河童の皿箱
2025-04-02 09:56:44
34188文字
Public 遊戯王:長め
 

幸せを探しに

ワゴンとフゥリが密会する話
捏造設定多数



  夜が明けた。いや、明けたといういい方は相応しくない。雅楽師は傘を差し、暗闇の中でホログラムの提灯を掲げ、仲間と共にこの里で最も立派な建築物へと赴いていた。端末で時間を確認すれば、正午。空には雲一つない。そして、太陽もない。
 ざあざあと降り続ける雨から逃れ、建物にぞろぞろと上がれば、そこは3つの里の長たちが顔をつき合わせる集会所である。赤き剣のもとには、御剣の。青き鏡のもとには、御鏡の。そして緑の珠のもとには御珠のといいたいところであったが、緑の席には誰もおらず、この場で彼らを待っていたのは、御剣と御鏡の長たちである。
 集まった理由はほかでもない。昇らぬ太陽と、止まぬ雨だ。一行が高座の前に跪き、「ただいまはせ参じました」と絵師が頭を下げれば、娘を連れた長たちもまた頭を下げた。

 現状を確認する。まずは昨晩の話だ。絵師と黒衣が宴の余興に赴き、絵師が酔いつぶれた者たちを介抱しては家に帰してそのようなことをしている間に、夜明けの時刻を迎えていた。長たちと絵師はその時共にいたのだが、いつまで経っても今に至るまでも、日が昇ることはなかった。長たちはすぐに、太陽の化身たるオオヒメそして神の宿りし肉体の在り方を探したが、どこにも見当たらなかった。そして四ツ時を過ぎる頃、御珠の里の方向から、気味の悪い妖気が噴出しはじめた。
 雨脚は昨日に現人神がもたらしたしとしととした雨ではなく、ざあざあと、徐々に強まりを見せている。里の者たちは植え付け直前の種苗たちを田畑から避難させており、こちらは御剣の長の夫と息子たちが指揮を執っている。その一方で、御鏡の長の夫は自ら水門の制御に赴き、氾濫を起こさぬようにと細心の注意を払っている。妖気祓いはそれぞれの里の術師たちが向かったが、御珠の里は全くの音信不通。そしてこの集会所にも、姿を現していない。

 絵師たちは頷く。絵師が自らの端末からホログラムを発生させれば、集会所内にこの里山全体が立体的に投影される。水門の位置を黒衣を纏う人形師がマーキングすれば、各地の映像と水位の変遷、氾濫の危険性そして、各地で奮闘する人々の映像と音声を追加で接続した。
 御鏡は外の技術への興味も強い。故に、高い技術力を持つ人形師へと、水門の改良を依頼していた。人形師曰く、水位を感知しての水門自動操作や氾濫の危険性の演算等、依頼された機能自体は実装済みだが、試運転はできていないとのこと。全て人の手で、とまではいかないが、完全に信頼できるシステムではないようだ。だが、現地の御鏡の夫が「現状問題ない」と、「今の雨量のままなら、まだ排水が間に合う。だが、これ以上強くなれば厳しいだろう」と告げた。続いて御剣の夫が「種苗これで全部だ」と、「これから、人の避難を始めるぞ」と。ひとまずは、といったところか。長たちは肩に入っていた力をふぅと抜き、里の外からやってきた集団へと向き直る。

 ともなれば、急ぎ解決しなければならないのは、里に充満し始めた妖気と、消えた太陽だ。原因は皆、理解していた。御珠が呼び起こした現人神だろう。この雨も、あの現人神がもたらしたものだ。だが、いくら恵みの雨といえども、太陽が消え去ってしまえば実りはやってこない。このままでは、この大地は水に押し流されるか、土砂に埋もれるか、腐敗していくだけだ。太陽を空へと返さねば。
 長らが目的を共有すると、絵師が発言した。「私どもの能楽師、セアミンの直感でございますが、大岩が、と」。長たちは顔を見合わせ、より詳しい話を求めた。「あの九尾の狐は大岩に化け、オオヒメ様を隠した。隠れたのではなく、隠されたのだと」。続けて、目元の腫れが多少ましになった能楽師が、恭しく頭を下げる。「階段の先、3つの里の交わる場所修練場。あの場所に居る。在る」、と。人形師が暗視カメラで撮影している、修練場の映像をさらに投影する。そして、絵師が引き継ぐ。「スパイダーが捜索に当たり、セアミンの云う大岩が実在すると確認いたしました。修練場に出入りしていたワゴン曰く、この場所に岩などなかったと申しております」。長たちの隣に座る娘たちが、それぞれに声を上げた。「確かに、ここにこんな大岩はなかったよね、ニニ。ここにあったのは、長鳴鶏の像だもの」、「お母さん、私ね。昨日の晩、ここに忘れ物を取りに行ったの。ハレの云う通り、大岩なんてなかったわ」、と。
 長たちは人形師の持つ通信機へ、そしてその先に居る術師へ、修練場の大岩を調査せよと語りかけた。しばらくすれば、妖力の元凶なのか……能楽師の直感通り、狐が化けた岩なのかが、わかるはずだ。

 調査結果を待つ間、長たちはオオヒメ降臨の儀式をもう一度行うべきかと検討を開始した。けれど、御剣の長はあまり良い顔をしなかった。オオヒメはもう天上の国にはおらず、こちらの世界へと降りてきているのだから、天上に呼びかけるのは相応しくないだろう、と。代わりに彼女は、岩戸神楽を準備するべきではないか、と。だが、いずれにせよ、ひとつ大きな問題があった。それは、昨晩の宴で里で抱えている楽師たちのほとんどが酒に酔いつぶれたままである、ということ。
 昨晩の酒は特別うまい酒であった。確かに、今年の出来は過去最高のものであった。里長達はそれを認める。だが今になって振り返れば、神の御前であるというのに、構うことなく酒を浴びるほど飲み続けた。後片付けに絵師の逞しい腕を借りなければならないほど、楽師たちは、そして酒に口をつけた者たちは激しく酩酊し、そして今も目覚めていない。
 御鏡の長は考え込む。旅人たちのいうことが確かならば、岩戸神楽は有効だろう。だが、狐が岩であるというのなら、狐退治も同時にしなくてはならない。ましてや、九尾の、である。おいそれと容易くは退治されてくれないだろう。

 けれど、これこそ、里の外の発想が必要だろう。長たちは頷き、旅人たちへと再び頭を下げた。「狐を退治、あるいは退散させるためそして、神楽のため。どうか、お力をお貸しください」。
 集団の長たる浮世絵師はにぃっと笑った。「拝命いたしました。どうか、お任せくださいませ」、と。