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鳴上
2024-01-22 17:38:37
73645文字
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ナツシン
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ナツシンまとめ2022〜23
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お前が好きだからだよ
そうだと自覚した時には、すでに絡め取られて抜け出せなくなっていた。俺の心をいとも簡単に奪っていったくそエスパーは、そんなことも気づかず今日も呑気に笑っている。
「おーい、セバ!今から昼食うんだったら一緒に食堂行こうぜ〜!」
午前中の講義を終え、昼ごはんを食べるために食堂へ向かっていたら、暗殺科の学生らしき人たちと、同じく食堂に向かっていたであろうエスパー野郎がこちらへと歩いてきた。
「いいけど、あいつらはいいのかよ」
「お〜いいのいいの!たまたま会って話してただけだし」
「あっそ」
「それよりさ聞いてくれよ、さっきさ〜」
隣に並んでそのまま話し続けるので、チラリと残された奴らを見て、まあいいかと一緒に食堂へと向かう。こいつがJCCに編入してきて、真冬を救い出してから、1人で食べていた昼食を2人で食べることが増えた。射撃がうまいため、いつもいいものを食べられるこいつと違って、俺は透明にならないとなかなか食べられないから、都合がよかったのだ。機嫌がいい時はわりかし俺の分まで食券を取ってくれるので、誘いを断る理由がない。
食券機の列に並び、自分達の順番が来ると案の定何も言わなくても2枚ステーキ丼を当てて1枚渡してくる。それを受け取って、代わりに金を渡す。そして向かい合って席に座る。いつもの流れだ。
「JCC丼はまっっじでまずいけど、他のご飯は美味いよな〜」
「お前がJCC丼初めて食べた時の顔忘れらんねーわ」
「まだその話ししてくんのかよ」
もぐもぐと動かしていた口をぎゅっと尖らせ、不服そうな顔をするので、ばーかと心の中で唱えてみると、眉間に皺が寄った。心読んだな、今。
「ま、いーけどさ。それより今日の午後何してんだ?暇なら学校探検しようぜ〜」
「またかよ、何度もしたろ」
ワクワクしているのを隠しもせず言ってくるこいつは、今まで学校に通ったことがないらしい。だから楽しくて仕方ないのか、よく学校探検に誘ってくる。俺はもうJCCに4年以上いるから知らない場所なんてほとんどない。今さら行くところなんてないけど、なぜか毎回付き合わされるのだ。まあ誘われる時はだいたい暇な時なので別に良いのだが。
「実はさ、面白いところ見つけたんだよ。だからセバも行くかな〜って!きっとお前も行ったことないと思うぜ!」
そう言ってエスパー野郎は弾けるように笑った。
昼食を食べ終え、引っ張られるように連れて行かれたのはこの時期は使っていないプールだった。JCCの中でも端の方にあり、水中での暗殺方法の講義はもう少し大きいプールで行うため、確かにその存在を知る者は少ないだろう。けれども普段から武器を作製している俺は、このプールで何度か水中用の武器の確認作業を行っていた。
「いや来たことあるけど」
「マジで?セバって意外と情報通なんだな〜」
エスパー野郎は、俺全然お前を驚かすことできね〜わ、なんてぶつくさと呟きながらプールサイドにしゃがみ込み、手で水をパシャリと跳ねさせた。その後ろ姿を見ながら俺は腕を組んでため息を吐いた。連れてこられた場所は全然行ったことないところなんかじゃないし、それならば戻って武器作りの続きをしたい。したいけれど。
水の中に入るには少し寒くて、でも陽射しは心地よい。太陽の光が水面に反射し、エスパー野郎の金髪がキラキラと音を立てて輝いているように見えて、目を細めた。エスパー野郎は何度か水を跳ねさせたあと、思いついたように両手で水を掬い、振り向きざまに水を投げつけてきた。
「っうわ、嘘だろお前最悪!」
「へへっ。ボーッとしてんのが悪いんだぜ!」
ニヤニヤとしながら見てくる姿にイラつき、エスパー野郎の右側にしゃがみ込んでやり返すように水をかけた。やり返すことが分かっていたのか、エスパー野郎は驚きもせずにまた水をかけてきた。それにイラつきやり返す。そしたらエスパー野郎もやり返してくる。何度も往復しているうちに、気づけばお互いビショビショに濡れてしまっていた。
ゼェゼェと息を吐きながら、顔を見合わせる。いつもは立っているアホ毛も今は濡れてしまって影もない。きっと俺も、いつも手に余している天パがさらにうねっていることだろう。エスパー野郎も同じことを思ったのか、俺の頭に視線を合わせた後、くすくすと笑い始めた。
「ふは、お前やりすぎだって。びしょ濡れじゃん」
「いやお前人のこと言えないからな?」
「そうかもしれないけどさ、それにしても
…
ぷっ」
堪えきれないと思い切り笑い始めたので、なぜだか釣られて俺も思わず笑ってしまった。
そして、腹を抱えて笑うこいつがキラキラとして見えるのは、水面に写った太陽のせいだけではないのだと、唐突に理解した。
JCCで再会してから、当然のように隣にいるようになった。人当たりの良いこいつなら、いろんな奴とも仲良くやっていけるだろうし、一度共闘したからといってわざわざ殺しあった過去のある男と一緒にいる意味が分からない。分からないけれど、あいつが俺を見つけるたびにアホヅラで話しかけてきたり、他の誰よりも俺を優先することに優越感を覚えて、それでいて一緒にいる理由を言い訳の如く考えている時点で、きっともうとっくに、俺はそうだったのだ。
まあ、いいか。認めてしまえば後は行動に移すだけなのだから。
左手を伸ばし、いまだに笑い続ける金髪を優しく撫で付ける。いきなり髪の毛を触られて驚いたのか、キョトンとしているエスパー野郎の金色を耳にかけ、その半開きになった唇に、自分のそれを重ねた。思ったよりも柔らかくて湿っている感触をしっかりと感じ取って、それからゆっくりと唇を離した。
伏せていた瞼を開き、至近距離で目を合わせると、次第に赤色に染まっていく顔を見ることができたので良しとしよう。
そうだと自覚した時には、すでに絡め取られて抜け出せなくなっていた。俺の心をいとも簡単に奪っていったくそエスパーは、そんなことも気づかず今日も呑気に笑っていた。
なぜ、と問われても理由を答える気はないけれど、もしお前も自覚して聞いてきたのならば、言ってやらないこともない。
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