pinopipi
2026-05-18 23:07:05
99483文字
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交錯する恋花にレクイエムを②

ヌヴィフリ花吐き病の話②/長編/捏造しかない/何でも許せる人向け/メタ発言注意/ほぼ地獄のターン/一部キャラ崩壊注意


〜秘密の幕間、とある午後のひととき〜


メロピデ要塞、公爵の執務室。
ヌヴィレットは別れの挨拶をするため、お忍びでこの場所へ訪れた。
今では親友と呼んでも差し支えないほど親しい仲になったリオセスリ。そして愛娘のシグウィン。この2人に会いに来たのだ。
リオセスリは執務机の椅子に、ヌヴィレットとシグウィンは備え付けのソファーに並んで腰掛け、それぞれが好む飲み物を手に持ちながら3人での最後のアフタヌーンティーを楽しんでいた。

なぁ、ヌヴィレットさん。あんた、本当に辞めちまうのかい?」

リオセスリは少し名残惜しく思う気持ちを込めて、ヌヴィレットへと問いかける。

ああ。突然のことで申し訳ない。君にも迷惑を掛けることになるな。」
「いや、謝ることはないさ。仕事を続けるのも辞めるのも、あんたの自由だからな。最高審判官の辞任は認めないなんて法律はどこにも無いだろ。それにあんたの部下は皆優秀だ。あんたがいなくなっても、仕事は回るようになるさ。ただ、最高審判官の仕事に誇りを持っていたあんたに一体どんな心境の変化があったのかが気になっちまったんでね。差し支えなければ理由を聞いてもいいかい?」

リオセスリはティーカップを片手に、更にヌヴィレットへと視線を送る。
ヌヴィレットは水の入ったマイグラスをテーブルへ置き、リオセスリを見上げた。

凡そ500年もの間、私はこの国の最高審判官として様々な経験をしてきた。しかし、そろそろフォンテーヌだけでなく、より広い世界に目を向けてみるべきだと思ってね。予言によって混乱していた国内の情勢は落ち着き、諭示機に替わる装置が完成したことで私が担わなければならない業務はほぼ無くなった。国を出るには良い機会だと思ったのだ。辞任後はひとり気ままに旅をしてみようと思っている。」
「へぇ旅か。確かにあんたは忙し過ぎてなかなか外に出る機会がなかったもんな。休暇だって殆ど取ってなかったんだろ。国の情勢的に今がチャンスってのも正しい判断かもな。」

リオセスリは納得した様子で紅茶を一口飲む。
しかし、シグウィンだけはひとり暗い表情を浮かべていた。2人の会話を聞きながら、ミルクセーキが入ったグラスを持つ両手にぎゅっと力を込める。

ヌヴィレットさん……フリーナ様と同じようなことを言うのね。」

シグウィンは寂しそうな目で、隣に座るヌヴィレットを見つめた。

……フリーナ殿が?」
「うん。あの子もね、広い世界に目を向けるべきだと思った、って言っていたのよ。だけどウチ、やっぱり寂しい。ヌヴィレットさんとフリーナ様はずっと一緒にいたのに離れ離れになってしまうなんて……。」
………

ヌヴィレットはシグウィンの言葉にどう返せば良いか分からず、言葉を詰まらせ視線を落とした。
シグウィンはヌヴィレットの外套の裾をきゅっと掴み、ルビーのような赤い瞳を揺らしながら朝焼けを見上げる。

「ねぇ、本当にひとりで行ってしまうの?ヌヴィレットさんはフリーナ様のことが大好きなのウチずっと前から知っていたから。フリーナ様にも事情があるのは分かっているわ。でも、本当に諦めてしまうの?ウチはヌヴィレットさんにも幸せになってもらいたいのよっ
……っ、」

普段は相手の気持ちを尊重する姿勢を崩さないシグウィンが、珍しくありのままの感情を表出したことに、ヌヴィレットとリオセスリは驚いた。
ヌヴィレットのことを血の繋がった実の父親のように慕うシグウィンにとって、ヌヴィレットがまるで自ら進んで身を引くかの如く遠くへ行ってしまう現実は非常に耐え難いものだった。
今にも泣きそうなシグウィンと、黙り込んだまま何も返せずにいるヌヴィレット。2人の間に痛いくらいの沈黙が流れる。

一方、リオセスリはシグウィンの言うフリーナの事情が一体何なのかが分からず、ひとり蚊帳の外状態だった。しかしそこでリオセスリは、あの嵐の日の夜にフリーナがメロピデ要塞へお忍びで訪れた日のことをふと思い出す。要塞全体に箝口令を敷いたあの日、フリーナが訪れた理由は何だったか。
…………まっ、まさか、なぁ………
改めて思い返してみると、リオセスリは"ある可能性"について思い至り、サーッと血の気が引いた。
フリーナはあの日、自身の体調不良の理由について"レディ特有のデリケートなもの"だと話していた。当時リオセスリはそれをあまり特別なものだとは捉えていなかった。というのも、フリーナから"例え最高審判官であっても他言するな"としっかり釘を刺されたのは、いくら親しい相手であろうとフリーナの症状を本人以外が他者に話すのはーーー特に異性に対してはマナー違反であるからだと解釈していた。
ところが実際そうではなく、もしもし、フリーナが、
ーーーーご懐妊していたんだとしたら……?!
リオセスリは頭を抱え、両手でグシャリと髪を乱しながらその日の自身の対応を思い出す。冷え切ったフリーナの身体を温めるために急いで上等な毛布を用意させたのも、シグウィンの診察中に人払いと見張りをしたのも、帰りは人目のつかない道を選びつつフリーナが雨風に当たらないよう自宅まで丁重に送ったのも、あの時自分が出来る最も適切な対応だった。大丈夫、何も問題は無い。無かった筈だ。
ふぅとリオセスリは安堵の息を漏らした。しかし、その相手は一体誰かーーーと考えようとして、リオセスリは我に返った。勝手な憶測をするのはフリーナに対して失礼だと、リオセスリはそれ以上考えることを止めた。ていうか俺、気持ち悪過ぎだろ申し訳ありませんフリーナ様……と、リオセスリは心の中でフリーナへ土下座した。
そして、ヌヴィレット自身も何らかの複雑な事情ーーーさすがにもう深く探るようなことは考えないーーーを抱えていることを察する。
横目で2人の様子を伺うと、シグウィンがまた何かを言おうと口を開きかけたことに気付き、リオセスリはそれを止めるべく静かに制止の声を掛けた。

看護師長、それ以上はやめておいた方がいい。ヌヴィレットさんが困ってる。」
っ、ごめんなさい。ウチ

シグウィンは口を閉ざし、俯いた。
しかしヌヴィレットは逆に俯きかけていた視線をシグウィンの方へと戻した。

いや、ありがとう。君は繊細で心優しい子だ。……私が自覚するよりも随分前から、私の気持ちに気付いてくれていたのだな。……不甲斐ない父ですまない。だが、どうか悲しまないでほしい。私は何も、フリーナ殿と離れることを悲観的に考えている訳ではないのだ。私は彼女が人として幸せになることを何より願ってきた。それは今でも変わらない。例え遠く離れた地に居ても、彼女が幸せであるならば、私もそれを幸せに思う。」

ヌヴィレットは申し訳なさそうに眉を下げ、シグウィンの頭を優しく撫でた。
シグウィンは瞳に悔しさを滲ませ、そのまま静かに唇を噛み締めている。
リオセスリは"彼女が人として幸せになる"というワードを聞いてうっかり先程の憶測の続きをしてしまいそうになり、慌てて自制し思考を振り払った。
それからまた沈黙が流れ、あまりにも重苦しく湿気った空気と、先程の勝手な憶測による気不味さでリオセスリはこれ以上ない程の居心地の悪さを感じ、話題を切り替えた。

で、ヌヴィレットさん。最初は何処に行く予定なんだい?旅に出るっていうからには行きたい場所があるんだろ?」
「ふむ実はまだ何も決めていないのだ。私は国外の事にあまり詳しくないため、何処に何があるのかよく分かっていない。なので、気の赴くまま様々な場所に足を運んでみる予定だ。」
「そうかい。そりゃあ楽しい旅になりそうだな。旅先でのあんたの幸運を祈ってるぜ。ああ、もし珍しい品種の茶葉を見つけたらメロピデ要塞まで送って貰えるかい?俺もなかなか外に出られる機会がないんでね。外国の茶も是非飲んでみたい。」
………だが、リオセスリ殿。あまり茶を飲み過ぎてはまた結石が………
「そうよ、公爵。1日の摂取量は1杯まで、ってこの前ウチと約束したでしょう?それなのに、期限までに飲みきれないほどたくさんの茶葉を買い込んでいるじゃない。だから今ある茶葉を使い切るまで、新しいものは買わないこと。尿路結石が出来たらとっても痛いってこと、公爵は何度も経験しているからよく分かっているでしょう?それに結石を排出するためには、またお水をたくさん飲まなくちゃいけなくなるのよ。前回、お水だけしか飲めない生活はもう嫌だ、って言っていたじゃない。」
「ヴッ………………はぁ、分かったよ看護師長……。」
「リオセスリ殿、君は水の何が不満なのかね。水は産地ごとに全く異なる風味や味わいがあると、そう何度も伝えてきた筈だがまだご理解いただけていないと?」
「いいや、それは誤解だ。俺はあんたほど味の区別がつく訳じゃあないが、水は紅茶の次に大好きなんでね。」
では、シグウィンが虚偽の証言をしたと?」
「おいあんた、なんで光り始めて……ッ!?ちょ、待て待て待て!!元素爆発は勘弁してくれ!!ここの水捌けの悪さはあんたもよく知ってるだろ?!その杖を今すぐに仕舞ってくれ!!」
「私は水のある場所を好む故、何も問題はない。」
「だあああッもう!俺が悪かった!謝るから許してくれ!!看護師長ッ今すぐヌヴィレットさんを止めてくれ!!」
「ヌヴィレットさん、落ち着いてちょうだい。公爵の執務室から突然水が溢れ出したら、みんなが混乱してしまうのよ。」
「む、そうだな。シグウィンの言う通りだ。やはり止めておこう。」

ヌヴィレットは光るのを止め、愛用している杖を仕舞った。

「はぁ助かった………。って訳でヌヴィレットさん、悪いが茶葉は2年後くらいに送って貰えると嬉しい。……あと、茶葉に合う水も見繕って貰えると助かるよ。」
「ダメよ。公爵の茶葉コレクション、あと3年分はあるんだから。」
………
「ふっ、さすがはシグウィン、抜かりないな。リオセスリ殿、今後もシグウィンの言うことはよく聞くように。」
「はいはい、分かったよ……。はぁ……。」
「公爵。"はい"は1回でいいのよ。」
………ハイ。」

先程の湿気った空気は何処へやら。ヌヴィレットとシグウィンはすっかりいつもの調子に戻った。しかし、リオセスリはその代償として執務室水浸しの一歩手前まで追い込まれ、更には新しい茶葉の購入も禁止されてしまい、分かりやすく項垂れた。

その後も3人のお茶会は続く。これで最後とは思えない程、いつも通りの光景。立場上普段は他者の前では殆ど自我を出さない3人が、時折冗談を交えながら愉快な会話を繰り広げる。和やかな空気の中、気付けば3人とも柔らかな笑みを浮かべていた。
リオセスリがふと時計を見やると、長針があと半周程で別れの時間となってしまうことに気付き、ひとつヌヴィレットに確認したいことがあったのを思い出す。

「なぁ。あんたの後任についてだが、暫くは誰も置かないって本当なのかい?」
「ああ。私が直接、適正のある審判官数名に打診してみたのだが、全員に断られてしまってね。パレ・メルモニア全体の会議でも話し合ったが、誰一人として名乗り出る者はおらず……いや、正確には名乗り出た者がいるにはいたのだが、過半数から不信任票を得てしまい、当面の間は最高審判官の席には誰も置かないことに決まった。いずれは最高審判官、若しくはそれと同等の権力を持つ新たな役職を立てることになるとは思うが、その辺りは全て後の者達に任せることとする。なので、今後もし業務上何か問題が生じた際は、各部署の責任者へ直接問い合わせてもらいたい。不便を掛けてしまい申し訳ないが、よろしく頼む。」
「あ〜なるほどなぁ。そりゃあ在任期間500年のあんたの後釜なんざ凡人には荷が重過ぎるだろうし、新しいトップを据えたとしても周りが受け入れられないってのも分かる気がするな。もし仮に俺があんたの部下で『最高審判官にならないか』って直々にご指名を受けても、全力で断る。今後の上の体制とトラブル時の対応については了解だ。まぁなんとかなるだろ。なるべく面倒事にならないよう上手くやるよ。」

しかしリオセスリの返答に、ヌヴィレットは数十秒間考えるポーズで黙り込む。そして、至って真剣な眼差しをリオセスリの方へと向けた。

「ふむその手があったか。確かにリオセスリ殿であれば私も安心して引き継げる。どうかね。最高審判官になる気は?」
「おいおいあんた、俺の話ちゃんと聞いてたか?俺はここの管理だけで既にいっぱいいっぱいなんだ。信頼を寄せてもらっているのは有り難いが、丁重にお断りさせてもらう。勘弁してくれ。」
「そうか……非常に残念だ。だが、もし私の辞任の日までに気が変わった場合は直ぐに教えてほしい。君の管理者としての能力と実績は実に素晴らしいものだ。水の上の皆もきっと、君を長として受け入れてくれるだろう。」
「おぉ今日はやけに食い下がってくるねぇ。あんたにしては珍しい。やっぱり、辞任後のことが心配なんじゃないのかい?でも悪いな、法廷を仕切るなんて難しい仕事は俺には向いていない。ましてやこの国を背負うなんて荷が重すぎる。唯一あんたの後釜を担える人物といったらフリーナ様ぐらいじゃないか?昔はあんたの代わりに審判官席に立ってたこともあるんだろ?」
「あっ、公爵、それは

シグウィンの指摘は最後まで言葉が紡がれなかったが、おかげでリオセスリはやっと自身の失言に気が付いた。
しまったと小さく声を漏らす。だが、言ってしまったものはもう取り消せない。まずい、これは長くなるーーーーと、そう思い、慌てて話題を切り替えようとしたその矢先、ヌヴィレットは朝焼けの瞳を爛々とさせながら語り始めた。

「そうだな。確かにフリーナ殿であれば全ての事が上手く運ぶだろう。君の言う通り、私が最高審判官に就任する以前や、私が証人席に立たなければならなかった審判等においては、フリーナ殿が審判官としてその席に立つこともあった。予言が解決した今では君も理解していると思うが、彼女はああ見えて根がとても真面目でね。法衣を身に纏えば、審判の進行を厳かに、卒なくこなす。どれほど難解な事件も、公平かつ丁寧に審理し、正しく判決を下す。その時の彼女の凛々しい姿は今でも鮮明に私の記憶に残っている。彼女は普段から美しい人だが、審判官席に立った時の彼女は、役者として舞台に立つ時とはまた異なる美しさがあり、目が眩む程に強い輝きを放っていた。私はそんな彼女の全てに魅了されている。近年、彼女は高みの水神席より時折審判の内容とは直接関係ないことを質問する等、エンターテイメント性を重視した言動をとるイメージが強く根付いているが、しかし彼女はこのテイワットで最も優れた役者だ。いつ何時も自身の役に合わせた最適なパフォーマンスをする。それは彼女のセンスと並々ならぬ努力によるもので、それら2つを合わせ正に天性の才能といえるだろう。故にフリーナ殿が審判官を務める美しき姿を一度も見た事がないというのは、それだけで生涯における多大な損失であると言っても過言ではない。場内全体に響き渡る芯の通った清らかな声も、真実を見極めようとする鋭い眼差しも、予期せぬ状況においても一切動じぬ冷静な精神も、それら全てが非常に見事なものだった。彼女には審判官としての適正があると、私はそう認めている。そもそも、私の理想とする審判官像は元よりフリーナ殿なのだ。凡そ500年程前、私は十数年を掛けて彼女から全てを教わったのち、彼女の推薦で最高審判官へと就任することとなったが、私は就任後長らく、かつて見た彼女の審判官姿を模倣していたに過ぎなかった。その結果、徐々に民からの信頼を得ることができるようになり、ようやく現在のような形に落ち着いたのだ。だが、私は現在でも彼女には敵わないと思っている。私の個人的な願望を述べるとするならば、可能であればもう一度彼女の審判官姿が見たい。それ故にリオセスリ殿の意見を採用できればどれ程幸福なことであろうか。しかし、彼女はもう全ての責務を果たし、政や司法の場から離れ、何処で何をするのも自由の身だ。普通の人間が得られる幸福をもれなく享受する権利が、今の彼女にはある。私は、彼女には誰よりも幸せになってもらいたいのだ。これから先は孤独や悲しみ、そして心身に一切の苦痛を感じることなく、生涯健やかで居てもらいたい。人の悪意など及ばぬ陽だまりの中で、絶えず笑顔で居てもらいたい。故に、彼女を最高審判官に推薦するという選択肢は、元より私には無いのだ。」

ヌヴィレットは自らの赤裸々な想いを語り切った後、満足げな表情を浮かべ、そこでやっと息を吸った。
シグウィンは、うんうんと頷きながら慈愛の笑みを浮かべている。ヌヴィレットさんのこういうところが可愛いのよね。と思っている様子がありありと伝わってくるような表情をしていた。
一方、リオセスリはその顔に生温かい笑みを貼り付けたまま、何処か遠くを見ていた。
その心は。

ーーーーなっっっっっっっげえよ!!こんの、フリーナ様業火担最古参ファンムーブ限界オタクが!!

心の中で思わずそう突っ込みを入れてしまった。そう、リオセスリは普段からヌヴィレットの惚気話(※超絶天然無自覚)の一番の被害者なのである。ヌヴィレットによる"必殺★人外トンデモ肺活量息継ぎ無し熱烈オタク語り"はいつものことではあるが、今回は特に長かった。声に出して本人にツッコミをブチ撒けなかっただけ偉いと、誰かこの公爵を褒めてやってほしい。

ーーーーそれにしても。
なんでフリーナ様の告白を3年間もずっと断り続けたんだこの人は!?本当に意味が分からないんだが?!何が『私ではフリーナ殿を幸せにすることは出来ない』だ言い訳すんな!!いつもは変なところで自尊心強強プライドの塊みたいな態度してる癖になんで恋愛に関してはそんな弱腰で自己肯定感皆無なんだよ!?もう良い加減にしてくれ!!あんたらに何があったかは知らないがこの世で一番フリーナ様のことが好きなのは間違いなくぶっち切りであんただろ!!天理だってドン引くくらいの超ド級の執着心抱えて挙句の果てには世界に一つだけの特別な神の目ーーーいや龍の目まで授けちまった癖に何言ってんだ!?あんたの鋭い牙みたいな意匠でモロバレなんだよ!!更にメタいことを言わせてもらうとなぁ戦闘性能だってあんたと最高に相性が良くなるように設定しただろ!!お揃いの水元素で共鳴かつあんたのテンション上げ上げでめちゃくちゃ強くなってるの絶対個人的な感情によるものだよな?!なーにが公正無私だこんなの私欲の極みだろ!!武器だって仲良く2人だけで同じシリーズのものを使って未だに弓両手剣長柄武器が存在しないのちょっとおかしくないか?!フリーナ様がトップだった時代ならああこれは高貴な人しか持てない武器なんだなって理解出来るが今はただあんたの独占欲が表れてるだけだろ!?他国の神の武器シリーズのラインナップから見ても国のツートップだけ♡お揃い♡なんてそんなことが罷り通ってるのはフォンテーヌぐらいだぜ?!まぁ今更新武器が出たところで誰も使おうとは思えないだろうがな!!鍛造する鍛冶屋も恐れ多いだろうよ!!ていうかそんなに好きなら今すぐフリーナ様に会いに行って泣く子も黙るようなそのクソデカ感情ー𝑩𝑰𝑮 𝑳𝑶𝑽𝑬ーを本人に語り尽くしてスチームバード新聞の一面を飾るような盛大なプロポーズをして来いよ!!そんでもって早く結婚しろ!!今のあんたならまだ自分で婚姻届を受理出来るし最速で入籍可能だろ!!挙式には絶対呼んでくれよ!?友人代表スピーチは俺に任せな!!良い機会だから今まであんたから散々聞かされてきた惚気話をフリーナ様と参列者全員に全部暴露してやるぜ!!はぁぁぁ末永くお幸せになりやがれくださいーーーーーー

心の中でならリオセスリとて息継ぎ無しで文句が言える。リオセスリの脳内にはもう、雲ひとつない晴天の下で純白に身を包み仲睦まじく幸せそうに寄り添うヌヴィレットとフリーナの姿しか想像できなかった。しかし現実では全くと言っていいほど2人の仲は進展せず。しかもヌヴィレットは間もなくひとりでフォンテーヌを離れ、何処へ行くかも分からないという、恋愛的には極めて絶望的な状況。リオセスリはこれ以上ないほどヤキモキしていた。
そんな荒れに荒れたリオセスリの心情など露知らず、ヌヴィレットとシグウィンは呑気に談笑を続けていた。
飲み終わったグラスをテーブルへ置き、時計を見ると時刻は既に定刻を回っていた。

そろそろ時間だな。すまない、つい長居をしてしまった。」
「ううん、いいのよ。むしろ、もっとお話ししたかったわ。今日は急に体調が悪くなった患者さんがいなかったから時間は全然大丈夫。公爵だって今日のために仕事を前倒しで頑張っていたの。今日、こうしてヌヴィレットさんに会えて本当に良かったわ。」
ありがとうシグウィン。リオセスリ殿。」
「あんたが居なくなっても、仕事に関しては上と協力して上手くやるから安心してくれ。まぁ、腹を割って話せる茶飲み友達が減っちまうのは寂しいけどな。」
「ああ。すまない、私も君達と過ごす時間はとても心地よく、楽しいものだった。君達のことは生涯忘れないだろう。」
「ははっ!それは身に余る光栄だ。旅、楽しんでくれよ。今のあんたなら何処に行っても上手くやっていけるだろ。」
「最後の日はウチと公爵も見送りに行くからね。まだ仕事が残っているみたいだけれど、無理はしないでね。旅だって身体が資本なんだから。」
「ありがとう。……では、また。」

ヌヴィレットはリオセスリとシグウィンへ軽く会釈をしてから踵を返し、公爵の執務室を出た。
執務室は2人だけとなり、途端にシンと静まり返る。
その場に残ったのは、愉快な茶会の余韻と、別れの物寂しさ。そしてーーーー

………なぁ、看護師長。ヌヴィレットさんって普段、柑橘系の香水なんて付けてたか?」
「え?公爵、どういうこと?」
あの人、普段はもっと上品な香りを纏っているだろ?だが、今日のヌヴィレットさんからは少々"らしくない香り"がしたんでね。いや、俺の気のせいかもしれないが。」
「ウチ、ずっとヌヴィレットさんの隣に座っていたのに全然気付かなかったわ。よく気付いたわね、公爵。柑橘系の香り……うーん、そうね……柑橘系といえば、最近ヌヴィレットさんがバブルオレンジティーを飲んでいるところを何度か見たことがあるのよ。とっても優しい顔で大切そうに飲んでいたから、もしかしたらお気に入りなのかも。だから今日もここへ来る前に飲んでいたのかもしれないわね。」
「へぇ……水オタクのあの人が珍しいな。バブルオレンジティーか……女性に人気のフレーバーだが、フリーナ様の影響か?……ただ、それにしては香りが濃かったような………。」

リオセスリは小さな違和感を感じたものの、それを気のせいであると結論付け、考えることを止めた。

まさか、その香りがヌヴィレットが吐いた花ーーーーミオソティス・ミオマルクの香りであるとは、この時はまだ誰も気付いていなかった。