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pinopipi
2025-11-09 16:05:18
57241文字
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交鎖する恋花にレクイエムを①
ヌヴィフリ花吐き病の話①/長編/捏造過多注意/何でも許せる人向け/地獄→ハピエン/2026.05.加筆修正
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それから1週間後、フリーナはヌヴィレットをウラニア湖へと呼び出した。最後の抑制剤は自宅を出る直前に内服した。内服後、まだ1時間も経っていないので、前回の歌劇場でのようなトラブルは起こらないはずだ。
この場所を選んだ理由は、つい数年前まで暴風が吹き荒れ人が近付けなかったためか、今でも滅多に人が訪れない場所だと知っていたからだ。
…
それと、湖周辺に咲く湖光の鈴蘭がフリーナの旅立ちの決意を揺るがぬものにしてくれるような、そんな気がしたからでもあった。
約束の時間ぴったりに現れたヌヴィレットは、いつもと変わらぬ様子だった。
フリーナは手を振りながら、ヌヴィレットへと柔らかく笑いかける。
「ごめんね、忙しいのに急に呼び出しちゃって。」
「いや、構わない。今日は急ぎの公務がないので、半日の休暇を取得した。なので時間は気にせずとも大丈夫だ。」
「そっか、それなら良かった。キミ、自ら進んで休暇を取れるようになったんだね。安心したよ。」
「ああ。昔、君から何度も叱られたのでね。『キミが働き詰めだと部下が休めないだろう!』と。」
「あははっ!ちゃんと覚えていてくれたんだ。今後とも是非継続してくれたまえよ!」
フリーナは手放しで喜びを表現し、ヌヴィレットを褒めた。
ヌヴィレットはそんなフリーナを見つめ返し、緩やかに口角を上げた。
「暫く会えず心配だったが、体調が良さそうで何よりだ。」
フリーナは修正後のシナリオ通り、この1週間自身の身体の回復に努めた。激しい発作で生死を彷徨った後、フリーナの身体はボロボロであったが、それでもシグウィンには相談しなかった。完璧なフィナーレを迎えるために、今のフリーナの身体の状態を知られるわけにはいかなかったからだ。だから、できるだけ健康に見えるようにと、セルフケアに努めた。しかし、どうしてもケアし切れなかった部分は化粧や衣服で誤魔化している。
どうやら上手くいったようだと、フリーナは安堵した。
「うん、おかげさまで絶好調さ!実はあれから彼とは進展ががあってね、今日はそれを報告するためにキミを呼んだんだけど
…
」
一度、深呼吸をする。
ーーーーそして。
「
…
ヌヴィレット。僕
…
彼に着いて行くことにしたんだ。」
ヌヴィレットは大きく目を見開き、一瞬、呼吸を止めた。頭を鈍器で殴られたような衝撃がヌヴィレットを襲う。バクバクと心臓が暴れ出し、背中に冷や汗が滲んだ。
ーーーーああ
……
ついにこの時が来てしまった。心が、頭が、ついていかない
…
。
「
…
そうか。つまり、君は完治したということだろうか?」
ヌヴィレットはなんとか言葉を搾り出し、最重要事項をフリーナへと確認する。しかし、フリーナは首を横に振った。それでも表情は変わらず穏やかで
………
これは一体どういう意味なのだろうかと、ヌヴィレットは疑問に思った。
「
…
ううん、まだだよ。彼は僕の好意を受け止めてくれたけれど、婚約者がいる身だ。彼は誠実な人だからね。全てを精算してから返事をしたいと言ってくれた。
…
だから叶うのはもう少しだけ先さ。彼の帰国は3日後の予定でね。僕も一緒に璃月へ行くことになった。だから今日は、キミにお別れを言いに来たんだ。」
ーーーーお別れ。その言葉にヌヴィレットの心はズン、と重く沈んだ。
しかし、今この場でヌヴィレットにできることはフリーナを祝福し、送り出すことしかないと理解はしている。フリーナはフォンテーヌを出てしまうが、彼女の未来は明るいのだ。これからもきっと生きられる。彼女が、彼女を愛する者と共に。もう彼女の早過ぎる死を想像して恐れる必要はない。だから今は、心からの祝福の言葉を贈るべきだと、ヌヴィレットは自分自身に言い聞かせた。
「
………
そうか。寂しくなるが、君の恋が叶うなら何よりだ。どうか、幸せになってくれ。」
ヌヴィレットは無理矢理口角を上げ、精一杯の笑みを作る。上手く笑えている気はしないが、どうかこれが作り物であることに気付かないでくれと、心の内で密かに願った。
「
…
うん。今まで本当にありがとう。キミとは長い付き合いだったから、僕も寂しいよ。
……
でもね。この国を出る前にひとつだけ心残りがあるんだ。キミは好きな人に告白しないのかい?それだけが、どうしても気になってしまって
…
」
フリーナはヌヴィレットを不安気に見つめた。
ヌヴィレットは目を伏せてフリーナから僅かに視線を逸らす。そして、まるで罪を語るかのように重い口を開いた。
「
……
まだ告白はしていないが
……
、やはり私の恋は叶わないことが分かったのだ。告白しても全く意味がない。こればかりはどうしようもないことだ。」
フリーナは、ヌヴィレットの酷くネガティブな発言に目を丸くした。
「どっ、どうしてだい
…
!?キミも頑張るって、約束したじゃないか
…
!どうして告白する前から諦めるんだよ
……
!」
「
…
すまない、フリーナ。だが安心して欲しい。私は龍だ。簡単に死ぬことはないだろう。」
「でもっ
…
花を吐き続けるのは苦しいだろう
…
?!彼女が生きているうちに完治させないと、キミはこの先も一生っ
……
!」
「
……
っ、」
「っごめん、本当は僕もキミの好きな人の寿命の話に触れたくないけれど、目を逸らしちゃいけないことだから言わせてもらう。僕はキミにこれ以上苦しんでほしくないし、絶対に死んでほしくない。キミが僕の幸せを願ってくれているように、僕もキミの幸せを願っているんだ。
…
ねぇ、お願いだよヌヴィレット。一度、自分の気持ちを正直に伝えてごらん。キミはこのフォンテーヌで一番かっこよくて、綺麗で、優しくて、誠実で
…
とっても素敵なひとだ。この国で500年間様々な人と交流してきた この僕がそう認めているんだよ。だから大丈夫、きっと叶うさ。」
フリーナはヌヴィレットの裾を掴み、諭すように訴えた。ヌヴィレットの好きな人ーーー歌劇場で楽しそうに談笑していた彼女もヌヴィレットに恋をしている。だから、勇気を出して告白をすれば、2人はきっとーーーー。
しかしヌヴィレットは俯いて表情を前髪で隠し、黙り込んでしまった。
……
そして。
「
…
ゴホッ、
…
ゲホゲホッ!」
「ヌヴィレット!?」
突然ヌヴィレットが発作を起こし、その場に倒れ込むように両膝をついた。激しく咳き込み、次から次へと淡いブルーの花が溢れ落ちていく。フリーナは動揺しながらもヌヴィレットの身体を隣で支え、優しく背中をさすった。
かなり激しい発作が続き、ヌヴィレットはまともな呼吸もできず酷く苦しそうにしている。ヌヴィレットを介抱しながらフリーナは、僕のせいだ、と自己嫌悪に陥った。そして、泣いてはいけないと思いながらも、気が付けばポロポロと涙が溢れていた。
それからしばらくしてヌヴィレットの発作はやっと落ち着いたが、それでもフリーナの涙は止まらなかった。
肩を上下させながら呼吸を整えていたヌヴィレットは、ふと傍から水元素の気配を感じ取る。横目でフリーナを見ると、あろうことかフリーナはその美しい顔をくしゃくしゃにして泣いていた。しかし、ヌヴィレットにはフリーナが泣いている理由が全く理解できなかった。
「フリーナ
…
?何故、泣いている
…
?」
ヌヴィレットはフリーナの涙を拭おうと手を伸ばしたが、その手がフリーナの肌へと触れる前に思い止まり、若干気まずそうに視線を逸らしながらサッとそれを引き戻した。それからその不自然な動きを誤魔化すように、手をそのまま下へと降ろし、フリーナの指先にそっと触れた。
その瞬間、フリーナの心が決壊した。
「だ、だって、僕が強く言ったせいでキミはあんな激しい発作をっ
……
!ごめんねヌヴィレットっ
………
僕はキミを追い詰めたかったわけじゃないんだっ
…
!だけど、僕がキミを苦しめてしまってるっ
……
!キミに苦しい思いなんかしてほしくなんかないのにっ
……
!ごめんね、本当にごめんなさいっ
……
」
フリーナはヌヴィレットへ必死に謝罪をした。
触れる指先を辿り、震える小さな両手でヌヴィレットの手を掬い上げる。頭を下げ、人よりも温度の低いその手背へ自らの熱い額を触れ合わせながら、フリーナはひたすら謝罪の言葉を繰り返している。
ヌヴィレットは動揺し、困惑した。
「
…
君は何故そこまで私を気にかける?私は以前、君の真心を無碍にし、卑怯な手段で君を遠ざけた。君を
……
傷付けた。
…
それなのに、何故。」
ヌヴィレットは益々理解ができなかった。かつてヌヴィレットは粗雑な対応でフリーナの好意を断り続け、挙げ句の果てには自らの権能を使って強制的にフリーナを遠ざけ、その恋を諦めさせようとした。そのどれもが、お前は酷い男だと、そう責められても当然の行いだった。
それでも、フリーナはずっとヌヴィレットに優しかった。ヌヴィレットが過ちを犯した後も、何度も会ってくれた。恋を叶えるために協力を申し出、励ましてくれた。温かい紅茶や、美味しい手料理を振る舞ってくれた。そして何より、愛らしく眩い笑顔をヌヴィレットへと向けてくれた。
フリーナのそれらの行いは、自身が吐いた花が原因でヌヴィレットが花吐き病を発症したことに対する責任を感じてのものかもしれないが、それにしたってフリーナはヌヴィレットに優しすぎるのだ。
ヌヴィレットの問いにフリーナはゆるりと顔を上げた。涙に濡れた瞳が真っ直ぐにヌヴィレットを捉える。そして、花が綻ぶようにふわりと微笑んだ。
「
…
それはね。キミが僕の大切なひとだからだよ。」
「
…
っ
…
!?」
その瞬間、まるで時が止まったかのように、ぴたり、と周りの音が消えた。朝焼けの瞳は溢れ落ちそうなほど大きく見開かれ、縦長の瞳孔がきゅうっと細まる。
…
大切なひと。ヌヴィレットはフリーナの言葉をもう一度心の中で復唱した。すると、冷えきっていた心がじんわりと熱を取り戻し、歓喜と幸福でいっぱいに満たされていった。しかし、それはやがてヌヴィレットの鋼の理性までもを狂わせるような灼熱へと変化していく。ヌヴィレットは耐えるように表情を歪めた。
勘違いをしてはいけない。フリーナは、そういう心算で言ったのではない。それなのに。
叶わぬ恋に、愛に飢えたヌヴィレットの脳は自らの意思に反して勝手に誤作動を起こし、己に都合の良い解釈をしようとする。心音は、耳鳴りがするほど騒がしい。
ーーーーああもう、隠し通せない。
ヌヴィレットはついに、白旗を上げた。
「
…
分かった。君の言う通り、私は想い人へ告白をしよう。」
「!!ほ、本当かいっ?!」
フリーナの涙は ぴたりと止まり、表情がパッと明るいものへと変わる。
ヌヴィレットは、フリーナのために己の正義を捻じ曲げる覚悟を決めた。
「ああ。だが、ひとつだけ約束してもらいたい。告白後
……
全てを忘れると。」
「うん
…
?そ、それって、僕にキミの好きな人のことを全部忘れてほしいってこと
…
?」
「いや
……
正確には私が恋をしているという事実そのものを、だ。しかしその記憶には私が彼女と過ごした日々も強く結び付いている。君にはそれら全てを忘れてもらいたい。よって、私の権能を用いて君の記憶を消すことになるが
……
それでも構わないだろうか。」
「えっ
……
そ、そんなに好きな人のことを僕に知られたくないのかい?!キミってばけっこう恥ずかしがり屋なんだねぇ
…
。ま、まぁでも
……
キミが告白するなら
……
いいよ!」
「
…
感謝する。」
フリーナはふと、歌劇場でのあの出来事ーーーヌヴィレットとあの令嬢の逢瀬を覗き見してしまった日のことを思い出した。ヌヴィレットはおそらく、あの時フリーナが観客席の陰に身を潜めていたことに気付いていたのだ。だから恥ずかしくてその記憶も丸ごと全部消したいと思っているのだと、フリーナはそう解釈した。
もしかして僕が勝手に覗き見してたことを怒ってる
…
!?とフリーナは内心焦り、ヌヴィレットの表情を伺ったが、彼は思いの外穏やかな表情をフリーナへ向けていた。なのでどうやら怒っているわけではなさそうだ。
それよりも。フリーナはヌヴィレットの背中を押すことに成功した喜びに気持ちを切り替えた。概ねシナリオ通りに事が進んでいる。このまま順調にいけばヌヴィレットの病が完治してハッピーエンドだ!とフリーナは心から安堵した。
………
しかし。
「
…
好きだ。」
「
…
え?」
「私が恋をしている相手
……
それはフリーナ、君なのだ。」
「
…………
は、?
…
えぇえっ!!?!?」
フリーナは驚きのあまり一歩後退った。そして真っ赤な顔で目を泳がせながら、わなわなと震える。
「ヌ、ヌヴィレット
…
?今、なんて
……
?ぼ、僕のこと、揶揄っているのかい
…
?冗談はやめてくれっ
…
!キミが好きなのは僕じゃなくてっ
……
」
「いや、間違いなく君だ。目の前にいるフリーナ・ドゥ・フォンテーヌ。元水神であり、我が国の大スター。私は君を愛している。」
「ほ、本当にっ
…
?!で、でもっ
…
キミは僕の告白をずっと断り続けてーーーー」
ヌヴィレットは一歩、二歩とフリーナとの距離を詰めーーーー腕の中へと閉じ込めた。
「ーーーーーッ!?!?ちょ、ヌヴィッ、何してーーーーー」
「君が花吐き病だと知った日、私はようやくこの恋心を自覚したのだ。もう私のことなど好きではないと
…
そう君に言われた時に。」
「
…
っ!」
フリーナの耳元で静かに語られる真実。
あの日、ヌヴィレットが自分自身を責めてしまわないようにと、フリーナが咄嗟に吐いた嘘がきっかけでヌヴィレットは
……
。
心臓がバクバクと、嫌な音を立て始める。
「
…
元を辿れば一目惚れだった。当時、神として私の前に現れた君の手を取ることを決意したのは、他でもない君自身に惹かれ、興味を持ったからだ。その後長らく君の傍で過ごし、唯一の心地良さを見出したことによって、私は君へ向けている愛が家族愛であるのだと解釈した。それは確信に近いものであったため、君に恋愛感情を向けられてからも私はその感情については考え直そうともしなかった。
…
気付くのが遅過ぎたのだ。君は今、別の男に恋をしている。ゆえに私の恋は叶わない。おそらくこれは、君を幾度も傷付けてしまった罰なのだろうな。」
ヌヴィレットが語るそれは、告白というより懺悔に近かった。
厚い雨雲が空を覆い隠し、ざあざあと雨が降り始める。ヌヴィレットはフリーナを抱きしめる腕に僅かに力を込めた。
「今更君を愛しているなどと言っても迷惑だろう。
……
すまない。だが、君の恋を応援する心に嘘偽りはない。私は恋を自覚する以前から、君の人としての幸福に執着している。これからも君が笑顔を絶やさず幸福に生きられるのなら、私の恋は叶わなくて良いと
………
それが、私の本心だ。」
「
……
っ
……
」
フリーナは何と言葉を発したらいいのか分からなかった。
今思えば、花吐き病であることがヌヴィレットに知られてから、ヌヴィレットのフリーナに対する態度は目に見えて変わった。それは同情の類であると思っていたがーーーまさかフリーナへの恋心によるものだったなんて
…
。
しかし過去に964回も振られているフリーナは、ヌヴィレット本人から懇切丁寧に心の内を明かされても、彼の言葉を素直に飲み込めなかった。
ーーーだってこの前、僕はこの目で見たんだ。
………
こんな都合の良い話、やっぱり信じられない
…
。
「じ、じゃあこの前キミが歌劇場で話していた彼女は
…
?キミ、すごく楽しそうに話していたじゃないか
…
!」
「
…
?歌劇場で話していた彼女
…
?」
ヌヴィレットは首を傾げ、黙り込む。
それから待つこと数十秒。ヌヴィレットはようやく口を開いた。
「ああ、あの者は君のファンだ。昔の君の舞台について熱心に尋ねられたのでね。私も君のファンのひとりとして、つい熱く語ってしまい
………
それがどうかしたのか?」
フリーナは唖然とした。
彼女は僕のファン、だって
…
?そんな、じゃあ本当に
…………
「
……
僕の、勘違い
…
?」
フリーナは、ヌヴィレットの好きな人について彼自身が過去に語っていた内容をもう一度頭に思い浮かべる。
とても美しい女性。
星のように眩く、花のように愛らしい。
恋を自覚したのは最近。
けれど他に想いを寄せている相手がいる。
一目惚れ。
長命種ではないが、出会いはかなり昔。
相手の寿命については触れてほしくない。
近々、他国へ移住するかもしれない。
「
……
あ
…………
」
フリーナは全てを理解して、血の気が引いた。
容姿については少々盛り過ぎな気もするが、それ以外はフリーナが重ねた嘘と照らし合わせても全て合致している。
「そ、そんなっ
……
それじゃあ僕は、今まで何のためにっ
……
」
ふ、と全身の力が抜ける。
架空の恋を騙っていたフリーナと、真実の恋を語っていたヌヴィレット。フリーナが吐いた嘘のせいですれ違い、拗れ、複雑化してしまった2人の恋は、実はずっと両想いだったのだ。
「
……
フリーナ、」
ヌヴィレットはフリーナを抱きしめる両腕を緩め、色違いの青を寂しげに見つめた。そしてフリーナの額に手を翳し、水元素の力を込める。
青い光が、フリーナの眼前に広がった。
「っ?!ヌヴィレット
…
!?僕に一体何をしてっ
…
」
「
……
すまない。約束通り、君の記憶を消させてもらう。」
「い、嫌だっ
…
!やめてヌヴィレット!僕はっ
……
」
ヌヴィレットの手を退かそうとしても、びくともしない。ならば腕の中から逃れようとフリーナは必死に踠いたが、彼の拘束はその意思を反映させたように強固なものだった。フリーナの力では、ヌヴィレットの拘束から逃れることは叶いそうにない。
それでも、フリーナは諦めなかった。彼はまだ、フリーナの嘘を信じている。事実、フリーナにはヌヴィレット以外に好きな人などいない。だから、あれらは全て嘘だったのだと説明して、本心を、愛を伝えなければと、フリーナは必死になった。フリーナの気持ちが正しく伝われば、ヌヴィレットは記憶を消そうとする手を止めてくれるはずだと信じ、一縷の望みを賭けた。
「待って、ヌヴィレット!僕っ
…
本当は今でもキミのことが好きなんだ
…
!僕が花吐き病になったのがキミのせいだなんて思ってほしくなくてっ
…
!キミが僕を好きになることなんて絶対にないって思ってたからっ
…
だから他に好きな人ができたんだ、って嘘を吐いた
…
!本当にごめんなさいっ
…
!」
記憶を消されてしまう前に伝えなければと焦る気持ちが先行し、上手く説明ができない。それでもフリーナは真摯に嘘を謝罪し、愛を告げた。
「
……
っ
……
!」
フリーナの告白に、ヌヴィレットの元素力がぐわん、と大きく乱れる。しかしヌヴィレットはそれを即座に修正し、自嘲気味に口元を歪めた後、フリーナから目を逸らすように視線を落とした。
「
…
ありがとう。やはり君は優しいな。だが、私に対する気遣いは一切不要だ。嘘など吐かなくて良い。」
「っ違う、違うよヌヴィレット
…
!僕っ、本当にキミのことが好きなんだ!たくさん嘘を吐いてしまったけどっ
…
、これだけは
…
キミへの恋心だけは嘘じゃないっ
……
!信じてよぉっ
…
お願いだからっ
…
!」
「
……
」
以降、ヌヴィレットは何も言わず、フリーナの記憶を奪うことに注力した。
徐々に薄れ行く意識の中、フリーナはそれでも必死に愛を伝え続け、力の限り抵抗した。震える手をヌヴィレットの方へと伸ばし続けたが、ヌヴィレットがその手を取ることは終ぞなかった。その代わり、凪いだ朝焼けが最後にもう一度だけ涙で濡れた色違いの青を見つめる。そして、その瞳に切なくも甘やかな色を湛え、フリーナへと微笑んだ。
泣くように雨が降り頻る。全身ずぶ濡れで、身体も、心も、芯から凍えるような寒さに襲われ、フリーナの視界は暗転した。
そして意識が途切れる直前。雨音の向こう側で、ヌヴィレットの優しい声がフリーナの鼓膜に響いた。
「どうか異国の地で幸せに。
…
さようなら、フリーナ殿。もう二度と、会うことはないだろう。」
②へ続く
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