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ちこと
2024-10-29 20:36:55
56961文字
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poke小説・SS
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【2012年発行個人誌】drip,drop,daydream
2012年に発行した個人誌の再掲です。サトシとラティアスで人魚姫パロのようなお話。
完成版のデータが見当たらなかったのですが、ほぼ同じ内容のはずです。
もう何年も前の作品で、つたないところも多くはずかしいのですが、せっかくなので……。
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「
……
ねえ、カノン。いま、なんていったの
……
?」
「サトシたちの居場所がわかったって
……
本当かい!?」
デントの声が大きくなるのを合図にして、アイリスとデントは勢いよく画面にしがみついた。そのまま液晶を揺さぶりかねないふたりの勢いに、画面の向こうでカノンは困惑する。彼女から見れば、アイリスとデントの顔が画面いっぱいになっているのだ。
『ま、待って! わかった、かもしれないの。確証はどこにもなくて、すごく突飛な発想なのよ』
「それでも、もしかしたらって見当がついたんでしょ!?」
「僕らには、その見当すらつかないんだ。ほんのすこしでもヒントになるかもしれないなら、カノン、話してくれないか」
大きな声を出して呼吸を荒くするアイリスも、自分を落ち着けて冷静に話を進めようとするデントも、カノンから見れば同じ表情をしていた。いま、このふたりは、いなくなった仲間の、どんな些細な情報でもいいから欲しいのだ。カノンは、ひとつ深呼吸をする。
『
……
わかったわ。それじゃあ話すけれど
……
その前に、いろいろと前提として、こちらの事情を話さなきゃ。長くなっちゃうけれど、いい?』
その言葉に、アイリスとデントは顔を見あわせて、それから画面に向きなおる。
「わかったわ。話して」
「そもそも、僕ら、名前以外の自己紹介もほとんどしていなかったわけだしね」
『それもそうね』
カノンはくすりと苦笑して、そのわずかな笑みは、アイリスとデントにも伝播した。ここまでたたみかけるように話が進んだけれど、ここでひといき、落ち着いてもいい。険しかったアイリスとデントの表情も、すこしばかりやわらいでいた。
『じゃあ、改めて自己紹介するわね。わたしはカノン。ジョウト地方の、アルトマーレという街に住んでいるの』
「アルトマーレ
……
それって、前にサトシが話してたわよね」
「ああ。それに有名だよ、街中に水路が張り巡らされている、〈世界で一番美しい水の都〉だって。サトシもそこに行ったことがあるって、僕たち、前にきいたけれど」
『じゃあ、話がはやいわね。わたし、サトシくんがアルトマーレに来たときに知り合ったの。ほかに、サトシくんからきいてることはない?』
カノンの言葉に、アイリスはサトシの話を思い返す。彼の話は断片的だったから、冒険の全容はわからない。だけど、たしかに言っていた。サトシはそこで、幻とよばれるポケモンに出会ったのだと。
「えっと、たしか
……
ラティアスと、ラティオス」
「そうだ。アルトマーレの護神の、兄妹のポケモンがいたんだよね」
アイリスの口から出た名前と、デントが言った言葉をきいて、カノンはすこし表情を変えた。ちいさな笑顔はそのままに、だけどどこか、切なげな顔へと。
『そうね。ラティアスとラティオスは、たしかにそこに、いたの
……
』
はかなげなその声を聴いて、アイリスとデントは、彼女の気持ちを悟る。おそらくカノンにとって、ラティアスとラティオスは、サトシよりもずうっと身近で、そして大切な存在だったのではないか。
「僕たち、断片的にだけれど、その話もきいたんだ」
「ラティオスは、アルトマーレを護るために
……
死んじゃった、って」
言ってから、アイリスは、ぎゅうと胸元の服を握りしめる。髪の中にひっこんでいたキバゴが、ひょこりと顔を出し、表情の変わったアイリスを案じた。
重たい沈黙が、一瞬、お互いの間に降りた。
「で、でも、サトシは言ってたわ! ラティオスは、〈こころのしずく〉になったんだって
……
こころのしずくにかたちを変えて、いまもアルトマーレで、ラティアスを見守ってくれてるんだって
……
そうなんでしょう?」
『
……
ええ、そうね。そしてラティアスは、ラティオスの分まで、このアルトマーレを護っていくんだって、そう決めたのよ。だからわたしたち
……
わたしと、わたしのおじいちゃんなのだけど。わたしたちも、できる限りラティアスを支えていこうって、そんな話をしたの』
「なのに
……
なにかがあったんだね?」
「え?」
アイリスがデントのほうを向く。デントの目はどこか鋭くなっていた。ソムリエ探偵ではないけれど、なにか推理、推測をしようとしているときの、まじめな目だ。
「カノン、きみはそもそも、サトシになにか助けを求めたかったんじゃないかい?」
そもそもカノンがこのセンターに電話をかけてきたのは、アイリスでもデントでもなく、サトシに用事があったからだ。そしてふたりの接点がアルトマーレ、ひいてはラティアスとラティオスなのだとすれば、電話をかけてきた理由もそこにあるのではないだろうか。
デントの推測を肯定するかのように、カノンはしばし沈黙した。そして、重たげに口を開く。
『
……
ええ、そう。いま、ラティアスが、大変なことになってしまっているの。わたしたち、なんとか手を尽くそうとしたのだけど、それでも、やっぱりだめで。ラティアスのことをほかに相談できる人が、サトシくんしかいなかった。だから、サトシくんのふるさとのマサラタウン、そこのオーキド研究所に電話をかけたのよ』
「だけど、肝心のサトシはマサラタウンにはいなかった」
『ええ。イッシュ地方に旅に出てしまったって
……
だけどわたしたち、もうほかに方法を思いつけなかったの。だから、イッシュ地方中のポケモンセンターに連絡をとったわ』
「それで、ここのセンターでやっと、サトシの仲間である僕たちと話ができた
……
というわけだね?」
「でも、どうして頼れる相手がサトシだけなの? 街の護神だっていうんなら、アルトマーレのひとたちにだって
……
」
アイリスの疑問に、液晶の向こうで、カノンはゆっくりと首を振った。
『ラティアスの棲むところ
……
〈秘密の庭〉に招待されたのは、わたしとおじいちゃんを除けば、サトシくんとピカチュウだけだったから』
「秘密の庭
……
」
『そう。この街にとって大切なこころのしずくも、秘密の庭にあるの。そしてそれはその名の通り、ほかのひとには秘密なのよ。こころのしずくが、悪意ある者の手に渡ってはいけないから』
「だけど以前、こころのしずくは、悪者に奪われてしまったんだよね?」
サトシが言っていた話を、デントとアイリスも思い出す。元々アルトマーレにあったというこころのしずくは、とある怪盗姉妹に盗み出され、赤く淀んでしまった。それにより、アルトマーレに大津波が押し寄せたと。
「それを防ごうとして、ラティオスは命を落として、新しい〈こころのしずく〉になった
……
そうだよね?」
『ええ、その通りよ。だからわたしたちは、この話を、ほかのひとにはできなかった。だけど、サトシくんなら
……
ラティアスがこころを開いて、秘密の庭に自分から招待した彼なら、ラティアスのために、ちからを貸してくれると思ったの』
「だけど、サトシはいまはいない
……
」
「そ、そうよ! カノンは、サトシがどこにいるかわかったのよね? もしかして、それって、ラティアスに起きた『大変なこと』となにか関係があるの? だから、いまの話もしてくれたの?」
アイリスとデントは、秘密の庭のことを知らなかった。サトシはアルトマーレでの冒険を語り聞かせてくれたけれど、〈秘密の庭〉という言葉は一度も言わなかった。サトシに限って、アイリスとデントを信じていない、などということはないだろう。それでも、簡単に口にしていいことなのか、わからなかったのかもしれない。どこで誰が耳をすませているかもわからない。きっとサトシなりに、とてもデリケートなことだと思ったのではないだろうか。だから秘密の庭の話をしなかった。
だけどいま、カノンはためらいなく、ラティアスとこころのしずくと、秘密の庭のことを教えてくれた。それはつまり、いまからする話のために、アイリスとデントが知っておかなければいけないことなのだ。
『
……
ええ、そう。やっぱり、信じてもらえるかはわからないけど、単刀直入に言うわね』
カノンはそう言うと、一度目を閉じて、深呼吸する。すっと目を開いて、はっきりと言った。
『サトシくんはいま、ラティアスの夢の世界にいると思うの』
「ゆ、」
「め?」
なにがこようと、どんと構えるくらいの心づもりだった。
だけどさすがに、アイリスとデントは、ぽかんと目をまるくした。
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