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河童の皿箱
2025-04-02 09:56:44
34188文字
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遊戯王:長め
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幸せを探しに
ワゴンとフゥリが密会する話
捏造設定多数
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今日も今日とて、雅楽師は2人分の弁当と楽器を下げて、長鳴鷄の像の前へとやってくる。少女はそこでポツリと待って、姿が見えれば笑って迎える。今日の調子や振り返りを話しながら弁当を開いてみれば、魚の揚げ物がでんと横たわり、その脇をくつくつ煮込まれた春の先ぶれが彩る。ヒヤリと冷めて締まった米には黒胡麻がちらっとかかっていて、そうか、胡麻塩かと、相変わらずの空きっ腹がグゥと鳴った。
「いただきます」、「いただきます」。割り箸をパチンと割って、カラッと揚がった魚にかぶりつく。ザクザクとした衣を破れば、香草の香りがふわっと広がって、あぁ、やっぱり、美味しい。「美味しいです」、と呟けば、隣で同じものを味わう男もまた、「美味しいな」、と。
同じものを一緒に食べて、同じ味に喜びを感じて、分かち合って。菓子の頃と違って選ぶ楽しさは無くなってしまったけれど、しっかりとご飯を食べれることの、隣に一緒にいてくれることの、なんと満たされることか。彼はわたしをまっすぐに見て、「お弁当がついているよ」、と頬を指さした。つられて自分の頬に触ってみれば、米粒の塊がついていた。指で掬い上げて、パクッと食べては、行儀が悪かっただろうかと後になって思った。けれど、隣の彼は穏やかに笑っては、また一口。
すっかり腹に収めてしまって、腹の虫がおとなしくなれば、男は空になった箱を包み直した。なにからなにまで、世話になり続けてしまったなと、少女は苦く笑った。
……
もうすぐ、春が来る。オオヒメ様を召喚する日が、妖狐の悲願を果たす日が
……
そして、この身を明け渡す日が。
両親は、一族は喜んでくれるだろう。わたしはそのために生まれ、生きてきたのだから。他の御巫は悔しがるだろう。皆よりもひとつ下のわたしが選ばれて
……
いや、選ばれる、というのも違うか。わたしは酷いズルをする。しなくてはならない。やらなくては、わたしが居た証にならないのだから。
でも。でも、せめて。
大振袖に腕を通して、舞の準備を整える。舞台に立ち、神の使いの如き姿の雅楽師を見下ろせば、彼は琴を手にまた微笑んだ。
彼だけは、悲しんでくれるだろうか。
なんて酷い願いだろう。それでも、『わたし』という存在を、彼だけは覚えていてくれるのではないか。妖狐の依代ではなく、御珠の筆頭御巫でもなく、ただの『わたし』を。
少女は旋律に乗せて足を踏み出す。この舞だけが、わたしが彼に与えられるすべて。だから、目一杯に。
体に力が入る。体の軋みが治る。まるで、鎖から解き放たれたかのようだ。頭にかかっていた霧が晴れて、冴え渡る。心は真っ直ぐに、彼のもとへ。
小さな自由と幸福を与えてくれた彼に、この舞を捧ぐ。
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