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ちこと
2024-10-29 20:36:55
56961文字
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poke小説・SS
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【2012年発行個人誌】drip,drop,daydream
2012年に発行した個人誌の再掲です。サトシとラティアスで人魚姫パロのようなお話。
完成版のデータが見当たらなかったのですが、ほぼ同じ内容のはずです。
もう何年も前の作品で、つたないところも多くはずかしいのですが、せっかくなので……。
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「きゅう、きゅうう」
「ははっ、くすぐったいって、ラティアス」
「ぴーか」
寄せては返す波の音に混じって、みっつの元気な声が彼方へと響く。
かんかん照りの太陽の下。きらきらときらめく白い砂浜の上で、サトシとピカチュウ、そして白と赤のポケモンが、仲良さげに戯れていた。
あの日、サトシが呼んだ名前は、やはりそのポケモンを指すものだったらしい。サトシに名を呼ばれた影
――
ラティアスは、ためらいがちにサトシの方を振り向いたあと、ぐんっとサトシのもとに降りてきた。まるで、サトシに応えるのをいままで我慢していたかのように。
倒れたままのサトシにラティアスはそっと擦り寄った。
「
……
ラティアス?」
サトシがおずおずと、もういちど名前を呼ぶと、彼女は「きゅうん!」とうれしげに応えたのだ。
それからふたりが仲良くなるのはすぐだった。
サトシは毎日砂浜に遊びに来たし、ラティアスはサトシがやってくるころに砂浜へと降りてくる。ラティアスはとてもひとなつっこくて、すりすりと頬を頬に寄せるのが好きなようだった。もとよりポケモンが大好きなサトシはもちろん悪い気はしなくて、そんなラティアスの頭をよしよしと撫でてやる。そうするとラティアスはさらに喜んで、「きゅう、きゅう」とかわいらしい声をあげながらくるくると回った。その空中旋回にピカチュウが駆けよれば、ラティアスはその背をすっと差し出す。
「ぴっかちゅう!」
ラティアスの背に乗って、ささやかでさわやかな空の旅。そんなことをやってくれる日も多い。新しくできた友だちに、ピカチュウもご機嫌だった。
この島に辿り着いてから、二週間目の日々のことだ。ラティアスと会うようになってから、サトシは毎日、朝が来るのが楽しみになっていた。
それまでの日々は、足の怪我のせいでいろいろと退屈だった、というのももちろんあるだろう。それに、珍しいポケモンと友だちになれた、という好奇心も。
だけどどうやら、それだけではなかった。
毎朝ラティアスの顔を見ると、はやくそばに寄って、頭を撫でてやりたくなった。それをすると、ラティアスが喜んでくれるのだと、とてもうれしそうに、笑顔になってくれるのだと、もうわかっていたからだ。
ラティアスの笑顔を見るたびに、サトシのこころはあたたかくなった。
ラティアスが笑ってくれると、サトシはとても、うれしかった。
ある日の夜のこと。サトシはベッドに腰かけて、右脚の患部にそっと手をあてがっていた。痛みが完全に消えたわけではないものの、初日とは比べ物にならないほどに楽になっている。
おそるおそる、右足のかかとを床につける。ピカチュウが見守る中で、そのまま、ゆっくりと、右の足に体重をかけてみた。
途端に、刺すような痛みがはしる。
「いっ
……
!」
「ぴかぴ!?」
「だ、だいじょうぶ、だいじょーぶ」
すこし荒くなった息を整えながら、サトシはこわばった肩のちからを抜く。
「はあ、まだダメかぁ
……
」
怪我の痛みはやわらいだものの、完全に歩けるようになるまでにはまだ時間がかかりそうだ。サトシはため息をついた。
そこに、コンコン、と音が鳴って、小屋のドアがノックされる。ドアが開いて、そこに現れるのは、もちろんあの少女だ。
「あれ? どうかしたのか?」
毎日小屋に来てくれるものの、彼女が夜にここを訪れたことはなかった。きょうの分の包帯替えも、すでに済んでいるはずだ。
サトシたちがすこしふしぎそうにしているところに、少女はすいと駆け寄ると、ベッドに腰かけたサトシの足元にひょこんとしゃがみこんだ。
「?」
首をかしげるサトシにはかまわず、包帯が巻かれた左脚に、その白く細い右手を伸ばす。ひとさし指が、つ、と包帯の上をなぞった。
「わ、くすぐったいって」
うっすらと脚を伝う感覚に、サトシはふるふると肩を震わせて笑う。その姿を見て、少女はなにも言わず、にこりと笑った。そして今度は、すくっと立ち上がる。
少女の目線が、サトシのそれよりも高くなる。白いスカートのしわを直してから、少女はサトシに手をさしのべた。
「え
……
おれ?」
きょとんと自らを指差すサトシを見ながら、その状況でほかに誰がいるのだと、かたわらでピカチュウはこっそり嘆息した。
少女は目を細めると、右手でサトシの左の手をとる。くい、とその手を引っ張りながら、今度は左手でサトシの右手を握った。
少女に促されるようにして、サトシはゆっくりと立ち上がる。
「お、おお
……
」
さっきの痛みを思い出し、無意識のうちに、左足のみでバランスをとろうとした。すると少女はサトシと目を合わせ、その首をゆっくりと横に振る。そうして、視線でもって、サトシの右脚を示した。
その意図を、サトシは最初量りかねた。けれど、両手の指先が暖かさでじんじんとする。少女の方に、目を向ける。少女は、サトシの手を握る両手に軽くちからをこめると、もう一度目を細めてやわらかく笑った。
ふいに、サトシの中で、疑問が的を得てすとんと落ちた。ごくり、と喉をならす。少女は、こくりとうなずく。
サトシはゆっくりと、右足に体重を乗せていった。
「
……
っ!」
がたん、とバランスを崩し、サトシのからだが前のめりに倒れかかる。少女はあわてることなく、痛みに震えるサトシのその肩を、ちいさな両手でしっかりとつかみ、支えた。サトシの両手が少女の肩に触れる。サトシの黒髪と、少女の赤茶の髪が、一瞬だけ交わった。
少女に体重を預けてもたれかかり、呼吸を整えながら、サトシは初めて、自分と彼女の背丈がそう変わらないことに気づいた。
「ありがとう
……
」
額に浮かんだ汗をぬぐいながら、サトシは少女の目をまっすぐに見た。きれいな栗色だった。
「明日も、
……
手伝ってくれるか?」
少女はもう一度、ふわりと、花が咲くように笑った。
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