pinopipi
2025-11-09 16:05:18
57241文字
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交鎖する恋花にレクイエムを①

ヌヴィフリ花吐き病の話①/長編/捏造過多注意/何でも許せる人向け/地獄→ハピエン/2026.05.加筆修正


翌日。続く豪雨の中、ヌヴィレットはずぶ濡れの状態でフリーナの自宅前に立っていた。
フリーナのことを考えていたところ、うっかり傘を忘れた。叱られてしまうかもしれない。

ヌヴィレットは意を決して呼び鈴を鳴らし、家主が現れるのを待つ。
しかし、中から微かに物音が聞こえるものの、いくら待てどもフリーナは出て来なかった。
それでも諦めきれず、ヌヴィレットはもう一度呼び鈴を鳴らす。そして扉の向こうに居るであろうフリーナへ、声を掛けた。

フリーナ殿、私だ。昨日はすまなかった。どうか、もう一度話をするチャンスを与えてもらえないだろうか。」

するとガチャリと小さく扉が開き、フリーナが隙間から控えめに顔を出した。
昨日よりも顔色が良く穏やかなフリーナの表情にヌヴィレットは安堵し、緊張で詰めていた息をゆっくりと吐いた。

「ごきげんよう、ヌヴィレット。すぐに出られなくて申し訳ない。部屋着だったから着替えていたんだ。雨の中、寒かっただろう?さあ、中に入って。」
「あ、ああ。失礼する。」

ヌヴィレットの予想は外れ、フリーナはにこやかにヌヴィレットを迎え入れた。雨でずぶ濡れになっているヌヴィレットを叱ることもなく、濡れた外套を預かり、皺にならないよう干してからヌヴィレットをリビングのソファーに座らせた。

「紅茶でいいかい?とっておきの茶葉があるんだ。キミもきっと気に入ると思う。」
「突然押し掛けてしまったのにお気遣い感謝する。ありがたくいただこう。」

ヌヴィレットはフリーナから紅茶の入ったティーカップを受け取り、一口飲んだ。爽やかなバブルオレンジの香りと仄かな酸味はとても品が良く、フリーナが"とっておき"と称するのも頷ける味わいだった。
向かいの席に腰掛けたフリーナも紅茶を飲んで「う〜ん、最高だ!ケーキが欲しくなるね!」と笑う。
ヌヴィレットもフリーナに釣られて思わず笑みが溢れた。このように穏やかなフリーナの表情を見るのは久しぶりだ。
恋を自覚したヌヴィレットは、愛らしく幸せそうに笑うフリーナの傍にいられることが何にも変え難い幸福であることに、この瞬間気付いた。

しかしヌヴィレットはもう一度話をするチャンスを与えられただけで、今後もフリーナの傍にいることを許された訳ではない。フリーナの傍にいられる権利を持つのは、フリーナが今想いを寄せている相手だけなのだから。
そしてヌヴィレットはこの和やかな空気を壊してしまうことを躊躇いつつも、気を引き締めて本題を切り出した。

フリーナ殿、花吐き病のことについてなのだが

するとフリーナはティーカップをテーブルへ置き、申し訳なさそうに眉を下げた。

「あぁ昨日は僕も言い過ぎた。キミは僕のことを心配してくれたのに、ごめんね。キミ、体調は大丈夫かい?花を吐くの、けっこう苦しいだろう?」
いや、私も昨日の言動は些か強引だったと反省している。すまなかった。体調は今のところ問題ない。君も今日は落ち着いているようで安心した。」

ヌヴィレットはそう言って微笑んでから、少し目を伏せ、言いづらそうに再び口を開いた。

それで、君はこれからどうするのだ?叶わない恋なのだと言っていたが、このまま諦めてしまうのだろうか私は、君には病を完治させて、これからも幸せに生きてもらいたいと思っている。」

爪が掌に食い込むほど、ぎゅうっと力強く拳を握り締める。カップに残った紅茶が揺れて、ヌヴィレットは自分が震えているのだと気付いた。
おそらく今、とんでもなく情けない顔をしているだろう。
外は更に雨足が強くなり、窓を打ち付ける音が大きくなる。遠くで雷も鳴り始めた。

うん。キミはやっぱり優しいね。心配してくれてありがとう。キミがそこまで言ってくれるなら、僕、頑張ってみようかな。最後まで諦めないよ。」

フリーナは柔らかく笑って、ヌヴィレットを見つめた。ヌヴィレットはフリーナから発せられた前向きな言葉に、パッと顔を上げる。その朝焼けの瞳は僅かな希望を得たように光を宿した。
それを見たフリーナは、美しく笑みを深める。

それでキミにお願いがあるんだけど……、恋愛相談に乗ってくれないかな?好きな人にアプローチするために男の人の視点で意見を聞きたくて……。キミは病気のことも知っているし何より僕が一番信頼しているひとだからね。」
!私で良ければ喜んで。恋愛に関しては未熟で理解に及ばない部分も多いが、それでも君のために全力を尽くそう。」

一気に雨足が弱まり、雨雲の間から日差しが見えた。全くもって、分かりやすい水龍である。

「ありがとう、ヌヴィレット!ーーーだけどね、」

フリーナは左右異なる青の瞳で真っ直ぐヌヴィレットを捉え、ビシッ!と指をさした。

「僕だけじゃなくて、キミも諦めちゃダメだからね!キミも絶対に治すんだ。僕も協力するから!」
し、しかし、私は、」
「いいかい、今からネガティブな発言は禁止だよ。キミは絶対に死んではいけない。恋を叶えるためにこれからも生きるために、一緒に頑張ろう!」
……っ、分かった。努力しよう。」

2人は握手を交わした。この約束がきっと互いを救うことに繋がるのだと、直向きにそう信じて。
言葉を交わせば交わすほどに想いがすれ違い、後に更に拗れた状況になってしまうことになるなど、この時の2人はまだ知りもしなかった。