ちこと
2024-10-29 20:36:55
56961文字
Public poke小説・SS
 

【2012年発行個人誌】drip,drop,daydream

2012年に発行した個人誌の再掲です。サトシとラティアスで人魚姫パロのようなお話。
完成版のデータが見当たらなかったのですが、ほぼ同じ内容のはずです。
もう何年も前の作品で、つたないところも多くはずかしいのですが、せっかくなので……。





 真っ黒だった空は、すっかりと静まり返っている。その色はもう黒ではなく、藍色と、鮮やかな珊瑚色とに染まっていた。もうすぐ、朝が来る。
 穏やかな波間に、みずポケモンたちが浮かんでいた。タマンタたちは、彼らの中でもひときわ大きなマンタインの周りを囲んでいる。頭上では、ぱたぱたとマメパトが旋回する。そのマンタインの上に、男の子が倒れていた。
「きゅう、きゅう……
 その男の子に寄り添うようにして、ラティアスは声をかける。おきて、とうながすように。
 だけど男の子は、動かない。くたり、とからだじゅうからちからが抜けて。その手足をちからなく垂らして。だけど、こころのしずくだけは、けして離さないようにして。
 サトシは、目を覚まさない。

 ラティアスの声が、朝焼けの空に響き渡った。

 まにあわなかったのだろうか。
 また、また自分は、うしなってしまうのか。
 大切なものが、大切なものとひきかえに、喪われてしまうのか。
 そんなのは、いやだ。だめだ。だってラティアスは、もう決めたのだ。大切なものをこの手で護ると、決めたのだ。
 だから。うしなって、たまるものか。
 ラティアスは、目を閉じたままのサトシの顔に、そっと頭を寄せる。からだじゅうから溢れていた泡は、ぴたりと治まっていた。
 お願いだから、目をあけて。あのときみたいに、笑ってほしい。
 涙をひとつ、ぽろりとこぼして。

 ラティアスは、サトシの唇に、そっとキスを落とした。

……、ん……
 ぴくり、と、男の子は身じろぎをする。
 投げ出していた手足を震えさせて、ゆっくりと、閉じていたまぶたを持ちあげる。焦茶色の瞳が覗いた。
 クリアになっていく視界いっぱいに、ラティアスがいた。
……おはよう、ラティアス」
 サトシは彼女に向けて、やんわりと笑う。ラティアスの、琥珀色の瞳が、大きく揺れた。
「きゅうん……!」
 瞳からあふれんばかりの涙を振りきって、ラティアスは、サトシの頬に頬をすりよせた。たくさん、たくさんすりよせた。
「ははっ、くすぐったいよ、ラティアス」
 サトシは笑って、ラティアスの頭を撫でる。今度はその手に、ラティアスは顔をすりよせた。それを見て、サトシは、胸の奥がぽかぽかと、温かくなっていくのを感じた。じんわりとひろがっていく熱は、喜びと、愛しさの証だ。
 サトシは上半身を起こして、ラティアスに正面から向き直った。そしてその鼻先に、うつくしい珠を差し出す。
……おまたせ、ラティアス」
 ラティアスはいとおしそうにひと鳴きして、その球を、両手でしっかりと受け取った。

 さあっと、一面に真っ白な光が広がった。