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はりぼて自家発電所
2024-12-27 03:47:10
108331文字
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因縁
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天邪鬼のかくしごと 前編
魔法舎に北の魔法使い、オーエンの迎えが来た。記憶喪失、ショタ化など。
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「「カイン!」」
「カイン、しっかりせんか!!」
「起きるのじゃ、カイン!!」
「起きてください
……
っ! お願い、起きて
……
」
意識が浮上したと思ったら、顔に水を掛けられたような叫びが鼓膜を震わせた。息を切らしながら、ぱっと開けた視界に飛び込んできたのは、険しい顔をした双子と、賢者だった。
「双子先生
……
、賢者様
……
」
「!! カイン! 良かった
……
! フィガロ、カインが目を覚ましました!」
「良かった
……
。全く、危険を感じたらすぐ戻るようにと言っただろう。あと少しで廃人になるところだったよ」
賢者の泣き声と、フィガロのくたびれた声。だるさの抜けない体は、汗でびちょびちょだ。視線だけを動かすと、隣でオーエンが死んだように眠っている。手を伸ばしたかったが、体が動かなかった。
「
……
俺
……
、一体
……
」
「覚えていますか? オーエンの心臓の在り処を探るために、彼の記憶の中を見に行ってもらっていたんです。酷くうなされ始めたので、慌てて起こしたところで
……
」
「無理に起きたから頭が痛むだろうけど、休んでいれば、じき良くなるよ。お疲れ様」
カインは痛む頭に手をやりながら、双子の手を借りて起き上がる。額の汗を、賢者が濡れたタオルで拭ってくれ、フィガロが水の入ったグラスをくれた。水を一気に飲み干して、息を吐く。頭の整理がつかない。
「オーエンは
……
」
「カインがオーエンの記憶から抜け出せなくなったらいけないので、フィガロが強い催眠魔法をかけたそうです。もう暫くは眠っています」
「そうか
……
」
オーエンは静かに目を閉じている。その表情はいつも通り、人形のよう。それが良いことなのか悪いことなのかは分からない。苦しそうでないことが、唯一の救いだった。
因縁の相手で、気に入らないところが沢山あるオーエンだけれど、彼の記憶を覗き込んだ後では、どういう感情を向ければ良いのか分からない。もともと、よく分からなくなってきていたのだ。傷のオーエンに懐かれて、殺されかけて、傷じゃないオーエンが、カインのために祈ってくれた。そんな彼に、今思うことがあるとするならば。
あの記憶を忘れているというのなら、そのままでいて欲しい、ということだった。
「
……
その、オーエンの心臓が何処にあるか、分かりましたか?」
それどころではなかったカインにとって、賢者の気遣いは心を穏やかにさせてくれるものだった。本来の目的を思い出して、カインは弱々しくほほ笑んだ。起きる直前に、双子も賢者もフィガロも手を握ってくれていたのだろう。彼らの姿をしっかりとこの目に映しながら、カインは考えた。どうすれば、彼の心の傷を癒すことが出来るのだろうか、と。
「心臓の在処は、分からなかった。だが、幼少期のオーエンが死ぬのを目の当たりにした。心臓はすでになかった。石にならなかったからな」
記憶に潜って最初の光景を思い出しながら、カインはそう報告した。ただ、最初、オーエンはおそらく、自分が死んでいたことすら気づいていなかった。
「その時の死因は?」
「多分、餓死か、栄養失調
……
」
フィガロの問いに答えると、賢者が心を痛めた。
「長く苦痛が続く死に方だね。ゆっくりと死に近づきながら死にたくないと強く願えば、心臓が隠れてしまってもおかしくはない」
「オーエンが無意識に隠したということですか」
「その可能性は高い。普通は生きるのを諦めるところじゃが
……
」
「であれば、北の村の魔法使いたちが、オーエンの心臓を握っているというのは嘘じゃろうな」
しかし、彼等がオーエンを連れ去るために語ったおとぎ話は、当たらずも遠からずといったところだろうか。双子は、なにか思うことがあるのだろう、眠るオーエンの頭を撫でている。それは憐憫だろうか。彼は今、静かに呼吸をして、生きている。
「そうですか
……
」
かろうじて、オーエンが魔法舎に留まる理由はあるのだと、賢者はホッと息を吐く。
「ただ、カインの話を聞いて、不自然な点があった」
「村を管理する魔法使いがいなかったことじゃ」
「たしかに、そうですね。実はオーエンが村を守っていたとか?」
「であれば、ますます村人はオーエンに対して頭が上がらぬじゃろう」
しかし、実際の村人はそれと全く逆のことをしている。魔法使いであることを知りながら、石まで投げている。北の国ではまず有り得ない光景だ。
「つまり、どういうことだ?」
カインが難しい顔をして尋ねる。
「何者かがそうなるように仕組んだのかもしれんな」
「そうなるように?」
「オーエンが、悪の象徴となるように」
閉じ込めた魔法使いに悪意や憎悪を向けさせる。魔法使いには、迎えにくるからここで待っていろと言って。
「そんな、なんのために
……
」
「魔力が高くなったところで石にして、質のいいマナ石を得るためと考えるのが自然かの」
「オーエンは悪意や恐怖といった、人の思念から力を得る」
「あ
……
、オーエンの、特異体質
……
」
「それを作為的に付与するのは難しい。たまたまオーエンの体質に気づいた魔法使いが、実験的にそれを利用したとも考えるのが妥当だろう。たしかに、試してみる価値はあるしね」
「「フィガロちゃん?」」
「ああいや、なんでもない」
フィガロは降参するように両手をあげた。うっかり口にするには、あまりにも不謹慎である。けれど、強さのために誰かの心を殺し続けることができるのが、北の魔法使いだ。
「唯一の誤算は、オーエンがその魔法使いより強くなってしまったことかな」
「では、その何者かが、オーエンの記憶がないのをいいことに、また利用しようとしている?」
「たぶんね。ただ、オーエンはおそらく、自ら記憶を手放した。記憶を失うことで、本来の人格を守るために。カインの話によれば、オーエンはいい子過ぎるくらい、いい子だったんだろう?」
「ああ」
「だとしたら、少なくともオーエンよりは長生きの魔法使い。ただ、そんなことしでかしそうな奴がいたら俺たちが知らないはずないんだけど
……
」
「うーむ、わからん
……
」
「オーエンのことさえ未だわからぬことが多いというのに
……
」
「辻褄を合わせようとするから話が拗れるのかもね。単に何かの偶然が重なっているだけかもしれない」
はあ、と双子がため息を吐いて、フィガロが苦笑する。
そんな中、カインは一人、険しい顔をしていた。オーエンの寝顔を見つめて、何かを考え込んでいる。謎が多い魔法使いであり、因縁のある相手の過去を垣間見たのだ。簡単に言葉に出来ない気持ちは山のようにあるだろう。
「カイン、顔色が悪いです。一旦休みましょう」
「え
……
」
賢者はオーエンの話を一旦横に置き、カインに微笑んでみせた。するとフィガロも双子もそうだったと言わんばかりに表情を変える。
「ああ、悪かったねカイン。放っておいて。疲れただろう。ほら、フィガロ先生のシュガーだよ」
「人の負の思念を糧としてきたオーエンの過去によう耐えた、えらいぞ」
「我らがぎゅっとしてやろう」
「わ。俺、汗くさくないか?」
慌てるカインを気にせず、小さな体がぎゅっと彼にしがみついて、頭を撫でる。
「「《ノスコムニア》」」
双子の魔法で、カインは洗いたてのようにホカホカにされた。そしてそのままオーエンの隣に寝かしつけられる。
「お、おい」
「隣にいてやってはくれぬか?」
カイン自身への気遣いならば、彼は大丈夫だと言っただろう。だから双子は若い魔法使いに頼むのだ。
「うなされておったのはそなただけではない」
ホワイトが告げた言葉に、カインはそのまま大人しくオーエンの横に収まる。
「オーエンも、一人でも大丈夫だと言うじゃろう。しかし、それは孤独しか知らぬ者の言葉じゃ」
「昔の傷に触れられて、オーエンの心もその時の痛みを思い出しておる」
「たまには、傍に誰かがいても良かろう。凍りついたその心を溶かしてやっておくれ」
すこし触れたぐらいでは、なんの意味も成さないかもしれないけれど。双子の子供の手が、眠るオーエンとカインの頭を撫でていく。
カインはその優しい手と声に促されるまま、ゆっくりと眠りに落ちていった。
次に見る夢は、きっと優しいものであるようにと願いながら。
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