pinopipi
2025-11-09 16:05:18
57241文字
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交鎖する恋花にレクイエムを①

ヌヴィフリ花吐き病の話①/長編/捏造過多注意/何でも許せる人向け/地獄→ハピエン/2026.05.加筆修正


深夜、ヌヴィレットは自室で1通の手紙を開封した。それは先程旅人が届けてくれた草神からの返信だった。
若草色の封筒を開けると、異国の花ーーーパティサラの香りがふわりと仄かに香った。二つ折りにされた便箋を中から取り出して開くと、神聖な気配の草元素が柔らかな光を放った。そして眼前に若草色の文字が浮かび上がり、ヌヴィレットの脳内へ幼くも大人びた不思議な少女の声が響いた。


『ーーー水元素の龍王、ヌヴィレット
初めまして。お手紙ありがとう。親愛なる隣国の長であるあなたと個人的な交流を持てること、とても嬉しく思っているわ。私のことはナヒーダと呼んでちょうだい。
さて、早速本題だけれど、そちらの事情は理解したわ。あなたも知っての通り、花吐き病の治療薬については現在も教令院の優秀な学者たちが研究を続けている状況よ。実は最近、嘔吐中枢を正常化させることが期待できる成分が発見されて、薬の開発が順調に進んでいるわ。けれど、現時点では完成まであと3年は掛かる見込みなの。これには最低限の症例数の治験を経て、薬効と安全性を調べるための期間も含まれているわ。でも、あなたの焦ったような筆跡と僅かに乱れた水元素力から察するに、そんな悠長なことを言っていられる状況ではないのでしょう?この手紙を受け取った時点で既にあなたは気付いていると思うけれど、少しでも早く薬を開発できるよう私の1人目の賢者ーーー旅人にも協力を依頼したわ。それから、あなたは嫌がるかもしれないけれど、私たち七神のコミュニティを通じてモンドの西風教会や璃月の不卜盧にも協力を依頼し、情報を集めている。だけど、皆には依頼主があなたであること、そしてあなたの”大切な彼女”の個人情報については何も話していないから、どうか安心してちょうだい。
最後にお願いなのだけれど、フォンテーヌの過去の症例に関するデータと、できれば花吐き病罹患者が3日以内に吐き出した花をいくつか、こちらに送ってもらえないかしら。研究に役立てたいの。
良いお返事を待っているわ。ナヒーダよりーーーー』



大人びた少女ーーー草神ナヒーダの声が聴こえなくなり、草元素の光が静かに消えた後、ヌヴィレットは小さく息を吐いた。元よりあまり期待はしていなかったものの、返って来たのは想定以上に期待できる内容だった。僅かながら、希望の兆しが見えたことでほんの少し、肩の力が抜けた。
ヌヴィレットが送った手紙では個人情報についての詳細を伏せたにも関わらず、どうやらあの聡明な神はフリーナが花吐き病であることに気付いているようだ。しかし彼女は、あの旅人にさえもフリーナのことを黙ってくれているようで助かった。先程旅人らがフリーナと邂逅した際の態度が、ナヒーダから個人を特定するような情報を何も聞かされていないことを物語っている。

もし治療薬の完成が間に合えば、例えフリーナの恋が叶わずとも彼女を助けられるかもしれない。
ヌヴィレットは至急、ナヒーダへの返事を書き、フォンテーヌでの過去の症例についてタイプライターを使ってまとめた。それから、昨日自らが吐いた花を袋に詰め、決して溢れないよう厳重に密閉する。それらを一緒に返信用の大きな封筒に入れ、封をしようとしてーーーーヌヴィレットは一旦手を止めた。研究を進めるにはそれ相応の資金が必要だ。しかも可能な限り急ぎでとなるとより多くの人員や研究資材等も必要となるだろう。しかし、教令院の学者達の殆どは常に資金不足に悩み、志半ばで研究を中断せざるを得なくなることも多いと耳にしたことがある。それならば、とヌヴィレットは鍵付きの引き出しから小切手を取り出し、私財の凡そ4割の金額ーーーそれは一般人が一生をかけても得ることの不可能な莫大な金額ーーーを何の躊躇いも無く記入して、一緒に同封した。『こちらも是非研究に役立てていただきたい。もし足りなければ、すぐに"私個人宛に"連絡を。』という一筆も添えて。そしてまた小さな龍を生成してその手紙を持たせ、ナヒーダの元へと送り出す。ヌヴィレットは夜空へ放ったそれを静かに見送りながら、どうかフリーナの未来が明るいものとなるようにと、そう祈った。