河童の皿箱
2025-04-02 09:56:44
34188文字
Public 遊戯王:長め
 

幸せを探しに

ワゴンとフゥリが密会する話
捏造設定多数



高天の原皆暗く、天の下ことごとに暗し

 長らの娘ら。赤と青の装束を纏いて、すいと構える。己たちが修練を重ねてきた神聖な場に、禍々しき岩がでんと横たわっていた。
 人形師がその身ほどの機械人形をぐいと動かしては、巨大な音響装置へと変身させた。低く、低く唸るような電子音と共に、湧き上がるかのような光の帯が空へ、空へと向かうように、人形の身を這い上がり、徐々にボルテージが上がる旋律が鼓動を鷲掴む。

神集ひに集ひてあれば、汝命深く遠く思ひ謀りて、しかじかせよと仰せ給はば、各々その業にいそしみ仕へまつらん

 その足元に、数々の楽器を率いた雅楽師が立つ。ざあと降りしきる雨の中、はたと光り輝く書をしゅるり紐解けば、遥か過去から受け継がれ続けた唄は中空を舞い水辺の蛍のような煌めきに、里中から集められた観衆たちが感嘆の声を上げた。

日の御形の鏡を作らしめ太刀、斧、またさなぎを作らしめ八尺の曲玉の五百箇の御統の玉を作らしめ

 神々に扮した少女らを、まるで式神のような小さな筆たちが宙を舞い、ぐるり取り囲む。筆の群れは神々のもとへ美しき剣を、鏡を、そして珠を描き出し、献上する。神々は恭しくそれを受け取り、掲げ、そして己たちの懐からも、剣と帯を取り出しては、また楽師の声に声を重ねた。

急ぎ候ほどに天の岩戸の御前に参る来て候へば、この處に燎火を焚き上げ、常夜の長鳴鳥を集へて時を作らしめ

 謡い奏でるは、岩屋の奥へと御隠れになった太陽の神への贈り物。雅楽師はその煌々とした翼を広げ、のびやかに、高らかに、祝詞を謡い――そして、弾ける。

神遊び、仕へまつらん」

 ドォン、と響き渡る爆音と共に、楽師の演奏はドッと激しさを増し、ザアザア雨音をかき消すほど。その叫びにも似た旋律と共に、神々は華やかに舞い踊る。筆たちはその手先へと追従し、暗闇に光の軌跡を描き続けては、神々の舞を先導する。
 くらり、くらりと頭を、身を震わすほどの快音に、観客たちは圧倒され、そして呑み込まれ。次第に歓声を上げては、楽師の声に重ねて共に謡う。わあ、わあ、と。いつもの静謐な神楽は、粛々と、淡々と進められる儀式は何処やら。どんちゃん騒ぎのちゃんちき音頭を、楽師は謡う。楽師は奏でる。人々は神々の舞姿と共に熱狂し、天井知らずのボルテージをさらに、さらに押し上げていく。
 剣が炎を呼び起こし、岩戸の前に猛々しい炎を灯す。轟々と燃え盛るその周囲を取り囲むように、雨水の帯がギュッと結ばれれば、幾つもの水鏡がその輝きを写し取る。すると、今までうんともすんとも言わなかった岩戸がすぅっと、ひとりでに、ほんのわずかに開いては、遠い遠い空にほんのりと陽が登り始める。
 喉が焼き切れるほどの歌声を、たった1人の楽師は琴の音によって導く。密かに筆を操っていた絵師が大岩に手をかければ、その身よりも遥かに巨大な大岩がずりずりと動いては、その奥に隠れていた太陽が顔を覗かせた。そのあまりの眩さに、人々は歌声を忘れ、感嘆の声をあげたが、けれど楽師は歌い奏で続ける。太陽は、一際大きな水鏡に映った自らの姿を見ようと、白無垢姿のまま、ぱっちりと開いた目で、誘われるかのように岩屋の外へと身を乗り出した。
 さあ、ともなれば面白くないのは岩屋の方であった。広く、遍く降り注がせた妖気の腕が、太陽を追う。けれど、清き炎がそれを拒む。鏡の元へと太陽がたどり着いた時、陽の輝きを受けた剣は、大岩を一太刀で真っ二つに両断した。
 姿を見せたのは、肉体を捨て、渦巻く風と化した妖狐であった。けれど妖狐が術のために口を開こうとしたその瞬間。狐の面をかけた能楽師が、妖狐の直前へとトッと降り立つ。これ好機と見た妖狐は、狐に化けた能楽師の身にすうと入り込み、そして構えては、楽師へと向き合った。楽師は、なおも口ずさむ。

汝もとより殺生石。問う石霊。いずれの所より来たり。今生かくのごとくなる。急急に去れ去れ。自今以後、汝を成仏せしめ。仏体真如の善心となさん。摂取せよ」

 石に精あり。水に音あり。風は、大虚にわたる。

 里の者らの知らぬ詩を、僧に扮した雅楽師は、狐に扮した能楽師は、共に歌う。罠にかかった妖狐の声すらかき消して、古き教えと法を説く。

 やがて五体を、苦しめて。やがて五体を苦しめて。幣帛をおっ取り飛ぶ空の。雪居にかけり海山を、越えてこの野に隠れ住む。

 妖狐はただ、紡がれる言葉に身を委ねるほかなくなっていた。剣の炎、水の鏡、太陽を宿せし珠。相対するは、己がものにし損ねた力。人こそ騙せる狐であれど、神の力までは騙すことなど。ましてや、人の子の身では。

 なお執心は。この野に残って。殺生石となって。人をとること多年なれども、今会いがたきみ法を受けて。この後悪事をいたす事。あるべからずとおん僧に。約束かたき石となって。約束かたき、石となって。

 狐の力から妖しきが抜け、ただの茫然なる石へと姿を変えていく。太陽の微笑みと共に、結びの言葉と共に。とうとう落つることのなかった陽の鳥の美しき翼を、妖狐はただ、呆然と眺めていた。暗き空には煌々と照らす陽が登り、穢れを雨は清め流し、風は狐の怨を攫って行った。

 鬼神の姿は、失せにけり。