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pinopipi
2025-11-09 16:05:18
57241文字
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交鎖する恋花にレクイエムを①
ヌヴィフリ花吐き病の話①/長編/捏造過多注意/何でも許せる人向け/地獄→ハピエン/2026.05.加筆修正
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【元水神フリーナ様、大失恋直後に熱愛発覚?!新しいお相手は人気急上昇中のイケメン舞台俳優G氏!】
ヌヴィレットはとある雑誌の一面記事を見て眉間の皺を深くした。
最近やっと諦めてくれたのか、フリーナがヌヴィレットの元へ訪れることはなくなった。
そして彼女はめでたくも新しい恋の相手を見つけたらしい。ーーーそれが事実であればヌヴィレットも素直に祝福をすることが出来ただろう。しかし、このような不名誉な見出しで記事を書かれ、大々的に一面として掲載されていることにヌヴィレットは不快感を露わにした。
もはやこのフォンテーヌで日常と化していたフリーナの公開告白を日々目撃していた民からすれば、最近のこの静けさをフリーナがヌヴィレットに失恋したからなのだと察するのは当然の流れだ。そしてそのフリーナに新しい相手ができたとなれば、彼女の幸せを願う民は皆、祝福をするだろう。
しかし、雑誌に掲載されている写真に写る彼女の僅かに引き攣った笑みから察するに、男の方から一方的に迫られているように見える。
…
それに、最後に会った日よりも彼女は少しばかり痩せていて、目の下には化粧でも隠しきれないほどのクマができていた。
ヌヴィレットは深くため息をつく。
まさかフリーナは、この男にしつこく付き纏われているのだろうか?そうであれば、ストレスによる食欲低下や不眠に悩まされている可能性も否めない。念のため事件性も視野に入れ、調査をする必要がありそうだ。
ならば早速フリーナの親しい友人であるクロリンデを呼び出し、彼女の様子を見に行くよう依頼しようと考えーーーー思い止まる。何故だか分からないが、少しばかり胸騒ぎがする。
フリーナは今、ヌヴィレットの姿も声も認識できない状態なのだ。それならばヌヴィレットが自ら外を歩き、個人的に調査をしても問題は無いはずだ。
…
ただ、民の目がある。あまり目立たないように注意した方が良いだろう。
ヌヴィレットはこの後の自身のスケジュールを確認し、急ぎの公務がないことを確認した。速やかに半日の休暇届を記入し、それを自ら承認する。執務室を出て受付のセドナへ半休を取る旨を伝えると、何故かとても喜ばれ、笑顔で見送られた。
一度パレ・メルモニア中層階にある自室へ戻るため、リフトへと乗り込む。パスワードを入力し、リフトが中層階へと到着すると、足早に自室へと向かった。扉の前でまたパスワードを入力し、鍵を開ける。オートロックで施錠された音を確認してから、ヌヴィレットは最高審判官の威厳を悉く脱ぎ去った。
そしてクローゼットの中から最も目立たない衣装ーーー中流階級の民が普段着ているような赤と黒をベースにしたお馴染みの衣装を選び取り、それを身に纏う。腰の位置でゆるく結んだ長い銀髪は、一旦リボンを解き、後頭部でひとつにまとめた。髪を全て帽子の中へ仕舞い込もうとしたものの、なかなか上手く纏まらず大変苦戦したため、潔く元素力を操って髪を短くした。頭が非常に軽くなり、快適である。それから、この特徴的な目元があまり目立たぬよう、銀縁の伊達眼鏡を掛けた。仕上げに帽子を深く被り直し、角度を調整して完成だ。
このように変装をするのは数十年ぶりであるが、だからこそ、この格好であれば誰もヌヴィレットだとは気付かないだろう。
こうして準備を完璧に整えたヌヴィレットは、自室と裏出入口を繋ぐ隠し通路を通ってパレ・メルモニアの外へ出た。幸い、周りには誰もいなかった。
正面へと回り、一旦賑やかな大通りへと出る。通行する一般人に溶け込みながらその間を縫って歩き、徐々に人通りの少ない路地へと移動した。敢えて大きく迂回して、フリーナがゴシップ写真を撮られた現場のカフェ、そしてフリーナの住むアパルトメントへと続く道を目指す。
ただし、その道中で眷属であるメリュジーヌたちと鉢合わせてしまえばすぐに正体を暴かれてしまうため、ヌヴィレットは時折周囲を確認しながら極めて慎重に行動した。
やっと目的の街路へと入ると、まず見えたのはフリーナの自宅だった。フリーナは外出中のようだ。念のため、付近に異常がないかを確認する。怪しい人影や悪意ある元素の痕跡がないか、通行人に怪しまれない程度に手早く調査をした。
結果、何も異常はなく、ヌヴィレットは一先ず安堵した。
次に、現場のカフェへと向かった。フリーナが今日も何処かで男に絡まれているかもしれないと思うと、どうにも気が急いて足早となる。体内に循環する水元素が訳も分からずマグマの如く沸騰していくような不快感に、ヌヴィレットは困惑と苛立ちを感じ始めていた。
ーーーーーしかし、その道中でヌヴィレットが目の当たりにした光景は俄には信じ難いもので。その大惨事に、身体中の熱は一気に冷めることとなる。
薄暗い路地裏の方から誰かが酷く咳込む声が聞こえた。あまりにも長く続く激しい咳嗽にヌヴィレットは救護の必要があると判断し、調査を中断して真っ直ぐその声がする方へと急いだ。
「げほっ、げほげほっ
…
!」
「ーーー失礼。君、大丈夫か。今すぐ医療機関に
………
、ッ?!」
土と砂埃で汚れたその場所に積み上げられたボロボロの木箱。その陰に隠れてうずくまっていたのは、写真よりもまた更にやつれたフリーナで。彼女の足元にはーーーーーーー
「フ、フリーナ
…
?花を、吐いている
…
のか
…
?」
ヌヴィレットはその惨状に驚き、その足元に散らばる大量の花を掻き分けてすぐさまフリーナへと駆け寄った。
「フリーナ!大丈夫か!?」
しかし、ヌヴィレットの声はフリーナに届かない。
ヌヴィレットは自らに掛けていた術の存在を思い出し、考える間もなくすぐさまそれを解いた。
「フリーナ、しっかりしろ
…
!」
「うわ!っえ、誰!?
…
って、ヌッ、ヌヴィレット
…
!?」
突然現れ背中を優しく摩る見知らぬ男性ーーーではなく、変装したヌヴィレットにフリーナは色んな意味で驚き、大きく目を見開いた。
「ど、どうしてキミがここに
…
?それにその格好は
…
、っうぇ、げほっ!」
「っ!フリーナ!」
ひらひらとフリーナの口から止めどなく溢れ落ちるロイヤルブルーの花弁に、ヌヴィレットは酷く混乱し、動揺を隠せなかった。
ーーーどうして、こんなことに?フリーナは何故、花を吐いている
…
?!
ヌヴィレットは冷静さを欠きながらも、必死にぐるぐると頭をフル回転させた。
咳込み、花を吐く
……
疾患
……
我が国の記録に残る過去の臨床データには
………
シグウィンから報告を受けた
………
罹患者の極めて少ない奇病
………
花、
…
花
…………
、まさか。
フリーナは《嘔吐中枢花被性疾患》
………
花吐き病に罹患したというのか
…
!?
ヌヴィレットは目の前で苦しむフリーナの症状から病名を導き出し、それと同時に絶望した。
フリーナがこの短期間で痩せ細り顔色が悪いのは、花吐き病によって蝕まれ、衰弱しているからではないか
…
?
フォンテーヌで花吐き病の患者が最後に確認されたのは確か100年程前。その者は身分違いの片想いを拗らせたことで発症し、発作を抑える薬を服用しながら闘病生活を送ったが、結局最後まで想いは実らず病に侵され衰弱し亡くなった。
しかし、この病は両想いになれば完治できるという。過去には完治後に問題なく天寿を全うできた事例も報告されている。
フリーナはまだ生きている。だから、助かる希望はある。
キーとなるのはフリーナが想いを寄せている相手。ゴシップ雑誌のあの俳優はーーー考えにくい。過去3年間、私に対して告白を繰り返したフリーナが、この短期間で他の者にここまで想いを拗らせるだろうか。
ならば、誰だ。私のことは既に諦めたはずーーーーーいや、私が一方的にフリーナを遠ざけたのだった。
……
ああ、そうか。もしかして、これはーーーーーー
「私のせい
…
なのだな
……
」
ヌヴィレットは震えるほど強く拳を握り締め、唇を噛み締めた。
ざぁっと激しい雨が降り始める。
隣接する空き家の屋根のおかげでフリーナは濡れなかったが、ヌヴィレットは雨粒を滴らせ、まるで涙を流しているかのように朝焼けの瞳を揺らした。
しかし。
「ッ違う!キミのせいじゃない
…
!!」
フリーナは慌ててヌヴィレットの袖を掴み、そう声を上げた。
「僕はあれからキミのこと、綺麗さっぱり諦めたんだ!もうこれっぽっちも好きじゃないから安心して!
…
この病気に罹ったのはつい最近なんだ。キミと会わない間に僕は別の人を好きになってね。それで花を吐くようになってしまったんだ。」
フリーナは笑みを作り、努めて明るくそう説明をした。
ーーーーもう、これっぽっちも好きじゃない。
その言葉に何故か、ヌヴィレットの心臓はズキリと痛んだ。それからぐらりと世界が歪んで色褪せーーー心が、喉が、急速に渇いていった。
ーーーーーーそして。
「
………
ゴホッ、」
「
………
え?」
その瞬間、ヌヴィレットは大きく咳込んだ。
「
………
は、」
ヌヴィレットの指の隙間からひらりと落ちる、ひとひらの花弁。
フリーナが吐いた花とは異なる青。
口元に当てた掌に視線を移せば、そこには淡いブルーの美しい花が一輪。
ーーーヌヴィレットも、花を吐いた。
「
…
な、なんでっ
…
?!キミは恋が分からないはずじゃ
……
」
「
…………
」
ヌヴィレットは自らの手の中にある花をじっと見つめた。どうやら己はフリーナに駆け寄った際にフリーナが吐き出した花に触れ、感染してしまったらしい。しかし、フリーナが花吐き病なのだと理解した時とは打って変わり、何故か驚くほどに冷静だった。
己が吐いたのは、まるでフリーナの白波のような髪を連想する美しい花。己が恋をしている相手はフリーナなのだと、何故か
……
そう確信した。
そしてヌヴィレットは理解する。自覚の遅過ぎたこの恋は、決して叶わないのだと。フリーナの愛はもう、別の誰かに向けられている。ゆえに己に待っているのは、どう足掻いても死、のみであることを。
だが、自分自身のことは不思議と他人事のようにどうでもよく感じた。
ただ、フリーナの命だけは
……
どうしたって諦められない。
500年にも及ぶ献身の末やっと人間らしく自由に生きることができるようになったフリーナが、このような苦痛を伴う病に侵され、充分な幸福を享受することもなく志半ばで尽きてしまうなど、そんな報われないことがあってはならない。
完治の可能性が僅かにでもあるのなら。ヌヴィレットはフリーナのために何でもする覚悟を決めた。
ーーー例えこの正義を捻じ曲げてでも、フリーナの命を救いたい。
ヌヴィレットはゆるりと顔を上げ、フリーナを見た。
「
…
フリーナ。不躾にすまないが、君の想い人が誰なのか、教えていただけないだろうか。」
「は、はぁっ
…
?!」
しかしフリーナは「僕の恋は絶対に叶わないから」と頑なに想い人の名を黙秘した。そして、「ただの一般人の僕なんかよりも、キミは自分の心配をするべきじゃないのかい?!キミがいなくなったらフォンテーヌはどうなるんだ!?ああもう、どうしてこんなことに
…
!?」と、焦りや怒りを露わにした。それでも尋問のようにしつこくフリーナの想い人を聞き出そうとするヌヴィレットにフリーナはとうとう耐えきれなくなり、ヌヴィレットの手を振り払って全力でその場から逃げ去った。
その日、鉛のような雨雲がフォンテーヌ廷の空を覆い尽くし、激しい雷雨が続いた。
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