pinopipi
2026-05-18 23:07:05
99483文字
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交錯する恋花にレクイエムを②

ヌヴィフリ花吐き病の話②/長編/捏造しかない/何でも許せる人向け/メタ発言注意/ほぼ地獄のターン/一部キャラ崩壊注意


メロピデ要塞へ訪れたフリーナ、ナヴィア、クロリンデは、まずは管理者のリオセスリにシグウィンとの面会許可を得て医務室を訪ねた。リオセスリには一応医務室の人払いと監視を頼んだが、幸いその場では深い事情までは聞かれず、二つ返事で了承を得た。

「こんにちは、看護師長。久しぶり。今良いかな?」
「フリーナ様!体調は大丈夫なの?何度かお宅を訪ねたのだけれど、ずっと不在だったから心配していたのよ。」

シグウィンはフリーナの顔を見た瞬間、フリーナの元へと駆け寄り、診察台へと誘導した。フリーナを座らせて問診を行い、全身状態を観察し、丁寧に診察をする。

うん。大丈夫みたいね。少し疲労が見られるけれど、今のところ大きな異常はないのよ。」
「そっか、良かったぁ。」

シグウィンの笑みに、フリーナはホッと胸を撫で下ろす。
ナヴィアとクロリンデも安堵し、肩の力を抜いた。

「シグウィン、心配を掛けてしまってごめんね。実は、あれから色々なことがあって。今日はキミに話したいこと……謝らないといけないことがたくさんあるんだ。」
「ううん。ウチはフリーナ様が元気ならそれで良いのよ。それで、どうしたの?一体何があったのかしら?」

フリーナは、外で見張りをしているリオセスリにも話を聞いてもらいたいと伝え、クロリンデに呼んで来てもらった。

まずは、抑制剤を貰いに来たあの嵐の夜、嘘を吐いたことをシグウィンへ謝罪した。抑制剤をどの様に使用していたかも、正直に話した。
そして、先程ナヴィアとクロリンデにも読んでもらったノートをシグウィンとリオセスリに手渡し、同じように事の経緯と今の状況を説明した。

シグウィンとリオセスリは、フリーナが話す衝撃的な内容の数々に瞳がこぼれ落ちそうな程目を見開き、言葉を失った。
フリーナの話を全てを聞き終えると、シグウィンは「まぁなんてこと!」と狼狽え、リオセスリは両手で髪を掻き乱し頭を抱えた。
それからすぐに2人は、昨日ヌヴィレットが残して行った願いの真意を理解し、あからさまに苦い顔をした。

「まさか、ヌヴィレットさんも花吐き病だったなんて!!ウチあんなに傍にいたのに気付いてあげられなかったっ!」
シグウィンさん、どうかご自分を責めないで。ヌヴィレット様はパレ・メルモニアでもご自身のご病気について隠されていた。おそらく、あの方は実の娘のように思っているシグウィンさんには特に心配をかけまいと細心の注意を払っておられたのだろう。セドナさんに対してもそうだった。明らかにお加減が優れない時も、私達は一切詮索を許されなかった。」
「クソッ!あの人、『ひとり気ままに旅をしてみようと思っている』とか呑気に言っていた癖に全部嘘だったのかよ!急に仕事を辞めたのは他に何か事情があるんじゃないかとは思っていたが、まさかここまでとはな。最後まで目をキラッキラさせながらフリーナ様のオタク語りキメてたってのに、裏ではフリーナ様から自分の記憶を消してたって!?そんな身の引き方アリかよ!?」
「ちょ、ちょっとリオセスリ?あんたってそんなキャラだっけ?ていうか、ヌヴィレットさんがフリーナのオタク語りキメてたっていう部分、もっと詳しく聞かせてちょうだい??」

リオセスリは、ヌヴィレットとシグウィンの3人でお茶会をした日にヌヴィレットが語っていた内容を話した。
シグウィンは、うんうん、と頷きながら聞いている。
ナヴィアはあまりのガチさに「わーお」とドン引き、クロリンデは「まぁ、あの方ならそうだろうな」と納得の表情を浮かべていた。

「まだまだネタは山のようにあるが、それは結婚式のスピーチ用に取っておくと決めているんでね。フリーナ様、是非楽しみにしていてください。」

リオセスリがフリーナへ生温かい視線を向けると、フリーナの視線は既に真下を向いていた。湯気が立つほど顔を真っ赤にして、ぷるぷると震えている。

「け、けけけ結婚は気が早過ぎるんじゃないかな?!まずはヌヴィレットを見つけて、両想いなんだってことを彼に分かってもらわなくちゃいけないからね!」

フリーナはコホン、と咳払いをして、リオセスリを見た。

公爵、ヌヴィレットから行き先について何か聞いていないかい?どこに行きたいとか、何をしたいとか、会いたい人食べたいものでも良い。手がかりになるようなことを何か言っていなかったかな?」

しかし、リオセスリは申し訳なさそうに静かに首を横に振った。

「いえ。ヌヴィレットさんはあの時、『まだ何も決めていない』、『国外の事にあまり詳しくないから何処に何があるのかよく分かっていない』、『気の赴くまま様々な場所に足を運んでみる予定』としか言っていませんでした。」
「そっか。じゃあ普段と何か変わった様子はなかったかい?どんな些細なことでも良いんだ。もし気が付いたことがあれば教えてほしい。」

リオセスリは顎に手を添えて回想する。確か、何か違和感を感じたことがあったような気がする。それは一体何だったか

「あっ、そういえば公爵、ヌヴィレットさんから柑橘系の香りがするって言っていなかったかしら?普段つけている香水と全然違う、って。ウチはヌヴィレットさんがバブルオレンジティーを飲んだからかもしれないって思ったのだけれど、もしかして、何か違う理由があったのかも。」
「ああ、そういえばそうだったな。ヌヴィレットさんが普段愛用している香水について、フリーナ様の方が断然お詳しいと思いますが、あの人柑橘系の香水なんて使ったことありましたか?紅茶のフレーバーにしては香りが濃く、あの人の衣装全体に染み付いているような感じでした。」

シグウィンとリオセスリの証言にフリーナは首を傾げながら考えた後、すぐに首を横に振った。

ううん、ヌヴィレットは柑橘系の香りがする香水を使っていたことは過去に一度もないよ。そもそも、柑橘系がメインの甘酸っぱい香りは、威厳を纏う彼のイメージには全く合わないからね。」

ヌヴィレットが長年愛用している香水は、かつてフリーナがヌヴィレットのためだけに調香師に作らせた特注品である。超熟練の調香師しか作ることのできない逸品であり、もちろん価格も、一般向けに販売されている香水の何十倍もする最高級のもの。フォンテーヌ紳士として全ての民の模範となるよう願いが込められたそれは、フォンテーヌでしか採取できない非常に貴重で上質な素材だけを使用し、極めて繊細で複雑な工程で作られている。結果、威厳を示しつつも、彼の正しく心優しい一面もほんのり表現したような、とても品の良い香りがする。彼はフリーナが退位した後もそれと同じものをエミリエに発注し、使い続けていたはずだ。
しかし、シグウィンとリオセスリに続いて、クロリンデも証言をする。

そのことに関しては私にも覚えがあります。言われてみれば確かに最近ーーー特にフリーナ様が璃月へご旅行へ行かれた後は、ヌヴィレット様から柑橘系の香りがしました。もしかして、フリーナ様がいない寂しさを埋めようと今流行りの"フリーナ様の概念香水"を使われているのでは?と思っていましたが。冷静に考えれば、あの方が公務中にそれを身に纏うのは流石に不自然ですね。」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってクロリンデ?!僕の概念香水って、何?!」
「ご存知ないのですか?今、フリーナ様のファンの間でとても流行っています。エミリエさんのお店で買えるのですが、現在は欠品中で、予約しても半年待ちです。」
「それならあたしも知ってるわ。ファッション雑誌で紹介されていたわよ。その香水は柑橘系の香りがするらしいんだけど、実は花の香りなんだってね。えーっと
「ミオソティス・ミオマルクだ。フリーナ様はこの花に例えられ、『夢境に咲くミオソティス・ミオマルク』の異名で知られています。通常、ミオソティスには殆ど香りがしないそうですが、その仲間の品種であるミオソティス・ミオマルクは柑橘系の香りがするそうです。丁度今、現物が手元にあります。」

「こちらです。」とクロリンデは懐から淡いブルーの美しい香水瓶を取り出した。
フリーナは、なんでキミがそれを持ち歩いているんだ?!ーーーと、一瞬ツッコミそうになったが、クロリンデはフリーナの大ファンだと公言しているのだから当然と言えば当然である。
ーーーそれよりも。フリーナは、その香りの方に興味を示した。
クロリンデは、皆の手背に1プッシュずつ吹き掛ける。そして、各々その香りを確認した。

「ああ確かにこんな感じの香りだったな。これは他の香りも混ざっているから時間の経過で変わっていくだろうが、ヌヴィレットさんのは長時間柑橘系の香りが変わらず強く残っている状態だった。微かにいつもの香水の香りもしたが、あの時はもう夜だったから、いつものはもう殆ど残っていなかっただろうな。」
「確かに。あの日ヌヴィレットさんが纏っていた香りはバブルオレンジティーじゃなくて、ミオソティス・ミオマルクのものだと考えた方が自然ね。公爵の言う通り、香りの変化がなかったならヌヴィレットさんはフリーナ様の香水を使っていた訳ではなさそう。それに、普段の香水と合わせてつけるはずがないもの。ただ、ヌヴィレットさんは皆に花吐き病を隠したかったはずのに、ミオソティスの香りを隠そうとしなかったのは何故かしら考えられるのは、ヌヴィレットさんが吐いていた花がミオソティスであることと……嗅覚が慣れてしまって、ヌヴィレットさん自身が気付かなかったからなのかも?」
「そうね、そうかもしれない。ねぇ、フリーナ。あんたが吐いてたのはロイヤルブルーの花だったけど、ヌヴィレットさんのはどんな花だったの?そもそも、人によって花の品種に違いはある?」
「えぇと僕のはヒヤシンスっていう花なんだけど、彼のはまた別の淡いブルーの花だったよ。でも、あまり見ない花だったから名前までは分からないな。」
「フリーナ様、こちらをご覧ください。小さなイラストですから細部までは分かりにくいですが、このような花でしたか?」

クロリンデは香水瓶に貼られたラベルに描かれた花をフリーナへ見せた。
するとフリーナは「そう、これだ!」と香水瓶のイラストへ指を差した。

なるほど。やはりあの方はフリーナ様を心から想われている。あなた様の異名となっている花を吐かれるとは……確かにあの状況では意地でも隠し通す必要があったのでしょう。それは病によるご自身の立場への影響や、周囲へ心配を掛けないようにするための配慮だけではありません。あなた様のファンであれば、誰しもがこの花を見ただけで気付いてしまいますから。……"ヌヴィレット様はフリーナ様に恋をしている"のだと。」
…………!」

フリーナは、的確なクロリンデの推察に息を飲んだ。

「はぁ、あの人本当に健気だよなぁ。」
「そうね。やっぱりヌヴィレットさんはフリーナ様のことが大好きなのよ。」
「自分がどれだけ辛くても相手の幸せを優先するって、なかなかできることじゃないわよね。」
「ああ。私たちは、おふたりに幸せになってもらいたいと思っているというのに。」

クロリンデは一度ゆっくりと瞬きをして、フリーナを見つめる。医務室の灯りが、一瞬ゆらりと小さく揺れた。

ミオソティス・ミオマルクにはこんな花言葉があります。【真実の愛】、それから【私を忘れないで】。……ヌヴィレット様がこれをご存知だったかどうかは分かりませんが……

クロリンデは表情を歪め、それ以上は言い淀んだ。
フリーナは、ぎゅ、と両手を胸の前で強く握り締める。そして、その花言葉について考えた。

フリーナがヌヴィレットへ架空の恋を語っていた間、ヌヴィレットが話してくれていたのは全てフリーナのことーーーつまり、【真実の愛】だった。
それなのに。【私を忘れないで】という意味の花を吐きながらも、ヌヴィレットはフリーナから彼自身に関する記憶を全て消したのだ。その時の彼の気持ちを想像すると、胸が張り裂けそうなほどに苦しくなる。一体どれだけ悲しくて、辛かっただろうか。
目頭が焼けるように熱を持ち、今にも涙が溢れそうになるのを必死に堪える。
ヌヴィレットが吐いた花の名前や花言葉にもっと早く気付いていれば、こんなことにはならなかったのかなと、フリーナは唇を噛み締めた。しかし、過去に囚われ嘆いていても明るい未来ーーー幸福は掴めないことなど、とっくに理解している。

少し急いだ方が良さそうね。服に濃く香りが染み付くほど頻繁に、たくさん花を吐いていたってことでしょう?」
「そうだな。いくらあの人が特殊な体質とはいえ、この状況が長く続くのは流石にキツいだろ。」
「ヌヴィレットさんが心配だわ!ウチ、ヌヴィレットさんを捜すのをお手伝いするのよ!フォンテーヌ廷にいる皆と、村の皆にも協力してもらえないか声をかけてみる。」
「あたしも、棘薔薇の会から出来るだけ多めに人員を配置できるよう調整するわ。色んな伝手を使って、ヌヴィレットさんの目撃情報がないか手当たり次第探ってみる!」
「俺は要塞外の監視システムにそれらしき人影がないか確認します。もしかしたらあの人、泳いで近くを通ったかもしれないからな。」
「私はセドナさんや他の職員に掛け合ってパレ・メルモニア内や歌劇場内を調査します。もしかすると、ヌヴィレット様のお部屋に何か手掛かりになることが残されているかもしれません。1日でも早くヌヴィレット様を見つけ出しましょう。」

全員がフリーナの方へと向き直り、真っ直ぐな強い眼差しを向ける。
その心強い言葉の数々に対し、フリーナは呼応するように力強く頷く。
そして。色違いの青を潤ませながら、静かに口角を上げた。

うん、ありがとう皆!僕もう二度と誰にも自分自身の気持ちにも、嘘は吐きたくない。だから、もう一度ヌヴィレットに会ってーーー絶対に、この病気を治すんだ!」