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鳴上
2024-01-22 17:38:37
73645文字
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ナツシン
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ナツシンまとめ2022〜23
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もう少しだけこのままで
JCCの冬は寒い。海に囲まれているから風は強いし、雪だって思っているよりも降る。
12月。恋人たちは浮き足立ち、独り身であってももしかしたらクリスマスまでに恋人ができるかもしれないとソワソワする、そんな月だ。
シンも例外なく、学校という場所で過ごすクリスマスに心を浮つかせていた。
「知ってるかマフユ〜、クリスマスって恋人や友だちとプレゼント交換して、チキンやケーキ食べるんだぜ」
「知ってるし。クリスマスで喜ぶとかガキかよ」
廊下を歩きながら、シンは真冬に笑いかけた。今日の講義は全て終わり、放課後の自由時間だ。このまま訓練してもいいし、真冬とダラダラ喋るだけでも面白い。
「んだよ、そんなんじゃサンタさん来ねーぞ!」
「げ、まだサンタとか信じてんの?」
「さすがにそれは信じてねーけどよ〜。あーあ!いい子のマフユくんにちゃ〜んとプレゼント用意してるのになあ」
「マジ!シンくんの趣味合わね〜けど、まあもらってやるよ」
「生意気だなほんとに」
「てか、それなら兄貴にもちゃんと準備してんの?」
「?なんでセバ?」
「
……
え?付き合ってんじゃないの?」
「いや付き合ってないけど」
これはJCCに通うブキ科と暗殺科の常識であるが、武器科のエースである勢羽夏生と、今年の編入試験トップ合格の朝倉シンは、とても仲が良い。気づけばふたりでコソコソと笑い合い、時には近すぎる距離で長い時間を過ごし、喧嘩をしていることもあるが知らない間に仲直りをしているしなんなら喧嘩というかじゃれあいというか、とにかく隙あらばイチャついているのだ。シンはよく武器製造科の研究室に入り浸っているからシンが追いかけているのかと思えば、夏生も夏生で暗殺科の教室に頻繁に顔を出す。
だからそれぞれの科の生徒は皆、ふたりがただの仲良しではなく、付き合っていると思っていたのだ。
シンの反応を見ていろいろと察した真冬は心の中で、げえっと舌を出した。うそだろ兄貴、まだ手出してないの。シンくんもシンくんで童貞かよ、なんて考えてしまったが、運良くシンはエスパーを使っておらず、シンは真冬に言われた言葉で頭がいっぱいだった。
「
……
ま、何でも良いけどさ。どっちにせよプレゼントあげたら兄貴、泣いて喜ぶんじゃない?」
泣いて喜ぶセバ、見たいかも。
こうして、クリスマスでワクワクしていたシンに、大きな悩み事ができたのだった。
「なあ、セバって何が好きなんだ?」
「何だよそのざっくりした質問」
シンの言葉に、夏生は動かしていた手を止めた。シンは真冬に大きな悩み事というプレゼントを貰ったあと、そのまま夏生に会いに来ていた。悩んだが、分からないなら本人に聞けば良いという安直な考えだ。何やら機械をいじっていた夏生の隣に腰掛け、くるくると椅子を回す。研究室には武器製造科の先輩たちも何人か残っていて、楽しげに話が盛り上がっている。出会った時と変わらず武器製作に熱を入れている夏生は、クリスマスなんて関係ないというような態度だ。もしかしたら本当に気にしていないのかもしれない。自然と、シンの眉間に皺が寄る。
「あ〜、いや、真冬がさ
……
」
「真冬がなに」
「う、んんん、いやなんでもない!」
やっぱり、本人にありのままを話すのは気が引ける。というか恥ずかしい!唸っていると、眉間に寄った皺を親指でグイッと押され、シンは顔を仰け反らせた。何を考えているか分からない夏生の思考を読もうとしたが、それよりも先に夏生が素早くフードを被った。
「あ、今なんか俺に不都合なこと考えてんだろ!」
「ちげーよ。てか、飲み物買いに行こうぜ〜」
喉渇いた、と独りごちながら夏生が立ち上がるので、シンも釣られて立ち上がった。
そのまま1番近くの自販機に向かい、小銭を入れる。空気がひんやりとしていて、風も相まってかなり寒い。地面に落ちている枯れ葉がからからと音を立てて辺りを舞う。ボタンを押すとガコンと音を立てて飲み物が落ちてきたので、夏生はそれをシンに渡した。指先がシンの手に少しだけ当たり、その冷たさに身を縮める。
「お、サンキューって、なんだよこれみそ汁?!」
みそ汁なんて自販機に売ってんのか?と驚くシンをよそに夏生はコーヒーを買う。まあ温まるし奢りだから良いか。
夏生が熱いくらいに温められた缶コーヒーのプルタブを開けると、香ばしい匂いが辺りに広がった。
「なあ、来週の土曜日なにしてんの」
「えっ、ら来週?」
突然そう聞かれドキ、と胸が音を立てる。吃ってしまったが、どう考えてもこいつが悪い。だって来週の土曜日は、特別な日。クリスマスなのだ。
「いや、ま〜別に。
……
予定はないけど?」
「じゃああれ観ようぜ。お前がこの間観たいって言ってた映画」
「っえ、あ、うん。いいぜ」
じゃあ決まりな〜、なんて言いながらコーヒーを一気に飲み干した夏生はカラの缶をゴミ箱に捨てて歩き出した。きっと研究室に戻って作業を続けるのだろう。シンはその背中を見ながら、でもその場を動けなかった。なんだか流れるように決まったけれど、これはクリスマスデートってやつなのでは?
真冬に相談したかったのに時間割の都合でなかなか会えず、ついに土曜日。クリスマス当日を迎えてしまった。クリスマスデートという事実に動揺を隠しきれず、1週間落ち着かなかったが、なんとかプレゼントを用意して、部屋を片付けて、それにケーキとチキンも用意した。もちろん食堂で売ってたやつなので味は保証する。昼はいつも通り研究室に篭るから、映画は夜に。そう連絡が来たのは昨日だが、そろそろ夏生が部屋に来る時間だろうか。
シンは忙しなく部屋を歩き回り、無駄にクッションの角度を調整したり、テレビの音量を確認したりする。そして赤と緑の包装紙に包まれたそれが引き出しに入っているかもう一度確認したところで、部屋にノックの音が響いた。
大きく高鳴った心臓は無視して、いつも通りの顔で夏生を迎え入れた。
「よ、よう!」
「わりい、ちょい遅くなった」
「いや全然、こっちも準備とかしてたから」
「思ったよりも部屋きれいじゃん。お前大雑把だからぜったい汚いと思ってた」
「失礼なやつだな?!こう見えても綺麗好きだっての」
最初は緊張したものの話始めればやっぱりセバはセバだ。すぐに調子を取り戻して、用意していたチキンを食べ、お腹いっぱいになっところで映画を観ようとテレビをつけた。映画館っぽくするために部屋の照明を落とし、再生ボタンを押すと、楽しげな音楽と共に映画が始まった。
そうして映画を見始めて1時間と少し。シンは全く映画に集中できていなかった。だって、プレゼントっていつ渡せばいいんだ?シンの態度を不思議に思ったのか、じっとこちらを見てくる瞳に、頬が熱くなってくる。右側がどうしても見れない。
「
……
なんだよ、映画、観ろよ」
「
……
なあ、何でこっち見ないの?」
「映画観てるから、だよ」
「集中できてないのバレバレなんだけど」
ニヤニヤと笑いながら手を伸ばしてくるセバに思わず目を瞑った。顔にかかった髪の毛を触られてぴくりと肩が跳ねる。
「そのまま目、瞑ってて」
「
……
?」
何をされるのか分からなくて、手がじんわりと汗ばむ。ゴソゴソとナイロンの音が聞こえ、そして首元をふわりとした何かが覆った。それが何か分からなくてそっと目を開けると、飛び込んでくるのは鮮やかな赤色のマフラー。
「やるよ。首、いつも緩くて寒そうだから」
耳を赤く染めてそっぽを向く夏生に、思わず胸が締め付けられる。そっと首元に巻かれたそれに手をやり、その柔らかな質感を確かめる。
……
プレゼント、用意してくれていたんだ。さっきまでニヤニヤしてたのに、いざ渡すとなったら、照れるんだ。そんな可愛い行動を取られて、キュンとしないわけがない。
「
……
うれしい。ありがとう、セバ」
マフラーに負けないくらい顔を赤くして、顔を綻ばせる。それを見て、夏生は少しだけ口を尖らせて言った。
「俺には何もないのかよ」
「いや待って、ある!あるある!」
シンは急いで立ち上がり机の引き出しを開けて、赤と緑でラッピングされた袋を取り出した。袋を渡された夏生は丁寧に包装を解き、中から取り出したのは。
「スヌード?」
「そう!セバって寒がりっぽいな〜と思って」
そんなふうに思って買ったプレゼント。ネットで調べて、プレゼントの定番ってのもあるけど、寒い冬はあったかく過ごしてほしい。マフラーよりもスヌードの方が似合いそうだなと思って、セバのイメージカラーの黒色のものにした。まさかセバも同じように考えてくれていたとは思わなかったけれど。
夏生はニット生地のそれを手でやわやわと揉みながら、先ほどのシンと同じようにその存在を確かめた。
「あ、貸して。つけてやるよ」
夏生の手からスヌードをそっと抜き取り、優しく上から被せる。色も相まって、まっくろくろすけみたいだ。ぐしゃぐしゃと頭を撫で付け、シンはニカッと笑った。
「うん、似合ってるぜ!セバ
……
ってうわ!」
腕をグイと引っ張られ、夏生の胸の中に倒れ込む。そしてそのまま強く抱きしめられた。じんわりと夏生の体温が移る。どちらのものか分からないくらいに心臓がうるさい。
「
……
大切にする」
今まで聞いたことのないくらい優しい声でそう言われて、胸の中に満足感が広がる。泣いて喜ぶセバも見たかったけど、これはこれでいいかも。
「うん、そうしてくれると嬉しい」
そっと夏生の背中に腕を回す。ずっとこの腕の中に居ることができればいいのに。
しばらくの間そうしていて、それから夏生は名残惜しげに腕を離し、シンの顔を見つめてそれからシンの唇を親指で優しく撫でた。映画の音とお互いの息遣い以外聞こえなくて、そんなわけないのに、まるで世界にふたりきりになったような気分になる。
「な、いいの?
……
映画、もう終わっちまう、けど」
「口実に決まってんだろ、そんなん」
お前はそうじゃないの。直接脳に語りかけてくる言葉に、シンの胸はさらに熱くなる。なあ、お前さ。
お互いもうとっくに分かっているのに、言葉にしないのは、できないのはなぜなのだろう。シンはすぐ近くにある夏生の瞳から目が離せなくて、そしてふたりの熱が、もう一度重なった。それでも、言葉にするよりも、あと少しだけ、この空気を味わっていたいと思った。
次の日から、赤いマフラーと黒いスヌードを着けたふたりがたびたび目撃されるようになるが、それでもまだ付き合ってないと察してしまった真冬に渋い反応をされるのは、また別のお話。
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