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鳴上
2024-01-22 17:38:37
73645文字
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ナツシン
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ナツシンまとめ2022〜23
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8月の君は
流れ出る汗に、夏生は顔を顰めた。灼熱の太陽、それは夏だから仕方のないことだ。だけどこの気温の高さは、人間が生きる事を阻害しているのではないかというほどの暑さだった。
今年の夏は、暑い。毎日気温は35度を超え、太陽がジリジリと肌を焦がす。クーラーをつけた部屋に居ればいいと思うかもしれないが、夏生は学生だ。涼しい部屋で座学を受けるだけで授業が終わるはずがない。普通の学校でも体育があるのだ、殺し屋を育成する学校はそれ以上の実技がある。いくら研究員生であると言っても、外で行う授業は片手で数えるほどだが存在していた。
例に漏れず夏生もその授業を履修しているので、仕方なく、本当に仕方なく外に出た。そうしたら、ほら見たことか。身体中の穴という穴から汗が沸き出てきて、Tシャツが肌に張り付く。伸ばしっぱなしの黒髪は太陽の光を吸収して、触れれば燃えるように熱いことだろう。
「さすがに、暑すぎ
……
」
ぽつりとそう呟くが、別にそれで涼しくなるわけではない。むしろさらに体温が上がった気がして、夏生は小さく舌打ちをする。誰だよ、昼一の授業を外でやろうと言い始めたやつは。今度武器の失敗作使って憂さ晴らしでもしてやろうか。そんなことを思いながらダラダラと歩く。あと五分もすればチャイムが鳴ることは分かっているが、それに間に合うために走ろうとは到底思えなかった。
「あれ、セバ?」
この気温に似つかない軽やかな声が聞こえて、夏生は動かすのもだるいな、と思いながら進めていた足をぴたりと止めた。ああ、また暑苦しい男が来た。
「んだよ〜暑苦しいって!」
「いや褒めてないから」
嬉しそうに笑う朝倉シンは、夏生と同じように暑いはずなのに、汗を拭うこともせずニカリと笑った。白い半袖のシャツは汗で濡れているはずなのになぜかピンと張っていて、太陽の光を反射している。髪の毛の色も相まって、夏生は目を細めた。こいつ、色もうるさいな。
「何してんの?もう授業始まるけど」
「昼休み外で遊んでたんだよ。しっぽ取りが今流行っててよ〜」
「こんな暑いのに外遊びかよ。小学生でもやらね〜ぜ」
「セバ今度やる?」
「ぜっっったいやらない」
「おお、力強い否定
……
」
バカなことを言うくそエスパーに、舌をんべっと出して、夏生はもう始まってしまう授業に向けて歩き始めた。
「まあ待てよ、セバ!」
背を向けた夏生に、シンが寄りかかってくる。後ろから抱きつくな肩を抱くな暑苦しい。そう思ってもシンは特にエスパーを使っていないのか、離れることなく一緒に歩き始めた。こういう時こそエスパー使えよと思うが、そう言うのも怠いので何も言わずにそのまま歩みを進める。だけどもシンがグイグイと夏生を引っ張るので、思い通りに歩くことができない。
シンの肌が直に触れて、そこから発熱したかのように身体が燃え上がる。すんと鼻を鳴らすとどこか汗の香りがして、夏生は思わず目を伏せた。
「なんだよ、授業遅れるんだけど」
「いーからこっちこいよ」
そう言ってすぐ近くにあった自販機に連れて行かれた夏生は、夏生から離れて飲み物を買い始めるシンにため息をついた。シンの下手くそな鼻歌が耳に入るのすら鬱陶しい。自販機くらい一人で行けよ。まあでも、ついでに何か買おうか。そう思って自販機に近づくと、ずいと目の前に何かを差し出された。
「ほらよ、これ飲んで午後もがんばれ!」
シンが持っていたのは、どこにでも売っている、よくあるスポーツドリンクだった。水とは違って少しだけ濁ったそれが、ペットボトルの中で揺れる。まさかこのために自分を自販機に連れて行ったのだろうか。だってシンは、この一本のペットボトルしか持っていない。
「いらないなら俺が飲むけど」
「
……
や、いる。さんきゅ」
受け取ったそれはひんやりと冷えていて、今飲めば最高の喉越しだろうな、なんて思う。キャップを開けて、一口、飲み込む。思った通りに喉を通って胃の中に落ちてくるその冷たさに、この暑さが少しだけマシになる気がした。ペットボトルはすでに汗をかいていて、夏生の手を濡らした。
「おー、今時熱中症とかあるからな。気をつけろよー?」
「お前の方が暑そうだけど」
「まあ外走り回ったし。てかやっぱり一口ちょーだい」
「あっ、おい」
油断していた。シンは夏生からペットボトルを奪い取ると、飲み口に唇をつけた。そして勢いよくスポーツドリンクを飲み始めた。ごくりと喉を鳴らしたのはどちらか。取り返そうと伸ばした右手が、その着地点を探して狼狽える。その間にもシンは美味しそうにそれを飲んで、半分ほど量を減らしたところで口を離した。
「ん〜〜、うまい!」
何が楽しいのか笑顔を浮かべるシンの唇は、先ほどまでの水分で湿っているみたいだった。夏生は何故かそこから目が離せない。あまり見るのもダメだ、でも見てしまう。というかなんで目が離せないんだ?そう考えている間にも、シンはしっかりキャップを締めて、夏生の手にペットボトルを握り込ませる。
「じゃあ俺行くから。放課後また研究室に遊び行く!」
軽く手を挙げて、やっぱり夏の暑さを感じさせない声と顔で、シンは颯爽と去っていった。
ポツリ、水滴がペットボトルの底から地面へと垂れた。土をじんわりと一部だけを濡らしたことに気が付かずに、夏生はヘナヘナとしゃがみ込んだ。片手で頭を抱える。もう片方の手は、シンから渡されたものを持ったままだ。
ジリジリと太陽が肌を焼き付ける。手から伝わる冷たさと身体が持つ暑さに、眩暈がしそうだった。ほんと、なんなんだよ、あいつ。叫び出したくなる衝動をグッと堪えて、夏生はゆっくりとペットボトルのキャップを開けた。そしてそこに口をつけようとして──触れる直前で動きを止めた。
「あ゛〜、くっそ」
ガシガシ頭をかいて、思い浮かんだ言葉を振り落とす。意識してしまった時点で、すでにこちらに勝ち目はないのは明白だった。夏生は大きなため息を吐いて項垂れた。
「もう飲めねー
……
」
キーンコーンカーンコーン。タイミングよく、授業の始まりを告げるチャイムが校舎内に鳴り響いた。
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