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鳴上
2024-01-22 17:38:37
73645文字
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ナツシン
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ナツシンまとめ2022〜23
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その熱に触れる
人の多さと寒さで、夏生は既に疲弊していた。今日は大晦日。家族や、友達あるいは恋人と新しい年を迎えるために、大掃除をして、1年を振り返る日だ。たくさんの人々が街を行き交う。あと30分もすれば年越しで、こんな時間に駅周りを出歩くことはないが、きっと今日はいつもより人が多いのだろう。
先ほどコンビニで買ったホットコーヒーを片手に、夏生は近くのガードパイプに腰をかけた。寒いといっても昼はまだマシだったのに夜になるとこんなに寒いとは油断していた。もう少し着込んでくればよかった、なんて思いながら、肌触りのいい黒色のスヌードに顔を埋めた。まだ嗅ぎ慣れないその匂いを肺に吸い込む。あいつの香りがするわけないのに。
年末は家でゆっくり過ごす人もいるし、年越しを神社で迎える人もいる。年越しの瞬間ジャンプして、地球にいなかった〜なんてふざけるのは小学生までか。夏生も例年だったら実家に帰り、家族と年越しをするのだが、今年は実家に帰らなかった。真冬にはぐちぐちと文句を言われたが、やむを得ない事情があるのだ。その事情という奴は、約束の時間に30分も遅れているのだけど。
コーヒーを一口飲み暖かさにホッとしたところで突然、スヌードと首元の間に手が差し込まれた。
「っ?!」
その急な冷たさに驚いて、夏生は声にならない声をあげた。落としそうになったコーヒーを掴み直し、いたずらの犯人の方を振り向く。街灯があるとはいえ辺りは薄暗いはずなのに、その金髪がいやに輝いていてしょうがない。何故だか悔しくなって、それを振り切るように声を出した。
「セーバ!驚いたか?」
「驚いたか?じゃね〜よ!くそエスパーが!」
「ははは、そんな声張り上げるセバ初めて見たかも!」
そう言って嬉しそうに笑うシンは、空気の冷たさに鼻を赤らめていて、見ているだけでその寒さが伝わってきそうだった。手がキンキンに冷えているのも納得できる。
「今日思ったよりも寒いな〜」
「お前のせいでずっと外で待たされるし、お前のせいで首元が冷えたんだけど」
「え〜でも首元にあったかいものつけてんじゃん。誰からもらったやつなんだ〜?」
分かりきった問いをニヤニヤと笑いながら口に出すシンの首元にも、見たことのある赤いマフラーが巻いてある。使ってくれていることに喜びを感じると共に、存外不器用に巻かれたそれに胸の奥が疼いた。きっと走ってきたのだろう。再会したときよりも伸びた髪の毛がマフラーからぴょんぴょんと飛び出ているので、それをどうにかしてやりたくなるこの気持ちに奥歯を噛み締めた。
「待たせてごめんな。思ったよりも準備に時間かかっちまった」
「
……
別にいいけど。それより髪の毛飛び跳ねてるぞ」
何が楽しいのかいつもより上機嫌に笑うシンは慌てたように手櫛で髪を梳かすが、見当違いの場所ばっかりなので仕方なくその髪の毛を撫で、飛び散っている束を元に戻してやる。ちらりと見える耳も先週嫌というほど見たサンタの衣装みたいに真っ赤に染まっていて、思わず指先でその輪郭をなぞる。
「っん、ちょ、セバ」
急に耳に触れられて驚いたのか、シンが少し高めの声を出したので、面白くなった夏生はニヤリと笑って、そのままシンの丸い耳を親指と人差し指でクニクニと揉んだ。シンの顔が寒さのせいだけではない赤に染まっていく。その様子を見るだけで、夏生はこの人の多さと寒さなんてどうでも良くなるのだ。
「
…
やっぱ、マフラー赤にしてよかった」
「え?」
「似合ってるって言ってんだよ」
「っえ、今」
シンが夏生の言葉を聞き返そうとしたその時、大きな音ともに夜空に花火が打ち上がった。どこかでハッピーニューイヤー!なんて楽しげな声が聞こえてくる。いつの間にか年越ししてしまったらしい。シンと夏生は顔を見合わせ、それからふたりして笑ってしまった。
「あーあ、お前のせいで知らない間に年越ししちゃってんじゃん」
「いやオレのせいじゃないだろ?セバが悪い」
「は?なんでだよ」
「ま、とりあえず初詣行くか〜。今日の目的ソレだし」
そう言って歩き出したシンを夏生が一歩遅れて追う。
「その前になんか食べね?腹減ってきた」
「あ〜確かに!そうするか。じゃあラーメン食おうぜ〜」
「そこは蕎麦じゃねーのかよ」
年が明けて新しい日々がまた始まる。こんな始め方だったけど、きっとこれが俺たちらしいのかもしれない。
そうしてふたりの姿は騒がしい雑踏の中に消えていった。
2023/1/2
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