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河童の皿箱
2025-04-02 09:56:44
34188文字
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遊戯王:長め
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幸せを探しに
ワゴンとフゥリが密会する話
捏造設定多数
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かつて。少女には、血を分け合った兄がいた。年の離れた兄であった。こちらをみおろす背の大きな兄。縁側で座っているところへ、背中から飛びつくのが好きだった。幼き少女に手を差し伸べて、共に外に出て遊んで、歌って、踊って。時折、お菓子を食べに行った。もちろん、少女は御巫の見習いとしての立場はあったが、よく遊んでもらったものだ。あの頃はまだ、家族もここまで厳しくはなかったのだし。
夕餉の席に座って、茶碗に半分だけ盛られた白飯を見る。対する両親の、しめたばかりの若鳥の丸焼きや、でっぷりとした魚の煮つけ
――
豪勢な食事と酒を見る。「もうすぐよ、フゥリ」。「あぁ、もう直ぐだ。オオヒメ様に選ばれる日は」。「本当はみんなで食べたかったけれど、あなたが買い食い癖を直さないから」。「全く、困った子だ」。
わたしたちは、いつからこうなってしまったのだろう。誤った家族だといいたいわけではない。けれど、外に出て、他の家族を知るたびに、皆はやらぬ大変なことを、自分たちは全部やっていることを知ってしまった。箸を持ち、わずかな食事をかみしめながら、思い返す。
昔々。御巫達が皆行う、霊獣おろしの儀式の前日。明日、自分にはどんな霊獣が宿るのだろうと、胸が躍って眠れなかった、とっぷりとした夜。兄と両親が怒鳴りあっている声を聴いた。「あの子にこの名を与えたのは、全部このためだったのか!」。兄は憤っていた。「あの子は、決して妖狐の贄じゃない!」、と。思わず布団から飛び起きて、居間の襖の隙間から、覗き込んでいた。その時はただ、怒り狂う兄が恐ろしかった。けれど、今思えば、両親のほうがずっと恐ろしいことを言っていた。
「貴様、なんだその口は。フゥリがまだ腹にいたころから、妖狐様と契っていたのだぞ。妖狐様は、御巫の見習いをひとり望んでいらっしゃる。その御巫を立派に育て上げれば、必ずや繁栄をもたらそうぞと」。「だからって、あの子の一生すら差し出す必要まではないだろう!」。「お黙りなさいな。そんなことを言うのなら、あなたが女として産まれて来ていたのならよかったのよ。あなたが女だったなら、もっと早くに我が一族は約束を果たしていたというのに」。
必死に隠れていたけれど、飛び出してきた兄に見つかった。兄はわたしの腕をつかんだ。「フゥリ、一緒にいこう。ここに居ては」。その言葉をさえぎって、父は兄を抑え込んだ。「お前はこの家には不要だ。出ていけ」、と。母はわたしを抱きしめた。「あら、怖かったわね。もう大丈夫よ」、と。訳も分からずにいれば、母は問いかけた。「フゥリ。あなたは私たちを困らせたりしないわよね?」。幼いわたしは頷いて、母は笑った。「そう。あなたはとってもいい子ね、フゥリ」、と。
両親はその日から、厳しくなった。私物という私物は処理され、兄との思い出の品も皆、穢れとして焼却された。残ったのは、御巫として必要な物だけ。
兄が居なくなって、霊獣を宿したあの日、とても、とても大きな力が、わたしの中で渦を巻いていた。渦は言った。『お前がフゥリか』、と。『待ちわびたぞ』、と。透ける耳と尻尾を得て、振り向けば、涙を流して歓喜する両親の姿。けれど、わたしはその時、自分の名前の意味を、産まれてきた理由を知った。
わたしの名前はフゥリ。漢字に直せば、狐狸。狐のための子、この名は目印。
わたしはフゥリ。妖狐に捧げられる生贄。オオヒメ様を呼び出すための、餌。
空の茶碗を覗く。正面の宴を見る。認めたくなんてなかったが、これが、わたしの生きる世界のすべて。
箸をおく。この世界は、もうすぐ終わる。
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