ちこと
2024-10-29 20:36:55
56961文字
Public poke小説・SS
 

【2012年発行個人誌】drip,drop,daydream

2012年に発行した個人誌の再掲です。サトシとラティアスで人魚姫パロのようなお話。
完成版のデータが見当たらなかったのですが、ほぼ同じ内容のはずです。
もう何年も前の作品で、つたないところも多くはずかしいのですが、せっかくなので……。





 少女はふらふらと歩いていた。
 これしかない、もうこれしかないのだと、自分に言い聞かせて、手にちからを加える。
 たしか、絵本にも描いてあった。とてもおぼろげな記憶だけれど。もうどうしようもなくなったら、こうするしかない。かなしいことが起きないようにするには、こうするしかないのだと。
 おぼつかない足取りで、砂浜に足跡をつけながら、少女は歩いていく。
 月明かりの下に、目指すものが見えてきた。
 男の子は、小屋の外に出ていた。扉の近くに立って、小屋の中にいるなにかに話しかけている。だけどそれがなんなのか、少女にはわからない。わからなくていい。
 真後ろに立つ。男の子は振り向かない。
 こうするしかないのだと、こころを叱咤して。
 少女は、両手に持ったナイフを振りかざす。

 だけどやっぱり、できなかった。
 一度は振り上げたナイフを、ぴたりと止めて、少女はちからなく下におろす。ナイフは少女の手を離れて、地面に落ちる前に、泡になって消えた。
 それを見ていたかのように、男の子は振り向いた。
 少女は動けない。男の子の瞳に見据えられて、震えながらも、一歩も動けない。
「気づかなくて、ごめんな。忘れちゃってて、ごめん」
 男の子はまっすぐに向きなおる。少女に、いや、少女の姿をしたポケモンに語りかける。
「だけど、もう思い出したよ。気づいたから、思い出したんだ」
 やめて。
 こころで悲鳴をあげる。やめて。言わないで。その先を、言わないで。
「そうだろ、ラティアス」
 栗色の瞳に向かって、男の子ははっきりと名を呼んだ。