河童の皿箱
2025-04-02 09:56:44
34188文字
Public 遊戯王:長め
 

幸せを探しに

ワゴンとフゥリが密会する話
捏造設定多数



 真上に照る太陽。ひとつ屋根の下に集う人々。煌びやかな集会所の、高座に立つふたりの長は、凛とした声を張り上げては、跪く罪人を裁く。その直前に、ふたりは告げた。

 「再三にわたる招集に、御珠の者が現れること終ぞなし。故、此度の判決においては、掟に基づき、御珠はあらゆる権利を手放したと判断する」。

 それを聞いた罪人は、首を垂れる。ようやく、この時が来たのだ、と。

 「御珠の少女、フゥリよ。其方は降臨の儀において、霊獣を妖として用い、舞の奉納を、オオヒメ様の選択を歪めた。これは我らの儀を揺るがす重大な掟破りである。また、其方の招いた事態は、里の存亡にも関わる、極めて甚大な物であった。其方の親は現れず、弁明もなく、親としての責任も放棄している。我らは最早、其方をこの里には置けぬ。故

 追放刑に処す。




 判決の後、皆々が散り散りになった後。少女はふたりの長に手渡された旅道具と共に、ひとり、修練場に足を運んだ。用があるのは、更衣室に置きっぱなしの自分の籠だった。かぱり、と蓋を開けば、そこにあったのは、丁寧に洗濯された自分の舞衣装と小道具そして、底にしまい込んだそれを取り出す。いつぞや、雅楽師にもらった上着だ。春が近づき、あたたかくなってきたこの頃に、この上着はなくても良い。けれど、貴重な、貴重な、自分のもの。追放の刑といえど、ほんの少し、身支度する時間を頂けた。それで、どうしても持っていきたかったのが、この二着であった。
 とはいえ、少女が胸を張って自分のものだといえるのは、この二つしかない。少女は上着に腕を通す。大振袖は隠れないが、腕は十分に隠れる、バッサリとした上着。フードを目深く被れば、顔も見えないだろう。この上着をくれたあの人とのほのかな思い出が胸をあたため、けれど振り払う。
 舞衣装と小道具は風呂敷に包み、旅道具と共に手に収める。さあ、これで旅の準備はできた。行く当てはないけれど、親元に帰らなくて済みそうなのが、唯一の希望であった。どこに行ってもいい、ただ、とにかく里にはもういられない。自分の居場所を、探しに行かなくては、と。

 少女が更衣室を後にしようとしたその瞬間、修練広場の稽古場に、カランと響いた琴の音ひとつ。少女の胸から頭にかけて、熱い熱い何かがカッと駆け巡り、たちまちに駆け出す。一直線に目指すは、いつものあの場所。神の御足許にして、御使いの偶像のもとへと。

 息は絶え絶え、けれど、微睡みの最中、頭を殴りつけるような爆音を聞いてから、胸が高鳴って仕方がなく。長鳴鶏の前に居たその人の姿を認めれば、たまらず少女は叫んだ。「ワゴンさんッ!」。
 呼ばれた男は琴から手を放し、そっと微笑む。少女は止まらぬ勢いのままに、叫んだ。「わたしわたし、ちゃんと罪を償います……だから、だから、それまでそれまで、待っていてくれませんか!」。
 ほんの今朝に、座敷牢とも呼べぬそこから抜け出して、追いかけた背中。隠れて聞き耳を立てれば、自らの生涯に纏わりつく不幸をひた隠してきたつもりだったが、存外、人には知られていたと少女は知った。もう、必死になって隠す意味もなかった。皆、皆、知っていたのだ。
 この修練場で共に学んだ御巫の仲間たちも。良く話しかけてくれた、長の娘たちも。そんな娘たちの母たちも……そして、外からやってきた彼らでさえも。それでもなお、長たちは、逃げ道を必死に作ってくれたのだ、と。

 「わたしは、あなたと一緒に唄い、舞いとっても、とっても楽しかった! あなたと一緒に食べたご飯が、とっても、おいしくて……それが、本当に幸せで、今でもどうにかなりそうなほどで! だから、いつか、いつか! 罪を償ったら! また、一緒に、踊ってくれませんかッ! また一緒に、ご飯を、食べて……食べて、くれませんか……

 少女は胸の叫びを、熱を、あるがままに放った。夜の間に、ずんと重く垂れこめていた思いの雲など何処へやら。卑怯者なのは、もう変わらぬ事実なのだから。それでも、せめて、彼だけには。
 少女はぎゅうと、上着を握った。はたはたと零れ落ちる涙が、言葉尻を濡らす。ついに真正面をむくこともできなくなって、少女は男から視線をそらした。これで、最後だ。

 だが、男は少女に、そっと手を差し伸べた。「私と一緒に来ないか」、と。
 少女は耳を疑った。「今、何て……」。男はふっと微笑む。「ん。猫被るのも、もうやめようかのう。ええか、君はまだ知らないだろうが、わしは欲張りでな。何でも手に入れたくなっちまう性分なんじゃ。君はもう、里のものじゃあなくなったんじゃろう? だから、わしと一緒に来てくれんか」。
 少女はなおも、耳を疑った。突き放され、忌み嫌われるものだとばかり。けれど目の前の男は、こんな罪人を欲しいと言っている。「どうして」。少女が問いかければ、男は笑った。「わしも、君とおんなじじゃ。一緒に唄って、舞い踊って、ご飯を食べて……それがどうしようもなく、楽しかった。こんな毎日が続けばいいのう、と。……どうじゃろうか。わしをもう少し、幸せにしてくれんか?」。

 人を、幸せに、なんて。夢でも見ているのだろうか。それを、まさか、彼に。確かに、里の外にさえ出れば、どこに行ったって良い。下された追放刑は、そういうものだ。けれど、良いのだろうか。それは、罰足りえるのか。でも。

 少女は、目の前の手に、手を伸ばした。汚らしいこの手でも、それでも、彼は。

 ぎゅう、と。握られた手が引き寄せられる。気が付けば、腕の中。

 「共に行こう。君はまだ若い。罪を償いながら、もっといろんなことを学ぼう。君の幸せを、わしらと一緒にこれから探そうじゃあないか」。

 あぁ、本当に……なんて、悪い人。