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鳴上
2024-01-22 17:38:37
73645文字
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ナツシン
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ナツシンまとめ2022〜23
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たった二文字
「ほらよ、これで当分は持つと思うぜ」
夏生はそう言って、調整し終えたばかりのグローブをシンへと投げた。スラー一派が去って、亡くなった教師たちの弔いを終えて。夏生はシンから、次の日にJCCを出ることを伝えられた。元からスラーの手がかりを得るために潜入していたのだ。もうシンや坂本に、JCCに居続ける理由はない。
夏生とシンが再会したのはほんの数日前だった。ラボでバイトをしていた時に戦って傷つけ合ったくそエスパーは、思いもかけずすんなりと夏生の懐へと入り込んだ。それは、武器の性能を突き詰め続けてきた夏生が、武器を使う人のことを考えられるようになるほどに。
だからというわけではないが、シンが帰ると言うので、夏生は渡したグローブの整備をしてやることにした。弔いが終わった次の日、帰りのヘリに乗り込む少し前にシンを呼び出した。連絡先を知らないので、直接その姿を探したのだが。
しばらく構内を歩いて見つけたシンを研究室へと引っ張る。隣に座って作業を眺める姿を横目に、グローブを少しでも負担の少ないように調整した。
「そういえばセバの武器って、なんだかんだ使えね〜やつが多いけど、役に立つやつも多いよな」
ほら、スクリームガンとかさ〜なんて言いながら、シンが夏生の没作を収納している箱を探る。
「使えね〜は余計だよ。
……
てか、そこら辺にあるやつ、いろいろ持っていけよ」
「え、いいのか⁉︎」
「お〜。そこにあるまま使われないよりも、くそエスパーでも使われる方が多少はマシだろ」
「それなんか貶してないか
……
?」
「さ〜な」
手袋を外して、引き出しから武器を取り出す。高密度液体窒素爆弾やご指名のスクリームガンはまあまあ使えるだろうし、あとはすげえ光る剣もついでに入れとくか。そう考えながらポイポイ武器をシンへと投げていく。器用にキャッチしていくシンの腕が、夏生の作った武器で埋まっていく。
「おい、たくさん投げすぎだよ!こんなにたくさん持って帰れねー」
「スラーたちと戦うんだから、選択肢は多いに越したことないだろ。持ってけよ」
「
……
ま、そうかも」
ただでさえ危険なんだ。スラーとその一派の能力や実力が分かっているわけではない。未知数の敵に立ち向かうのに、準備しておいて損などないだろう。渡しすぎて抱えきれなくなったシンが、空いている机に武器をドサリと置く。
ああ、そういえば一応武器に名前を書いておくか。自分が作ったものだと分かるように。そう思いながら、高密度液体窒素爆弾を手に取り、いつものように自分の名前を書こうとして──やめた。
夏生は研究記録や作った武器に、夏を丸で囲んだマークを書く。自分のものだと分かるように、主張できるように。夏生の工房はそのマークで溢れている。でも、なぜか今それを書く気にはならなかった。
だってシンは、夏生のことをセバと呼ぶ。その呼び方に不満があるわけではない。例え弟のことは下の名前で呼んでいようと、自分も同じように下の名前で呼んで欲しいとはあまり思わなかった。むしろその唇から紡がれるその何てことない二文字の音に、心が湧き立つことがある。
いや、湧き立つってなんだ。ただ名前呼ばれるだけだろ。思い当たったそれからなんとなく目を逸らしたくて、夏生は誤魔化すようにペンを動かした。そんな夏生の行動を不思議に思ったのか、肩越しにシンが覗き込んできた。
「えっ」
「何でセバって書いてんの?」
シンの顔がすぐそばにあって、その近さに思わず声を出してしまった。だけどシンは気にしている様子はなく、夏生の手元を見つめている。伏せるまつ毛に、こいつこんなにまつ毛長かったんだな、なんて思う。瞬きするたびに上下するそれに、なぜか目が離せない。他人のまつ毛の長さなんて、気にしたことなかったのに。不意にシンが夏生の方を向いた。
「?まつ毛がなに?」
「
……
別に」
「ふ〜ん。で、何で名前書いてんの?」
シンに心を読まれていたようで、でもうまく誤魔化せたことにホッとする。いや、ホッとするってなんだ。別にやましいことを考えていたわけではないのに。シンの興味は依然、高密度液体窒素爆弾に向いているみたいだ。
「なんでって
……
お前すぐなくしそ〜だから?」
「はあ?俺しっかりしてるで有名なんだけど?」
「え、どこが」
半笑いでそう返すと、漫画のような効果音がつきそうなほど分かりやすくシンが怒り始めた。
「怒んなって」
「その半笑いヤメロ!」
そもそも、武器のメンテナンスのために直接探し歩いたのも、夏生には意味がわからなかった。別に、あのままでもグローブの性能は悪くない。もちろん使用しているからメンテナンスは必要だろうけど、別にしなくてもいい。それなのにわざわざ探して、メンテナンスして、ほかの武器も渡して。自分が一体なにをしたいのか分からなかった。
夏生はバンコクへは行けない。手を負傷してしまっている自分が行っても足手纏いになることは分かりきっていて、それならば日本で情報を探るべきだから。だから、真冬を助けてもらうために、協力しているだけ。そう、シンたちに頼むしかないから、成功率を少しでも上げるために協力しているだけなのだ。どこか違和感を覚えながらも、そう自分を納得させる。
「わりーな、こんなにたくさん貰って!」
「別に。そのためにいろいろ作ってんだし」
「はは、素直じゃねー。でもサンキュー、セバ!」
ほら、やっぱりシンが紡ぐその二文字は、嫌でも夏生を高揚させる。こんなことを考えている余裕なんてないはずなのに、夏生は思ってしまうのだ。
渡した武器を使う時、少しでも自分のことを思い出せばいい、なんて。そんな、意味の分からないことを。
2023/7/31
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