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鳴上
2024-01-22 17:38:37
73645文字
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ナツシン
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ナツシンまとめ2022〜23
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バカはどちらだ
「ポッキーゲームしようぜ!」
「お前バカなの?」
思わず辛辣に返してしまった言葉に、くそエスパーが目を吊り上げた。
今日は十一月十一日。一が四つ並ぶその様子から、とある有名なお菓子の日と言われている。そんなことは誰でも知ってる、夏生だってそうだ。だからこのバカくそエスパーが知っていても不思議ではない。ないが、まさかかの有名なゲームをしようと言われるとは思いもしなかった。
「バカってお前さ〜毎度毎度失礼なんだよな〜」
「いや
……
実際バカじゃん」
「あーもー、文句ばっかりだな相変わらず!」
夏生は今日、憩来坂に来ていた。理由なんてそりゃもちろん、このくそエスパーに会うためでそれ以外のなんでもない。本土とJCC、海で隔たれた二人の距離は、こうしたたまの休みにしか縮まることはない。だから一日遊び倒して、それでもまだ名残惜しくて、空港に向かうバスギリギリの時間までこうして一緒にいるのだ。
二人が友人、ライバルといった関係を一つも二つも飛び越えたのはつい数ヶ月前のことで、まだ全然恋人らしいことはできていない。手を繋いだのが二回と、キスが一回。今日だってゲーセンで肩を組みさえしたが、そういった甘い雰囲気は一切なかった。
あと三十分くらいあるけどどーする。じゃあコンビニでなんか買って公園行こうぜ。そう言ったのが十分ほど前のことで、ポッキーゲームをしようってバカを言い出しのはつい先ほどだ。
もう薄暗い公園には誰もいなくて、数ヶ月前にはなかった冷たい風が頬を撫でる。でもぶるぶると震えるほどではなくて、風で揺れる木の葉の音が心地よかった。ひとり分、隙間を開けて座ったベンチに手を置く。
ぶつくさ言いながらシンがコンビニの袋から取り出したのは、予想を裏切らない長方形の赤い箱。こいつ、ノーマル派か。シンは袋から一本取り出すと、ん、と口に咥えて突き出してきた。
「いやいや、やらね〜って」
「んだよ〜」
夏生が拒否して顔を背けると、シンは不服そうに口に含んだそれを咀嚼した。そして閃いた顔で夏生の方を向いた。
「あっ、分かった。さてはセバお前、負けるの怖いんだな?」
「あ゛?」
思わず凄んでしまった言葉に、くそエスパーは楽しそうに口角を上げた。
「ふ〜ん、そっかそっか。ブキ科のエースくんは思ったより意気地なしなんだなー」
「
……
別にできるけど」
「へ〜、じゃあやる?」
それには答えず、ムカつく心を抑えてシンから箱を奪い取った。そして迷わず口に咥えて、シンの方へずい、と差し出した。意気地なしと言われたら、なんとなく反抗したくなるし、シンに負けた気がして気に入らない。
「ん」
「へ、いや、ちょい待って」
「ん」
「〜〜っ、あ〜くっそ!負けないからな!」
頬を赤く染めたシンは逡巡したのに、夏生が咥えていない反対側に唇をつけた。真正面にあるシンの顔が、夏生の瞳に写り込んだ。思わぬ近さに二人して動きを止める。澄んだ空気が、二人の隙間を埋めるように纏わりついている気がした。
シンのまつ毛が少しだけ震えて、それから一度瞼で覆われる。ゆっくりと開いて見えた瞳に写る自分と目が合った。
それが合図だったのかは分からない。ポリ、とシンが口に含んだものを噛み砕いた。小さな音を立ててゆっくりと夏生へと近づく。つられて夏生も、口を動かした。
見える顔がどんどんと大きくなって、次第にシンの顔がボヤけてくる。でも止められなくて、きっと今、夏生とシンも同じ顔をしているのだろうということだけは何故か理解できた。
ところでこのゲームのルールは、両端から食べ始めて、先に耐えられなくなって折ってしまった方が負けとなる。負けたくないのはシンも同じなようで、つまり二人とも、離し時を逃しているのだ。
もう見えているところが数ミリになって、それから二人の唇がほんの一瞬、重なった。
その瞬間、ポキ、と音が聞こえて、ようやく夏生とシンは同じタイミングで仰け反った。沈黙が流れる。いつの間にか身体から蒸気が出るほど暖かくなっていて、つう、と季節外れの汗が夏生のこめかみを伝った。
ああ、もう、ちくしょう。
「
……
もう一回、する?」
「
……
うん」
また袋から取り出して口に咥えて、シンに向ける。シンは目を瞑ったままそれをパクリと食べると、そのまま食べ進めた。夏生は薄めでそれを見ながら、同じように食べ進める。
そうして唇が先ほどよりは少しだけ長く重なって、それから離れる。至近距離だからやっぱり顔はぼやけて見えない。ただ、シンの顔がさっきよりも赤く染まっていて、それを見ることができて満足なはずなのに、口から出ていたのは別の言葉だった。
「
………
もう一回、する?」
「
………
うん」
ガサリ、また袋から一本だけ取り出す。風が吹く。もう暗くて公園の時計の針も見えないけれど、もうすぐきっと、バスの時間だ。それは分かっているけれど、夏生にはこの問いかけを止めることはできそうになかった。
口に咥えて、シンへと向ける。少しだけ汗ばんだシンの手に、これまた汗ばんだ自分の手を重ねた。
バカはどちらだ、とツッコミを入れる者は、この場のどこにもいやしなかった。
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