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pinopipi
2026-05-18 23:07:05
99483文字
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交錯する恋花にレクイエムを②
ヌヴィフリ花吐き病の話②/長編/捏造しかない/何でも許せる人向け/メタ発言注意/ほぼ地獄のターン/一部キャラ崩壊注意
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冷たく暗い深海で、男は孤独に最愛の人の花を吐いて、吐いて、吐いてーーー吐き続けていた。
そろそろ"その時"が訪れる筈であるのに、何度瞼を閉じてもすぐに現実へと引き戻される。
彼女との500年分の思い出も既に回想し終え、愛おしい気持ちで心が満たされた今、吐くこと以外、特にやることがなくなってしまった。
意味もなく遥か遠くの海面をぼんやりと眺める。
すると男は、霞む視界の真ん中に目が眩む程の強烈な光を見つけた。
…
これは幻覚か、それとも夢か。
しかし、その光は男の居る深海へとどんどん近付いてくる。
それはまるで、星が降ってくるようでーーーーー
「ーーーヌヴィレットっ!!」
「
……………
は、」
流星の如く深海へと流れ落ちて来たフリーナは、握り締めていた神の目の尖った部分で結界を突き破るように突破し、男ーーーーヌヴィレットの胸の中へと飛び込んだ。
「ヌヴィレット、ああ
…
ヌヴィレット
…
!まだ生きているね?よかった、間に合って
…
!」
フリーナは両手を大きく広げ、ヌヴィレットをぎゅうっと抱き締めて頬擦りをした。
ヌヴィレットは予想外の急展開に驚愕し、目を見開いたまま微動だにしない。触れ合っている素肌が焼けるように熱く、まるでこれが現実であるかのように錯覚する。しかしヌヴィレットは、フリーナからヌヴィレットに関する記憶を全て奪ったのだ。だからフリーナが己を捜しに来るなどあり得ないと、強く自身に言い聞かせた。そもそもあの日、フリーナは確かに想い人の元ーーー璃月へと旅立った筈だ。やはりこれは都合の良い夢なのだと、ヌヴィレットはそう結論付ける。
「キミに会いたかった。ね、僕と一緒に帰ろう?」
フリーナは潤んだ色違いの青でヌヴィレットを見つめ、満面の笑みを浮かべた。薔薇色に頬を染めながら愛おしそうに銀髪を撫で、それから少しだけ困ったような表情に変わる。「ああ
…
どうしてこんなに短く切ってしまったんだい?身体も冷えて、こんなに弱ってしまって
……
」と、短くなった襟足を指で遊びながら嘆きを隠さなかった。
一方、目の前のフリーナを夢の産物であると認識したヌヴィレットの心には、安堵と仄暗い歓喜が込み上げた。それはヌヴィレットがこの深海に身を潜めてからずっと待ち侘びていたものーーー自らの死期の訪れ、即ち永遠の安息が目前にあることを確信したからであった。
このフリーナの手を取れば、水に還ることが出来るのだろう。おそらくもう花を吐かなくて良いのだ。いくら人より遥かに頑丈な龍の身であっても、既に身体も精神も限界を感じていた。ようやく解放される
……
と、そう期待して、ヌヴィレットは静かに目を閉じた。
現実の世界ではもう、このようにフリーナから笑顔を向けられることも、抱き締められることも無い。二度と声を聴くことすら叶わない筈だった。故にヌヴィレットは最期に得られた幻のような幸福なひとときに、せめてこの儚い夢の中だけでも身を委ねたいと思った。愛しいフリーナの頬に、髪に、身体に触れて抱き締め返し、『私も君に会いたかった』と素直な気持ちを返したかった。ーーーーけれどその瞬間、胸が張り裂けそうな程の激しい苦痛に襲われ、目を開けた。
『己が犯した罪を忘れたか』『例え夢であっても、このような幸福を享受する権利など無い』『最後の最期まで罪と向き合い、苦しむがいい』
脳内で低く冷酷に響いたそれは告諭の潮騒ーーー紛れもなく"ヌヴィレット"自身の声だった。
「ヌヴィレット
…
?」
無言のまま胸を押さえ、表情を歪めたヌヴィレットへ、フリーナは不安げな眼差しを向ける。何度フリーナが話しかけてもヌヴィレットからは一切言葉が返って来ないことに、とてつもない違和感を感じた。何か言って欲しくて、でもどうしたらいいか分からなかったフリーナは、ヌヴィレットの少し痩せた頬に触れ、撫でようとした。
ーーーーーその時。
「ゴホッ
…
うっ、げほっ
…
」
「ヌヴィレット
…
!?」
ヌヴィレットは激しく咳き込み、淡いブルーの花ーーーーミオソティス・ミオマルクを吐いた。次から次へとミオソティスが下に転がり落ちていく。フリーナはそれを目で追い、ヌヴィレットの周囲一帯へと意識を向ければ、大量のミオソティスが花畑のように敷き詰められていることにようやく気付いた。それは信じられないほどに数が多く
……
花弁には所々赤黒い何かーーーーおそらく血液と思われるものが付着していた。
フリーナはヌヴィレットの背中を摩りながら、表情を大きく歪める。
事態は想像していたよりも遥かに深刻だった。ヌヴィレットを地上へと連れ帰る前に、1分1秒でも早く完治させなければと、フリーナは焦る。
「
…
っ、ヌヴィレット。あのね。聞いて欲しい。」
虚ろな目をしたヌヴィレットがフリーナから視線を逸らさないように、冷たい頬を温かな両手で包み込む。鼻先が触れ合いそうなほどに顔を近付け、色違いの青が真正面から朝焼け色を見つめた。
「僕はキミのことが好きだよ。」
「
……
、」
「僕たちは両想いなんだ。」
「
……
っ、」
「大好き。僕が愛しているのは、今でもキミだけだ。」
真っ直ぐ愛を伝えるフリーナの声に、ヌヴィレットは息を飲み、ようやく反応を示した。
「
……
やめて、くれ
……
」
しかしヌヴィレットから返されたのは、覇気のない掠れ声、拒絶の言葉だった。ヌヴィレットは苦しそうに眉を顰め、尖った耳を両手で塞ぎ込み、フリーナの声を遮断しようとしている。普段何事にも正面から向き合う彼からは全く想像できない逃避行動に、フリーナは衝撃を受けた。言葉を聞き流されてしまったことは神を演じていた頃にも何度もあったが、耳を塞ぐほどに拒絶されてしまうのは初めてだった。ーーーそれでも。やっとヌヴィレットと再会ができたのだ。この程度の拒絶をされたところで、そんな簡単に諦めてやるものかと、フリーナは自身を奮い立たせた。ヌヴィレットの両手首を掴み、優しく彼の耳から退ける。
「ううん、キミが分かってくれるまでやめない。
…
ねぇヌヴィレット、僕を信じて。」
「
…
誰が信じるものか。これは、現実ではない。ただの夢だ
……
」
ヌヴィレットは首を横に振り、顔を背ける。だが、フリーナは負けじとその視線を追いかけてヌヴィレットの顔を覗き込んだ。
「現実だよ!今キミの目の前にいるのは夢でも幻でもない、本物の僕だ。」
「違う
…
!本物の君は、私のことなど全て忘れた筈だ
……
!」
「全部思い出したんだよ。キミが最高審判官を辞任したという記事を読んだことがきっかけでね。」
「いや、その様なことは有り得ない
…
!私の処置は完璧だった筈だ!そんな、簡単に術を破られるなど
…
!」
「そうだね。キミの仕事はいつも完璧だ。
…
でも、今回はそうじゃなかった。事実、僕は記憶を取り戻しているからね。」
「っ
…
、だが、万が一に備えて私を認識できないようにしていた筈だ
…
!それについては一体どう説明するつもりだ!?」
「
…
キミは今、かなり弱っているだろう
…
?だからじゃないかな?たぶん
…
キミの知らないうちにその術が解けてしまったんだよ。だから僕はキミの気配を辿って、キミの居場所を特定することができたんだと思う。」
「
……
っ
……
」
動揺と焦燥を露わに声荒げるヌヴィレットに、フリーナは努めて冷静に言葉を返す。フリーナの推察にヌヴィレットは瞳を揺らし、目を伏せた。それから数秒後、ヌヴィレットは薄く口を開いて何かを言おうとしたが、声にならないまま口は閉ざされた。弱々しく手を振り払われ、目も逸らされてしまう。
当然、いくら待てども完治の証である白銀の百合を吐く様子はない。
フリーナは唇を強く噛み締めながら、涙を滲ませた。
「僕のこと
……
やっぱり信じられない
………
?」
「
……
」
「僕の、キミを好きだという気持ちも、ここまで会いに来たことも、キミにとっては迷惑なことだったかな
……
?」
「
……
」
「そう
…
だよね
……
。僕はいつも嘘吐きだったもんね
……
。500年もキミを騙して
………
せっかく、やっと僕に向けてくれたキミの恋心を拗らせてしまうことになったのも、全部
…
嘘吐きな僕のせいだ
……
。」
フリーナはヌヴィレットの胸に縋り付く。涙を止めどなく溢れさせながら、強く顔を押し付けた。
「げほっ、げほっ!」
「
……
っ!?」
フリーナが突然咳き込み、ヌヴィレットは力の入らない手でフリーナを引き剥がす。
淡いブルーの花に紛れてロイヤルブルーがいくつか転がっている。これはフリーナが吐いた花だと、回らない頭でも瞬時に理解できた。
つまり、先程のフリーナの発言通り、目の前にいるのは夢でも幻でもなく、本物のフリーナで。
そう確信に至ってしまえば、ヌヴィレットは更に激しく動揺した。
フリーナの病はまだ完治していない。璃月で想い人と結ばれたと信じていたのに。それに、先程の告白の言葉は確かにヌヴィレットへと向けられたものだった。ヌヴィレットは訳が分からず、混乱する。
何故フォンテーヌへ帰って来た?結局、想い人とは結ばれなかった?治療薬は間に合わなかったのか?と、ヌヴィレットは思考力の鈍った頭で必死に考えた。
ヌヴィレットが思考に取り憑かれている隙に、フリーナは俯いたまま自らの懐に手を入れた。
青い液体の入った小瓶を取り出し、震える手でぎゅっと握り締める。
「
…
ごめんね。僕と出会わなければ
……
恋なんて知らなければ。キミはもっと長く
…
幸せに生きられたのに。」
「
………
は、」
フリーナは小瓶の栓を抜き、中の液体ーーーー花吐き病の治療薬を一気に煽った。
そして、ヌヴィレットの唇へ自らのそれを触れ合わせ、口移しでヌヴィレットへ薬を与えた。
「っ!?」
ヌヴィレットはフリーナから口移された液体から、体内の花を根絶させることができる程の強烈な力を感じ、すぐにこれが花吐き病の治療薬であることに気付いた。
つまり、これを飲み込んでしまえば花吐き病は完治するが、恋する相手ーーーーフリーナのことは全て忘れてしまうということ。
ヌヴィレットは反射的にフリーナを突き飛ばし、薬を全て吐き出した。
「
…
っ
…
ヌヴィレット
……
」
「
…
私はッ
…
!君と出会ったことも
…
恋をしたことさえ、後悔したことなど一度も無いッ
…
!!」
ヌヴィレットは地を這うような低い声で、フリーナの言葉を否定した。大きく肩を上下させ、威嚇する。口元に垂れる青い液体を袖で乱暴に拭いながら、フリーナを鋭く睨み付けた。
「私からこの恋心を奪うなど、例え君であっても許さない
…
!これは私だけのものだ
…
!誰にも奪わせはしないッ
…
!!」
びくっ、とフリーナの肩が跳ねる。ヌヴィレットの本気の怒りに当てられ、震えが止まらない。だが、このまま黙っている訳にもいかなかった。フリーナは両腕で自分を抱きしめながら、覚悟を決めて声を上げた。
「じ、じゃあ僕の気持ち、信じてくれる
…
?僕は本当にキミのことが好きなんだ。僕の好きな人は、今も昔もずっとキミだけだよ。」
フリーナは切実な眼差しでヌヴィレットへ訴えかける。彼を刺激しないよう、なるべく穏やかな声色で。
ところがヌヴィレットは、フリーナの眼差しに耐えられず目を逸らした。思い出すのはフリーナが花吐き病であると知った日のこと。フリーナ本人から「もうこれっぽっちも好きじゃない」と言われた声がフラッシュバックする。
やはり、フリーナが未だに想いを寄せてくれているなど、ヌヴィレットには到底信じられなかった。
黙り込んでしまったヌヴィレットへ、フリーナは手を伸ばす。
しかしその手は空中で弾かれ、ヌヴィレットに触れることは叶わなかった。
「触るなッ
…
!」
「
…
っ
…
」
ヌヴィレットは唸るような声でフリーナを拒絶し、這うようにして距離を取った。
出会ってから今まで、ヌヴィレットからこのように強く拒絶されたことなど一度もない。フリーナは酷く動揺した。
「ヌヴィ
…
レット
…
」
「君は直ちに地上へ帰れ。ここに長居すれば、やがて低体温症で生命の危機に瀕する。君は今や人の身なのだ。無理をするべきではない。」
「っ、嫌だよ!キミを置いて行けないっ
…
!キミが帰らないのなら、僕もここにいる!!」
「フリーナ
…
!」
頑なに傍を離れようとしないフリーナに、ヌヴィレットは苛立ちを隠さなかった。こうなってしまえばフリーナがテコでも動かないことをヌヴィレットはよく知っている。故にヌヴィレットは、言うことを聞かないフリーナを無理に説得することは諦めた。病の進行によって衰弱しているからか、フリーナを強制的に地上へ送り返す力はもう残されていない。だからどうか
…
かつて神を演じていた頃のように、都合が悪くなったと感じたらすぐにここから逃げ出して欲しいと
…
そう祈ることしかできない。ヌヴィレットは再び目を閉じ、「
…
忠告はした。後は好きにするといい。」とだけ言って背を向けた。
それからフリーナは、静かな深海でヌヴィレットの背中にひたすら話しかけ続けた。やっとヌヴィレットを見つけたのだ。絶対に諦めたくなかった。
何度も何度も「好き」と「愛してる」を繰り返し伝えた。触れることを許されなくなってしまったフリーナにはもう、言葉でヌヴィレットに誠意を伝えるしかなかった。
初めは無言を貫いていたヌヴィレットだが、次第に凡そ30回に1回のペースで何かしらの反応を示してくれるようになった。
「まだそのような戯言を
…
」「君の諦めの悪さには呆れる」「いい加減にしろ」「これ以上嘘を吐く必要はない」「しつこい。時間の無駄だということがまだ分からないのか。」「何度言えば分かる?君は自分の時間を大切にしたまえ。」
…
など。ヌヴィレットから発せられる無情な言葉の数々に傷付きつつも、フリーナは怯むことなく直向きな愛を伝え続けた。
ヌヴィレット、と愛しい名前を呼べば「その名は最高審判官の肩書きと共に地上に置いて来た。」と言い出したので、以降フリーナはヌヴィレットを真名で呼ぶことにした。ヌヴィレットは「
…
まだ覚えていたのか」と呆れた声で言うものだから、フリーナは「当たり前だろ。世界で一番愛するひとの名前を、この僕が忘れる訳ないじゃないか!」と胸を張って誇らしげに言ってやった。するとヌヴィレットは黙り込んでしまったが、その隙にフリーナは畳みかけるようにヌヴィレットの好きなところを語り始めた。
「僕ね、キミの優しいところが好き。なんだかんだいつも僕の我儘に付き合ってくれたし、僕を危険から守ってくれていたよね。キミがいてくれたから僕は最後まで孤独に押し潰されずに神を演じ続けることができたんだよ。」
「
…
私は優しくなどない。君の我儘に付き合ったのも、危険から遠ざけたのも、部下としての責務だと考えていたからだ。」
「そっかぁ
…
それでも僕は嬉しかったよ。ピンチの僕を守ってくれた時のキミ、とっても格好良かったんだもの。まるで僕だけのヒーローみたいだった。」
「
………
」
「それとね、僕はキミの笑顔が好き。最近、僕に対しても笑顔を向けてくれるようになって嬉しかったんだよ。昔は遠目から見ることしか叶わなかったから寂しかったのだけれど
…
僕だけに向けてくれた笑顔を見た瞬間、そんな気持ち、全部吹っ飛んじゃった。キミってば本当、綺麗に笑うよね。今度一緒に写真を撮りたいな。自分がどんなふうに笑っているか、一度見てみるといい。」
「
…
私は元々、感情を表情に出すことは得意ではない。君に対して笑顔を向けた覚えなどない。撮影も断る。そもそも、二度と地上へ戻るつもりはない。」
「なんだよぅ、つれないなぁ
……
。じゃあ写真は諦めるけど
……
一緒に帰ることだけは諦めないよ。皆心配してキミの帰りを待っているんだ。僕のことは今すぐ信じてくれなくてもいいから、まずは弱った身体を少しでも回復させなくちゃ。シグウィンなら適切な治療をしてくれるはずだよ。」
「
……
断る。あの子の名を出そうとも私の意思は揺るがない。そろそろ諦めてくれないか。」
「嫌だよ。僕はすごーく諦めが悪いの、キミはよく知ってるだろ。やっとキミと再会できたのに、諦めるなんて無理だね。」
「
………
」
「あっ、そうそう!実は来年、とある舞台に主演として出演して欲しいって、オファーをもらっていてね。キミを見つけて完治できたら受けようと思っていたのだけれど
…
どうかな。キミ、僕の舞台
…
観たいよね?もしキミが観に来てくれるなら、最高の席を用意することを約束しよう!
…
あ〜あ、キミが素直になってくれたら僕、頑張れるんだけどなぁ〜。僕のこと、もう一回『好き』って言ってくれるだけで良いんだけどなぁ〜?」
「
………
っ、」
「あ。今、ちょっと揺らいだだろ。ふふっ、キミってば昔から僕の舞台が大好きだもんねぇ。」
「
…
些か自信が過ぎるのでは?別に私はそのような娯楽になど興味はないし、そもそもあれは水神であった君の顔を立てるため、職務の一環として
…
」
「嘘つけ!キミが自発的に毎回全公演分の抽選に一般応募してチケットを自力で確保してたの、僕知ってるんだからな。それに公演後、毎回必ず楽屋に来て大きな花束を贈ってくれてたのもちゃんと覚えてる。しかも公演期間中、キミは無理してまで休みをもぎ取って何度も何度も観に来てくれてただろ。当日券の列に並んでいたこともあったよね?予言後もそうだ。それがどれだけ嬉しかったか分かるかい?
…
それに、僕のことが大好きじゃなかったら、こんなに弱ってしまうまで僕の花を吐いてないだろ。キミは本当に嘘が下手だな。」
「
……
っ、煩い。いつまでこのような茶番を続けるつもりだ。いい加減やめていただきたい。」
「もうっ
…
!変な意地を張るのはやめなよ。キミは変なところで頑固なんだから
…
!」
「その言葉、そっくりそのまま君へお返しする。」
「な、なんだってぇ
…
!?」
その後、少し喧嘩になりそうにながらも、フリーナはヌヴィレットに愛を伝え続けた。
この深海に辿り着いてからどれだけの時間が経ったのかは分からない。
とうに身体は冷え切って、あまりの寒さに全身が震え出す。
それでもフリーナは必死にヌヴィレットへ話し掛け続けた。
「
……
ねぇ、聞いてる?」
「
………
」
「おーい、無視しないでよ。キミは耳が良いから全部聞こえてるんだろ。」
「
………
」
「ねぇってば。返事をしておくれよ。」
「
………
」
「
……
?」
その瞬間、カクン、とヌヴィレットの首が垂れ、力無く腕が投げ出される。それから間もなく、ぐしゃり、と体勢が崩れ、身体が花に埋もれた。
「ーーーーッ!」
フリーナは慌てて花を掻き分け、ヌヴィレットとの距離を詰めた。花で窒息しないように、早急にヌヴィレットの顔を上に向ける。
何度か頬を叩き、痛みの刺激を与えてみるが、何も反応はない。
辛うじて呼吸はしているものの、それは浅く弱々しいもので、いつ止まってしまってもおかしくない状況だった。
「っ
……
嫌だよっ
…
こんなところで死んじゃだめだっ
…
!一体どうすればっ
……
」
フリーナは思考が絶望色に染まっていくのを振り払いながら、必死に考えた。
泣いている場合ではないのに、とめどなく涙が溢れてくる。
「
…
っそうだ、光よっ
…
!」
衆の水の歌い手を召喚し、回復を試みる。
…
しかし、ヌヴィレットは目を覚さない。
小さな岩の洞窟が花でいっぱいになるほどに花と血を吐き出したのだ。それがどれほど身体に大きな負担を与えるのか、フリーナも過去ーーー抑制剤を過剰に服用した際に経験済みなのでよく知っている。
神の目の力では既に回復が困難なほど、ヌヴィレットは衰弱していたのだ。
そして、その数分後。
ヌヴィレットは静かに呼吸を止めた。
「
……
っ!?待って
……
嫌だっ
……
ねぇ
……
起きてってば
……
!」
ヌヴィレットの両肩を掴み、身体を大きく揺する。
だが、全く目を覚ます気配はない。
「絶対に諦めるもんか
…
!お願いっ
…
戻って来てっ
…
!!」
フリーナはヌヴィレットを仰向けにし蘇生を試みる。しかし、冷え切った身体は思うように動いてくれない。背中に敷き詰められた無数の花が柔らかい敷布団のようになっているせいで、胸骨圧迫も上手くできない。
溢れる涙を拭う余裕なんてないまま、それでもフリーナは必死に蘇生を続けた。
酸素不足によって青みがかってきたヌヴィレットの冷たい唇へ、涙に濡れた自らの唇を押し当て息を吹き込む。しゃくり上げているせいで十分な息を送ることができない。けれど、どんなに絶望的な状況でも、フリーナに諦めるという選択肢はなかった。
フリーナの心に在るのはただ真っ直ぐで純粋なヌヴィレットへの愛と、最愛のひとを失いたくないという強い願い。
なんとかヌヴィレットの命を繋ぎ止めたくて、フリーナは無意識のうちにヌヴィレットの手を強く握っていた。
ーーーお願い、置いていかないで。
僕と一緒に生きてよ。
愛してる。
今でもずっと、ずっとキミだけをーーーーー
「
………
っ
………
」
するとヌヴィレットの指先がピクリと動き、それに気が付いたフリーナは反射的に唇を離した。
ヌヴィレットは身を捩り、何度も大きく咳き込む。
フリーナは即座にヌヴィレットの身体を横に向け、背中を摩った。
ひとまずなんとか呼吸は戻ったーーーーが、これ以上発作を起こせばヌヴィレットの身体は更に限界を超え、再び呼吸を止めてしまうかもしれない。
しかし、今この場でフリーナが出来る処置は全てやり尽くしてしまった。あとはヌヴィレットを信じて祈るしかない。フリーナは自身の無力さに唇を強く噛み締めながら、ヌヴィレットの身体に縋り付くように抱き締めた。
ーーーその時。
「ーーーーーえ?」
ヌヴィレットは、花を吐いた。
だが、いつもの花ーーーーーミオソティス・ミオマルクではない。
それは、白銀の百合。
紛れもない、完治の証だった。
「
……
な、
……
治っ
…
た
………
!?」
フリーナは震える手でヌヴィレットが吐き出した白銀の百合をそっと拾い上げる。
実物を見たことはないが、きっと本物だ。
でなければ、こんなに希望に満ちた色でキラキラと輝いているはずがない。
「
……
ぅ
………
」
ヌヴィレットは気怠げに瞼を開けた後、ゆっくりと上体を起こした。先程よりも幾分か顔色が良くなったヌヴィレットにフリーナは安堵し、それからヌヴィレットの胸の中へと思いっ切り飛び込んだ。ヌヴィレットは反射的にフリーナを受け止めようとしたが、衰弱しきった身体では上手く受け止めきれず、そのまま後ろへと倒れ込みーーー無数のミオソティス・ミオマルクがヌヴィレットの背中を優しく受け止めた。
「ぐずっ
…
ひぐっ
……
よがっだぁ
……
!」
「
…
フリー
…
ナ
……
?」
ヌヴィレットの胸板にぐりぐりと額を押し付け、ぐちゃぐちゃな顔で泣きじゃくるフリーナ。ヌヴィレットは困惑しながらも、頭の中で状況を整理した。
先程まではフリーナから延々と話し掛けられ続けていた。何度冷たくあしらっても地上に帰ろうとせず、話すことも止めないので、気紛れに時折返事を返してやっていた。だが、次第にフリーナの声が遠のいて、視界が暗転した。意識が完全に途切れる直前、唇に何か柔らかいものが触れ、今まで味わったことのない甘美な水の味がした。流れてくる強い感情は決して不快なものなどではなく、むしろずっと求めていたものでーーーーー
あれは一体何だったのだろうかと、ヌヴィレットは首を傾げた。思い出そうと思考を巡らせても、一向に思い出せない。ふとフリーナの手元に視線をやると、深海でもぼんやりと光を放ち白銀に輝く花が一輪。
初めて見るそれに、ヌヴィレットは目を見開いた。
「
……
その、花は
……
?」
「これはね、キミが吐いた白銀の百合だよっ
…
!」
「
………
は、私が
…
?」
「うん、そうだよっ
…
!やっと僕の気持ちが伝わったみたいだね!」
フリーナはヌヴィレットによく見えるように、目の前に白銀の百合を掲げた。
「
……
そんな、有り得ない
……
叶わぬ恋で病が完治するなど
……
」
「キミ、さっきよりもだいぶ身体が楽になったんじゃないかい
…
?」
「
…………
」
確かに。フリーナの言う通りだった。全身の重苦しい倦怠感は既に解消され、今は驚くほど身体が軽くなった。本来備わっている自己再生能力が正常に働き、身体が急速に回復していっているのが分かる。
つまり本当に完治したのだと、ヌヴィレットは理解せざるを得なかった。
フリーナは涙でべしょべしょに濡れた顔を袖でゴシゴシと拭う。
それから一度閉じた瞼を再び開けて一変ーーーーとろん、と甘く蕩けた青の瞳がヌヴィレットを映した。そっと手を伸ばし、ヌヴィレットの頬を優しく撫で、ふにゃりと笑う。
「大好きだよ。」
「
……
っ
……
!」
ヌヴィレットは思わず息を飲んだ。柔らかく弧を描く唇から紡がれたのは、透き通るようなソプラノ。ストレートな好意。この3年間、何度も耳にしたことがある筈のその言葉に、ヌヴィレットの心臓は早鐘を打ち、全身がぶわりと熱を上げた。
「今までたくさん嘘を吐いてしまったけれど
……
本当はね。僕が愛しているのは、ずっとずーっとキミだけさ。他に目移りなんてしたことない。
…
璃月人の彼は、実際には存在しない人物なんだ。僕は当時、キミには他に好きな人がいるんだと勝手に思い込んでいたからね。だからキミへの想いを隠すために、それは僕が考えた架空のシナリオの登場人物だったんだ。」
「は
……
」
それはヌヴィレットにとって、全くもって予想外の真実であった。ヌヴィレットは目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。フリーナはつまり、あの日ーーーヌヴィレットが花吐き病になった日からずっと、演技をしていたということで。フリーナの新たな恋を信じ疑っていなかったヌヴィレットは、フリーナの演技力の高さを改めて思い知ることとなった。そして思い出すのは、記憶を消す直前のフリーナの、必死の弁明。この深海で何度も何度もこの命を繋ぎ止めたあの告白の言葉は、実はフリーナの本心だったのだと、ヌヴィレットは今ようやく気付いた。
「記憶を失くした後もね、
……
うん、これはちょっと照れくさい話なのだけれど
………
実は、写真に写っているキミに一目惚れしちゃったんだ。ほら、さっき話してた、キミの辞任の記事に掲載されていた写真で、だよ。それってさ、すごいことだと思わないかい?僕はきっと、何度記憶を失くしてもキミを好きになるんだろうね。ふふっ、これで僕がキミに一途だってことが証明されたかな?」
はにかんだ表情を浮かべながら、ただの少女のように赤裸々に語るフリーナは、眩しくて愛おしくて。ヌヴィレットもまた少々照れを感じたが、それよりも何か温かな感情が胸いっぱいに満ちていくような心地がした。
…
まさか。ヌヴィレットの心に深く突き刺さる楔となっていた"もうこれっぽっちも好きじゃない"という言葉さえも、実はフリーナの本心ではなかったのかと
……
そう思い始めれば、傷付き複雑に入り組んだヌヴィレットの心は次第に解けていった。
「僕は全部話したよ。
…
ねぇ、お願い。キミの本当の気持ちも聞かせてくれる
…
?」
フリーナのとびきり甘えた声がヌヴィレットの鼓膜に響く。刹那、くらりと眩暈がした。これらの直向きな愛の言葉を疑うなど、誰ができようか。飾らない等身大の言葉たちは、フリーナのありのままの心を示しているというのに。目の前で、己だけに愛らしい表情を向けているフリーナ。何百年も前から何千何万回と見慣れている筈の上目遣いが、今のヌヴィレットにはそれが何よりも特別なものとして映った。つい先程までただひたすらに孤独な死を待ち望んでいたというのに、今はただフリーナと生きたい。そんか純粋な希望だけがヌヴィレットの意思として胸に灯った。
こうしてヌヴィレットは、遂に今でも変わらずフリーナから愛されているという事実を受け止め、それを認めた。
しかし、それも束の間。ヌヴィレットは自身が犯した罪の数々を思い出す。故にその顔に浮かんだ色は歓喜ではなくーーーー後悔と絶望で翳り歪んだ表情だった。
震えるほど拳を強く握り締めながら、ヌヴィレットは揺れる瞳でフリーナを見つめた。
「っ
…
フリーナ、私は、」
「うん
…
?」
「私は許されないことをした
……
君を幾度も傷付け、逃げてしまった
………
こんな、愚かで卑怯な私を知って尚
……
それでも君は愛してくれるというのか
……
?」
ヌヴィレットは酷く申し訳なさそうに、そして自信が無さそうに目を伏せてフリーナへ問うた。ヌヴィレットが抱える罪は、この3年間フリーナの真心と向き合うこともしないまま権能を使って強制的に彼女を遠ざけたということだけではない。フリーナの本心を理解した今、あの日フリーナから記憶を奪った罪の重さは、ヌヴィレットが思っていたよりも何万倍も重いものーーーつまり、フリーナから記憶とともに恋心まで丸ごと全て奪ってしまったのだということに気付いてしまった。それなのに、ヌヴィレット自身が逆の立場に立った際ーーーフリーナから治療薬を口移された時には、恋心を失うことを強く拒絶し、あまつさえフリーナへ怒りの感情を向けた。
…
最低にも程があると、ヌヴィレットは自身を軽蔑し、酷く自己嫌悪に陥った。
一方、フリーナはというと。
目をぱちぱちと数回瞬かせてから、少し困ったように眉を下げて笑った。
「うーん、確かにたくさん傷付いたけれど
……
、キミはいつもキミなりに僕の幸せを考えてくれていただろう?それがよく伝わっているから、僕は怒っていないし、責めるつもりもない。それに、僕だってキミの気持ちを考えずに自分の気持ちを押し付けたり、勝手に色々と勘違いをして嘘を吐いてキミを傷付けた。さっきだってキミの同意を得ず、無理矢理治療薬を飲ませようとした。
…
だから、ここはお互い様
…
ということでどうかな
…
?僕もキミも人より長い年月を生きているけれど
……
お互い初恋で、恋愛については初心者だろう?だから色んな失敗は付きもので、時に間違えて相手を傷付けてしまうのも、仕方がないことだったんじゃないかな
…
?罪は罪として受け止めつつ、お互いがお互いを許せるなら、一緒に幸せになっても良いと
…
僕はそう思うよ。」
「フリーナ
……
」
ヌヴィレットは唇を噛み締めた。例え一生をかけても償いきれないと思っていた重い罪の数々が、全て許されてしまった。フリーナの優しさと器の大きさに、目頭が熱くなるのを感じる。
黙り込んでしまったヌヴィレットへフリーナが「それとも、キミは僕のこと
…
許せないかい?」と問いかけると、ヌヴィレットは「許す許さない以前に、そもそも君を憎く思ったことなど一度もない」と即答した。あまりに食い気味だったのがおかしくて、フリーナは「そっか」と思わず笑みを溢した。
そんなフリーナとは対照的に、ヌヴィレットは涙など生まれてから一度も流したことがないというのに、今初めて涙が込み上げるような感覚に襲われていた。
しかし、"大事なこと"を伝える前に泣いてしまえば、格好が付かなくなる。フリーナには既に情けないところをたくさん見られてはいるが、それでも今だけは少しでも格好を付けたかった。
ヌヴィレットは必死に涙を堪えながら、口を開く。
「
…
私の気持ちを、聞いてもらえるだろうか。」
「うん。」
ヌヴィレットは既に朝焼け色に涙を滲ませながら、フリーナを真っ直ぐに見つめた。
固く真剣な表情をしているヌヴィレットに対し、フリーナは柔らかい笑みを浮かべている。
フリーナへ想いを告げるのはこれが初めてという訳ではないのに、やけに緊張して鼓動が忙しない。
ここでもし声が震えてしまったら全て台無しだ。そうなることだけは何としてでも避けたい。
ヌヴィレットは一度大きく深呼吸をしてーーーー遂に、覚悟を決めた。
「
…
好きだ。」
「うんっ
…
。」
「君と出会ったあの日
…
私は君の一等星のような輝きに惹かれ、この500年
…
君だけを見つめていた。恋心を自覚したのは最近だが、君への特別な愛は私の中にずっと存在していたのだと
…
今ではそう確信している。この世界の何よりも、君を愛している。随分と遠回りをしてしまったが
……
どうか、私の愛を受け取って貰えるだろうか。」
ヌヴィレットは僅かに震える手をそっとフリーナへ差し出した。
フリーナは嬉しそうに目を細めーーー2人が出会った日のように柔らかく、美しく微笑んでから、ヌヴィレットの手を包み込むように優しく握った。
「うんっ
…
もちろんさ!僕も、世界で一番キミを愛してるよ!」
迷うことなくその愛を受け取ったフリーナの返事は、これまで彼女から告げられた数多の直向きな愛の言葉たちと寸分変わらぬ熱を湛えていた。それらは少し前までヌヴィレットを悩ませる日常の一部だった言葉。しかし恋を自覚し、全ての憂いから解放された今のヌヴィレットにとって、最愛であるフリーナからの愛の言葉は特別で、何にも変え難く、幸福この上ない言葉であると改めて実感した。
最愛の人の最愛が己であるということが、どれ程凄いことか。これを人は奇跡と呼ぶのだろう。自覚した途端失恋したと思っていたこの500年の恋が、まさか本当に叶うなんて。
ヌヴィレットは、ぐちゃぐちゃに乱れているフリーナの髪を手櫛で撫でるように丁寧に整えていく。それから、喜びの涙で濡れたフリーナの頬を撫で、目尻に浮かんだ雫に優しく口付けた。
フリーナはヌヴィレットが触れる度に頬を薔薇色に上気させ、はにかむ。初心な少女のように恥じらっているフリーナに、ヌヴィレットもまた照れくささを感じたが、それよりも今は喜びの方が勝っていた。フリーナの横髪を片方だけ耳に掛け、露わになった耳元で「可愛い」ととびきり甘やかな声色で囁けば、たちまちフリーナの肌は更に温度を上昇させ、真っ赤に染まっていった。フリーナに触れることを許され、あまつさえ素直に好い反応を示してくれることに、ヌヴィレットは堪らない気持ちになった。
ふに、と指でフリーナの柔らかい唇に触れると、フリーナは恥ずかしそうに少しだけ目を泳がせてから静かに瞼を閉じた。それを合図に、ヌヴィレットはフリーナの後頭部に手を添え、ゆっくりと顔を近付ける。そっと唇を重ね合わせれば、愛おしさと幸福で心がいっぱいに満たされていった。
唇が離れると、今度はフリーナが大きく咳き込んだ。
吐き出したのは、ヌヴィレットが先程吐いたものと同じーーー白銀の百合。
それを確認したヌヴィレットは、感極まってフリーナを思いきり抱き締めた。
「
……
っ
……
」
朝焼けの瞳から、遂に涙が溢れ出す。
フリーナは自身の肩口が濡れていく理由に気付いていたが、何も言わずにそっとヌヴィレットを抱き締め返した。深海の寒さで芯まで冷えていたフリーナの身体が、徐々に熱を取り戻していく。
それから、ヌヴィレットは声を押し殺しひとしきり泣いた後、そっとフリーナを解放した。
赤みが差したヌヴィレットの目元や鼻先をフリーナが指先で優しく撫でると、ヌヴィレットは嬉しそうに目を細めた。フリーナはヌヴィレットの目尻に残った一滴を唇でそっと掬い、額を同士を合わせて愛おしそうに笑った。
「これからも、僕と一緒にいてくれる?」
「勿論だ。君が望んでくれるなら、ずっと
…
いつまでも。」
「ふふっ、嬉しいな。」
フリーナは一層笑みを深め、ヌヴィレットの手を握り、自身の指を絡ませた。
「じゃあ
…
そろそろ帰ろっか。」
「ああ。」
ヌヴィレットはフリーナと繋がっていない方の手をじっと見つめる。自身の力の回復具合を確認すべく、掌で軽く元素力を操ってみた。
…
これならばフリーナを抱えたまま海面を目指すくらい、問題なく可能だろう。それとーーーーー
「地上へと戻る前に、これらが新たな感染源とならないよう処理をする。少し待っていて欲しい。」
ヌヴィレットは自らが吐き出した大量の花々へと目を向ける。
当初は、この結界に施した"ある仕掛け"によって、ヌヴィレットが何もせずとも花は全て消滅する計画だった。その仕掛けとは、ヌヴィレットの命が尽きた後、身体を構成する水元素が粒子となって海へ還ろうとする際、結界の壁と粒子の共鳴によって結界内の全てが跡形もなく消え去るというものだ。逆に言えば、ヌヴィレットが生存している限りこの仕掛けは永久に発動しない、ということ。それに、フリーナのようにこの結界の中へ侵入できる者が今後現れないとも限らないため、このまま放置もできない。つまり、ヌヴィレット自身が最後まで責任を持って全てを処理する必要があるのだ。
「うん、分かったよ。
…
あっ、白銀の百合だけは持って帰っても良いかい?」
「ああ。それには感染力がないため問題ない。」
ヌヴィレットは自身の権能を使って無数の花を一点に掻き集め、大きな泡の中に閉じ込めた後ーーーーそれを何処かへと消し去った。
それからヌヴィレットは水中での呼吸を可能にする術をフリーナにかけた後、その細い腰に腕を回し、しっかりと抱き抱えて深海を発った。小さな岩の洞窟を抜け、潮流に逆らいながら明るく光差す海面を目指す。
来た時よりも海水が温かく感じるのはきっと、眩しいほどに照っている太陽のおかげかもしれない。
③へ続く
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