河童の皿箱
2025-04-02 09:56:44
34188文字
Public 遊戯王:長め
 

幸せを探しに

ワゴンとフゥリが密会する話
捏造設定多数



 揺り籠の様な心地よい微睡みと、包み込まれるような温もりの中。エンジンが止まる音で目を覚ます。「起きたか」、と。見上げればそこには、焦がれ続けるその人がいた。前の座席に座る浮世絵師と、助手席の人形師が振り返り、「よく眠れたか? ほら、着いたぞ」、と笑っては、車を降りる。後ろの座席に座っていたふたりの能楽師が、うきうきと、活き活きとした顔でふたりが降りるのを待っている。少女は雅楽師に手を引かれ、車を降りると、そこには少し大きな家があった。

 「ただいま」、「ただいまー!」。口々に帰宅を知らせるが、少女は首を傾げた。今は全員出払っていたのではないのだろうか。中に人がいないのに、帰宅の知らせなんて、と。大荷物を抱えた絵師と人形師がそそくさと車と玄関を往復している間、能楽師たちはぱたぱたと、風呂の準備をしに行った。
 「フゥリ、今日はゆーっくり休みな。んで、ワゴン。俺とスパイダーでその子の部屋を設えるよ。片付けも色々あるしさ、その子のこと頼んだぜ」。絵師がカメラケースを玄関に置いては、雅楽師もまた頷く。「あぁ。フゥリ、こっちじゃ」。靴を脱いで、また手をつないで。いくつもの襖が並ぶ廊下を歩こうとすれば、少女の目の前には見知らぬ銀髪の少女がぶらんと、逆さにぶら下がっていた。
 「きゃっ!」と声を挙げれば、雅楽師は笑う。「あぁ、ゆき。ただいま」。ふよふよと浮かぶその子に声を掛ければ、「お客さん?」と問いかけられる。雅楽師は答えた。「いいや、今日から一緒に暮らすんじゃ。よろしくしてやってくれんかのう」、と。ジィッと見つめるうさぎの少女。穴が開いてしまうほどに見つめられれば、新入りの少女はけれど、「よ、よろしく」と小さな声で、雅楽師の背に隠れた。「よろしく」、と新入りを認めれば、不可思議な少女はふわりふわりと、梯子を上っていく。その後ろを、白くぼんやりとした、うさぎのような塊が、ふよりふよりと追いかけていった。
 「驚かせるつもりはなかったと思うんじゃが。この家にはよく、人間以外も遊びに来る。あの子はわしらを一等気に入ってくれてのう。幽鬼うさぎと云う。屋根裏に住んでくれてな、留守の番をしてくれているんじゃ。ええ子じゃから、仲良うしてやってくれ」。

 もとから不思議な人たちだとは思っていたけど、改めて、不思議な人たちだと、少女は胸を撫で下ろす。むしろ、だからこそ、わたしを助けられたのかもしれない、何て思ってみたり。
 歩を進めれば、広い部屋に大きな食卓が置かれている部屋に来た。おきっぱなしの人形に、描きかけのスケッチブック。それだけで何故か、あぁ、この部屋ではみんなでグダグダ過ごしてるんだろうな、なんて思ってしまった。「あーすまん、ちょいと片付けようか」。ささっと隅に固めて置いて、改めて食卓につけば、少女はあちこちを見まわした。

 今日から、ここがわたしの家。今日から、お世話になる場所。

 ドキドキするような、ふわふわするような。でも、悪い気分じゃない。……本当に、良かったんだろうか、とは思うけど。
 「なぁに。出てくるときも、お天道様は見ておった。心配せんでええ。ここで罪を償いながら、より自分に磨きをかけようじゃあないか。なぁ」。大きな手が、優しく、優しく髪をすく。それが、舞い上がってしまうほどに嬉しくて。

 「おっ、なんだなんだ」。浮世絵師の声にはっと気が付けば、少女はまた、雅楽師の体にその身を全て預けていた。「あっ、あっその、ええと」。つい弁明の言葉を口にしようとしたが、それよりも早く、浮世絵師はにやりと笑っては、雅楽師のもう片方の腕を取った。「こいつは俺んのだ。そうやすやすとは渡せねぇぜ?」。雅楽師が呆れて「おい」と言うも束の間。顔を真っ赤に染めた少女は反対側の腕にぎゅうぎゅう抱き着き、「ゆ、ゆ譲りませんから!」と叫んだ。そんな様子にケラケラ笑って、「なら実力を示して、俺からこいつを奪い取るんだな。神楽は得意だろ?」、と挑発し続ける。少女はついついむきになって、「な、なら! やりますよ! やってやりますから!」。

 「あー、また娑楽斎が意地悪してる」。じっとりと、能楽師が覗き込んでは、もう片割れもまた、「あらあら」。ふふふと笑った。