ちこと
2024-10-29 20:36:55
56961文字
Public poke小説・SS
 

【2012年発行個人誌】drip,drop,daydream

2012年に発行した個人誌の再掲です。サトシとラティアスで人魚姫パロのようなお話。
完成版のデータが見当たらなかったのですが、ほぼ同じ内容のはずです。
もう何年も前の作品で、つたないところも多くはずかしいのですが、せっかくなので……。





「いまおれたちがいるのって……ラティアスの、夢の中……なのか」
「ぴぃか……
 雲のスクリーンに映し出される映像を眺めながら、サトシとピカチュウは呆然とつぶやいた。次々に現れる光景は、すべて、サトシとピカチュウには覚えのあるものだった。砂浜で遊んだり、きれいな小石を見つけたり。すべて、この島に来て経験したことだ。
 そして、スクリーンの中のラティアスはとても元気そうなのに、足元のビジョンのラティアスはいつまでたっても目覚めない。ただときおり、スクリーンの中のラティアスに連動するようにして、ふわりと笑顔をつくっていた。まるで、良い夢を見ているかのように。
 サトシとピカチュウも合点がいった。つまり、このスクリーンは、ラティアスが見ている夢を表しているのだ。そしてその中に、サトシもピカチュウも登場している。自分たちがいまどこにいるのか、サトシはようやくわかった気がした。
 青い光は、見せるべきものをすべて見せたのだろう。ここで初めて、はっきりと動いた。すうっ……とサトシの元へと近づき、サトシと対峙する。光の中の、手と思しき部分が、ゆっくりと持ちあげられて、サトシの額に触れた。
…………!」
 ぶわりと、サトシのこころの中に、強い強い思いが溢れた。妹を救いたい。アルトマーレの街を護りたい。……だけど、いまの自分にできることは、もう少ない。
「ラティオス……?」
 サトシの中に流れ込んできたのは、ラティオスの意思だった。胸を引き裂かれそうな、切実なこころだ。こんなにもラティアスを、そしてアルトマーレの街を想う存在を、サトシはほかに知らない。
 けれど、目の前の光はなにも言わない。鳴きもしない。
 サトシはわかっていた。ラティオスは、もうラティオスではない。ちからを使い果たし、命を落として、こころのしずくへと姿を変えてしまった。だけど、ラティオスの意思は、いまもこころのしずくの中で生きているのかもしれない。その想いがきっと、サトシを呼んだのだ。
「おれたちを、ここに連れてきたのは……ラティオスなんだな?」
 光はなにも言わない。そのかわりに、こくりと一度頷いた。
 あのとき、突如現れた嵐も、見当たらなかった島も、これで説明がつく。きっとあのとき、サトシたちを乗せたボートは、すでにラティアスの夢の世界に入り込んでいたのだ。