河童の皿箱
2025-04-02 09:56:44
34188文字
Public 遊戯王:長め
 

幸せを探しに

ワゴンとフゥリが密会する話
捏造設定多数



 ふ、と。琵琶の音色と共に踊る足が止まって、動かなくなる。どうにも体から力が抜けてしまって、踊り続けられそうになかった。何事かと演奏の手を止めた男が立ち上がり、舞をやめた少女の側まで寄れば、「どうかしたのか」、と。
 少女の意思は、舞い続けたいと叫んでいた。舞うことができなければ、彼はきっとどこかにいてしまうだろう、と。危惧に焦るも、身体が動かなければ、どうしようもない。少女には、なぜ自分の体が突然動かなくなってしまったのか、とんと見当がつかなかった。
 男は少女へと、穏やかに笑いかけた。「もしかして、腹が減ったか?」と。少女は首を横に振るが、その意思に反し、少女の腹はぐうと返事をする。男はそれにふふふと笑みをこぼし、「私も今日は忙しくて、昼を食べ損ねてしまった。どうにも、腹が減ってしまってな」、と。
 「わ、わたしはお昼、食べました」。衣装がさらけ出し、鳴り続ける腹を抑えながら、少女は述べる。いくらおべっかを並べられる少女の口といえど、おにぎりひとつでは足りぬ足りぬと喚く腹の口ばかりはどうしようもなく。男はそっとしゃがんで、視線を合わせた。「いや。君がたくさん舞の練習をしているのは知っている。動けば動くほど、体は食べ物を欲するものだ。ふむ」。そこまで言うと、男はすいと立ち上がり、少女に手を差し伸べた。「今日はここまでにして、何か食べに行こうか。どうか、私の我儘に付き合ってくれ」、と。

 御鏡の領域にある小さな茶屋にて、少女は葛藤を続けていた。腹が減っただろう、といわれたときから、腹と背がくっついてしまいそうだった。食べたい、食べたいけれど、食べてしまうと……
 父と母の顔がよぎる。近頃、体重が増えているわよ。どこかで買い食いしているでしょう、と。……そんなことはない。毎日、誰よりも早く修練場に来て、誰よりも長く舞の練習をし、誰よりも遅くに家に帰っている。そんな中で、買い食いなんてしたことない。けれど、こういう思いも持っていた。やってもいないことをやったこととされることとされるのであれば、自らがいくらそれを避けようとも、言いつけを守ろうとも無意味なのではないか、と。

 父の、母の言うことは、全て正しい。それは、オオヒメ様に選ばれるために、自分を磨き上げるためにやらなければならないことだった。でも、でも。

 そうしている間に、茶屋の女将が茶と、たっぷりと蜜がかかったみたらし団子を、ふたつ持ってきた。隣の男はふっと顔を緩め、丸い丸い先っぽにかじりつく。唇についたとろっとした蜜をなめ取り、満足気にほほ笑んでは、茶を一口。
 おずおずと、手が団子の串を握る。夕日の色も吸い込んだ蜜は金色に輝き、良い焼き目のついた団子を豪奢に着飾っては、口へ運べ、口へ運べと待ちわびているかのようだった。そして、腹もまた一層の声を上げていた。

 ……一口だけなら。

 堪らず、少女は小さく口を開いて、かぷり、と。口の中に広がるねっとりとした甘み、弾力のある団子の焦げがまた香ばしい。もちもちと、口の中で咀嚼すればするほど、その美味を隅から隅まで味わう。ごくんとひとつ呑み込めば、自然と口は、団子に再び齧りついていた。