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ちこと
2024-10-29 20:36:55
56961文字
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poke小説・SS
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【2012年発行個人誌】drip,drop,daydream
2012年に発行した個人誌の再掲です。サトシとラティアスで人魚姫パロのようなお話。
完成版のデータが見当たらなかったのですが、ほぼ同じ内容のはずです。
もう何年も前の作品で、つたないところも多くはずかしいのですが、せっかくなので……。
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「これは
……
」
「ぴいかあ
……
」
ぶわりと一面にひろがった白い光に、サトシとピカチュウは包まれる。透きとおった水のような、清らかな光だ。その光の真ん中に、ラティオスのかたちをした、青い光が佇んでいる。
その光にまっすぐに向きなおって、サトシは口を開いた。
「
……
ごめん、ラティオス」
光は、そこに浮かび上がったまま、なにも言わない。
「おれ、おまえとラティアスのことも、アルトマーレのことも、ついさっきまで、忘れてた
……
。なんでかはわからないけど、忘れちゃってた。忘れちゃいけないことだったのに
……
ほんとうに、ごめん」
「ぴかぴ
……
」
きゅっと口をまっすぐに結んで、肩を震わせる。そんなサトシをピカチュウは見上げた。彼の気持ちはいたいほどにわかっている。忘れるなんてありえない、そんな出会いのはずだったから。
「なあ、ラティオス、教えてくれ」
光はまだ、サトシの声には応えない。それでもサトシは、声を震わせて言った。拳をぎゅっとにぎりしめる。
「なんで、ラティアスが、こんなところにいるんだよ? アルトマーレは、あいつが護っている街は? いったい、なにがあったんだよ
……
!!」
サトシには信じられなかった。
自分がラティアスとラティオスのことを忘れていたというのもそうだけれど。それ以上に、あの子が平然とこんなところにいることが、信じられなかった。兄と、アルトマーレをこころから愛していたはずのラティアスが、いまはまるで、街のことなんて、関係ないみたいだ。
それに、サトシが正体に気づいたときの、あの子の反応。サトシはラティアスのことを忘れてしまっていたけれど、ラティアスも、サトシとのあの出会いが、まるでなかったことのようだ。だってそうじゃなければ、なんであんなに、正体がばれることを恐れたのだろう。あの子の秘密は、本来なら、サトシはとっくに知っていたはずのことだったのに。
おかしなことがたくさんあった。ふしぎな島にたどり着いたサトシとピカチュウは、ラティアスのことを忘れてしまった。ふしぎな島に、アルトマーレにいるはずのラティアスがいる。なのにラティアスは、護るべき街から離れていることを、まるで気にしていない。サトシはアルトマーレでの思い出を忘れていたのに、そのことを気にもとめない。そして、あの女の子は、サトシに正体がばれることを、なぜだかひどく恐れている。
それでも、サトシにはわかっていた。
「別人なんかじゃないよな。あいつは、おれの大事な友だちの、ラティアスだよな」
それは、いまとなっては絶対に、間違えようのないことだ。だからこそ、サトシは知らなくてはいけないのだ。
なにも言わない青の光が、もうもどかしくなってくる。一歩足を踏み出して、サトシはもう一度、強く言った。
「ラティオス、もう一回言う。全部教えてくれ。ラティアスに、なにがあったんだ」
光が、サトシをまっすぐに見据えた気がした。ピカチュウも、サトシに続いて前に出る。この子の気持ちは全部わかる。だからピカチュウも、同じことを望む。この子が、次に言うことも。
「なにかあったんなら、なんとかしたい。おれは、ラティアスを助けたい。だから、頼む、教えてくれ
……
!」
青く輝く光が、わずかにうなずいた気がした。
白く輝く光が、よりいっそう強まって、サトシとピカチュウを包んだ。
光の中に、街並みが見えてくる。
「あれは
……
」
まるで〈ゆめうつし〉のように、サトシの足元に、鮮明なビジョンが浮かび上がった。あの光景は、知っている。緑溢れる美しい庭。秘密の庭だ。秘密の庭に、だれかがいる。
「ラティアスと
……
カノン?」
芝生の上に座り込む、白いベレー帽の少女。そのとなりに、白と赤のポケモンが寄り添う。少女
――
カノンは、なにか本を持ち、ラティアスに読み聞かせていた。絵本のようだ。
「あれ
……
なんだっけ。ママが読んでくれたような
……
」
絵本の表紙は、サトシにも見覚えがあった。だけどタイトルをど忘れしてしまったようだ。その間にも、眼下のビジョンは進んでいく。やさしく微笑んで物語を語り聞かせるカノンと、無邪気な笑顔でそれを聴くラティアス。まるで仲の良い姉妹のようだ。
だけどその場に、ラティオスはいない。かわりに、秘密の庭の中央で、〈こころのしずく〉がやわらかに光った。だからサトシにはわかった。これは、ラティオスがいなくなったあとのこと。サトシとの冒険のあとのことなのだ。
サトシとピカチュウがそのまま見守っていると、ビジョンはやがてゆらりと揺れる。絵本を持ったカノンはいなくなり、かわりに黄色いちいさなポケモンが登場した。ピチューだ。おでこを押さえて泣いている。
「あれ
……
あの庭に、ピチューっていたか?」
秘密の庭には、ラティアスたち以外にもポケモンが棲んでいた。だけど、ピチューを見かけたことはない。サトシが首をかしげていると、そのピチューの元に、少女が現れた。
「あ
……
!」
その見た目はカノンそのものだ。だけど、白いベレー帽を被っていない。それがなにを意味するのか、サトシにはわかる。
少女はどこからかばんそうこうをとりだすと、しゃがみこんで、ピチューのおでこに貼ってあげた。ピチューはすこし驚いたように顔をあげて、それからほっと笑顔になる。それを見て、少女も微笑んだ。
「怪我を手当てするために、秘密の庭に連れてきた、ってことか
……
?」
「ぴぃか」
ピカチュウが賛成するようにうなずいたところで、ビジョンの展開に変化が生じた。
「! 待て、ピチュー!」
届くはずがないことがわかっていても、サトシは思わず声を荒げた。
ビジョンの中のピチューが、庭園の中央に位置するこころのしずくに近寄り、持ちあげたのだ。それに少女も気づく。慌てて走り寄り、手を伸ばす。
それに驚いたのはピチューだ。少女の突然の行動にびっくりして、飛びあがって
――
こころのしずくを、取り落としてしまった。
「あっ!!」
「ぴかぁ!」
透きとおり輝く宝玉は、そのまま真下へと落下する。運の悪いことに、そこには水路があった。
ぽちゃん。聞こえないけれど、そんな音がしたように思えた。こころのしずくは水路に落ちてしまった。そのまま、するすると下流へと流れていってしまう。
少女は狼狽したようだった。一瞬時が止まったかのように固まって、すぐさま我に返る。珠を追いかけるように駆け出して、つまづいて、転んだ。
「あぁっ
……
!」
ビジョンを見ているサトシも動揺した。少女の焦りが手に取るように伝わる。そうこうしているうちにも、珠はどんどん流されて、庭の外へと繋がる水路に出てしまう。
転んだ少女はがばりと起き上がる。そうして、自らの元の姿へと戻った。そのまま水路に飛びこむ。
「急げ! 外に出ちゃうぞ!」
「ぴぃっかぁ!」
サトシとピカチュウの応援が、ビジョンに届くはずもない。ふたりがじっと見守る中、しばしの時が経過した。
やがて。
「あぁ、ラティアス
……
!」
水路からあがってきたラティアスは、いまにも泣きだしそうだった。その表情が、なによりも物語っている。サトシにもわかってしまった。
ラティアスは、こころのしずくをなくしてしまったのだ。
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