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pinopipi
2025-11-09 16:05:18
57241文字
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交鎖する恋花にレクイエムを①
ヌヴィフリ花吐き病の話①/長編/捏造過多注意/何でも許せる人向け/地獄→ハピエン/2026.05.加筆修正
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「こんばんは。夜分遅くにすまない。突然で申し訳ないが、公爵殿に面会願いたい。」
「フ、フリーナ様!?」
「しーっ、声が大きいよ。お忍びで来ているんだ。ここは声がよく響くからね。なるべく静かに頼むよ。」
突然現れた ずぶ濡れの元水神に、要塞の入口を守っていた夜勤の看守らは驚き、大至急管理者の男に報告した。すると飛ぶように全力ダッシュで駆けつけた管理者の男ーーーリオセスリはまるで信じられないものを見るように目を見開いた後、片膝をついて跪き、乱れた息を整えながら努めて冷静にフリーナへ用件を尋ねた。
「これはこれはフリーナ様、ご機嫌麗しゅう
…
。何故このような場所にお一人で
…
?」
「ごきげんよう、公爵殿。アポイントも取らず突然の訪問、申し訳ない。体調が優れないからシグウィンに診てもらいたくてね。命に関わるようなものではないんだけど
…
コホン、レディ特有のデリケートなものだから、今日ここに僕が来たことは、全ての看守、囚人はもちろん、例え最高審判官であっても他言はしないでもらえるかな。僕はもう一般人とはいえ、有名人だからね。頼むよ、公爵殿。」
フリーナが雨水滴る頭を深々と下げると、リオセスリは慌ててフリーナの顔を上げさせた。そしてリオセスリは痛む頭を抱えつつも、「お加減が優れないってのにお身体冷やしちゃ駄目だろ
…
」と呟いた後、要塞内にあるものの中で最も質の良い毛布を看守に持って来させ、フリーナの身体を優しく包んだ。そして、要塞内の全ての者に箝口令を敷き、フリーナを医務室へと速やかにエスコートした。
こうしてリオセスリはフリーナを医務室へと案内した後、速やかに退室し、何人たりとも医務室へ近付けないよう人払いをして少し離れた場所に控え、自ら見張りをすることにした。
「こんばんは、看護師長。」
「フリーナ様?まあ!ずぶ濡れじゃない!まずは身体を温めないと
…
!」
フォンテーヌで最も腕の良い医療従事者ーーーシグウィンはフリーナへ駆け寄った。バスタオルと患者用の着替えを用意し、フリーナへ濡れた衣服の着替えを促す。それから、冷えた身体を温めるためホットミルクを淹れて差し出し、フリーナが落ち着いた頃を見計らって用件を聞いた。
フリーナは自らが花吐き病に罹患していることを説明し、発作を抑える薬を処方してほしいのだと話した。
シグウィンは長らく医療に従事しているため、その奇病についてももちろん熟知している。過去に花吐き病に罹患した患者の治療に携わった経験がある。だからフリーナがその病を患ったという事実に衝撃を受け、その予後を想像して表情を歪めた。
シグウィンは胸に手を当て、冷静に話をするためにまずは自らを落ち着かせる。フリーナが恋慕う相手として思い浮かぶのは、シグウィン自身もよく知るあのひとしかいない。
「
…
お相手はヌヴィレットさん、かしら
…
?」
シグウィンは患者であるフリーナを極力不安にさせないよう、優しく慈愛に満ちた声色でフリーナへ質問をした。
しかし、フリーナはホットミルクが入ったカップを両手でぎゅっと握りしめ、目を伏せて静かに首を横に振った。
「ううん、違うよ。ヌヴィレットじゃないんだ。僕が彼に何度も振られていたのをキミも知っているだろう?少し前にね、彼のことはきっぱり諦めたんだ。3年間毎日のように想いを伝え続けてきたけれど、全くと言って良いほど振り向いてもらえなかったからね。不毛な恋に身を焦がすのは、もうやめたのさ。」
自嘲気味に口元を歪ませて、フリーナは続ける。
「それで僕はもっと広い世界に目を向けてみるべきだと思ってね。フォンテーヌ人だけじゃなくて、色んな国の人とも交流をしてみようと思って
…
最近、運命的な出会いがあったんだ。相手はフォンテーヌへ旅行に来ている璃月人さ。彼とは初対面でも不思議と会話が弾んでね。自分でもびっくりしたのだけれど
…
すぐに恋に落ちたんだ。」
フリーナはまるで恋する乙女のように頬を染めーーーそう、演技をする。
フリーナが語るのは架空の想い人。先程自宅でノートに書き殴った設定の物語だった。
しかしシグウィンは疑う様子もなく、時折相槌を打ちながら静かにフリーナの話を傾聴していた。「そうだったのね
…
」と、どこか寂しそうな表情でフリーナへ話の続きを促す。
「
…
でもね、彼には同じ璃月人の婚約者がいるんだ。新しい恋をしたばかりなのに、僕がこの病を発症させてしまうほど拗らせてしまったのはたぶん、これが原因だと思う。
…
全く、ツイてないよね。僕ってば恋愛に向いてないのかも。
…
でも、まだ諦めるつもりはないよ。彼に振り向いてもらうために頑張りたい。だから、発作を抑える薬が必要なんだ。」
フリーナは、覚悟を決めた強い眼差しをシグウィンへ向けた。シグウィンはフリーナの気持ちを汲み取り、大きな瞳を潤ませてフリーナの冷えた両手を自らの温かいそれで包み込む。
「
…
話してくれてありがとう。辛かったでしょう
…
?大丈夫よ、フリーナ様。ウチは医療従事者として、フリーナ様の苦痛の緩和と治療に全力を尽くすわ。
…
だから諦めないでほしいのよ。発作を抑える薬ね、今から調合するから少しだけ待っていてもらえる?」
フリーナが頷くと、シグウィンは材料と道具を用意し、薬の調合を始めた。フリーナはシグウィンの背中を見つめながら、心の中ですまない、と小さく謝罪をした。ヌヴィレットのためについた嘘とはいえ、善良な者を騙す行為には罪悪感があった。
暫くして薬の調合が終わり、シグウィンは小さな瓶に白い錠剤を詰め込んだ。それをフリーナに手渡し、処方した薬について説明をする。
「10回分のお薬よ。発作が辛くなったら1錠内服してね。効果はだいたい6時間くらい続くけど、使用頻度は1日に1回
…
できれば2日に1回までにしてちょうだい。強いお薬だから、肝臓にとっても負担が掛かるの。それと、お薬で頻回に発作を抑えてしまうと、その分 後から起こる発作が激しいものになってしまう可能性があるのよ。だから、用法容量は必ず守ってね。」
「うん、分かったよ。ありがとう、シグウィン。
…
それと、僕の病気についてだけど
…
」
「ええ、誰にも言わないから安心してちょうだい。患者さんの秘密は絶対に守るわ。」
「ありがとう。助かるよ。」
フリーナは安堵の笑みを浮かべた。
しかしシグウィンは、でも
…
と少し言いづらそうにこう問いかけた。
「
…
ヌヴィレットさんはフリーナ様の病気について知っているの?フリーナ様の体調が悪いと、とても心配すると思うのだけれど
…
」
やっぱりそこが一番気になるよね
…
とフリーナは思った。
けれどもそれは想定内の反応だった。もちろん、ちゃんとセリフを考えてある。
「ああ、ヌヴィレットも知っているよ。でも、今日僕が薬を貰うためにここに来るってことは言ってないんだ。
…
秘密にしてくれないかな。薬を飲まなきゃ生活できないくらい僕の病状は悪いんじゃないか、って彼が勘違いをしてすごく心配をするかもしれないからね。余計な心配はかけたくないんだ。
…
だから、頼むよ。ヌヴィレットには言わないでほしい。」
フリーナは頭を下げて、切実に願いを伝えた。
シグウィンはフリーナの手に優しく触れ、穏やかな笑みを見せる。
「分かったわ。ヌヴィレットさんには言わない。
…
でも、無理はしないでね。お薬に頼り過ぎず、辛くなる前に相談するのよ。ウチはいつでもフリーナ様の味方だからね。」
借りていた服から乾いた私服に着替え、シグウィンに感謝を伝えてフリーナが医務室を出る。
すると少し離れた物陰に控えていたリオセスリが、フリーナに向かって優雅に歩み寄って来た。
「ご自宅までお送りします。」
「えぇっ、いいよいいよ!1人で帰れるから!僕が勝手にこんな時間に押し掛けたんだから、どうか気を遣わないでくれたまえ
…
!」
フリーナが首と両手をぶんぶん横に振って遠慮すると、リオセスリは完璧な紳士の所作でフリーナの目の前に跪き、少し困ったように眉を下げてフリーナの顔を見上げた。
「こんな嵐の夜に体調不良のレディを1人で帰したなんて知られたら、俺が最高審判官様にぶん殴られちまうんでね。あの人の拳をまともに食らったらどうなるか
……
ああ、想像しただけで恐ろしい。きっとここからロマリタイムハーバーあたりまでぶっ飛ばされちまうんだろうなぁ
………
」
「ふはっ!なんだいそれ!キミみたいな屈強な紳士がそんな遠くまで飛ばされるだなんて
……
うん。ヌヴィレットの腕力なら確かに有り得るかも。でもね、たぶんヌヴィレットなら拳じゃなくて膝蹴りで飛ばすんじゃないかなぁ?彼は普段、長時間ずーっと椅子に腰掛けて書類と睨めっこしてるとは思えないほど、とんでもなく脚力があるんだよ。」
「はははっ!違いない。さすがフリーナ様だ。ヌヴィレットさんのことをよく理解されてらっしゃる。
…
というわけで、俺は命が惜しいんでね。俺を助けると思って、どうか送らせてもらえませんか。」
「ふふっ、じゃあお言葉に甘えて。ありがとう、公爵。」
「いえ、フォンテーヌで生まれ育った男としてこれは当然の行いですから。さぁレディ、手を。」
リオセスリは自身のジャケットを脱ぎ、空中でしっかりと埃を払ってから、フリーナが濡れないようにとその細い肩へ優しくそれを掛けた。そして大きく丈夫な傘を差してフリーナの方へと傾け、歩幅を合わせながらフリーナの自宅を目指す。
幸い人の気配はなかったが、リオセスリは万が一のことを考慮して出来るだけ人目のつかない道を選び、フリーナを安全に送り届けた。
別れ際、フリーナは借りていた上着をクリーニングしてから返却することを申し出たが、リオセスリは笑って「このままで大丈夫ですよ。少し雨に濡れた程度、すぐに乾きますから。それに万が一返却の現場を撮られて変なゴシップになりでもしたら、フリーナ様に迷惑が掛かる。なので、気持ちだけありがたく頂戴します。」と言ってフリーナの小さな白い手からジャケットを回収し、その場で羽織った。フリーナは自宅の扉の前でリオセスリに感謝の言葉を述べ、その姿が見えなくなるまで手を振って見送った。
それから家の中に入り、フリーナは薬の入った小瓶を大事に胸に抱きしめる。シグウィンとリオセスリの優しさに、少しだけ涙が出た。
薬の瓶をヌヴィレットに見つからないよう、先程ノートを仕舞った引き出しに入れ、鍵をかける。
この薬は、ヌヴィレットと会う前に使うつもりだ。
「
…
ヌヴィレット、何があってもキミだけは絶対に完治させるからね。」
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