ちこと
2024-10-29 20:36:55
56961文字
Public poke小説・SS
 

【2012年発行個人誌】drip,drop,daydream

2012年に発行した個人誌の再掲です。サトシとラティアスで人魚姫パロのようなお話。
完成版のデータが見当たらなかったのですが、ほぼ同じ内容のはずです。
もう何年も前の作品で、つたないところも多くはずかしいのですが、せっかくなので……。





かちゃかちゃと、控えめな食器の音ばかりがポケモンセンターに響く。いやに静かな夕餉の途中、アイリスは食事の手をふと止めた。
「ねえ、デント」
「なんだい?」
「このあいだ言ってたわよね、『不自然なことが多すぎる』って。それっていったいどういうこと?」
自称サイエンスソムリエの意味深な発言から、さらに4日が経つころだった。その発言の意図を追いすがろうとしたものの、アイリスはいまだにその答えを聞けないでいたのだ。
「こないだは、ポケモンたちの世話とかしてたら聞きそびれちゃったけど……デントには、なにか考えがあるの?」
あの日のあとは結局、お昼寝から早々と目覚めてしまったズルッグが、サトシを探していちはやくロビーへと出てきたことで、話の続きは流れてしまった。
そのあとすぐにサトシとピカチュウが見つかれば良かったものの、進捗状況はいまだ芳しくない。だからアイリスは、すこしでも事態が良くなればと、数日前の話についてもっと詳しく聞くことにした。
めんどくさいことに定評のあるあの自称サイエンスソムリエが、なぜ今回に限って、アイリスのシックスセンスを信じるなどと言いだしたのか。
「アイリスは、スカイアローブリッジでのできごとを覚えているかい?」
「なによ、藪から棒に……もちろん覚えてるわよ」
 スカイアローブリッジで出会ったゴチルゼルのことは、いまだ記憶に新しい。そのサイコパワーによって、アイリスたちはゴチルゼルの思い出の世界へと閉じ込められたのだ。
「デントはあのとき、『閉じた世界』って言ってたわよね」
「そう。水上バスで向こう岸に渡ろうとしても、元の岸へと戻ってきてしまう。外に出ていくことのできない、閉じられた世界だった」
「それが、どうかしたの……?」
 まだ本題に入っていない。この状況で、突然思い出話をするということもないだろう。デントはこの話題から、いったいなにを言わんとしているのだろうか。
「あのとき、僕らになにが起きていたのか、あの近くにいたジュンサーさんは気づいていなかったよね」
「ええ、そうね……ジュンサーさんは、ゴチルゼルの世界に入らなかったのよね」
……今回も、そうだとしたら?」
「え?」
 デントの目が鋭く細められる。言葉の意図を測りかねて、アイリスは動揺した。
「おかしいと思わないかい? この周辺の海はもう、すべて捜したと言ってもいい。それなのに、サトシたちはおろか、おじいさんから借りたはずのボートすら、影もかたちもない。不時着できそうな島だってどこにもない。僕らにはなにもわからない。じゃあ、サトシとピカチュウは、いったいどこに行ったというんだろう?」
「ねえデント、それってまさか……
 そのとき、ぱたぱた、とスリッパの音をたてて、ジョーイさんがふたりのもとへと駆けてきた。
「アイリスさん、デントくん、お電話が入ってるわ」
「え?」
 もしかして、とふたりとキバゴは同時に顔を見あわせた。