pinopipi
2025-11-09 16:05:18
57241文字
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交鎖する恋花にレクイエムを①

ヌヴィフリ花吐き病の話①/長編/捏造過多注意/何でも許せる人向け/地獄→ハピエン/2026.05.加筆修正


「はぁはぁっ………うぅ………

大雨の中、走って、走って走ってなんとか自宅まで辿り着いたフリーナは、すぐさま玄関の扉の鍵を閉めてチェーンを掛けた。ヌヴィレットが追って来ていないことを確認し、リビングへと移動する。
全ての窓の鍵とカーテンを閉め、真っ暗になった部屋。ふらりとベッドの上に倒れ込み、小さくうずくまった。

ーーーどうしよう……ヌヴィレットも花吐き病になってしまった

本当は、彼には拗らせるほどに恋をしている相手がいたのだ。
相手が誰なのかは分からない。
けれど、少なくとも告白を断られ続けた自分ではないことだけは、確かだと思った。

彼には本当に悪いことをした。他に好きな人がいるのに、好きでもない女ーーー厄介な元上司に3年間も毎日交際を迫られ、付き纏われ、その攻防を民にも広く知られる始末。
こんな状況じゃ彼が恋心を拗らせて当然だ。とんでもなく迷惑だっただろう。ある日突然フリーナを避け始めたのはきっと、彼が限界だったからだ。そして。

ーーー僕が吐いた花に触れたせいで、彼は花吐き病になった。
全部、全部、僕のせいだ。
苦しい、今すぐ死んでしまいたいくらい、苦しい。

フリーナが花吐き病を患っていることを知られ、ヌヴィレットが自分のせいだと言った時、フリーナは咄嗟に嘘をついた。彼のことがもう好きじゃないなんて、本心ではない。今更他の人を好きになるなんて、できるわけがない。フリーナは今でもヌヴィレットのことを世界で一番愛しているのだ。

「どうしたらいいんだろう……

あの様子だとヌヴィレットはおそらく、どうにかしてフリーナの想い人を聞き出そうとするだろう。
フォカロルスの死を目の当たりにして傷心した彼は、きっと彼女と同じ顔をしているフリーナの早過ぎる死を、受け入れることも見過ごすこともしてはくれない。
彼はとても優しいのだ。時に自分のことよりも、他人を優先するところがある。
そんなところも好きだがーーーーー今回ばかりはそんなことをさせてはならない。

「絶対にバレないようにしないと

もしまだフリーナがヌヴィレットのことを想い続けていると知れば、彼はフリーナの命と彼の恋心を天秤に掛け、フリーナに合わせて偽りの愛を告げてくる可能性がある。
自分の完治は後回しにして、自分よりもか弱いフリーナを先に完治させようとするだろう。
嘘なんてつけないくせに、下手な演技をするに違いない。
そんなの……あまりにもむごいじゃないか。
そんなことになるのなら、いっそこのまま黙秘を続けて彼への恋心を抱えたまま死んでしまった方がマシだと、フリーナは思った。

ヌヴィレットの恋を、これ以上邪魔してはいけない。
これからも生きて、彼には誰よりも幸せになって欲しい。

だから、どんなにしつこく問いただされても絶対に口を割らないと決めた。
これからは、ヌヴィレットのために精一杯、出来ることをしたい。
演じることは得意だ。そして、胸を張って言えることではないが嘘をつくのも得意だ。500年間一番傍にいたヌヴィレットにバレず水神を演じ続けることのできた実績がフリーナに自信を与えた。
大丈夫、僕ならできる。」とフリーナは小さく唱え、ベッドから起き上がる。
小さな灯りをつけ、ペンとノートをデスクの引き出しから取り出し、これから自分が演じる役の設定とシナリオを思い付くがまま書き殴った。書いては消してを幾度も繰り返し、まるでノンフィクションのように、緻密に練り上げていく。
試行錯誤してようやく満足のいくものが出来上がり、フリーナがふと顔を上げると、とうに陽が沈む時間を過ぎていた。
完成したノート、もとい台本をもう一度通しで読み返し、その内容を頭の中に叩き込んで鍵付きの引き出しの中に仕舞う。
カーテンの隙間から窓の外を覗くと、この悪天候のせいか外を歩く人は誰一人としていなかった。普段ならこんな激しい雷雨の中を出歩くなんて御免だが、今は逆に都合が良い。

フリーナは濃紺の雨具を深く被り、夜の闇と雨霧に身を隠しながら、とある場所ーーーメロピデ要塞へと向かった。