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柚子子
2024-09-22 21:07:26
118496文字
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ベリーベリー
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微原作沿 爆豪長編(2)
サイトに掲載している長編の第二章です。
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爆豪くんから急な呼び出しがあったのは、くだんの拉致事件からほどなくのことだった。
先日の一件で色々と思うこともあり、爆豪くんとは以前よりもまめに連絡を取るようになった。とはいえ爆豪くんが毎度返信をしてくれるはずもなく、返信があればラッキーくらいのもの。ほとんど壁打ちにちかい感覚だ。
基本的に文章での連絡、メッセージは私からしか送らない。そのかわりなのか何なのか、爆豪くんからはときどき「なんか喋れや」という、地獄みたいな電話がかかってくる。
電話をかけてきたのはそっちなんだから、話題がないならそっちがなんか喋れや。とはさすがに言えず、そういうときは「無理だよ」と、丁重に返事をすることにしている。たいていもれなく、爆豪くんからの舌打ちが返ってくる。
爆豪くんは相変わらず、自宅軟禁の日々を過ごしている。爆豪くん本人は大人の目を盗んで、たびたび家を抜け出しているようだけれど、私から爆豪くんをどこかへ誘うことはない。
そんなわけで、爆豪くんからの呼び出しについても、私が彼の家へ赴くということで話が付いた。同じ中学校区に家があるので、爆豪くんの家と私の家はそう遠くない。実際、一学期に一緒に下校していたときは、爆豪くんは私を家まで送り届けてから帰宅していた。
八月のとある昼過ぎ、私は自転車をひとこぎして、爆豪くんの家へと向かった。訪れるのは二度目なので、今度は迷わずにたどり着くことができた。
爆豪くんのご両親は今日も不在らしい。もっとも爆豪くんのあの性格からして、両親が在宅の日に私を呼び出すなんてことはありえない。
それでも一応、爆豪一家全員分の手土産を用意しておくことにした。今回は母に事情を話したので、母から手土産代のカンパももらった。ショッピングセンターで、少し高級なゼリーを買っていく。
カンカン照りの太陽にうんざりしながらペダルをこぐ。買ったばかりの真っ白のワンピースが、日光を反射して目に眩しい。
爆豪くんの家の前につくと、私は門扉のわきに自転車をとめた。インターホンを鳴らすとすぐ、不機嫌な顔の爆豪くんが私を出迎えてくれる。
「こんにちは、爆豪くん」
「ん」
出迎えとはいっても、特に何を言うわけでもない。爆豪くんが開けてくれたドアを通り、私は二度目の爆豪邸に足を踏み入れる。
先日と変わらずきちんと片付いた爆豪くんの部屋にあがり、持参したゼリーを一緒に食べた。保冷剤がじゅうぶん入っていたので、暑いなか持参したわりには、ちゃんと冷えていておいしい。ご家族のぶんは、冷蔵庫に入れておいてもらった。
「今日もあっついね」
「あ?」
「あ、そうか。爆豪くんは家のなかにいるから、あんまり実感ないか」
「んなわきゃねーだろ。窓の外見りゃ分かるわ」
「ぎらぎらしてるよね、空気がもう」
「感覚でしゃべってんだろ」
「炎天下のもと自転車こいできてるんだから、実感こもってるよ」
「実感も感覚だわ」
話しつ食べつしながら、それとなく部屋のなかを見回した。こころなしか、以前この部屋にあがったときよりも、室内が片付いているように見える。今回は事前に約束をしてからの訪問だから、前回と違って掃除も片付けも済ませたあとなのかもしれない。
ふと見れば、部屋の隅には大きなダンボール箱。前回来たときにはなかったものだ。
からん、と耳に軽い音が届く。何かと思えば、爆豪くんがテーブルに置いたお盆の上に、スプーンを置いた音だった。
爆豪くんを見る。ぶすっとした顔でマスカットゼリーを食べていた爆豪くんが、ちょうど私と同じタイミングでこちらを見る。
その視線に、なぜだか少しぎくりとした。突き刺さる視線が、爆豪くんらしくもなく、やたらと物言いたげだったから。なんだろう、あんまりじろじろ部屋を見るなとかそういうことだろうか。
私を睨んだまま言葉を発しない爆豪くんに、私はどうしたものかと口をつぐむ。言いたいことがあるなら言えばいいのに、本当に爆豪くんらしくない。何か言いにくいことでもあるのだろうか。だとしても、爆豪くんに言いにくいことなんて存在するとすれば、の話だけれど。謝罪とおべっか以外で、という意味で。
「あ、もしかして爆豪くんも白桃食べたいとか?」
「は?」
私が問うと、爆豪くんは短くそう発して、胡乱げに私を見た。睨まれるよりかは幾らかましだけれど、これはこれで不審がられている感じでいやだなと思いながら、私は爆豪くんにゼリーを差し出す。私が半分ほど食べ進めていたのは白桃のゼリー、爆豪くんが食べていたのはマスカットのゼリーだ。カップの中で、ゼリーに包まれた白桃がちゅるんと揺れた。
「爆豪くんがこっち見たから、てっきり白桃も食べたいのかと思ったんだけど。私の白桃一切れと爆豪くんのマスカット二粒なら、まあ、交換してもいいよ」
「いらねえ!」
今度は吠えた。これは爆豪くんらしいリアクションだ。少しほっとする。今日の爆豪くんは元気がないから、見ていてどうしても不安になる。
「そっか、いらないのか。でも私はマスカットも食べたかったりする」
「じゃあ端っからマスカット二つ買ってこいや!」
「だってまさか爆豪くんもマスカット食べたかったと思わなかったんだもん。爆豪くんマスカットって柄じゃないし」
「どんな柄だ!」
「それに私が買ってきた手前、最初に選ぶのも悪いし
……
」
「つーかうだうだうるせえ! 食いてえなら食いてえって言え!」
「食べたい。ちょうだい」
「
……
だったらてめえの残りは寄越せ」
「やったね、ありがとう」
みごと爆豪くんに、ゼリーを半分こしてもらえることになった。機嫌よく、カップを交換する。
嬉しい気分でマスカットのゼリーを食べ始めたところで、はたと気がついた。私がただ美味しい思いをしただけで爆豪くんはまだ何一つ話しておらず、何一つ事態は進展していない。
さて、どうしたものか。
爆豪くんがわざわざ呼び出したのだ。軟禁夏休みの暇つぶし、というわけではないのは、招かれたときから分かっていた。さっきのように茶番をしかけてみるのも、一度やればじゅうぶんだ。
悩んだすえ、爆豪くんが話し出すのを待つことにした。時間なら、どうせ余るほどある。
時計の秒針がコチコチと規則正しく音を立てている。どれほど時間が経っただろうか。ふたりともとうにゼリーを食べ終えてしまったころ、爆豪くんは唐突に、そしてやっとのことで、その口を開いた。
「寮に入る」
「あ、そうなんだ」
たっぷりと間を置いたわりには、それほど意外な言葉ではなかった。
そうなんだ。まあ、そういうこともあるか。私はいつものように気の利かない返事をした。けれど私の返事は爆豪くんの意にそぐわなかったようで、直後、鋭い舌打ちが飛んでくる。
「まあ、なんとなく、そうかなって思った」
正しくは、引っ越して遠距離恋愛になるか、なんらかの施設で保護を受けることになるとか、そんなところかと思っていたのだ。だからどちらかといえば驚きよりも、寮に入る程度で済んだのか、という気持ちの方が強い。
「部屋の感じ見たら、ね。もう結構すぐの話なの?」
「夏休み中」
「じゃあ、あんまり時間ないんだね」
壁際に積まれたいくつかのダンボール箱。あれも入寮のための準備なのだろう。察しの悪い私だって、さすがにそれくらいはわかる。寮に入ることがやむを得ないことだということも。
「
……
言いたいことねえのかよ」
「うーん、言ってどうなるものでもなし、という感じだからなぁ」
「なんかあんだろ、なんか」
「なんかねぇ
……
」
「寮っつーことは、一学期みてえのはできなくなんぞ」
「うん、そっか。そうだね」
爆豪くんがぶすりとした顔で私を睨んでいた。その顔を見て、苦笑する。これでは文句を言わない私のほうが悪いみたいだ。
もちろん爆豪くんが言わんとすることも分かるのだ。寮に入るということは、今以上に爆豪くんの生活は管理されるということ。たとえば門限。たとえば休日の外出。このタイミングでの全寮制の採択ということは、くだんの襲撃・拉致事件を受けての決定であることは間違いない。
生徒の安全を守るための制度なのだから、外出ひとつするにしても、それなりに手続きが必要になるだろう。届けを出し、時間までに戻るよう指導がされるだとか。
そしてそれは、別々の高校に通いながら付き合っている私たちにとって、けして歓迎できることではない。
私と爆豪くんが顔を合わせることができるのは、これまでであれば一緒の電車での登下校の時間がほとんどすべて。全寮制になればその時間が無くなるぶん、単純に会う時間が減る。
爆豪くんが言いたいのは、そういうことなのだろう。爆豪くん
……
というか爆豪くんの通う学校の都合で、私に不便を強いることになる。
不便、というのは少し違うか。普通を望めなくなる、のほうが近いかもしれない。高校生のカップルがふつうに付き合ったとき、ふつうに楽しめること、ふつうに期待できることが、私と爆豪くんには難しくなる。
「まあ、そうだね
……
たしかに、思うところがまったくない、ってことはないんだけど」
とはいえ、言ったってどうにかなるものではないということも分かっていた。それは爆豪くんも同じだろう。
この全寮制の採択の契機となった事件で、爆豪くんは拉致されている。爆豪くんは当事者だ。だから当然、私よりも爆豪くんのほうがずっと、どうにもならないことだと分かっているはずだ。
もしかして、爆豪くんに元気がないのはそのためだろうか。自分がかかわった事件がきっかけで、周囲に不便を強いている。だから元気がない?
ありそうな話ではあるものの、爆豪くんらしいかといわれると、そうは思えない。それでも、そういう事情ならば納得はできる。
私はことさら、明るい声を出した。
「寮っていっても、雄英の敷地内からまったく出られないわけじゃないんでしょ? 休みの日とか、届けさえ出せば普通に会えるんだよね」
私がそう聞くと、爆豪くんは不承不承ながら頷いた。詳しいところは私には分からないけれど、自由な校風の雄英高校だ。安全のための全寮制とはいえ、高校生の生活をそこまで厳格に縛ったりは、多分しないだろう。健全な時間のデートくらいはできるし、それならば今の私たちがしているような、休みの日のデートはできる。
「そりゃあ今みたいに一緒に登下校はできないから、顔を合わせる頻度は減るけど
……
、でも、今生の別れというわけでもないんだし、まあ
……
、仕方ないかなって」
言葉を口にしながら、我ながら聞き分けのいい彼女だと思った。別に、努めてそうしているわけではないけれど、結果としてはこれで正解なのだと思う。駄々をこねて泣くような女は爆豪くんは好きではないだろうし、私もそんなことしたくはない。
そもそもこれは、泣いて悲しむほどの出来事ではないはずだ。爆豪くん及びほかの雄英生の安全が守られるのだから、万歳こそすれ、悲しむのはお門違いだろう。
なんとなく気詰まりになって、からになったゼリーのカップを、同じくからになった爆豪くんのカップに重ねた。窓の外を大きなトラックが通ったのか、小さく空気が振動した。
爆豪くんはむっつりした顔のままで、何が気に入らないのか、何もかもが気に入らないのか、とにかく黙りこくっている。やっぱり今日の爆豪くんは元気がない。
それとも、まだ何か言いたいことがあるのだろうか。そう思い爆豪くんの次の言葉を待っていると、しばらく黙っていた爆豪くんが、急にバンッとテーブルをたたいた。はずみで空のカップが横転するけれど、爆豪くんはそんなことに構ったりはしなかった。
「寂しがれや!」
「さび
……
?」
「情緒が薄い!」
「情緒」
はじめ、爆豪くんが何を言っているのか分からず、私はただ鸚鵡返しに爆豪くんの言葉を繰り返すだけだった。
けれどだんだん、その言葉の意味が私のなかに染み渡ってくるにつれ、名状しがたいふわふわとした気持ちが、胸のなかから広がってくる。
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