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ちこと
2024-10-29 20:36:55
56961文字
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poke小説・SS
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【2012年発行個人誌】drip,drop,daydream
2012年に発行した個人誌の再掲です。サトシとラティアスで人魚姫パロのようなお話。
完成版のデータが見当たらなかったのですが、ほぼ同じ内容のはずです。
もう何年も前の作品で、つたないところも多くはずかしいのですが、せっかくなので……。
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ラティアスは泣き続けていた。ただひたすらに、「かなしい」と思った。
なにがかなしいのかすら、もうよくわからない。自分はもう、全身が涙にとけて、泡になって消えてしまうのだ。ラティアスは、そう思っていた。
そのとき、まぶたの裏に、色鮮やかな光景が浮かぶ。
兄の「青」と「白」。友だちの「茶色」「緑」「白」。アルトマーレの街の「白」と水の「青」。
……
それから、男の子の「赤」と「青」と、「黒」。
ラティアスのこころに、ぼやけていた思い出が、はっきりとしたかたちをとって蘇ってきた。どうしようもなくかなしかった思い出が、どうしてそんなにもかなしかったのか、その理由もいま、はっきりと思い出して。
ラティアスは、よりいっそう泣いた。このまま泣き続けて、消えてしまえば、いっそ楽になれると思った。
からだのひとつひとつが泡になって、ほろほろと月夜にとけていこうとする。
ラティアスがそっと瞳を閉じる。そのとき突然、なぜだか、だれかの声が聞こえた。
《
……
ラティアス!!》
「!」
思わず、目を見開いた。いまの声を、わたしは知っている。
《ラティアス、待ってろよ
……
!》
強い意志をもって、やさしいこころで、語りかけてくれる。ラティアスは、この声を知っている。
ラティアスの瞳から、ほろほろと涙がこぼれる。これは、かなしみの涙なのだろうか?
ラティアスのこころに蘇った思い出は、かなしみだけではなかった。だけどラティアスは、かなしいことしか見ることができなかった。
だけどいまは、見える。楽しかった思い出も、大切で、愛しい思い出も。その中に、あの子もいた。
大好きだと、だいすきだと思ったあの子の、瞳も、笑顔も、声も。やさしい声も、強い決意の声も。
《おれが絶対、助けてやるから。だから、待っててくれ》
いま、あなたは、なにを言っているの?
わたしのために、なにかしてくれているの?
《ラティアス!》
そのこころの声を聴いて、ラティアスの意思は、深いかなしみの奥底から浮上した。
「きゅ
……
!」
ばちっと、ラティアスは目を瞬かせる。クリアになった視界に映るのは、黒く淀んで、激しく荒れ続ける海だ。
そして、自分のからだを見て驚く。ほんとうに、泡になりはじめている。止めようと思っても、もうとまらない。
「ぴかぴか!」
はるか後方から響いた声に振り向くと、黄色のポケモンがこちらを見上げていた。あの子の、ピカチュウだ。白い包帯をぎゅっと握りしめ、強い瞳をしている。
「きゅううん
……
!」
あの子は、あの子はどこにいるの?
「ぴかっちゅう!」
ピカチュウが、そのちいさな手で指差す。その先には、荒れ狂う海がある。
「ぴかぴ、ぴかぴか、ぴぃかちゅう!」
あの子はいま、海の中。
ラティアスのために、大切なものを探している。
あの子は、
――
サトシは、ラティアスのためにいま、闘っている。
「
――
……
!」
視界に光が瞬いた。
わたしは、なにをしているのだろう。あの子がいま、わたしのために、闘ってくれているのに。それにも気付かずに、ただただ泣き暮れて。
ラティアスは、きゅっと口を結んだ。あのかなしい事件から、自分は決めたはずだった。兄の分まで、兄の愛したこの街も、兄の〈こころのしずく〉も護っていくのだと。
それなのに、こころがかなしみに支配されてどうする。
わたしはもう、護られるだけの存在ではいたくないのに!
おおん
……
という大きな声が、空に響き渡る。さっきのような、かなしみの声ではない。ラティアスの意志がこめられた、強い声だ。
その言葉に呼応するようにして、一匹のちいさなポケモンが、ぱたぱたとラティアスのそばに寄ってきた。小鳥のポケモン。マメパトだ。
ラティアスには見覚えがあった。あの日、サトシが助けた子だ。嵐に巻き込まれたときに、一緒になって夢の世界に迷い込んだのかもしれない。
マメパトは、ラティアスの前に現れると、片翼で海のほうを指した。促されるようにそちらを見る。海面に、みずポケモンたちが寄ってきていた。
どうやら、マメパトの知り合いらしい。彼らも嵐に巻き込まれていたのだろうか。ラティアスはすぐさま下降して、みずポケモンたちに語りかけた。
いま、海の中で、わたしの大切な人が頑張ってくれている。だから、彼を見かけたら、どうか手を貸してあげて。
ラティアスに続き、マメパトも彼らに声をかける。心得たと言うようにひと鳴きして、ポケモンたちは海へと潜っていった。タマンタ、チョンチー、マンタイン、ランターン。それぞれが、いまだ激しくうねる海へと向かっていく。
そして自分もと、ラティアスは海へと飛び込んだ。ピカチュウの声が遠くで聴こえる。だけど、もう止められない。
水の流れに沿うように、からだに浮かんだ泡はほろほろと崩れていく。それでも、怖がっていられない。まだからだは残っている。わたしだって、闘える。自分自身がつくりだした海になんて、負けてはいられない。
泡になって崩れゆく手を、それでもしっかりと握る。その中で、ちいさな赤い石がかすかに光った。
激しいうねりに負けじと、ラティアスはスピードをあげる。と、真っ暗な海底に、ぽつりと黄色い光が浮かびあがった。ランターンの光だ。ラティアスに、なにかを知らせようとしている。
どくんと、ラティアスの胸の奥が鳴る。全身にちからをこめて、ラティアスは海の中を駆けた。
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