ちよど
2024-11-16 13:46:37
37826文字
Public わし様など
 

練習1P 300個記念企画短編化まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。
このたび、読んでくださったみなさまのおかげで300個書けたので記念企画としていくつか短編化しました。
リクエストしてくださった方々ありがとうございました。

ご注意。わし様中心SS。節操なくCP混在しています。


 No.6 生前ビマヨダ 「それは毒よりも、」

■原文■

 宮殿の料理長の首をはねた。そうせざるを得なかった。
 ドゥリーヨダナが死んでまだ一ヶ月。俺の皿にだけ混ぜられた大量の塩は毒では無かったものの叛意があるとみなされたのだ。仕事一筋の老齢の料理長は言い訳ひとつせず首を差し出した。
 だが、問題となったのはその大量の塩の出どころだ。宮殿で使われる食材は毒殺防止のためもあって厳しく管理されている。貴重品の塩は少しでも減っていればすぐに分かるはず。だが、料理長の使った塩は見つからなかった。
 悩む俺に長く勤める下男が証言した。
 昔、厨房にまだ少年だったドゥリーヨダナが来たことがあったらしい。ヤツは制止する侍従を振り切って、あの料理長を見つけ出して言ったそうだ。
「おまえがわし様の食事を作っておる男か!先日わし様が外遊に行った時に何故ついてこなかった!!食事がまずくてやる気が出なかったではないかー!」
 理不尽な叱責に頭を下げた料理長に、ヤツは小さな袋を渡したという。
「今度からは必ずわし様についてくるように。これは料理人には必要なものなのだろう?おまえの好きに使うがいい」
 ヤツが去った後、料理人の手には薄紅色の塩の塊があったと。
 それはヒマラヤでしか採れない最高級の塩で。機嫌がいい時のあいつの目の色によく似ている。


■短編■

 俺の料理より美味いものを作れる料理人は少ないが、この料理長は間違いなくそのひとりだった。
 だからこそ、塩が多くて食べられたものではない料理が出てきた時心底驚いたのだ。
「どうしてこんなことをした?」
 手違いだと言ってくれれば見逃せたのに、ドゥリーヨダナの宮殿ごと貰い受けた料理長は黙って首を垂れた。
 ドゥリーヨダナが死んでまだ一ヶ月。パーンダヴァの政治はまだ安定していない。些細な叛意でも見逃せないのだ。それが、王弟の食事に多量の塩を混ぜた程度の事だとしても。 
 仕事一筋の老齢の料理長は宮殿の勢力争いを身近で見ていた人間だ。その辺りの事情を理解しているはずだというのに言い訳ひとつしない。
「残念だ」
 俺は刃を振り下ろし、料理長の首は簡単に落ちた。ごろりと転がった料理長の口元は何故か微笑んでいるように見え、俺は視線をそらせた。
 しかし、事件はまだ終わってはいない。
 料理長が俺の食事に混ぜた大量の塩の出どころが分からなかったのだ。宮殿で使われる食材は毒殺防止のためもあって厳しく管理されている。貴重品の塩は少しでも減っていればすぐに分かるはず。何度確認させても塩の在庫に不審な点はなかった。
 俺の食事に混ぜられていた塩は市場で手に入れられるようなものではなかった。料理長はバラモンではあったがそれほど裕福ではない。
 そう言えば、と俺は思い出す。
「ドゥリーヨダナは使用人にも褒美をばらまいていたな。あの料理長は宝石か何か換金出来るようなものを下賜されていなかったか?」
 俺の問いに口の軽い下男が連れてこられた。彼は侍従の問いかけにぺらぺらと口を開く。
「はい。神の子であるビーマセーナ様。あの凶兆の子は我らにも褒美を分け与えていましたが。あの料理長は下賜された宝石も布もすぐに目新しい食材に注ぎ込んでしまって何も手元に残しちゃいませんでした。──ああ、でもひとつだけ。いっつも小さな袋に入れて首にかけて持ち歩いていたものが」
 下男は遠くに視線を彷徨わせた。
「──あれは、坊っちゃんがまだ俺達の腰ぐらいの大きさだった頃。止めようとする侍従連中を振り切って厨房に来られたんです。そしてまだ若かったあの料理長そう、料理長になったばかりのあいつを捕まえて言ったんです。
『おまえがわし様の食事を作っておる男か!先日わし様が外遊に行った時に何故ついてこなかった!!食事がまずくてやる気が出なかったではないかー!』
 そんな事を言われても王様が指名してくれなければ俺達は動けません。黙って頭を下げるしかない俺達を見てぼっちゃんもそれに気づいたのでしょう。料理長の名前を聞いてました。そして言ったんです。
『おまえの名前は覚えたぞ。ドゥルーヴ。今度からは必ずわし様についてくるように。これは料理人には必要なものなのだろう?おまえの好きに使うがいい』
 その時、あいつがぼっちゃんから下賜された小さな袋には見たこともないピンクの塊が入っていました。あいつはそれをずっと持っていて
 俺が料理長の首をはねた時。その首には何も掛かっていなかった。
 ピンクの塊。多量に入れられた塩。──料理長がその小さな袋から俺の料理に入れたのは、ヒマラヤでしか取れない最高級の塩だ。
 料理人にとって出来の良い塩は黄金にも値する。それを下賜したドゥリーヨダナが思っていただろうよりもずっと。料理に研究熱心だった料理長がそれを使いたくなかったはずがない。だというのに、あれほど大量に持っていたのは。
 俺は息を吐いた。
 あの塩の色は、機嫌がいい時のドゥリーヨダナの瞳の色によく似ている。

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読んでくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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