンは、どうして後悔したんだ?」
カインの問いに、オーエンは言い淀む。
問いかけながら、カインが手に汗を握っていることは、絶対にバレてはいけないと思った。余裕のある振りをして、しっかり受け止めてやらなければならない。オーエンが、安心して飛び込んでこれるように。
そのための約束だと、カインは認識している。
オーエンは意を決したように、言葉を吐き出す。
「あんなこと、言いたく、なかった。言ったら、ダメな気がした。僕が何を言っても、騎士様は僕の言葉を信じるしかないもの」
「言ったらダメなことなんてないだろ。けど、そうだな
……
。たしかに、おまえがあんなこと言うからビックリした。どうして素直に、食べるのが勿体ないって言わなかったんだ?」
「
……
勿体ないなんて、思ってない。嘘はついてない。だから僕は空を飛べた」
「けど、おまえの心はルチルが言ってた通りだった。おまえは、言葉を知らなかっただけだよ」
「じゃあ僕はどうして、綺麗な言葉を紡げないの?」
オーエンはカインの腕を押しのけて上半身を起こすと、ガラス玉みたいな瞳でカインを見下ろした。恐ろしいほどに真っ直ぐな疑問。下手をしたら、飲み込まれそうなほど、それは不安を煽ってくる。
正しくあらねばならない、とカインは思った。間違えば、何か途轍もないものを失うと。
オーエンは追い立てられるように続ける。
「これを言ったら、嫌われる。そう思ったら、
……
怖かった。僕は、嫌われて当然なのに、馬鹿みたいだ。どうして、」
オーエンが、そこで言葉を詰まらせた。怖い、と素直に吐露出来るのは、彼の心がまだ歪みきっていないからだろうか。そして、まるで今、本当の気持ちに気づいたみたいに、苦しそうに喘ぐ。
オーエンは、とても不安定な場所に、絶妙なバランスで、立っている。
それを、どうしたら支えることが出来るのか。
「どうして、僕のために、甘くて綺麗なケーキを作ってくれるの? 傷つける言葉しか、見つけられない。お礼なんか、言わない。だってそんなの、可笑しいんだ。僕は、僕なんか、
……
っ、ほんとうは、
…………
っ、死んじゃえば、いいのに」
「オーエン!!!」
カインが大きな声をあげて起き上がると、オーエンはびくりと肩を震わせて、カインを見上げた。その目からは、先程からぼろぼろと涙が溢れ出ていて、止まる気配がない。カインの口からは、先程までのの緊張が嘘みたいに迷いなく言葉が滑り出ていた。
「ちがう」
「
……
っ、」
「それは絶対に違う。ごめんなオーエン、疑わないって言ったけど、それだけは嘘だ。いいか、見てろ」
ひくっ、と肩を揺らすオーエンの前に、カインは手を差し出した。言葉では伝わらない。圧倒的で疑いようのない不思議な力による証明が必要だった。
「《グラディアス・プロセーラ》」
ほわん、とカインの手のひらが淡く光り、星型のシュガーがコロコロと溢れる。オーエンの涙と一緒に、シーツに転がって。
「ほらな。俺は、約束を破ってない」
「
……
でも
……
」
「死にたくない、本当は。さっき、自分でそう言っただろ」
「
……
っん
……
」
死にたくない、死ねない、死ねばいいのに。カインがこれまで見てきた生々しいオーエンの感情が流れ込んでくるようで、カインは焦ったように捲し立てていた。誰に言い聞かせているのか、自分がちゃんと意味のある台詞を紡げているのかも分からないまま。
胸を詰まらせて喘ぐオーエンに、ただ伝わって欲しいとだけ願って。
「おまえのせいじゃない。おまえが嫌な言葉しか言えないのは、おまえのせいじゃないんだよ。綺麗な言葉だってこれから沢山覚えていけばいいし、おまえの言葉で、ネロは傷ついてなかった」
「
……
じゃあ、やっぱり僕の言葉は嘘なの。なんの意味もない空っぽの嘘。それとも空っぽなのは、おまえの頭?」
「嘘なんか言ってない。おまえは自分の心のままに言葉を選んだだろ」
いっぱいいっぱいの煽りを一蹴して、カインは言い切ってみせる。本当のところ、オーエンの本心は結局よく分からない。ただひとつ言えることは、誰一人オーエンの言葉で傷ついた者はいないということ。オーエン自身を除いては。それは、オーエンが、本当は誰も傷つけたくないと、そう思っているということに他ならないような気がした。
「全部受け止めるよ。俺は、それを約束したんだ。だから、一人で抱え込むなよ。全部吐き出していい。馬鹿みたいだと思ったことも、勿体ないと思ったことも、死にたくないと思ったことも、自分を許せないと思ったことも、全部聞くよ。だから、心配しなくていい。全部オーエンの本当の気持ちだ。嘘なんかひとつも無いんだよ」
「ほんとの、
……
きもち
……
」
カインは微笑んで、泣き続けるオーエンの頭を引き寄せて、胸を貸してやる。矛盾している自分の気持ちを、全部飲み込めるように。それはおかしいことではないのだと、安心できるように。
オーエンはむずがる子供のようにカインの胸に顔を押し付ける。強ばっていた体は徐々に力が抜けて、やがてほんのりと熱を持ち始めていた。
「かんがえるの、むずかしい
……
」
「はは、知恵熱でも出たか? 少し熱いな。もう寝ろよ。そしたら少しはすっきりするだろ」
「ん
…………
」
疲れているのか、もう半分夢の中に入っているオーエンの反応は鈍かった。そのままシーツ横たえさせると、行かないでとシャツの裾に縋りつかれる。離れるつもりはないのにな、と苦笑して、カインはオーエンに毛布を掛けてやった。すると、オーエンが口をもにょもにょと動かした。
「騎士、様
……
。はやく、迎えに来て
……
」
夢の中に意識を溶かして、現との境も曖昧なまま、寝言のような言葉が紡がれる。
カインはそれを聞きながら、幼い子供を抱く腕に力を込めた。
オーエンはまだ暗闇の中。
いくら愛を教えて信用を得たって、彼の心は、心臓は、あの地下に閉じ込められたまま。
今も、迎えが来るのを待っている。
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