河童の皿箱
2025-04-02 09:56:44
34188文字
Public 遊戯王:長め
 

幸せを探しに

ワゴンとフゥリが密会する話
捏造設定多数



 それから、2回ほど空が廻った頃。里を回っていた男衆たちが河川に異常なしと伝え、女衆が田畑に異常なしと伝え、子らが種苗に異常なしと伝えた。最後に、眠りについていた楽師たちがハッと目を覚まし、何の犠牲もなく終わったと確信でき、長らはほっと胸を撫で下ろした。これにて、一件落着、と。
 けれど、長らの仕事は山積みであった。御珠の長はこの事態をどう受け止めているのか。御珠の里は、未だに連絡が取れない。一体、どうなっているのか。あそことの境界は民によって封じられているが、赴かないわけにはいかないだろう。それに、卑怯な手段によって降ろされた太陽の神は、如何にしてもてなすべきか。御本神は、楽し気に里をあちこち見まわっては、あれは何ですか、これは何ですか、と聞いているが……里の者たちの心臓が持ちそうにない。
 最後に……。長らは集会所に設けられた高座の上から、蹲って平伏し、震える御珠の少女を見下ろした。狐の贄として差し出された少女、フゥリ。この場にて、ことの経緯を話し、そしていつしか耐えられなくなり、こうして動かなくなってしまった。娘たちがいなくてよかった。友の、このような姿を、きっと娘たちはみたかったわけではないと思うし、それにこの子も。……しかし此度の騒動の首謀者と決めつけるには、あまりに意思がない。そして、我々は御珠ではなく、御剣と御鏡の者。とはいえ、事は事。何の処分も下さぬわけにはいかぬ。さて、どうしたものか。

 ガチャン。ギギィ。入口の扉が重々しい音を立てて開けば、その音に反して、足取り軽い絵師の男が、雅楽師の男を引き連れてやってきた。「おうおう。ハレとニニの母ちゃんよぉ。かたっ苦しい話をしてんじゃあねぇか」、と。不敵な笑みを浮かべた不遜な男は、長の前とは思えぬ態度のまま、平伏する少女の腕をぐいと強引に引き上げては立ち上がらせ、後ろの雅楽師へとほいとパスをした。呆気にとられ、ポカンとするも、絵師が連れてきた雅楽師も、雅楽師の腕の中にいる御珠の少女もまた、長らと同じく間抜け面をさらしていた。
 「おらおら、さっさといけワゴン。こーいうときは、リーダー様に任せとけってンだ」。なんて、ぐいぐいとふたりの背を押しては、集会所の外へと追い出し、またガチャン、と。残された3人の長。改めて相対し、けれど、高座のふたりは苦笑をこぼした。

 「何を、と言いたいところだが君のことだ。粗方の事情はもう察しているんだろう」。御剣の長が扇子で口元を隠して笑えば、目をさらした青髪の男はケラケラ笑う。「あんたさんだって、あの子をどうこうしたいわけじゃないんだろ?」と。御鏡の長がくすり、と笑えば、「ええ。ですから……ありがとうございます。助け舟を出していただいて」、と。
 男は続ける。「里ン中、伊達にうろちょろしてるわけじゃねぇ。今回のことで、もともと悪かった御珠への心証を、さらに悪くした民だっている。そんな中に、首謀者として立てられる弱い子供がいる。長としてのあんたさんらは、首謀者に処分を下さにゃ民に顔向けできねぇ。けど、なんか違うんだろ? なぁ、かーちゃん」。あぁ、やはりか。顔を見合わせたふたりは高座から立ち、男の前へと降りては、「全くその通りだよ」、と。
 「此度の事件、あの子にはここまでの事態を引き起こそうとする意思がありませんでした。心からの謝罪と、後悔とを聞けば……あの子はまだ、子供です。いえ、子供過ぎて。あの子はただ、親の言うことを真剣に聞いて、叶えようとしていただけ。……私たちも、肝に銘じねばなりません。子は、ほとんど親に逆らえないのだ、と」。御鏡の長が苦い顔で零せば、御剣の長もまた、頷く。「あぁ。……それにな、私たちも、あの子のことは娘から聞いてるんだ。その親から暴力みたいなの受けてそうとか、さ。実際に現場を目撃したわけじゃないんだけど……態度を見ればわかるよ。あの子を、可哀そうっていうのは簡単だ。でも、私たちがするべきはそれじゃない。……けど、私たちではどうしようもない。自分の家族のことなら、どうにでもできるけど……他の親子のことだから、さ」。
 腕を組み、うんうんと頷く絵師の男。しかし、ふっと不敵に笑みをこぼせば、口元にそっと手を添えては囁いた。

 「それを、ぜーんぶまとめて解決する、都合のいい方法があるって言ったら?」