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柚子子
2024-09-22 21:07:26
118496文字
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ベリーベリー
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微原作沿 爆豪長編(2)
サイトに掲載している長編の第二章です。
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「えっ、爆豪くん仮免落ちたの
……
?」
片手で携帯を持ったまま、あいた方のもう片手で口元を覆った。人間って信じられないことがあったとき、本当にとっさに手で口元を覆ってしまうらしい。
「うそみたい
……
、爆豪くんでも試験に落ちたりするんだ
……
。へーぇ」
「おい根暗
……
、てめえ言いてえことあんなら、」
「この話って、友達何人かに話していいやつ?」
「いいわきゃねえだろ!」
受話器の向こうの爆豪くんは、鼓膜がビリビリするほどの音量でそう吠えた。
ヒーローの資格には仮免許というシステムがあるらしい。ヒーローにまったく興味がない私は当然知らなかったのだけれど、爆豪くんがその仮免試験を受けるにあたって、はじめてそういう試験があるということを知った。
たしかに、入学したてのヒーロー科一年生と、卒業間近のヒーロー科三年生がまったく同じ権限を持っている、ということはないだろう。学年が上がるにつれ、何かしらの試験があるのは納得できる。ただしそれが学内のみでどうこうなるものではなく、全国的に実施される試験だというのは意外だった。
いつものことながら、爆豪くんは試験に自信満々だった。試験前夜の通話でも、「全員ぶっちぎる。余裕で合格し倒したるわ」と宣言し、仮免試験にのぞんでいったので、私もまあ、爆豪くんだし大丈夫だろうと、半分くらいは試験の存在を忘れてすらいた。
結果は即日発表されるというので、その日の夕方、私は「当然合格」の報を心待ちにしていたのだけれど
……
。
なんと当日は連絡がなく、さらにそこから四日間、一切の音沙汰なし。
これはまさか、いや、そんなまさかね、と思っていた五日目、新学期が開始した頃になってようやく、爆豪くんから連絡があったのだった。
曰く「補講があるから、土日つぶれる日が増える」とのこと。
合否にかんしては、爆豪くんからは一切何のお知らせもなかった。
いや、なくても分かる。受かってたら補講なんか受けないから。
とはいえこちらも、言われるまでもなく落ちたことは知っていた。あまりにも爆豪くんからの音沙汰がないので、仮免試験から二日後に、心配になって光己さんに爆豪くんの安否確認をしたのだ。先日の買い物とお茶をしたさいに、光己さんとも連絡先を交換している。
連絡がなかなかなかったことに対しては、
「恥ずかしいんじゃない? 勝己のやつ、どうせ
名前
ちゃんにも大口たたいてたんでしょ。それにあの子、あんまり試験に落ちるとか経験ないからさ」
とのこと。実際どうだったかはともかくとして、実の母親がいう言葉には説得力があった。
ともあれ、
「いや、本当に
……
そんなことあるんだねぇ
……
」
爆豪くんの電話越しの怒声を浴びたところで、私は冗談のノリをおさめた。
私の知る爆豪くんというのは、およそ試験と名のつくものにはめっぽう強い
……
というか、ほとんど無敗という、信じがたいレベルの才能マンだ。
そもそも雄英高校に入学をはたしているという時点で、だいたいの試験は突破できるような突出した人間だといっても過言ではない。
爆豪くんはその入試を一位で合格している。今後の人生で何があろうと、雄英の入試より倍率の高い試験は、そうそう存在しないはずだ。
その爆豪くんがなんと、試験で不合格をくらっている。
詳しい試験内容は分からないけれど、あの爆豪くんが落とされたということは、相当な難関試験だったのだろうか。受験者はほとんどみんな不合格だったとか。あるいは、爆豪くんのクソな部分、つまりは人間性的な部分で不合格にされたのか
……
。
ううむ、おそらく後者だろうな。そう決めつけながら、私はついつい渋い顔をした。
不合格になった理由について、爆豪くんは固く口を閉ざしている。けれど理由はどうあれ、不合格になったという事実には変わりがない。
本来であれば残念無念、また次回となるところ。
が、今回の試験では特例措置として、不合格者の中でも何名かは補講を受けることができ、その結果如何によっては仮免を取得できるという。不合格になった爆豪くんは、その補講の対象に引っかかった、とのことだった。
雄英は通常の高校生のカリキュラムに加え、ヒーローになるための授業と実習がわんさとある。元来まじめで優秀な生徒が多いので、授業時間外の自主訓練にも余念がないと聞く。
ただでさえ月曜から土曜までみっちり授業があるというのに、日曜には講習が入るというのだから、爆豪くんの生活にはいよいよ、私と遊んでいる暇などまったくなくなってしまった。
ごろりとリビングのソファに寝そべって、携帯を耳に当てたまま天井を睨む。両親は飲み会だとかで、今夜はまだ帰ってきていない。電話の向こうの爆豪くんは、今どうしているのだろう。私と同じように寝転んで、寮の天井を忌々しげに睨んでいるのだろうか。
「ええと
……
じゃあ、日曜に出掛けようっていってたのは、ひとまず延期、というか無しになった、ということで大丈夫?」
「ん」
一文字の返事だけれど、どことなくバツが悪そうな響きをまとっているのは、私の気のせいだろうか。
「まあ、残念だけど仕方ないね
……
。あ、夜はどう? 爆豪くんの補講のあと」
「一応届けは出せる」
渋い声で爆豪くんが答える。
「つっても門限あるし、メシ食ってソッコー解散だぞ」
「うーん、そっか、じゃあ今回はやめよっか」
「諦めてんじゃねえ! 気ィ入れて来いや!」
「ええ
……
、夕飯のためだけに? わざわざ?」
「俺が来いっつったんだからてめえは黙って来んだよ!」
「来いとは言われてないね」
「来いや!!!!」
「はいはい」
とんでもないことを臆面もなく言う爆豪くんだった。思わず吹き出す。聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる台詞だ。
爆豪くんは気が付いているんだろうか。さっきから彼は「会いたいから来い」というようなことを、一生懸命伝えていることになっているんだけれど。
「ふふ、そうだね、そこまで言われたらね」
「あ゙ァ!?」
「わかった了解了解。爆豪くんに会いに行く」
「
……
チッ」
「その舌打ちは照れ隠しの舌打ちだ」
「ぶっ飛ばす」
通常運転の爆豪くんの暴言を受け流しながら、私はその声に夏休み前の元気が戻っていることを確認した。仮免試験に落ちたことでもっと気落ちしているのではないかと、少しだけ心配していたのだ。
林間合宿以降の爆豪くんは、それなりにまめに連絡をくれるようになっていた。それが仮免試験のあと、ぷつりと途切れた。彼がもともと落ち込んでいたのも気になっていたから、いよいよどん底かと思っていたのだ。
爆豪くんが元気になってくれてよかった。もっとも、元気になると今度は暴言のバリエーションと頻度がたちどころに増えるので、暴言にさらされる立場としては微妙なところなのだけれど。元気がないよりは、うるさいくらいの方がいいと思うのはたしかだ。
「つーか、てめえ人んちの母親と勝手に親しくなってんじゃねえ」
思い出したように、爆豪くんが不満をたれた。そういえば光己さんから、少し前に差し入れを送ったと聞いていた。
「光己さんから何か聞いた?」
「あァ? 『光己さん』だァ?」
「だって、毎回『爆豪くんのお母さん』って呼ぶの長すぎるから」
「あんなもんババアでいいだろ」
「いいわけないんだよ」
どこの世界に、彼氏のお母さんをババア呼ばわりする女子高生がいるんだよ。そもそも爆豪くんが自分の母親をババア呼ばわりするのも間違っている。ふつうに馴染んでしまっていて、普段忘れがちだけれど。
「爆豪くんと光己さん、本当に顔そっくりだよね」
「似てねンだよ。つーかてめえツラ同じなら誰でもいいんか!?」
「そういうわけでは、ないけど、まあ
……
」
「歯切れ悪ィ返事してんじゃねえ! マジに聞こえんだろうが!」
実際、光己さんのお顔に爆豪くんのおもかげを見ているのは事実なので、否定しにくいものがある。別に爆豪くんの見た目が好きで付き合っているわけではないけれど、彼氏の顔というのはやはり、だんだん好きになっていくものなのかもしれない。結果、彼氏のお母さんの顔にときめいている。
「おい、てめえまさかマジで、」
「その辺の話もまた会ったときに話すから、そのとき聞いてね」
「聞きたくねンだよ。つーかまじでババアと話すな。会っても無視しとけ!」
「無理言うのやめてね」
「無理じゃねえ!」
話が大幅に脱線はしたものの、日曜の晩に一緒にごはんでも、ということだけはお互いに確認した。翌日、爆豪くんから外出届をぶじに提出、受理されたと連絡が来たことで、日曜の話はきちんとした約束になった。
日曜の晩。爆豪くんが「適当に決めた」と言い張る、いい感じの洋食屋さんで、爆豪くんと私は向かい合っていた。
爆豪くんの門限や寮の規則をかんがみて、今回は雄英のすぐ近所のお店から選んだらしい。私としても通学定期の圏内なので、行き返りの時間はかかるにせよ、それほど負担はない。
補講のあとだから、今日の爆豪くんは制服着用だった。しかし補講帰りの疲労は微塵も見せないあたりが、爆豪くんが爆豪くんたるゆえん。雑に挨拶と世間話を済ませたところで、私は話を切り出した。
「それで仮免講習はどうだった?」
「ハッ、余裕だわ」
「じゃあなんで本試験は落ちたの? やっぱり性格が悪いから?」
「あ゙ァ!?」
「やっぱりそうなんだ
……
。図星なんだ
……
」
薄々そうかなとは思っていたけれど、やはり性格の難で落とされたらしい。爆豪くんってこんなに優秀なのに、人間性が最悪で試験に落ちたんだ
……
。一周まわって感動してしまった。
最近では暴言あっての爆豪くんなのか? 私のほうがナイーブすぎ? くらいに思っていたけれど、世間の感覚では、爆豪くんはちゃんとアウトなのだ。そのことが分かっただけでもよかった。感覚が正常なところまでチューニングされなおしたような気分だ。
「だけど今ってそんなにこう
……
人間性
……
? 心根
……
ヒューマニティ、温かみ? 的な」
「濁そうとしてんじゃねえ!」
「じゃあ言わせてもらうけど、そんなにカスな人間性でも」
「誰がカスだてめえ!!」
「
……
最悪な人間性でも、実績あれば文句言われない、って流れになってるのかと思ってたけど。さすがに学生はそういうわけにもいかないんだ」
ハンバーグを口に運びながら言うと、爆豪くんは「実績ありきだろ。順番が違ェわ」と忌々しげに教えてくれる。
オールマイト引退後、ナンバーワンヒーローに繰り上がったエンデヴァーは、けして人柄で選ばれたという雰囲気ではない。もちろん私はヒーロー音痴で、エンデヴァーのこともそれほど知らない。実際のエンデヴァーは、ものすごくファンサービスが手厚いという可能性もある。けれど、パッと見ではとてもそうは見えないのも事実だ。
現ナンバーワンを引き合いに出すと、性格や人柄がいいことがヒーローになることの要件とは思えない。だからこそ仮免試験も人柄以上に、結果重視になっているのかと思っていた。
「ヒーロー志望者をふるいにかける段階だもんね、そりゃ人柄も見るか」
あるいは、結果重視の試験ですら看過できないほど、爆豪くんがやらかしているか。もしそうならば、さすがにそれは擁護のしようがない。
「試験会場で一発勝負っていうのが、厳しいのかもね」
私が所感を述べると、爆豪くんが不機嫌そうな視線だけで応じる。
「爆豪くんのいいところって、なんというか一見さんには伝わりづらい、みたいなところがある気がする」
「うるせえ、根暗」
「かといって、最初の印象がクソだから、長期的に仲良くする気にもならないっていう」
「まじで喧嘩売ってんだろてめえ
……
」
「でも私は爆豪くんのこといいやつだと思うけどね」
「
……
」
ぶすっとした、けれど完全には怒っていない顔つきに、なんだか微笑ましい気分になった。試験に落ちたのは爆豪くんなのだから、私がこんなことを言うまでもなく、爆豪くんだっていろいろと思うところはあるだろう。結局のところ、その問題点に対してどこまで自分の在りようを変えられるか、ということだ。
「媚びろとは言わないし、思いもしないけど、でも、みんなにもっと爆豪くんのいいところが伝わったらいいのになとは思うかな。いまだに彼氏はヤンキーなのかって聞かれる身としては」
ちなみにこれは、かなりオブラートに包んだ表現だった。雄英体育祭と、拉致された少年としての爆豪くんしか知らない友人からは、「ヒーローになるとは思えない」だの「敵みたい」だのと、散々な言われようをしている。そのたび訂正するのもだんだん億劫になってきており、最近では適当に笑ってごまかすことが多い。
万人に理解されるなどとうてい無理だし、とりわけ爆豪くんは誤解
……
とも言いきれないけれど、とかく悪し様に言われやすい性格と表情筋を持っている。みんながみんな、爆豪くんに性格はクソだけど仲良くなれば時々いいやつ、という評価をしてくれるわけではない。
「
……
俺の知ったこっちゃねえわ」
ふてくされた顔をしている。おおかた、自分がどう言われているかよりも、私がどう言われているかについて、思うところがあるのだろう。そういうところに、爆豪くんの分かりにくい優しさがある。
思わず頬がゆるむのが分かった。こういうところがあるからこそ、ヤンキーだのなんだの言われつづけている爆豪くんのことを、私はそれでも好きでいられるのかもしれない。
「私個人の意見としては、好かれる人にだけ好かれれば、と思うけどね。ただ、それだと仮免はもらえないらしいけど」
「てめえ!」
「ごめんごめん、爆豪くんが試験に落ちたって事実が面白すぎて、ついつい何度でも擦りたくなっちゃう」
たまらず噴き出すと、テーブルごしに腕を伸ばした爆豪くんに、したたか頭を叩かれた。
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