pinopipi
2025-11-09 16:05:18
57241文字
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交鎖する恋花にレクイエムを①

ヌヴィフリ花吐き病の話①/長編/捏造過多注意/何でも許せる人向け/地獄→ハピエン/2026.05.加筆修正


一方、ヌヴィレットはフリーナが逃げ去った後、真っ直ぐパレ・メルモニアへと帰還した。来た道とは反対に裏口を通って自室へと戻り、再び最高審判官の衣装に着替えてすぐに自室を出る。それからリフトに乗り、地下の資料庫へと直行した。国家レベルの重要な文献を保管するその場所で、ヌヴィレットは花吐き病に関する文献や過去の症例に関する報告書、それから完治の手掛かりになりそうな医学の専門書を全て手元に集めた。そしてパレ・メルモニアの職員が全員退勤した頃を見計らってそれらを最高審判官の権限で全て持ち出し、自室へと運んだ。

現在日付をとうに回って空が白み始めた時間だが、ヌヴィレットは一睡もせずにその多量の文献を自室でひたすら読み漁っていた。

それらに記載された内容によると、フォンテーヌで花吐き病に罹患した患者は計24名。最初の感染ルートは隣国スメールから輸入された花の中に感染性のあるものが混入していたためだと言われている。1人目の発症が報告されたのは497年前。その後数十年毎に1〜2名ずつフォンテーヌ各地で罹患者が現れている。罹患者のうち21名は恋が成就せず病の進行によって衰弱し、死亡した。完治が報告された事例は僅か3例で、完治の瞬間には全ての症例で罹患者自身が白銀の百合を吐いたと報告されている。
スメール教令院では長年花吐き病の研究がされているが、どれほど優秀な学者が集えど、今現在に至るまで両想いになる以外に完治の手段が解明されておらず、治療薬の開発にも至っていない状況だ。

やはりヌヴィレットの記憶にある通り、フリーナを助ける方法は彼女が今恋をしている相手と想いを通わせるしかないのだという結論に至る。

ヌヴィレットは読み終えた文献をデスクの隅へやり、頭を抱えた。
先程、フリーナの想い人について本人へ何度も尋ねたが、頑なに口を閉ざし、その手掛かりすら一切教えてもらえなかった。
そして己が必死だったあまり強く迫ってしまったことで彼女に拒絶され、手を振り払われた。弱った身体で必死に走り去るフリーナを追いかけようとしたが、立ち上がろうとした瞬間、喉奥から込み上げるような強い吐き気に襲われ、その背中を追いかけることは叶わなかった。

フリーナは今、どうしているだろうか。せめて発作が落ち着き、少しでも穏やかに眠れていると良いのだが

どんなに己が嫌われたとて、フリーナの病について知ってしまった以上、このまま静観するなんてことはできない。だが、己だけでは到底解決できない問題であることも、分かっている。
どうやらフリーナは、病について周りには秘密にしているようだった。であれば例え彼女に近しい者であっても、協力を仰ぐ行為はリスクが高い。彼女は有名人だ。万が一どこからか情報が漏れて民に知られれば、国中に大きな混乱を招くことは間違いないだろう。それがフリーナの恋の障害となっては困る。
ならば、己の取るべき行動は。

明日、フリーナに会いに行こう。会ってくれるかどうかは分からないが、彼女の体調が心配であるし……今日のことを謝罪して、なんとかフリーナの想い人に関する情報を集め、完治への糸口を探りたい。

そして。同時に保険として、秘密裏に行動を起こす。
ーーーフリーナの命が救えるならば。龍王の矜恃を捨て、例え神に対してでも頭のひとつやふたつ、垂れてやっても構わない。

ヌヴィレットは、国の正式な文書で用いる上質な紙へ耐水性のインクを付けたペンで端的に用件を書き綴り、最高審判官の印を押そうとしてーーーやめた。その代わり、流れるような文字で署名をする。金で箔押しされた装飾が美しい封筒に宛名を書き、先程書き綴った文書を入れ、蝋で封をする。
それを水元素で生成した小さな龍に持たせ、とある人物の元へと飛ばした。

『ーーー知恵を司る聡明な草木の神、ブエル殿。突然このような文を送り、申し訳ない。此度は龍と神の間にある様々な怨恨は一旦捨て置き、個人的な取引をしたいのだ。どうか、知恵をお貸し願えないだろうかーーー。』