河童の皿箱
2025-04-02 09:56:44
34188文字
Public 遊戯王:長め
 

幸せを探しに

ワゴンとフゥリが密会する話
捏造設定多数



 集会所脇に設けられた腰掛け、ちょこんと座った太陽神の前に、男と少女は立っていた。ぶうとむくれる太陽神は、ふたりも同じく腰掛に座らせたかったが、流石にそれはできないと、ふたりがあまりにも拒否を示すためにとうとう諦め、そして今に至る。とはいえ、立つふたりも、何故自分たちを探していたのか……心当たりはあるような、ないような。首をかしげている間に、神は柔らかく微笑んでは、すっと背筋を伸ばし、口を開いた。
 「さて、と。まずは、旅する楽師の殿方。此度の妖狐の鎮圧は、貴方様の尽力が不可欠でございました。この里を見守る神として皆々を代表し、感謝申し上げます」。深々と頭を下げた神の姿に、雅楽師もまた、頭を地につけるほどに下げた。「恐悦至極でございます」、と。少女はそんな隣の様子を見て、はて、先ほどの焦った様子はどこへやら。見慣れたいつもの、どこか神々しくもある態度。神の御前ともなれば、大袈裟なほど大きな鬘も相まって、やはり御遣いのようだ。
 「どうか、御顔を上げて。かしこまらないでくださいな。わたくし、おふたりのこともずうっと見ていたのですよ。遅くまで舞の練習をしていたことも、貴方様が、この子に付き合っていたことも。なにより、貴方様の冠がとっても可愛らしくって!」。喜色満面の太陽神。陽光を背負っているのではと錯覚してしまうほどに、愛らしい笑顔で。雅楽師は凛と相対するも、「いつか、もふもふさせてくださいね?」と笑む顔に、どこか気恥ずかしさがぬぐい切れず、ふ、と緩む口元を、隣の少女は見逃さなかった。

 「お次はフゥリ。貴方はこれから、どうしたいのですか?」。先ほどまでの笑顔はふっと掻き消え、じっと見つめる神の目に、少女は身をグッと固めた。「……あらゆる罰を受ける覚悟はできております。……この方々に助けていただいたとはいえ、わたしは自らの手足を無責任にも手放して、里を、故郷を……」。少女の喉が詰まり、言葉が止まる。そんな様子を見た太陽は、すっと腰を浮かせては、少女の前に屈みこみ、その頬に手を当てた。
 「貴方の身に宿りし妖狐は、あい難き法を受け、物言わぬ石へと変じました。その結果を見れば、多くにとってそれは最善の選択でした。ですが己でもわかっているでしょう? 新たなる霊獣を宿す齢も、過ぎてしまいました。貴方はもう、御巫ではないのです」。神の宣告に、少女はがっくりと肩を落とす。「えぇ、わかっては、居るのです。でも、わたしも、まだ、その……」。少女が目をそらせば、神はフフフ、と微笑んだ。「あの出来事から、まだ3日も経っていないのです。気持ちの整理、というものも、ついていないでしょう? ですが、貴方は自らの犯した罪を認めました。後は、降りかかる罰を重く受け止め、真剣に全うすること。守り神として望むのは、ただそれだけです」。

 それは、慈悲なのか、罰なのか。要は、人の判断に任せる、と。直接罰してもらえる方が、ちゃんと罰になるというのに。少女はなお、喉の奥からこみ上げる熱をなんとか飲み込み、「はい」、とだけ返す。隣の男は、少女に手を伸ばし、けれど途中で止め、眼前の神へと向き直った。
 「楽師の殿方。この子に如何様な罰が下ろうが、どうか、遮らないでくださいませ」。神の微笑みに、男は頷きのみを返す。「よろしい。さあ、これでわたくしのお話はおしまいです。お待たせしました。どうぞ、こちらへ」。

 ふたりの背後に視線を投げた神。ハッとしてふたりが振り返れば、そこにいたのは青き髪の浮世絵師であった。「お前、いつ」。雅楽師が反射的に問いかければ、浮世絵師は答える。「お前が褒められてたあたりから」、と。額を抑える雅楽師をよそに、浮世絵師は少女へと、赤と青の里長からの言伝を送る。
 明日の正午には罰を伝えるそうだ。今日は休め。