鳴上
2024-01-22 17:38:37
73645文字
Public ナツシン
 

ナツシンまとめ2022〜23



だけど二文字


「おい、これ持って行けよ」
 そう言って夏生が投げてきたのは、数日前に研究室で試させられた武器たちだった。シンは首を傾げながらもそれを受け取り、そしてやっぱり意図が分からなくてもう一度首を傾げた。
「なんで?」
 シンは明日、JCCを去る。だから夏生にグローブの最終メンテナンスを頼んでいた。黙々と作業をする夏生の様子を眺めて、終わったから帰ろうとしていた。夏生のグローブはすごい力を引き出してくれるけど、その分デメリットも大きい。使い所を考えないといけないな、と思っていた時だった。夏生に投げられた武器は、夏生の個性が光っていて他にはない唯一無二のものだ。それを簡単に自分に渡してくる夏生がよく分からなかった。
「なんでって……これからスラーたちと戦うのに、武器はたくさんあった方がいいだろ」
 夏生はさも当たり前のことかのようにそう言って、ため息を吐いた。確かにそうだ、とシンは納得する。選択肢が多くあるのは、戦闘においてとても有利だ。だからシンは有り難くその好意を受け取ることにした。
「さんきゅー、セバ!お前の武器大切に使うぜ」
……大切にするのは武器じゃねーだろ」
「え?」
 視線を逸らしてそう呟いた夏生に、シンの頭の中は疑問符で埋まる。だって、夏生が大切に作り上げた武器を大切にしてなにが悪いのか分からない。大切にするべきであるのは確かなのに。シンが戸惑っていることに気がついたのか、夏生は言葉を続けた。
「武器は、いくらでも作れる。壊れたら直せばいいし、なんならまた新しく作ればいい。……でも、お前の身体は違うだろ。そんくらい、考えろよ」
 そうして夏生はシンに背中を向けて、何か作業をし始めた。シンはそんな夏生の姿を見つめながら、先ほどの言葉を思い返す。思い返して、それから顔から火が出るほどに身体が熱くなったのが分かった。今の夏生の言葉は、間違いなくシンを心配するものだった。その事実に、シンはどう処理したらいいのか分からない感情に駆られた。
 なあ、セバ。お前もしかして俺のこと心配してんの?そんなこと、正面切って聞いたとしても答えてくれないことくらい、分かる。過ごした日数は短いけれど、夏生の人となりが分かるくらいには深く深く関わってしまっているから。だから、悪いとは思うけれど夏生の心を読もうとして、だけどそれは夏生が素早くフードを被ったことによって防がれてしまった。
「おい、今絶対読もうとしただろ」
「えっ、や、してね〜けど!?」
「その反応はしてんだよな〜ほんとお前プライバシーとかちゃんと学んだら?」
 じとっとシンのことを睨んだ夏生は、ズカズカとシンに近寄ると何かを武器にペタリと貼り付け始めた。
「なにこれ?」
「俺のって分かるシルシ」
 夏生が貼ったそれは、セバの二文字が書かれた、なんてことないテープだった。不思議に思う間も無く、夏生がテープを貼り付けた武器を指さして次々と説明し始めた。
「知ってると思うけど、これは高密度液体窒素爆弾。一瞬で凍るけど補充に時間かかるから気をつけろよ。そんでこれはスクリームガン、音楽とかも流せるからいろいろ工夫できると思うぜ。で、こっちがファイヤシューズ。これは──」
「ちょ、ちょっと待てって!いきなりすぎ!」
「だってお前効能覚えてねーだろ?前チラッと説明しただけだし」
「それはそーだけど、ほんとどうしたのお前」
「なんだっていーだろ。とりあえず渡したやつ全部やるよ」
……はは、お前素直じゃねー!」
 頑なに読ませようとしない、認めようとしない夏生に、シンは思わず声を出して笑ってしまった。だって、さすがに分かるって、そんな風に言われたら。シンが笑うから、あからさまに機嫌を悪くした夏生がそっぽを向く。悪い悪いと思ってもないのに謝りながら、さっき夏生が貼ったテープを撫でた。
「なあ、なんでセバって書いてんの?」
「だから、俺のって分かるシルシ」
「ふーん」
 丸っこくて、かわいらしい字で書かれたセバの二文字を見つめる。
「これ使う時、俺のこと思い出せよ。そんで思い出したら、自分の身体の状態を確認しろよ」
 そう言った夏生の耳がほんのりと赤く染まっていて、シンはまた笑ってしまうのだ。
「ふはっ、だからお前、読ませないようにしてんのに言葉に出し過ぎだって!」
……うるせーなこいつ」
「今はなに言われても平気だぜ〜。可愛いやつだな」
「あーうぜ、もうメンテナンスも終わったんだし早く出て行けよ」
「はいはい、分かったよ。ありがとうな、セバ」
 夏生はシンを見ることなく、また作業を始めた。今度はテープに名前を書いているんじゃなくて、本当に武器製作の方だ。素直じゃない透明野郎がこれ以上捻くれないように、シンは渡された武器を抱えて研究室を後にする。とりあえずこの武器達を荷物に入れるため、泊まっている部屋へと歩く。
 使えるものは全部使う、それは変わらない。だけどちゃんと自分のこと考えるからさ。お前の考えてることも、次はちゃんと言葉で教えてよ、セバ。


2023/8/1