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pinopipi
2025-11-09 16:05:18
57241文字
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交鎖する恋花にレクイエムを①
ヌヴィフリ花吐き病の話①/長編/捏造過多注意/何でも許せる人向け/地獄→ハピエン/2026.05.加筆修正
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翌日。フリーナはエピクレシス歌劇場に来ていた。今日は午前に1件、ヌヴィレットが担当する審判があった。フリーナは仕事で傍聴できなかったが、今の時刻はちょうど正午を回ったところなので、そろそろ審判が終わる頃だろう。だからランチは後にしてーーーあわよくばヌヴィレットをランチに誘いたかったので、仕事場から真っ直ぐ歌劇場へと向かったのだ。もちろん、抑制剤は内服済みだ。朝、家を出る前に飲んだので
………
あと2時間くらいは大丈夫なはず。
歌劇場の中へ入ると、たくさんの人がホールから退場し始めたところだった。審判が終わったのだろう。フリーナは人の波をかき分けて、ヌヴィレットの姿を探した。
すると、ヌヴィレットは舞台の端の方で誰かと話していた。
知らない女性だった。何度か似たような顔を舞台上から見たことがあるような気もするが、はっきりとは思い出せない。彼女は遠目で見てもかなり上質なドレスを身に纏っていることから察するに、おそらく貴族の令嬢なのだろう。歳は20代半ばから30代前半
…
といったところか。しかし、どこの家の令嬢なのかフリーナには分からなかった。フリーナが退位した後に爵位を賜った新興貴族だろうか?それとも外国から嫁いで来たのだろうか。フリーナは出入口付近の観客席の陰に隠れて2人の様子を伺った。
話の内容は聞き取れないが、2人は楽しそうに話している様子だった。5分
…
10分経っても話は全く終わる気配がない。
…
それに、あのヌヴィレットがずっと笑みを浮かべている。楽しそうに、時折身振り手振りなんかしちゃって。そんな彼を、フリーナは初めて見た。
そこでふと、ヌヴィレットの好きな人について、彼が話していた内容を思い出す。
『とても
…
美しい女性だ。星のように眩く、花のように愛らしい。しかし、彼女と過ごす時間が私にとって何にも変え難い幸福であったと気付いたのは最近で
……
気付いた時にはもう全てが遅かった。彼女はもう、私には手の届かない存在となってしまったのだ。』
ーーーーーああ、なるほど。ヌヴィレットは彼女のことを言っていたのか。
距離が遠くて細部までは見えないが、ヌヴィレットが今会話をしている令嬢は柔らかく上品な美しい顔立ちをしているように思う。きっと性格も明るくて、優しいのだろう。笑った顔は、とても愛らしい。
フリーナは想像力を働かせる。
…
きっとヌヴィレットの恋のストーリーはこうだ。
ある日彼は、爵位を持たない一般家庭に生まれた彼女と出会った。ヌヴィレットは彼女を一目で気に入ったが、彼は恋愛感情が理解できず、自分が恋に落ちたのだとは気付かなかった。その後も彼らにはフリーナの知らぬところで交流があったのだろう。彼女と過ごす時間は彼にとって、とても幸せな時間だった。
そしてフリーナが退位した後、彼女の家が何らかの功績を上げ、ヌヴィレットはそれを認めて最高審判官の権限で爵位を与えた。しかしそれが後に彼を苦しめることになるとは知らずに
…
。
立場上どの派閥にも肩入れできない彼は、貴族の令嬢となった彼女へ好意を抱きつつも特別扱いはせず、常に公平性を重んじ、正しくあろうと自らを律し続けた。そうこうしているうちに彼女に婚約者が宛てがわれてしまったのだろう。その事実を知りショックを受けた彼はようやく恋を自覚し、それを拗らせてしまったーーーーと、フリーナは推測する。
出会いは"かなり昔"と言っていたのは
………
うーん
………
長命種基準の時間感覚を持つ彼がそう言うのであれば数百年単位で昔の話であるような気もするけれど
………
もしかすると、人間の基準で表現したのかもしれない。彼はかなり人間社会に慣れてきたのだし
………
うん、きっとそうに違いない。
彼女が既婚者なのか、それとも未婚なのかは分からない。けれど、近々他国へ移住するかもしれないと言っていたから
…
もしかすると彼女のお相手は外国の人なのだろうか。それなら彼女は未婚である可能性が高い。
……
大丈夫、まだ間に合う。
それ故、本当にヌヴィレットの恋は叶わないものなのだろうか?と、フリーナは疑問に思う。ヌヴィレットに笑顔を向ける彼女の幸せに満ちた表情。そして彼女が彼を見つめる瞳の色には、フリーナにも覚えがあった。
ーーーーあれは、焦がれるほどに恋をしている目だ。
つまり実は、2人は両想いなのだ。俗に言う両片想いっていうやつだ。
ああ
…
良かった。ヌヴィレットは『手が届かない』と言っていたが、あの2人には今でもちゃんと交流があるようだし、楽しく会話ができている。お互いが素直になって気持ちを伝え合えば、きっと結ばれるはずだ。例え政治的なしがらみがあったとしても、そこには法律を熟知している者しか気付かない針穴のような抜け道もいくつか存在する。だって最高審判官が誰と結ばれようと、それを罪とする法律なんてないのだ。だから愛さえあれば、きっとどうにでもなる。
ヌヴィレットの完治が一気に現実的なものとなり、フリーナは歓喜した。上手くいけば彼はこれからもずっと幸せに生きられる。嬉しい。僕が頑張らなくったって大丈夫だ。希望の光が見えた。
………
それなのに突然、ぐにゃりと視界が歪んだ。心が、音を立てて崩れていく。目の前が、真っ暗になった。
「
…
っう、!?」
猛烈な吐き気が込み上げ、フリーナは床に伏せた。抑制剤の効果はまだ持続しているはずなのにーーーーおかしい。
だが今ここで咳き込んでしまえば、2人の逢瀬を邪魔してしまうことになるし、勝手に覗き見していたことがバレてしまう。
フリーナは念のためにと持ち歩いていた抑制剤の薬瓶を懐から取り出し、震える手で必死に瓶を振って中の錠剤を取り出した。生理的に滲んだ涙で視界が霞み、掌に出した薬が一体何錠あるのか分からなかったが、今の危機的状況ではそのようなことを考えている余裕などない。フリーナはそれを一気に口に入れ、ゴクンと飲み込んだ。
舞台の方から足音が聞こえる。見つかってしまうかもと思い一瞬身構えたが、それはだんだん遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった。
しん
…
と静まり返ったホールでフリーナは座席のひとつを手すり代わりにして、ふらりと立ち上がる。ーーーー助かった。
だが、ふと傍に転がる小瓶を拾おうと視線をやると、中身は残り1錠だけになっていた。
「
……
まずい、シグウィンに怒られちゃうな
……
」
フリーナは頭の中で計算をする。先日10回分の薬を処方してもらい、今朝までの4日間で1錠ずつ内服していた。つまり、先程までこの薬瓶に入っていたのは6錠。そのうちの1錠が残っている状態になっているから、フリーナは5日分を一気に飲んでしまったのだ。
シグウィンの説明によると確か、薬を使いすぎると後で反動がーーー激しい発作が起こるかもしれない
…
らしい。
どうしよう
…
!でも、こんな無茶苦茶な理由で体調を崩したなんて言ったら流石にヌヴィレットにも報告されちゃうかもしれないし
……
!
……
っだめだ、絶対に言えない。
仕方ない、落ち着くまで仕事はキャンセルして家に引き篭もろう
…
。
フリーナは逸る足取りで歌劇場を後にした。動けるうちにと、日持ちする食材を大量に買い込む。そして、仕事仲間には直接しばらく仕事を休む旨を説明し、ヌヴィレットには手紙で急な用事で数日間留守にすることを伝え、引き篭もる準備を整えた。
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