pinopipi
2025-11-09 16:05:18
57241文字
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交鎖する恋花にレクイエムを①

ヌヴィフリ花吐き病の話①/長編/捏造過多注意/何でも許せる人向け/地獄→ハピエン/2026.05.加筆修正


その後、フリーナとヌヴィレットはお互いの現状について知るべく、話し合いを始めた。
珍しくどこか弱腰のヌヴィレットに先に言わせるのは酷だと思い、フリーナは「じゃあまずは僕からね!」と言って自らの恋について話し始めた。

ーーー相手はフォンテーヌへ旅行で訪れている璃月人の男性。
観劇が趣味でフリーナの舞台を見に来ていた。
休日にたまたまフォンテーヌ廷内で会い、相手から声を掛けられたことをきっかけに会話が弾んで仲良くなった。
趣味や食の好みが同じで、とても気が合う。
フリーナはその璃月人に対して運命を感じ、すぐに恋に落ちたが、相手には璃月人の婚約者がいるらしい。
そして、相手はもうすぐ璃月に帰ってしまう状況ーーー。

フリーナは悲恋に嘆く乙女のように儚い表情で、台本通りに語る。
ヌヴィレットは静かにフリーナの話を聞きながら、見知らぬその人物像を頭の中に思い描いた。

ーーーフリーナが強く惹かれた相手なのだから、きっと素晴らしい人格の持ち主なのだろう。フリーナの真心から逃げる為に卑怯な手段を選んでしまった、私とは違って

ヌヴィレットはいつの間にか自己嫌悪に思考回路を侵食され、気が付けばその心に酷くネガティブな感情が渦巻いていた。
しかし、先程フリーナから言われた禁止事項ーーーネガティブな発言は禁止されていることを思い出す。
フリーナの力になると決めたのだ。例えこの正義を捻じ曲げることになったとしても。だから、この恋心は深い水底に沈めて蓋をしなければならない。

一度きつく目を閉じる。ヌヴィレットは演じることも嘘を吐くことも得意ではないが、フリーナの為に出来ることはやらねばならない。良き相談相手の役を演じ、知らない誰かへと向けられたフリーナの恋心を肯定して背中を押すこと。それでどんなに己の心が渇き、砂のように跡形も無く崩れ去ろうとも、フリーナの命を失うことに比べれば……

ヌヴィレットは、ゆるりと重たい瞼を持ち上げ、真っ直ぐにフリーナを見据えた。
恋する乙女とは何と愛らしく可憐なのだろう。
ーーーああ、その表情で君に見つめられる相手がもし己だったなら………などと、考えるようなことをしてはならない。

成程。あれから君にそのような出会いが。それで花吐き病を発症したのだな。君に良き相手ができたことは非常に喜ばしいことだが、さぞ辛かっただろう。まさか相手に婚約者がいたとは。」
「そうなんだよ。本当にツイてないよね。でもね、彼の婚約は家同士が決めたもので、彼曰く婚約者との関係はあまり良くないみたいなんだ。だから、彼がフォンテーヌにいるうちに僕が彼の心を上手く掴めたら、この恋が叶う可能性もゼロではないと思う。」

フリーナは小さく笑みを浮かべてヌヴィレットを上目遣いで見つめた。そして、次はキミの番だよ、と話を振る。

「キミの好きな人はどんな人なんだい?」
私は、」

ヌヴィレットは言葉を詰まらせる。どのように答えれば良いか、非常に悩んだ。恋する相手がまさかフリーナだなんて口が裂けても言えないし、絶対にこの恋心はバレてはいけない。
だが、今この場で咄嗟に現実味のある設定を作り出してフリーナを完璧に欺けるほど、ヌヴィレットは嘘が上手ではない。仮にこの場を上手く切り抜けられたとしても、きっといつかは綻びが生じてしまうだろう。
であれば、相手がフリーナだと特定されるような詳細は伏せつつ、可能な限り抽象的な表現を用いて真実を語るしかない、という結論に至った。

「とても美しい女性だ。星のように眩く、花のように愛らしい。しかし、彼女と過ごす時間が私にとって何にも変え難い幸福であったと気付いたのは最近で……気付いた時にはもう全てが遅かった。彼女はもう、私には手の届かない存在となってしまったのだ。」

思い浮かべるのは目の前にいるフリーナのこと。ヌヴィレットにとってフリーナはこの世界で最も美しく、愛おしい人だ。フリーナが水神としてこの国の頂点に君臨していた時代に部下として共に過ごした日々も、予言後自由の身となった彼女が真っ直ぐにヌヴィレットを愛してくれていた日々も。恋心を自覚した今、振り返ればその全てがとても幸福なものであったと言える。1日だけでも良いから、もう一度あの頃に戻りたいと思ってしまうくらいに。しかし、そのような実現不可能な願望に囚われていてはフリーナの命は救えない。今はもう、フリーナの心はヌヴィレットがいくら手を伸ばそうとも届かない場所にあるのだから。

そっか、キミの好きな人はとても素敵な人なんだろうね。なるほど、キミが恋を自覚したのは最近かぁ……っていうか龍王のキミですら手の届かない人って……?えっ、ま、まさか、もしかしてっ

フリーナは顔を真っ青にして、酷く言いづらそうにヌヴィレットを見た。
ヌヴィレットはフリーナが言い淀んだ理由を正しく理解して即座に訂正する。

「安心して欲しい、存命だ。しかし彼女には他に思いを寄せている相手がいるのだ。すまない、誤解を招くような表現をしてしまった。」
「そ、そうだったのか、よかった!こちらこそ早とちりをしてしまってごめんね。そっかぁだからキミは想いを拗らせてしまったんだねねぇ、その人のこと、いつから好きだったの?好きになったきっかけは何だったんだい?」
「いつからか。ふむ、そうだな……遡るとかなり昔のことだが……今思えば、一目惚れだったのだと思う。」
「へ、へぇ!一目惚れかぁ!人付き合いには人一倍慎重派なキミが初対面で好きになるなんて、その人はとっても魅力的な人なんだね。出会いがかなり昔ってことは、その人は長命種なのかい?」
……っ、」

ゴロゴロ、ピシャーン!!!
突然外がピカッと光り、近くに雷が落ちた。その衝撃で窓がガタガタと音を立てて揺れている。そして再び激しい雨が降り始めた。

「わーっヌヴィレット?!な、なんで泣くんだよぉ!もしかして、しちゃいけない質問だった?!ああごめんってば!水龍、水龍、泣かないで〜っ!!」
っ、すまない、少々取り乱した。……彼女の寿命については、できれば触れないでいただけると助かる。」
「わ、分かったよ!じゃ、じゃあさ!」

その後、フリーナは言葉を選びながら慎重にヌヴィレットの想い人について質問を繰り返したが、得られた情報は少なかった。
相手はどうやら現在フォンテーヌに住んでいるようだが、近々他国へと移住してしまうかもしれないらしい。そう語った直後、ヌヴィレットは激しく咳込み花を吐き始めた。フリーナはヌヴィレットの発作が落ち着くまで付きっきりで介抱し、その日はお開きとなった。