ちこと
2024-10-29 20:36:55
56961文字
Public poke小説・SS
 

【2012年発行個人誌】drip,drop,daydream

2012年に発行した個人誌の再掲です。サトシとラティアスで人魚姫パロのようなお話。
完成版のデータが見当たらなかったのですが、ほぼ同じ内容のはずです。
もう何年も前の作品で、つたないところも多くはずかしいのですが、せっかくなので……。





エピローグ


 最初に知らせを受けたとき、一番に駆け出したのはアイリスだった。弾けるように後に続こうとしたデントだが、電話中だったことを思い出す。画面の向こうで状況を図りかねているカノンに、すこしだけ待ってほしいと言い置いて、ポケモンセンターの外へ飛び出す。
 せいいっぱい駆けているのに、一歩一歩すらもどかしい。懸命に足を動かして、海岸へと急ぐ。ジュンサーさんが、こちらに向けて手招きをしていた。彼女が指差す方向に、ばっと目を向ける。
 アイリスとデントの目に、ちいさな白いボートが映った。
 ボートの周囲には、なぜだかみずポケモンたちがいっしょにいる。タマンタ、チョンチー、マンタイン、ランターン……デントたちはあまりお目にかかったことのないポケモンだ。それから、ボートのすぐそばには、ちいさなマメパトが一羽、ぱたぱたと飛んでいる。はて、野生だろうか。
 そして、肝心のボートの上では。
「お――い! アイリスー! デントー!」
「ぴーかちゅー!」
 あっけらかんと笑って、赤い帽子の男の子と、黄色い電気ねずみが、元気に手を振っている。
 それを視界に認めたアイリスが、ふるふると肩を震わせ始めた。
「きいば!」
 聴きなれた声が耳に届いたのだろう、キバゴが笑顔で頭を覗かせる。
 やがて、ボートが岸に到着した。アイリスの肩の震えには気づかないまま、サトシとピカチュウは、元気に地上へと飛び降りる。
「ただいま!」
 そう言ってにかっと笑われたら、もうこちらはたまったものではなかった。
「うわっ! おい、アイリス!?」
 サトシとピカチュウにボディーブローをかけるようにして、がばっと抱きつく。ふたりを海岸に押し倒す勢いで、アイリスは声をあげる。
「ただいま、じゃ、ないわよぉ! ほんとに、ほんっとに……こどもなんだからぁ!!」
 サトシたちはまだぽかんとしている。一歩引いて見ているデントは手を貸さない。どちらかというと、アイリスのほうに混ざりたいくらいだ。
……ふたりとも、元気そうでよかった)
 こころの中だけで、デントはひとり、そっと呟く。ふうっと、肩の力が抜けたのがわかった。自分でも気付かないうちに、やっぱり、ずっと気を張っていたらしい。
 アイリスは、ずうっとサトシの肩に手を置いている。うつむいて、震えて、「……こどもなんだから……!」と絞り出すように言う。
「あ、アイリス……?」
 おそるおそる、サトシはアイリスの表情を窺おうとした。するとがばっと顔をあげて、アイリスはサトシとピカチュウをぎっとにらんだ。その瞳には、涙がたまっている。
「あたしとデントが、どれだけ捜したと……どれっ、どれだけ、心配したと思ってるのよぉっ!」
 溢れんばかりの気持ちを爆発させて、アイリスは叫んだ。震えながらの大声が、サトシとピカチュウの胸の中に、すうと吸い込まれていく。すねたように顔をしかめて、いまだぷるぷると震えるアイリスを見て、サトシとピカチュウは目をあわせて、それから、その顔を覗きこんだ。
「ごめん、アイリス、デント。心配かけて」
「ぴぃかちゅう」
 アイリスに続いて視線を向けられたデントは、しかたないなと苦笑して、こくりとちいさくうなずいた。だけどアイリスは、まだ気がおさまらないようだ。
「ごめんですめば、ジュンサーさんはいらないの! まったく、きみたちってほんと、ほんと……
「アイリス」
「えっ、なっ……なに?」
 話を途中で中断されて、アイリスは一瞬ほけっと止まる。そんなアイリスと、それからデントに向けて。サトシとピカチュウは笑って言った。
「ただいま!」
「ぴかっちゅう!」
 その声に毒気を抜かれて、アイリスは行き場のないうずうずを、しかたなく手のひらにぎゅうっとおさえこむ。
「~~~っ、もぉぉ……!」
 それから、サトシとピカチュウを見て、泣き笑いの顔になる。
……おかえり!」

 三人のやり取りを穏やかな気持ちで眺めながら、デントはふと、サトシの手に、なにか白い布が握られているのに気付いた。ところどころほつれて、よれている。
 それを見て微笑んだ。あれはきっと、冒険の証だ。
 デントとアイリスはさんざんやきもきさせられたけれど、きっとその分、お土産話もたくさんあるのだろう。
するとそこに、ポケモンセンターからジョーイさんがやってきた。カノンの電話を、携帯できる子機に繋いでくれたらしい。随分待たせてしまっているからなあと、詫びを入れようと電話口を覗いたら、そこでカノンから、とても嬉しい話を聞かされた。
 アルトマーレのラティアスが、無事、目を覚ましたらしい。そして、彼女のそばから、うしなわれたはずの〈こころのしずく〉が見つかったと。
さて、彼らはいったい、どんな冒険を繰り広げたのだろう。デントたちも想像はしているけれど、ほんとうのところ、くわしいところは、サトシから直接きいてみないとわからない。
 それでも、サトシとピカチュウの晴れやかな表情が物語っている。デントはひとり、ふふっと笑った。

「物語はどうやら、ハッピーエンドのようだね」

 朝焼けの海に、サトシとアイリスとデント、それからピカチュウの明るい声が響き渡るのは、それからすぐのことだった。


FIN.