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pinopipi
2026-05-18 23:07:05
99483文字
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交錯する恋花にレクイエムを②
ヌヴィフリ花吐き病の話②/長編/捏造しかない/何でも許せる人向け/メタ発言注意/ほぼ地獄のターン/一部キャラ崩壊注意
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その翌日。フリーナが璃月へと旅立ってから2週間後のこと。
フリーナはリフレッシュのための旅行を十二分に満喫し、満を持してフォンテーヌへと帰国した。
両手いっぱいにお土産を持ってルミドゥースハーバーからボートで霧の幽林道まで移動し、徒歩でルキナの泉へと繋がる道を歩く。そこから更に北へと歩き、ポート・マルコットから巡水船に乗ってフォンテーヌ廷へと帰って来た。道中、巡水船ガイドのエルファネは「フリーナ様、その
…
」と、何かを言いたげに話しかけてきた。フリーナは「どうしたんだい?」と、にこやかに続きを促してみたが、エルファネは言葉を詰まらせた後、「いえ
…
すみません、なんでもありません
…
。フリーナ様がお幸せそうなら
…
」と、どこか寂しそうな眼差しを向けただけだった。なんだか気不味い空気になり、フリーナは旅先で経験した面白い話に話題を変えたみたが、エルファネの曇った表情はあまり晴れなかった。故にフリーナはそれ以上は下手に話せず、先程の意味深な言葉の真意も聞くことができなかったが、終点で船を降りる前にお土産として璃月で購入したお菓子の包みをエルファネに渡した。彼女が何を気に病んでいるのか見当も付かなかったが、せめてこれで少しでも元気になってくれたら
…
と、そんな願いも込めて。
それからフリーナは、今回の旅行での楽しかった思い出をひとり回想しながら、ヴァザーリ回廊を闊歩する。
リズム良くヒールを鳴らし、鼻歌を歌いながらご機嫌に自宅までの道のりを歩いていると、すれ違う民が皆、どこか驚いたような
…
それでいて心配そうな眼差しをフリーナへと向けた。
しかし当のフリーナにはその理由に全く心当たりがなく、困惑した。先程のエルファネの様子といい、皆一体どうしたのだろう。フリーナは次第に今の自分は何かが変なのではないかと思い始め、気持ちが落ち着かなくなりーーーー小走りで自宅へと急いだ。
ようやく自宅に到着すると、ポストには2週間分の郵便物がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。その一番上には今朝の朝刊。フリーナは、旅行中の新聞を止めておくのを忘れてた
……
と、がっくり肩を落としながら家の鍵を開け、ひとまず玄関の中へお土産の紙袋を置く。次にポストの中身を全て取り出し、リビングのテーブルの上へどさりと置いた。仕事関連の手紙や、プライベートのもの、そして新聞やチラシなど仕分けをしようとしたフリーナは、まず郵便物の束の一番上にあった今朝の朝刊へ手を伸ばしーーーーその見出しに釘付けになった。
【最高審判官ヌヴィレット様 辞任】
大きく目立つその見出しに、フリーナは目を見開く。
ーーーー”ヌヴィレット”。
それは、旅先の璃月で胡桃と鍾離が言っていた名前だった。結局胡桃の勘違いではあったものの、初めて聞く珍しい名前のその人を、胡桃はフリーナの"愛しの彼"だと表現していた。一度も経験したことのない恋の話をせがまれた当時のフリーナはただただ困惑するのみだったが、"ヌヴィレット"という人物の"最高審判官"という高貴な身分を知った今、フリーナは大いに困惑した。
フォンテーヌのいち国民として、愛する我が国の国家元首の名を知らないなど、そんなことがあり得るだろうか。確かにここ3年間は仕事もプライベートもやたら忙しく、その間の記憶が曖昧だ。政治に関心を向ける暇もなかったので、"ヌヴィレット"様のことを知らなかっただけだろうか。だが、そんなことは言い訳にならない。これってかなり不敬なのでは?そもそも、鍾離は何故フリーナに"ヌヴィレット"様が元気にしているかどうかを尋ねたのだろう?会ったことがない以前に、ただの一般人のフリーナが「ああ、彼は元気だよ!」なんて、まるで親しい友人の近況を語るかのように気安く言える訳がない。身の程知らずにも限度ってものがある。それはあまりにも恐れ多く、やはり不敬罪になりかねない。
フリーナは思わず自身のメロピデ要塞行きを想像し、背筋が凍った。
気を取り直し、改めて新聞の一面記事へと視線を戻す。
"ヌヴィレット"様はどうやら、昨日付けで最高審判官を辞めたらしい。在任期間は500年近くにも及び、国家元首としては約3年間このフォンテーヌを治めたと書いてある。かなり大きなニュースだからか、新聞の一面どころか全ての頁がこのニュースで埋め尽くされていた。最高審判官の主な功績一覧も掲載されているが、それだけでなんと5ページも使われている。それらは小さな文字でびっしりと埋め尽くされているにも関わらず、”主な"と表現しているということは、つまり他にもまだまだたくさん輝かしい功績があるということだ。
………
すごい人なんだな。
流石に全てを読む気にはなれなかったため、一番最近の功績を見てみると、とんでもないことが書かれていた。最近やっとプネウムシアエネルギーに関する問題が全て解決してーーーー所謂、巨大な自家発電装置が開発されたらしく、それも"ヌヴィレット"様の発案で科学院と協力して推し進められていたのだと書かれていた。そして、驚くべきなのは発電以外のもう一つの機能。なんと、人工知能の搭載によって審判で判決を下すこともできるらしい。どんなに難解な事件であっても正確に公平な判決を下せるようになったので、必ずしも最高審判官は必要な役職ではなくなった。水神が退位してからは、"ヌヴィレット"様による独裁的な政治が行われてきたが、それが果たして民にとって公平なものであるのか、"ヌヴィレット"様本人には常に疑問があったようだ。だから、この度国全体の運営に関わる重大な課題が解決して一区切りがついたことを機に、最高審判官を辞任することを決意したのだと、"ヌヴィレット"様のコメント欄に書かれている。
新聞には最高審判官"ヌヴィレット"様のカラー写真が何枚か掲載されている。月光のような美しい銀色の長髪、シミひとつない滑らかな白い肌、朝焼け色の印象的な瞳、凛々しく整った顔立ち。豪奢なロイヤルブルーの法衣を身に纏い、如何にも偉い人という感じの威厳が写真からもよく伝わってくる。
ーーーーわぁ
……
とっても綺麗なひとだなぁ
……
。
思わず見惚れてしまった。掲載されているのはどれも証明写真のようにあまり表情のない写真であるのに、何故だか目が離せない。言うなれば、"ヌヴィレット"様の顔はフリーナの好みのタイプど真ん中であった。それはフリーナが、この世界に存在するはずがないと思っていた"理想の人"の容姿そのもので。そうと気付いた途端、急に写真のどれもがキラキラして見えた。鼓動が高鳴り、胸に甘い痛みを感じる。いつの間にやら頬が薔薇色に色付き熱を帯びていた。
それはまるで、初めて恋に落ちた乙女のようでーーーー
『フリーナ』
不意に、優しいテノールが頭の中に響いた。フリーナを呼ぶどこか懐かしいその声が、一体誰のものなのかは分からない。しかしどうしてだか、どうしようもなく泣きたい気持ちになった。
涙が頬を伝い、新聞紙に濃い染みを作る。それはぽたぽたと止めどなく溢れ、ついには"ヌヴィレット"様の写真にも涙が滴っていた。
するとその瞬間、ザーッと音を立てて視界にスノーノイズが広がった。その音は砂嵐というよりも、激しい雨音のように聞こえる。
やがてスノーノイズから視界が開けると、目の前には一度も会ったことがないはずの"ヌヴィレット”様がいて、儚くも優しい笑みを浮かべていた。それは新聞に掲載されていた威厳ある姿からは全く想像もつかない意外な表情。綺麗な銀髪も、白い肌も、それら全てに雨水が滴り、どこか泣いているようにも見えた。切なくも甘やかな色を湛えた朝焼けの瞳が真っ直ぐこちらを向いている。目を逸らせない。とても綺麗だ。しかも、その瞳の奥に映っていたのはーーーーー
「ーーーーーッ?!」
ズキン!と頭に鋭い痛みが疾る。まるで頭の中に心臓があるのではないかと錯覚するほど強い拍動を繰り返し、その度に激しい痛みがフリーナを襲った。
視界がぐにゃりと歪み、物が何重にも見える。次第に立っていられなくなり、フリーナはその場に崩れ落ちた。
まるで舞台の幕が降りるかのようにゆっくりとフェードアウトしていく意識。激しい痛みさえもどこか遠くなっていく。
そしてフリーナは、完全にその意識を手放した。
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